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デュエル・マスターズ初心者向けを意識した記事を書いています。
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『コードD』


デュエル・マスターズ。
それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
四月一日に十九歳の誕生日を迎えた青年、相羽征市(あいばせいいち)。彼の誕生日を祝った帰りに霧によって道を迷った少女、一ノ瀬彩弓(いちのせあゆみ)を狙う謎の白い仮面をかぶった男。征市によって彩弓は助け出され、デュエル・マスターズでの戦いによって仮面は破壊された。霧が晴れた時に征市が目撃したのは、謎の魔法使いの少年、遠山陸(とおやまりく)だった。

 File.2 トライアンフ

征市が魔法警察の覆面パトカーに乗せられてから数分が経った。アイマスクをつけられているため、どこを移動しているのかは判らない。
「僕と一緒に来てもらうよ」
仮面を倒した後にモデルのような外見の少年、陸に言われて征市は連れて行かれた。もちろん、抵抗はできたし、あの状況から脱出する事もたやすかった。しかし、あの場には一ノ瀬彩弓がいた。征市が逃げられたとしても、彩弓がどうなるかは判らない。彩弓を解放するという約束で征市は陸の条件を飲んだのだ。
「あの子が羽織っていたコート、君のでしょ?仕立てる時に糸を通して魔力が込めてある。だから、霧の中に混ざっていた人間の方向感覚を惑わせる魔法薬の効果が効かなかった。あんなコート買えるなんてただもんじゃないね。本当に何者なんだい?」
「ただの手品師だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「ただの手品師があの仮面の男を倒せるわけがない。ごまかしたって駄目さ。全部話してもらうからね」
車が止まり、目隠しをされたまま征市は歩かされる。途中、エレベーターのようなものに乗って移動した。
そこからまた少し移動し、
「着いたよ」
と、いう声と共にアイマスクが外された。いきなり目に入る蛍光灯の光を受け、征市は手で光を遮るように顔を覆う。目が光に慣れてくると、中の様子が判ってきた。窓がない事を除けば、内装は普通のオフィスと特に変わりはない。ただし、部屋に置かれている机のほとんどに誰も着席していないし、使用している形跡もない。奥のデスクには、彩弓や陸と同年代の少女がいた。
茶色のショートボブの髪で、肌が白く、テレビに出ているアイドルなどよりも可愛らしい顔をしていた。上は軍服のような服で、襟元からは勲章のようなバッジが見える。デスクに隠れていて上半身しか見えないが、かなりスタイルがいい、と征市は感じた。
少女はかけていた眼鏡を外すと征市を見た。
「トライアンフへようこそ。私が責任者の琴田菜央(ことだなお)です」
「トライ……アンフ……?」
菜央と名乗った少女が綺麗な声で言った言葉を、征市は言葉を理解していないオウムのように反芻する。
「一体、そのトライアンフってのは何なんだ。俺は警察に連れて行かれたんじゃないのか?」
「んー、魔法警察と関わりはあるんだけど、僕達は魔法警察じゃないんだよね。リーダー、説明してもいいですか?」
「お願いします。陸君」
「りょーかい、っと。自己紹介がまだだったね。僕は遠山陸。デュエリストだ。君と同じようにデュエル・マスターズのカードで戦える魔法使いだよ」
「デュエル・マスターズとか、戦うとか何の事だよ?魔法使いなんてこの世界にいると思うか?」
陸の説明に対して、征市はあくまで知らん振りを決め込む。
「魔法はこの世に存在する。それを知る人は少ないけどね。それは、君が一番よく知っているんじゃないかな?」
陸の鋭い視線が征市を突き刺す。そして、陸はポケットからナイフを取り出すと、それを征市目がけて投げつけた。だが、銀色のナイフは乾いた音と共にすぐに床に落ちた。征市を守るように、デュエル・マスターズのカードが現れたのだ。
「ほら、やっぱり。魔法使いじゃないか」
陸は自分の考えが正しかった事が証明されて微笑み、征市は自分を守ったカードをポケットにしまってから不機嫌そうな顔で腕を組んだ。
