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デュエル・マスターズについて語る非公式ファンサイトです。
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デュエル・マスターズ初心者向けを意識した記事を書いています。
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『コードD』


デュエル・マスターズ。
それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
デュエル・マスターズのカードを操る十九歳の青年、相羽征市(あいばせいいち)は魔法警察を呼んだ少年、遠山陸(とおやまりく)に連れられて謎の組織、トライアンフのリーダー、琴田菜央(ことだなお)に出会う。征市の祖父、相羽総一郎(あいばそういちろう)が作り上げたその組織に勧誘された征市だったが、それを断る。翌日、陸は仮面が作られた大学のキャンパスに向かい、そこにいる青年を操っていた仮面を倒す。そして、征市はそれらの仮面のオリジナルと戦い、それを撃破するのだった。

 File.3 殺し屋さんいらっしゃい

暗い夜。港に面した倉庫。様々なコンテナが置かれているその場所に二人の男がいた。
自分を守る五枚の壁が少しずつ壊されていく。それが、自分の死へのカウントダウンのように感じて、片手に大きな鞄を持ったスーツ姿の男は怯え、震えた。
「いいもの持ってるネェ、アンタ。そんないいもの持っていて、護衛もつけずに歩くから行けないんだヨォ……」
語尾に妙なイントネーションをつけて話す目の前の男は、乾いた声で笑う。夜の世界で目立たないように黒の動きやすい服装でまとめているその男の前で、赤い二体の龍が雄たけびを上げる。一体は、馬のような四本足に人間のような上半身を乗せた鎧で身を包んだ龍。もう一体も同じような姿で、こちらはサイズが小さく、槍のようなものを武器として持っていた。
「や、やめろ……!話せば判る!これが欲しいんだろう!?君にやるから、命だけは……!」
「俺は仕事を依頼されるだけ。俺は欲しくないけれど、依頼人は命もそれも両方欲しいって言ってたナァ」
黒い服の男はしゃがみこむと、下から覗きこむようにして震えるスーツ姿の男の表情を見る。
「狙われた奴は、アァ……俺に殺されちゃうんダァ」
黒い服の男は、黒いカードを小さい龍に向かって投げた。黒いカードが小さい龍に刺さり、雄たけびを上げる。すると、カードはクリスタルを内蔵した球体に変化して空を飛び、龍はその球体から発せられる光を浴びて姿を変えていく。変わった姿は、隣にいる半身半馬の龍と同じような黒い姿。体中から龍の首が生えているなどの違いはあるもののほとんど色違いと言ってもいいくらい酷似していた。黒い姿の龍の首が光線を出して、スーツ姿の男が手に持っていたカードを焼き尽くす。
「そんな……!最後の頼みの綱が……!」
「あ~ァ、残念でしタァ。じゃ、おしまい」
黒と赤の龍が暴れる。シールドを守るように立っているブロッカー達も、踏みつぶされ焼き殺されていく。全てのシールドが砕かれた後、人型の白い長髪をした龍がゆっくりとスーツ姿の男の方へ歩いてきた。そして、右手を向けてそこから光線を出し、男の体を焼き尽くした。
「終わっタァ、終わっタァ」
黒い服の男は、両手を上に投げ出して踊るとカードを全てケースの中に入れ、ベストのポケットにしまう。そして、スーツ姿の男が持っていた鞄を拾って、その中身を確認した。
「これダァ。これでいいんダァ」
満足そうな顔で笑うと、男は鞄を閉じ、それを抱えて歩き出した。
「え~っと、これが終わったら次のターゲットダァ。次は確か、邪魔者のトライアンフとアメリカに運ぼうとしているプライズ、カァ」
黒い服の男の息遣いが夜のY市に吸い込まれていった。

「ここに、ごく普通のトランプがあります。これをシャッフルして……」
デパートのおもちゃ売り場の中にある手品用品のコーナー。ここで、扱っている商品を実際に使って手品を行う事も、征市の仕事の一つであり、修行でもある。裏が赤いトランプを征市は慣れた手つきでシャッフルしていく。
透明なガラスのカウンターの中には、いくつもの手品用品が置かれている。近くの什器にも征市が使った手品グッズが置いてあった。子供達の視線を受けながら、征市はカウンター越しにいくつもの手品を披露していた。その中には、たまに授業が終わった後の彩弓の姿もある。今日もそうだった。
「では、この中から一枚引いて下さい。げっ……!」
だが、今日はそれだけでなく、陸が来ていて、征市の目の前にいる。カウンター一つ隔てた場所で、にやにやと好奇心ではないいやらしい目で笑っていた陸は、カードを一枚引く。
「おい、陸。他の子の邪魔になってるだろうが。お前は帰れ」
「何言ってんですか、セーイチさん。僕、まだ十六歳。まだまだ子供ですよ」
征市に向かってそう言った陸は、子供達の方を向くと
「みんなー!このトランプってどのカードか判るように、裏にマークがついているんだぜー!」
と言って、手品のタネをばらした。驚く子供達。何度もこの手品を見ていた彩弓も「えー!嘘ーっ!」と、声を上げて驚いていた。
「陸、お前なぁ……」
「セーイチさん。怒らない怒らない。調子に乗って手品のタネをバラす子供はどこにでもいるもんですよ。僕も知らないような手品を見たいなぁ……」
挑発的に言う陸だったが、ここで征市が陸の挑発に乗る理由はない。しかし、引き下がる理由もなかった。
陸からカードを受け取った征市は残りのカードと一緒にそれをケースに戻すと、絞めていた紺のネクタイをほどいた。
「じゃ、ネクタイを使ったマジックだ。これは、何の変哲もないただのネクタイだ。……商品じゃないから売ってくれって言っても売れないからな」
ネクタイを見て「それいくらー?」と聞く子供に答えつつ、征市はネクタイを陸に渡す。陸だけじゃなく、そこにいる子供達が目を凝らしてネクタイを見る。だが、それは征市が言ったように本当にただのネクタイだ。
「でも、セーイチさん。このネクタイ、このデパートで買ったものじゃないでしょ」
「そんな細かい事はどうでもいいんだよ。で、このネクタイを首に巻く」
陸からネクタイを取った征市は、それを無造作に首に巻いていく。そして、両端を引っ張ると当然それは首に食い込む。征市が苦しそうな顔をするのに同調して、子供達と彩弓も苦しそうな顔をする。陸は手品のタネを見破るためにその様子を凝視していた。
「で、強く引っ張ると……!」
ネクタイが首に強く食い込むとその場にいる全員が思っていた。だが、ネクタイはするりと首から抜けた。結び目もなく、切れ目もない。綺麗な状態で征市の手の中にある。
「嘘っ!ネクタイが首を擦り抜けた!」
「んな馬鹿な!」
征市の手品に彩弓も陸も驚く。子供達からは歓声が沸き起こった。
「嘘なんかじゃない。『ウソのようなホントウ』って奴だ。どうだ、陸。お前が見たかったのはこういうマジックか?」
しばらく、口をポカンと開けていた陸は征市に肩を叩かれて我に帰る。そして、腕を組むと
「いや~、征市さんもやりますね。大したもんだ」
と、言っていた。
「本職のマジシャンに大したもんだはないだろうが、素人」
「いやいやいや、僕も最初のトランプマジックのタネを見破ったんだから、ここは引き分けという事にしておきましょうや」
「いつ、勝負を始めたんだ、俺達は」
周囲の子供達の興味は征市の手品から、二人の漫才のような掛け合いに移っていく。彩弓もおもしろがってその様子を見ていた。

「……ったく、余計な時間使っちまったじゃないか」
征市の仕事は終わり、三人は近くの喫茶店の中で雑談をしている。あの後、陸との掛け合いで少なくなった時間の中で征市は今日使った手品用品を子供達に紹介して解散させたのだ。
「でも、面白かったよ。陸君も手品、知ってるの?」
そこには彩弓も一緒だ。先日の仮面の件以降、陸が征市の家に来る事が何度かあったため、陸と彩弓が顔を合わせる事もあった。始めは、魔法警察と共に征市を連行した彼と話す事に抵抗を感じていた彩弓だったが、陸の陽気な性格のおかげですぐ話せるようになった。
「いや、まったく。だから、トランプ手品の種明かしは適当に言ったんだ」