「今回は、それが魔法使いでデュエリストだったからよかったようなものの、そうじゃなかったらどうするつもりだよ?」
「あ、ナイフの事?大丈夫だよ、ほら」
陸はナイフを拾うと、手のひらで刃先を押す。ぎょっとする征市だったが、ナイフは陸の手に刺さる事なく、刃が引っ込んだ。
「おもちゃのナイフさ。騙されたね」
「ああ、そうみたいだ。で、俺がデュエリストだと何か問題でもあるのか?」
「大ありなんだよね」
長い話になるため、椅子に座る事を薦められて征市は近くにあった椅子に座った。菜央もデスクから離れて征市の近くまで移動する。
「お名前を教えてもらえますか?」
「……相羽征市だ」
初対面の人間に名前を教える事をためらった征市だったが、素直に自己紹介をした。その名を聞いて菜央が頷く。
「相羽さんですか。運命的なものを感じますね」
「どういう事だ?」
「この組織、トライアンフを作ったのは、あなたのお祖父様、相羽総一郎さんです」
「じいさんが!?」
征市は祖父の事をよく知っているつもりだった。だが、こんな組織を作ったという話は初めて聞いた。
「私もトライアンフ設立当初に何度かお会いした事があります。このトライアンフは、様々なプライズから人々を守るためにある組織なのです」
「暴走プライズか……」
プライズ。神様からのご褒美という意味で名付けられたそれらは、内に秘めた魔力のせいで暴走するものも存在する。暴走プライズの事件を捜査し、解決するのは魔法警察の仕事だと征市は思っていた。
「それは魔法警察の仕事じゃないのか?お前達は何をする組織なんだ?」
「僕達は暴走プライズがらみの事件でも特にヤバい『コードD』と呼ばれるタイプの事件の捜査の手伝いをするんだ。『コードD』のDはデュエル・マスターズを意味する。つまり、デュエリストが絡んでいるような事件は僕達が手伝うって事」
陸が菜央の説明を助ける。
先ほどの征市のように、デュエル・マスターズカードは秘められた魔力で持ち主を守る事ができる。ナイフを簡単に弾いたように、銃弾はもちろん、核兵器すら跳ね返す事も可能だと言われている。そんな対処不可能なデュエリストを倒す方法はただ一つ。同じようにデュエル・マスターズのデッキを持ったデュエリストが戦うしかないのだ。
「さっきの仮面もデュエル・マスターズのカードを持っていた。だから、陸が動いたって事か」
「そうだよ。本当なら、僕があの仮面を倒す予定だったんだけどね」
それから陸が「ところで……」と続けて征市を見る。
「相羽さんは僕らの敵かな?それとも味方かな?」
「さあな……。どういう意味だ?」
陸はこれを聞きたかったのだと征市は理解した。トライアンフが追っていた仮面を倒したデュエリストだからと言って自分達の味方だとは限らない。仮面よりも強力な敵という事も考えられる。
「気を悪くしないでよ。初めて会ったデュエリストには必ずこの質問をしているんだ。で、どうなの?敵?味方?」
「敵か味方かなんて簡単に決められる事じゃないだろ?一つ言える事があるとすれば、俺はデュエル・マスターズのカードを悪用する気はないって事。それだけだ。このカードをもらった時にじいさんとした約束だからな。破るつもりはない」
「多分、敵じゃない。だけど、味方でもないって事か。うまいけど、ずるい答えだね」
足を組んで陸が笑う。その口調や目線から、征市は敵意を感じなかった。
「そっちが質問をしたんだ。こっちからも質問させてもらうぞ。あの仮面は一体何だ?」
「プライズだよ。それくらい判るでしょ?」
「そんな判る事を聞いているんじゃない。誰が何のために作ったのかを聞いているんだ」
「極秘事項です」
征市と陸の会話の中で、菜央が答える。
「あれを倒したのは俺だぜ?教えてくれてもいいんじゃないか?」
「申し訳ないです。外部の方に情報を教える事はできません。ただ……私達、トライアンフのメンバーになって下されば、情報を共有する事ができます」
「それは勧誘だと考えていいのか?」
「ええ」
この場所がトライアンフの本拠地なのかただの事務所なのか征市には判らない。だが、ここに入った時から感じ続けている違和感があった。魔法使いが少ないという事だ。征市の目の前にいる菜央と陸は間違いなく魔法使いだ。だが、二人以外には魔法使いが、それだけでなく他のメンバーもいないのだ。