「適当に言うなよ。まあ、ギャラリーが選んだトランプの裏を見て当てる手品なんてのは、裏に細工がしてあるもんだけどな」
「えぇっ!そうなの!?」
彩弓だけが驚いている。征市と陸は彩弓のリアクションに驚いていた。
「ショックだ~。もっと別の仕掛けがあるんだと思ってたよ~」
「どんな仕掛けだよ。トランプに仕込むんだから、でかい仕掛けはできないだろ?つーか、今まで一年近くあの手品見て気づかないってどうなってんだよ……」
その後も三人の雑談は続いた。途中で、彩弓が抜け、しばらくして征市が帰ろうとした時、陸がその手をつかんだ。
「セーイチさん、これからちょっと来てもらえるかな?」
「やれやれ。面倒な事が待ってるのか。トライアンフには入らないからな」
「そんな事言わないで下さいよ。それより、リーダーからセーイチさんにプレゼントがあるんです。今日はそれを預かってきたんだ」
「菜央から、俺に?」
菜央は陸が所属する組織、トライアンフのリーダーだ。トライアンフは暴走プライズから人々を守るために設立された組織で、『コードD』と呼ばれるデュエリストでないと対処不可能な事件の時に現場にデュエリストを派遣するのが主な仕事だ。
「これさ」
鞄を探っていた陸が取り出したのは、片手で持てる大きさの金属で出来たケースだった。それを見て、征市はそのケースが何のために使われるものなのか判った。
「デッキケースか」
「ご名答。注文してから届くのにちょっと時間がかかったけどね。カードをきちんとしまっておかないと、カードが痛んで魔力が漏れるからね」
征市は、陸からそのデッキケースを受け取る。
「俺はトライアンフには入らないから、ケースは受け取れない」
「ケースやるから入れなんてケチくさい事は言わないよ。でも、セーイチさんにちょっと手伝ってもらいたい事があるんですよね」
手伝ってもらいたい事が何なのか引っかかったが、陸や菜央が非常識な依頼をしてくるとは思えない。
暴走したプライズと戦うからには、危険な事に巻き込まれるのを覚悟しなければならない。だが、征市はデュエル・マスターズのカードを使える。あらゆる危険から身を守ってくれるこのカードを使えば、どんなプライズが相手でも危険ではないと思っていた。
「仕方ねぇな。これ、もらっちまったから今回だけは手伝うよ」
「わお!話せるぅ!」
二人は喫茶店を出て歩き出した。外の景色はもう夜に変わっている。
「詳しい事はリーダーに聞いてもらうよ。僕もまだ詳しくは教えてもらってないんだよね」
「お前も教えてもらってないって、相当ヤバいんじゃないのか?」
「ヤバいかもしれないけれど、僕はヤバい仕事をセーイチさんに任せるとは思えない。僕はリーダーを信じてるよ」
陸のその目には菜央に対する信頼があった。征市は、この目は信じてもいい目だと感じた。
「判ったよ。俺も菜央を信じる。少なくとも、今回は協力するぜ」
「ありがとう。でも、ずっと協力してくれるといいんだけどね。トライアンフ、結構給料いいし」
「それは魅力的だな。迷う」
二人で雑談をしながら歩いている内に、陸はとある建物を見て止まった。
それは、大正時代に銀行として使われていた建物で、今は改築されて博物館になっている建物だった。今はすでに閉館時間になっているはずだったが、陸は鍵を開けてその中に入っていく。征市もそれに続いた。
「ここにトライアンフがあったのか?随分、俺の家に近いんだな」
仮面の事件で魔法警察にトライアンフに連れて来られてから、征市がトライアンフに来た事はなかった。あの時の事件は征市の家の近くで起きたはずだが、車で移動したにも関わらずかなり時間がかかった。
「方向感覚を惑わすために色々なところを通ったからね。目隠しもしてたでしょ?」
「機密保持って奴か。納得した」
陸がとある絵画の前に立つと、彼はそれに手を触れた。すると、自動ドアのように壁が横に動いた。
「魔法使いの魔力に対応しているんだ。ここは、トライアンフのメンバーしか開けられない。さ、早く入って!」
「ああ、判った。お邪魔します、っと」
そこは、人が数人しか入らないような部屋だった。白い壁があるだけで、他には何もない。入ってきた時の壁は、征市の見ている前で元に戻った。そこもドアではなく、普通の白い壁だ。ここからどう移動するのか征市が疑問に思っていると、エレベーターのようにそれは下降し始める。しばらくして停まり、白い壁が開いた。
「ういーっす!ただいま戻りました!ほら、セーイチさんも一緒ですよ!」
窓がない事と人が一人しかいない事を除けばごく普通のオフィス。そこで、トライアンフのリーダーである少女、琴田菜央は待っていた。
「相羽さん、こんにちは。陸君、お疲れ様です」
「これ、ありがとよ。ちゃんとしたケースがあるなんて、知らなかった」
「トライアンフヨーロッパで開発された最新型ですよ、最新型」
ケースについて陸が説明する。それを見て、菜央が微笑んでいた。
「陸が言っていたんだが、俺に頼みたい仕事があるんだって?」
「そうでした、そうでした。リーダー、それを説明してあげなきゃ!」
「ええ、今から説明しますよ」
菜央は自分の机の上から銀色の鞄を取ると二人の前まで運んだ。そして、それを近くの机の上に置き、開けた。
「これは、この前の……!」
征市は、鞄の中に収まったそのプライズに見覚えがあった。人間の肌と同じ色をしたのっぺらぼうの仮面。人間に取りついて、意識を乗っ取るプライズだ。人間の体を使って、自分の分身を作る仕事をさせていた、と陸が言っていたのを征市は思い出す。
「あれ?まだこの仮面あったんですか?どこかの博物館に送っちゃったのかと思いましたよ」
「え?プライズは博物館送りにされるのか?」
陸の発言に征市が驚く。それを聞いた菜央が「それでは、事件後のプライズの行先について説明しましょうか」と、言った。
「主に暴走プライズの行先は大きく分けて二つ。デュエリストとの戦いで魔力を失い機能を停止したプライズの大半は、専門の博物館に寄贈されます。博物館の資料として適さないプライズは、トライアンフで保管し、研究されます」
「じゃ、この仮面は博物館には行かなかったって事ですね。確かに、のっぺらぼうの仮面ってちょっと気持ち悪いもんなぁ」
陸が仮面を見ながら言う。
「で、これはどうしちゃうんですか?どこかのギルドに売るの?」
後で征市は、魔力を抜く事でただの物になってしまったプライズは、ただの美術品としてギルドに売られるものもあるという事を陸から教わった。それによって得た利益もトライアンフの資金源の一つだ。
「いえ、これは市場に流通させるには危険すぎるプライズです。トライアンフアメリカに仮面を専門にしている研究者の方がいるので、そちらに送る事になりました」
一息ついた菜央が、鞄を閉じて二人を見る。
「相羽さんと陸君には、これを運んでいただきたいのです」
プライズの運び屋。征市が想像していたものに比べると随分あっけない仕事だ。征市がトライアンフの仕事内容を知らないから、わざと簡単な仕事をよこしたのかと考えた。
「運び屋かぁ……。リーダー、例の殺し屋に気をつけなきゃいけませんね」
「こ、殺し屋!?」
物騒な単語を発する陸の言葉を聞いて、征市は耳を疑い、驚きのあまりその単語をそのまま繰り返してしまった。
「ええ、デュエル・マスターズカードを使うデュエリスト専門の殺し屋です。仮面のプライズをトライアンフアメリカに届ける事も重要ですが、できれば、その殺し屋を引きつけて退治して下さい」
「仮面とデュエリストを餌に釣りあげろって事か……。危ない釣りだな」
征市は力なく笑うが、デッキを手にすると
「判ったよ。最新型をもらったんだ。きっちり仕事はするぜ」
と、依頼に答えた。
「ありがとうございます、相羽さん。人命優先なので、危なくなったら仮面を捨ててもいいのですぐに逃げ出して下さいね」
「……そんなに危ないのかよ。不安になってくるじゃないか」
微笑む菜央に対して、血の気の引いた顔で笑う征市。そして、陸はその様子を見て「僕にも!僕にも是非微笑みかけて下さい、プリーズ!!」と、言っていた。

その夜。家に帰った征市は、夕食後に二階にある書斎で調べものをしていた。ここには、征市の祖父、相羽総一郎が残した様々な文献が置かれている。魔法に関する資料も国内外のものを問わず、有名なものは大抵揃っていた。