「人手不足なんだよ、うちは。だから、優秀な人材が欲しいと思っていたわけ。事件の調査をしている時にナイスな人材を見つけたから、こいつはいいやと思ったよ。相羽さんをここに連れてきたのも事件について聞くためじゃなくて、本当はトライアンフに勧誘するためだったのさ」
「褒められるのは悪くない。悪くないんだがな……」
征市は二人の顔を見て続ける。
「だけど、お断りだ。何も説明されずに連れて来られたのが気に入らないっていうのもあるが、俺には向かない。それに、俺には俺の仕事があるからな」
「そうですか。残念です」
一瞬、残念そうな顔をした菜央は、すぐに表情を戻すと陸を見て
「陸君。相羽さんをお送りして下さい」
と、命じた。

「ねぇ、リーダー。これでいいんですか?」
夜になった。デスクの上を片づけた菜央と、帰り支度を済ませた陸だけがトライアンフのオフィスに残っている。
「相羽さんにトライアンフのメンバーになって欲しかったんでしょ?僕が会ったのは偶然だったけれど、リーダーは前からあの人の事を調べていた。新しい事務所をここにした理由の一つだって、相羽さんがここにいるから……」
「判っていますよ、陸君。でも、しょうがないじゃないですか」
菜央は陸に微笑むが、陸はその表情の後ろに見える不安に気がついていた。
「総一郎さんのお孫さんならもしかしたらとは思っていました。思っていましたけれど……いきなり言われても納得できないですよね」
菜央と陸が征市をメンバーに加えようと思っているのには理由があった。それは、征市が総一郎の孫だという事だけではない。
本来、トライアンフはもっと多くのメンバーがいて、デュエリストも何人かいるものだった。だが、半年前に襲撃されて壊滅。菜央と陸だけを残して他のメンバーが死亡、もしくは重傷を負って一線を退く事になった。二か月前にQ区に移転したトライアンフだったが、デュエリストも魔法使いも集まらない。一人でも協力者が欲しい状況なのだ。
「でも、相羽さんは手を貸してくれると思います」
菜央が言った一言に、陸は驚いた顔をする。
「そりゃ、一体どういう事です?」
「女の勘……のようなものです」
上品に微笑む菜央と、はぐらかされたような気分になった陸。納得できないまま、荷物を手に掛けて帰ろうとする陸だったが、
「あ、陸君、ちょっと待って下さい」
と、その背中に菜央が声をかける。荷物を置いて振り返ると、菜央は上品に微笑み続けていた。だが、その裏に潜む危険なオーラを陸は感じ取った。
「げ……。何ですか?」
「陸君。セクハラは駄目だってあれほど言いましたよね?」
「いやいやいや、美しくて素晴らしいものを褒めて何が悪いんですか!つーか、相羽さんを勧誘するっていう仕事をしたんだからご褒美にその胸の楽園で僕を慰めてくれてもいいじゃないですか!」
「あ、またセクハラを……」
菜央が下を向き、彼女の前髪で表情が隠れる。パチン、と菜央が指を鳴らした瞬間、奥の扉が開き、そこから人間のものとは思えないいくつもの黒い手が出てきて陸をつかみ、その中に連れ去った。陸が中に入ったのと同時に自動的に閉まったその扉は、真新しくさわやかなオフィスの壁紙とは不釣り合いな重い鉄製で、血のような赤い汚れがついていた。プレートには『おしおき部屋』と書かれている。
「反省、して下さいね」
おしおき部屋の中で絶叫を上げる陸に、菜央のその忠告が届いたかどうかは不明である。

征市と仮面の戦いの翌日。陸は、調査のためにとある大学のキャンパスに来ていた。
あの仮面は、少数だが量産されたものであり、この大学で作られた事が魔法警察の調べで判っていた。陸に任せられたのは、その仮面を作った者に仮面の製作をやめさせる事であり、抵抗したら確保しなければならない。
付近には、魔法警察が隠れていて、陸のサポートに当たっている。だが、デュエル・マスターズを使った戦闘ができない彼らはあくまでサポートに過ぎない。戦えるのは陸だけなのだ。
目的の部屋の前まで来た陸は、ドアを開ける。トライアンフのオフィスと同じくらいの教室だ。中には作りかけの仮面やその材料が部屋中に置かれている。奥の机に向かって作業している人物に陸は話しかけた。
「平田(ひらた)って君だね。君が作っている仮面について話を聞かせてもらうから、魔法警察まで来てもらうよ」
平田と呼ばれた男子学生は陸の方を向く。その顔は、昨日の若者と同じように白い仮面で覆われていた。
「ま、予想はしていたけれどね。でも、抵抗しないで捕まってくれた方が楽なんだけどなぁ……」