『おいお~い、征市~。勉強なんかするなんて、変なものでも食ったのか?』
梯子に寄りかかって本の中身を調べる征市の頭上を飛ぶ物体があった。そこに浮いているのは、白髪交じりの老紳士の肖像画だ。口だけが動いている。
そこに描かれている端正な顔の紳士が相羽総一郎である。これは、肖像画に魔力が吹き込まれた事で生まれたプライズだ。プライズの中には、仮面のように人々に危害をくわえる物も存在するが、大抵はこの肖像画のように人間と共存するようなものが多い。この肖像画は、『じじい二号』。今では、じじいが省略されて『二号』と呼ばれている。
「俺が調べものしたっておかしい事はないだろう?この前だって調べてたし」
『あ、血相変えて仮面の事調べてたな。ここの本の事はほとんど俺が知っているんだから、俺に任せとけよ。で、何を探しているんだ?』
征市は手に持っていた本を閉じると、二号を見て
「じいさんがトライアンフを作った理由」
と、答えた。
『トライアンフって、あのでかい組織か。俺が前、話した。あれが総一郎の作った組織だったとは知らなかった。そんな本はないな。答えが知りたけりゃ、自分で探すしかない』
「無責任な奴。だけど、そう言うと思ったぜ。だから、手あたり次第資料を探してるんだけどな」
きちんとまとめられた資料でなくてもいい。メモ程度のものでもいいから、征市は総一郎がトライアンフ設立に関してまとめてある資料が欲しかった。祖父が作った組織が自分の近くにあって、その組織と自分が近づいた事が原因なのかもしれない。征市は、自分でもよく判らない想いに動かされながら、あるかどうかも判らない資料を探していた。
『資料が書斎にあるかどうかなんて判らないだろう。俺はあいつのコピーみたいなもんだが判る。ここにはない。総一郎がその組織を作ったのは、ここを出た後だ。そういった資料は、トライアンフの事務所とかにあるんじゃないか?』
「やっぱり、そうか」
征市は諦めたように呟くと、持っていた本を置く。そこに二号が飛んできた。
「デュエル・マスターズカード。トライアンフ。じいさんが遺したものが二つも俺の近くにある。片方は俺に遺したもので、もう片方はそうじゃないけれど……。デュエル・マスターズカードを使う機会は今までに一度もなかった。そして、トライアンフと仕事をする機会は増えそうだ。じいさんの見えない意思が近くにあるような気がする」
真面目な顔でそう言った征市は「気のせいかもしれないけどな」と、付け加えた。
『征市、お前、トライアンフに入るべきか迷っているだろ?』
「ああ」
来るべき時のために、征市はデュエル・マスターズカードの使い方を学んでいた。元々は総一郎に教わったものだが、祖父がいなくなってからもずっと一人で学び続けていた。それも、全て総一郎が作り上げたトライアンフの力になるためなのかもしれない。では、トライアンフとは一体、何なのか?何のために総一郎が作ったのか?
「じいさんの意思を感じる。気のせいでもいい」
征市は、自分に言い聞かせるように呟く。
『がんばれよ。俺はもう寝るぜ』
二号が応援してくれるとは思わなかった征市は、呆気に取られた表情で二号が飛んでいくのを見る。そして、
「ありがとう、二号」
と、その後ろ姿に礼の言葉を言うのだった。

翌日の夜。
ガス灯の形を模した街頭がQ区の夜道を照らす。レンガに似た素材で出来たその道を、こつりこつりと靴音を立てながら征市が歩いていた。右手には銀色に光るジュラルミンケース。
そこに近づく一人の男の姿があった。トライアンフアメリカで支給されているグリーンのジャケットを着た男だ。
「お待ちしていました。プライズをこちらに渡していただけますか?」
やってきた男は征市にそう言うが、赤いブレザーの青年はそれを渡さない。その代わり、こう言った。
「合い言葉は?」
「は?」
一瞬、呆気に取られたような顔をするアメリカからの使者。そんな彼に対して征市は続ける。
「合い言葉だよ。最近、プライズを狙っている殺し屋がいるだろ?恐ろしく頭の切れる奴だって聞いた。だから、急遽(きゅうきょ)、トライアンフアメリカから来る奴と合い言葉を決めておいたんだ。今、ここにいるあんたが本物なら判るよな?……アーマード・ドラゴン」