『貴様、魔法使いか?』
「うん、そう。捕まえに来たんだけど、ちょっと事情が変わったな」
にこやかに笑っていた陸の表情が変わる。同じ笑顔でも、不敵な笑みに。鋭い視線で相手を見据えている。
首に下げていたループタイのドクロの眼が怪しく光る。陸の右手に黒い光が集まって、それは黒くて四角い金属のケースの形になった。
「昨日の仮面をつけてた奴もデュエル・マスターズのデッキを持っていた。君も当然持っているよね?どこで手に入れたのかは判らないけれど」
『お前が知る必要はない』
平田は机の引き出しから、陸が持っているのと同じようなケースを取り出す。二人が同時にケースを開けた瞬間、部屋の中をカードが好き勝手に飛びまわった。
『殺しはしない。お前にも我らに支配される喜びを与えよう。何も考えないのはいい。あらゆる苦しみから解放される。この平田も苦しみから解放されるために私に支配され、私の分身を生み出した』
「こんな奴と一緒にするなよ。僕が背負った苦しみは、そんな仮面なんかじゃ隠れないんだよ!」
半透明の黒いシールドごしに陸は平田を睨みつける。そして、扇型に構えた左手のカードから一枚を引き抜いた。
「《フェアリー・ライフ》!マナを増やすよ」
陸が投げた一枚のカードから穏やかなメロディが奏でられる。そして、教室の床の隙間から小さな芽が出てきた。その芽から出た緑色の光が、陸のカードの束を一枚マナに変えていく。
『お前のように最初から戦える人間はいなかった。お前は用心棒として使ってやろう』
平田は、《魔弾グローリー・ゲート》を使う。空に現れた金色に輝く門から三枚のカードが現れ、平田の前まで飛んでくる。飛行するそのカードの一枚を平田は取った。
「用心棒だとか、使ってやろうだとか、勝つ事前提で話を進めてない?なめんなよ!」
陸は、手札として持っていたカードを一枚引き抜く。引き抜かれた瞬間から青く輝き始めたそのカードは陸の手を離れた瞬間、波となって陸の山札に取りつき、三枚のカードを陸に送った。
「マナの次は手札。《サイバー・ブレイン》さ」
波に飛ばされた三枚のカードを受け取って陸は平田を見る。
「《グローリー・ゲート》を使ったって事はナイトの種族でまとめたデッキか。簡単には倒せそうにないな」
『絶対に倒す事などはできない。無限に蘇るこの私のデッキを倒す事などは不可能だ』
平田が手に持っていたカードから金の鎧に身を包んだ黒い龍が現れる。ナイトを墓地から手札に戻す《魔光死聖グレゴリアス》だ。《グレゴリアス》が剣の先から放った光が捨てられたカードに届く。その中から、平田が使ったばかりの《グローリー・ゲート》が宙に浮き、彼の手札に戻っていった。
「ナイトを無限に回収できるデッキって事か。これだから、ナイトデッキは苦手なんだよな~」
陸は頭をかいた後、自分の手札を眺めて唇を舌でなめる。そして、カードを引き抜いた。
「悩んでいても仕方ない。さっさと倒して、今度こそリーダーのふくよかな胸で、ぐへへへへ……」
陸はいやらしい顔で笑っているが、集中していないわけではない。準備を重ねていた彼だが、ここでようやく一体目のクリーチャーを召喚した。

山城(やましろ)公園はQ区にある大きな公園だ。市営地下鉄の駅を降りて数分歩けば着く。公園と名がついているが、子供が遊ぶような遊具のある公園ではなく、海に面した散歩道などがメインの観光スポットであり、ドラマの撮影にもよく使われる。
日光を反射してキラキラ光る海面を見るのは彩弓も大好きだ。
彩弓は右手で持っている紙袋の中身を確認した。その中には、昨日征市から借りたコートが入っている。
霧の中で迷いかけた後、征市は警察にどこかに連れて行かれた。それから数時間後、彩弓に無事を知らせるメールが来たが、それまで気が気ではなかった。それから連絡を取っている内に、借りていたコートを返すため、山城公園の休憩所の前で待ち合わせをする事に決まったのだ。
平日の昼だが、春休みで観光スポットと言う事もあり、人は多い。風景や草花を被写体に写真を撮っている人もいる。
「あの、すいません。写真撮ってもらっていいですか?」
彩弓は、カメラを持った青年に声をかけられた。ここではよくある事だ。彩弓も何度か通行人に頼まれた事がある。
「いいですよ」
青年からカメラを受け取って彩弓はシャッターを押す。
「はい、撮れました……よ……」
カメラから目を離した瞬間、周囲の光景が変わっていた。その様子を見て、彩弓は絶句する。それは昨日の同じ、霧に覆われて何も見えないような光景だったのだ。
「え……?嘘……何で……?」
「どうも、ありがとうございます」
青年は何事もなかったかのように、彩弓に近づく。周りの異常な光景と不釣り合いなその笑顔が、彩弓を恐怖させる。
『そのコート、魔力が宿っていますね。それを使ってまた逃げられたら大変だ』
青年の口から発せられる言葉が機械で合成されたような音声に変わっていく。彼は、彩弓の手からひったくるようにしてカメラを受け取ると、呆然としている彼女からコートが入った紙袋も奪い取った。
「あ!それは駄目!」
『そう……。お前が持っていては駄目だ。これのせいで昨日は逃した。だが、今日はそうはいかない。あの魔法使いもいない今なら……』
青年はカメラを投げ捨てる。草が生えた地面に叩きつけられたカメラのシャッターが彼の顔を照らした瞬間、彩弓はその顔を見て息を飲んだ。
「の……のっぺらぼう!」
一瞬、光に照らされたその顔には、本来あるべき顔のパーツが一つも存在しなかった。今、青年の顔を見ると眼も鼻も口もあるが、どちらが本物なのかは判らない。だが、どちらが本物であるかなど、彩弓にとってはどうでもいい事だった。
―目の前の何者かから逃げなければならない。
そうは思っても、体が動かない。蛇に睨まれた蛙のように、その場に立ちすくむしかなかった。
『さあ、私と一緒に……』
青年が手を伸ばした時、彼にぶつかる影があった。突然現れたその存在に対処できず、青年はその場に倒れる。
「俺のコート、返せよ。既製品の安物じゃないんだ。勝手に持っていくな」
「征市君っ!」
青年を突き飛ばしたのは、征市だった。青年の手から離れた紙袋を拾うと、「持ってな」と、言って彩弓に渡す。
「彩弓、ちょっと忙しくなるからしばらく離れていてくれるか?これが終わったら、洋食屋行ってオムライス食おうぜ。お前のおごりな」
「ええっ!そんなお金ないよ~」
彩弓の慌てる姿を見て、征市は笑うと
「冗談だ。俺が出してやるから食べに行こう」
と、言った。彩弓は、それを聞くと両手で紙袋を抱えてそこを去る。
「気をつけてねっ!」
と、言い残して。
彩弓が走り去っていくのを見送った征市は、冷たい目で青年を見る。そこにいた青年は、昨日征市と戦った仮面に操られていた男だった。
『女を助けに来るとは……。白馬の王子様気どりか?』
「はっ、くだらねぇ。白馬の王子様なんてガラじゃねぇよ。名乗るんだったら……そうだな」
征市は顎に手を当ててしばらく考えると指を鳴らし
「俺が名乗るんだったら、正義の味方の方がいいに決まってる」
と、言った。
『何であろうと構わない。あの娘を人質にしてお前を呼び出すつもりだったのだ。私はこの男からお前に乗り移る』
青年の表情が、いや、顔のパーツが消えて、彩弓のいうのっぺらぼうのような状態になる。それを見ても征市は驚かない。
「書庫にあった文献通りだな。オリジナルの仮面は、寄生している奴の肌の色と同化。のっぺらぼうみたいに顔のパーツがないような感じになる。昨日の仮面を倒した時点で、すでにお前がその下にいたんだな」
『その通りだ。魔力のある人間を探していたら予想以上の人材に出会えた。お前が欲しい!』
「冗談じゃない」
征市はブレザーのポケットから、カードの束を取り出した。風と共に一枚ずつカードが空高く舞い上がり、赤いブレザーがマントのように揺れる。
「二度も彩弓に手を出してただで済むと思うなよ。二度とふざけた事ができないように叩き潰してやるから覚悟しな!」

陸から平田を守るように、銀色の馬に乗った騎士のようなクリーチャー《魔光騎聖ブラッディ・シャドウ》が現れる。平田は《魔弾ソウル・キャッチャー》や《グレゴリアス》の効果を利用して何度もブロッカーを使い回しているのだ。陸のクリーチャーの攻撃が阻まれて、残り二枚になったエネルギーの壁、シールドを破れずにいる。
「こいつはまいったね。パワーなら負けてないのに、何度も邪魔される。嫌な気分だよ、まったく」
陸の傍に立つのは、バイクのように巨大なタイヤを持つ下半身で動くデーモン・コマンド《甲魔戦攻ギリメギス》だけだ。9000という強力なパワーのクリーチャーだが、一度に攻撃できるのは一回だけだ。それ故、何度も蘇るブロッカー達に攻撃を阻まれてしまう。
『息切れか。その程度の力で私を倒すと言っていたのか。笑わせる』
平田の場には《ブラッディ・シャドウ》二体《グレゴリアス》一体そして、《レオパルドII世》《ルドヴィカII世》がリンクした状態で並んでいた。
「何言ってんだ。そっちも防御ばかりで攻撃してこないじゃないか。チキンなんじゃないの?」
平田が攻撃をしていないのは事実だ。陸のデッキにブロッカーは入っていないが、シールドは一枚も傷をつけられていない。
『ならば、これからそのシールドをえぐり取ってやろう。《ルドヴィカ》!《レオパルド》!攻撃だ!』
《ルドヴィカ》のエネルギーが《レオパルド》に注入されていき、怪しい光を放つ《レオパルド》の銃から幾筋もの光線が発射された。魔法の弾丸が雨のように降り注ぎ、陸のシールドの三枚が砕け散る。砕け散ったそれらは、シールドとしての姿を失い、カードの形になって陸の手元に飛んでいく。
「ちぇっ、シールド・トリガーはなしか。でも、大丈夫だ。まだ負けたわけじゃない」
『負け惜しみを……』
平田の嘲笑を聞きながら、陸は手元のカードを一枚空に投げる。そのカードに、陸がタップした六枚のカードから発生した黒い光が吸い込まれていった。
「行くぜ!《凶刻の刃狼ガル・ヴォルフ》召喚!」
地響きと共に着地した獣の下半身と人間のような上半身を持つそのクリーチャー《ガル・ヴォルフ》は狼のように遠吠えをした。体中にある獣の口から発せられる狂気のハーモニーが平田の心を精神的に追い詰める。
「《ガル・ヴォルフ》!平田の手札にあるナイト・クリーチャーを破壊!そして、シールドも破壊しろ!」
『そうか!そういう事か!』
平田のデッキがナイトデッキである事が判るヒントがいたるところに散りばめられていた。それ故、種族を指定し、手札の中にある選んだ種族のカードを一枚捨てさせる《ガル・ヴォルフ》の能力が成功しやすくなるのだ。
《ガル・ヴォルフ》が四本持っていた剣の内、一本を投げつける。平田の手札にあった《ブラッディ・シャドウ》のカードが一枚、真っ二つに切り裂かれて消えていく。そして、シールドに別の剣が突き刺さり、砂の城のように崩れ落ちていった。
「おっし!これでシールドは残り一枚。でも、攻撃はしない」
攻撃できる陸のクリーチャーは《ギリメギス》のみだ。だが、その攻撃も平田のブロッカーに止められてしまう。
『攻撃しないのはそちらの自由だが、どちらにしてもそのままでは死ぬぞ?』
平田が六枚のカードを傾け、一枚のカードにそこから出たマナを注ぐ。ボン、という煙と共に呪文のような文字がいたるところに書かれた黒い巨大な手が二つ現れ、ギリメギスをその二つの手が押しつぶしていった。
「ちっ……!《デーモン・ハンド》か!」
『その通り』
《デーモン・ハンド》はデュエリストの中でも知名度の高い強力な呪文の一つだ。能力はどんなクリーチャーでも破壊するというシンプルなものだが、クリーチャーであればどれだけ巨大でどれだけ強大であっても破壊する事ができるのだ。強大なクリーチャーを出すために費やした労力を一瞬にして無にするその悪魔の手を恐れない者はいない。
『このターンにシールドを全滅させ、次のターンでお前を殺す。いや……我々の手駒として使ってやってもよい』
「だーかーらーさー、上から目線で話すなっての!」
陸が反論した瞬間、残っていた二枚のシールドも銃弾の雨に晒され、破られた。破片が黒く輝くのをぼんやり眺めながら、陸は戻ってきた一枚を空高く投げた。
「待たせたね!一発逆転って奴さ!」
空から迫ってくる大波。その中から飛び出したサーフボードに乗った青い人型の生物が平田の《ブラッディ・シャドウ》を突き飛ばした。黒と金の魔力を体から散らした《ブラッディ・シャドウ》は一枚のカードになって平田の手札に戻っていく。
「カウンターって奴?シールド・トリガー《アクア・サーファー》さ!これでまだ判らなくなった……」
青い生物《アクア・サーファー》はシールド・トリガーで出てくるクリーチャーだ。場に出た時、クリーチャー一体を手札に戻す能力を持つ。
「いや……判らなくなった、じゃないな。これで勝った!」
驚いた顔をしている平田を見る事もなく、陸は六枚のカードをタップし、場の中央に一枚のカードを投げる。黒い光を吸収したそのカードの中から一体の魔神が現れた。
「僕の下僕。《冥府の覇者ガジラビュート》だ!やれ!《ガジラビュート》!!」
陸に命じられた《ガジラビュート》はゆっくり頷くと、手に持っていた剣を平田のシールドに投げつける。平田の《グレゴリアス》と《ブラッディ・シャドウ》が動くよりも速く、その剣はシールドを貫き、粉々に砕いた。
『な……何が起きたのだ……?』
「あれ~?知らないの~?《ガジラビュート》は場に出た時、相手のシールドを一枚破壊する能力を持っているんだぜ~」
動揺する平田に陸は挑発的な口調で答える。それを聞きながら、平田は挑発された事に対して怒るよりも先に焦りを感じていた。
『負けるわけがないのだ。負けるわけが……』
「素人じゃ、プロには勝てんよ。ま、仕方ない」
陸は腕を組んでうんうん、と頷き、場にいる自分のクリーチャーに命じた。
「《アクア・サーファー》!シールドはなくなった。平田を倒せ!」
波に乗って突撃していく《アクア・サーファー》。はっとなった平田は、自分のブロッカーに命ずる。
『《グレゴリアス》!私を守れ!』
主の命令に反応した《グレゴリアス》はすぐに《アクア・サーファー》の前に立ちふさがる。ぶつかり合うクリーチャー。それを見て平田は笑った。
『そうだ!焦る事はない!まだ私には《ブラッディ・シャドウ》が一体いる!《ガル・ヴォルフ》の攻撃を《ブラッディ・シャドウ》で防げば倒せる!』
「でも、《ブラッディ・シャドウ》死んでるよ?」
陸に言われて平田の顔が凍りつく。慌てて確認した平田の目に映ったのは全身から毒ガスのようなものを出して溶けていく《ブラッディ・シャドウ》と、その隣にいる巻物を口にくわえた巨大なカエルだった。
「紹介するよ。僕の切り札《威牙の幻ハンゾウ》だ。ちょっと変なタイミングで出てくる変な奴だけど、悪い奴じゃないよ。能力はクリーチャーのパワーを一時的に6000下げるってとこだね。これで、《ブラッディ・シャドウ》もいなくなった」
シールドも、ブロッカーも残っていない。平田は手札を落とし、震えながら陸を見ていた。
「今まで、その仮面でどんなひどい事をやったの?正確には、仮面が人を操ってさせた事なんだけどね。お前みたいなプライズはここでぶっ壊す。最後に一言言っておくよ」
陸の視線が厳しくなる。その奥に深く暗い闇のようなものがあるのを、平田は……平田に寄生していた仮面は見ていた。
「あの世で神様に懺悔しな!」
《ガル・ヴォルフ》が四本の剣で平田の仮面を切り裂く。バラバラになった仮面に開放された平田青年は力が抜けたかのようにその場に倒れた。役目を終えたクリーチャー達は、カードの姿に戻り、金属製のケースに戻っていく。平田が操っていたクリーチャーも同じようにカードの姿に戻った。
一息ついて眠るように目を閉じる陸。しかし、けたたましく鳴る携帯電話の着信音によって現実に引き戻される。
「はい、もしもし。あ、リーダー。こっちは終わりましたよ……。え?本体は平田じゃない!?で、その本体と相羽さんが戦っている!?判りました。場所は山城公園ですね。すぐに行きます」
電話を切って陸は微笑む。
「わお。本当にリーダーが言ったとおりになってるかも。相羽さん、マジで僕達の仲間になってくれるかも」

征市と仮面のデュエルも終わりに近づいていた。征市の手元にあるカードに赤と青の光が注入されていく。
「出でよ!《戦攻竜騎ドルボラン》!」
銛(もり)と巨大な銃を持った太ったドラゴンが場に君臨する。その龍は、持っていた銛で仮面の《ブラッディ・シャドウ》を突き刺した。
「俺の《ドルボラン》は場に出た時に相手のクリーチャーを破壊する能力を持つ。このまま、一気に決める!」
征市がそれだけの事を言うのには理由がある。彼の場にはブロッカー破壊に最適な爪のような外観のクロスギア《熱刀 デュアル・スティンガー》があるのだ。仮面のデッキは防御をブロッカーに頼ったデッキなので、この一枚が与えるプレッシャーは大きい。
今、仮面が操っているクリーチャーはリンクした《ルドヴィカ》と《レオパルド》、そして、《ブラッディ・シャドウ》一体。シールドは一枚もない。征市もクリーチャーはドルボランしかいない。だが、シールドは二枚残っている。
『だが、そんな事はさせん!』
仮面のカードから黒い握り拳が伸びてきて、《ドルボラン》の体を殴りつける。《ドルボラン》は倒れ、姿を消した。
「《デーモン・ハンド》か。くそっ、これで俺のクリーチャーはゼロだ」
『そうだな。そして、お前の望みもゼロだ!』
銃弾が征市のシールドを砕いていく。その中にシールド・トリガーはない。シールドの役目を終えて手札に戻ってきたカードを見ながら征市は髪をかきあげる。そして、仮面の方をまっすぐ見て言った。
「俺の勝ちだ」
『馬鹿も休み休み言え。私のシールドがない今の状況では、昨日のように《ジャガルザー》は使えん!』
征市の切り札《紅神龍ジャガルザー》は、自分のクリーチャー全員にスピードアタッカーを追加し、全軍突撃を可能にする能力だ。だがしかし、その能力を使うためには、《ジャガルザー》以外のクリーチャーがシールドをブレイクする必要がある。征市には《ジャガルザー》はおろか、シールドをブレイクする他のクリーチャーもいない。
「だが、勝つんだ。見せてやるよ。『ウソのようなホントウ』って奴をな!」
征市が人差し指と中指で持った一枚のカードに六つの赤いマナが集まっていく。カードの中でゆっくりと融合し合ったそのエネルギーを受け、征市の切り札は姿を現す。
「行くぞ。《ボルシャック・大和・ドラゴン》!!」
カードから放たれるのは炎の雨。その中にあった巨大な炎の塊が破裂し、中から和風の甲冑を身に纏った二本足の龍が刀を抜き、その切っ先を仮面に向ける。スピードアタッカーを持つ征市の最強の切り札、《ボルシャック・大和・ドラゴン》だ。
『スピードアタッカー……!だが!だが、私にはブロッカーが残っている!』
「判るだろう?俺には《デュアル・スティンガー》があるんだよ!2マナ使って《デュアル・スティンガー》を《ボルシャック・大和・ドラゴン》にクロス!」
炎の波に飛ばされて《デュアル・スティンガー》が《ボルシャック・大和・ドラゴン》の左腕に付く。もう、征市が負ける理由は何一つない。
「《ボルシャック・大和・ドラゴン》!!仮面を攻撃だ!」
天にまで届くような雄叫び。そして、突き進む《ボルシャック・大和・ドラゴン》。立ち塞がる《ブラッディ・シャドウ》に《デュアル・スティンガー》の先から発射される爪を突き刺し、焼き尽くす。
「一刀……両断!」
《ボルシャック・大和・ドラゴン》の刀が振り下ろされ、仮面の体が後方に吹き飛ぶ。肌色をした顔のない仮面は青年の体から外れ、飛んでいった。
『馬鹿な……。お前の戦い方は全て判っていたはずなのに……』
カードを全て手元に戻した征市を見て、息も絶え絶えの仮面が呟く。
「馬鹿言うな。俺はデュエリストである前に手品師だ。全ては見せない。全てを見せたらタネも仕掛けもバレちまうだろうが」
『う……あぁ……』
征市の言葉を聞きながら、仮面はその機能を停止していった。だが、完全に機能を停止したのかは判らない。
「さてと……どうすっかな」
征市は仮面と、操られていた青年を見て考えた。いつ、再び暴走するか判らない仮面の保管場所に困るし、青年をこのまま放置するわけにもいかない。だからこそ、征市は、昨日の帰り際に菜央から教わったトライアンフの電話番号に電話をかけて応援を呼んだのだが。
霧が晴れてきた。
「征市君っ!」
「よっ!相羽さん!」
「またお前か……」
彩弓と陸の姿を見て溜息を吐く征市。近づいてくる陸に対して仮面を渡した。
「僕らを頼ってくれるだけじゃなくて、仮面の本体も倒してくれるとはね。やってくれますね。でも、トライアンフの新入りなんだから、先輩の僕がビシビシ鍛えてあげますよ!」
「勝手に俺をメンバーにするな!」
「ねぇねぇ?何の話?」
二人の話の中に、彩弓も入ってこようとする。さらに混乱していく場の空気を考えて、征市は頭を抱えた。
「トライアンフに電話かけてきたんだから、メンバーになってくれるのかな~って。歓迎しますよ!セーイチさん!」
「だから違うっての。つーか、セーイチさんってなんだよ。馴れ馴れしいんだよ!」
「だって、相羽さんって呼ぶの堅苦しいじゃないですか」
「はあ……。とりあえず、ここはお前みたいなプロに任せるわ。彩弓、行くぞ!」
征市は彩弓の手を引いて走り出す。話が判らなくて少々混乱していた彩弓だったが、征市と一緒に走りだした。
「やれやれ……。メンバーにはならないって言っているけれど、長い付き合いになりそうだな」
陸は仮面を手でいじりながら走り去っていく二人を見ていた。

 『File.3 殺し屋さんいらっしゃい』につづく

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