征市が言った言葉を聞いて「ああ、決めていましたね」と言う使者。
「ドラゴン・ゾンビ」
使者もそれに答えて、手を出す。彼は、友好的な顔で征市に微笑みかけてきた。征市も同じように微笑み、ジュラルミンケースを開ける。
「これは何ですか!」
中身を見た使者が声を荒げた。無理もない。そこに入っていたのは仮面の本体である肌色の仮面ではなく、征市や陸が倒したコピーの白い仮面の破片だったのだ。
「本物はどこですか!合い言葉だって言ったでしょう!」
「合い言葉なんか、最初から決めてない。お前、誰だ?」
征市に指摘されて、使者の男は顔を抑えながら後ろに下がっていく。
「何故ダァ!ちゃんと、仮面の魔力を追ってきたんダァ!」
「だよな。お前は、プライズ持ってる奴の居場所を正確に探って、そいつを殺す。だから、その性質を利用した。本物の仮面ほどじゃないが、この白い仮面も魔力を帯びた立派なプライズだ。だから、こいつに魔力を注ぎこんで囮に使った。本物は、今頃、厳重に警備された車で移動してトライアンフアメリカからやってきた奴の手に渡っている頃だな」
「コケにしタァ!俺をコケにしタァ!許さなイ許さなイ許さなイ!依頼人に言われたデュエリストの命だけでも持って帰ルゥ!」
男はグリーンのジャケットを投げ捨てる。その下から、黒く動きやすい服が見えた。上半身のベストのポケットからデッキケースを取り出す。
「ハンバーガーをテイクアウトするみたいに気軽な感覚で命を持って帰るとか言うな、まったく。俺も依頼されてるんだよ、お前を退治しろってな!」
征市がブレザーの胸ポケットからポケットチーフを取り出し、右手にかける。指を鳴らしてポケットチーフを取ると、そこには菜央から受け取ったデッキケースが乗っていた。もう一度指を鳴らすとケースのロックが解除され、中から四十枚のカードが飛び出す。
目の前には、五枚のカードが征市の魔力を受けて変化した赤い色の壁、シールドに。そして、五枚のカードは征市の手元に。残りの三十枚は征市の右横に浮いて待機していた。デュエル・マスターズカードを使った命がけの戦いが始まるのだ。
「一気にケリをつけてやる!《ボルシャック・大和・ドラゴン》、召喚!」
和風の甲冑に身を包み、左目に傷を負った二本足で立つ龍。征市の切り札、《ボルシャック・大和・ドラゴン》が4ターン目に登場した。その足元には、ペットのようなかわいらしい小動物、《幻緑の双月(ドリーミング・ムーンナイフ)》と鍛えられた肉体を持つ緑色の獣、《青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)》がいた。
「マナが増えたから、こんなに早く出たというのカァ!」
「そういう事だ!行くぜっ!」
炎をまき散らしながら跳躍した《ボルシャック・大和・ドラゴン》が振り下ろした刀の一撃によって、殺し屋の二枚のシールドが音を立てて砕け散る。
そして、それに続くように《幻緑の双月》、《青銅の鎧》もシールドに向かって走り始めた。
「だが、お前らは駄目ダァ!シールドに触るナァ!」
二体の獣の上に影ができる。二体が何かと思って上を見ると、そらから赤い金属の塊が降ってきた。突如、空から落ちてきた赤い金属の塊《地獄スクラッパー》は征市の小型クリーチャーを押しつぶした。
「まだダァ……。お前、素人かナァ?マナは増えたけれど、手札、全然残ってないもんナァ。ケケケケケ……!」
殺し屋が妙な笑い方をすると、一枚のカードを場に投げる。そこから現れたのは、下半身が四本足で上半身が人間のような姿をした小型の龍だった。
「俺の相棒、《闘龍鬼ジャック・ライドウ》。俺も《フェアリー・ライフ》を使ってマナを増やしたから1ターン早い4ターン目にコスト5のこいつを出せるんダァ」
《ジャック・ライドウ》が槍を使って殺し屋の山札を上空に投げつける。空を舞いながら落ちてくるカードを眺めながら、《ジャック・ライドウ》はその中の一枚を弾いた。弾かれたカードが殺し屋の手札に入る。
「クリーチャーを山札から探すカードか!」
「そうなんダァ。《ジャック・ライドウ》は自分と同じ種族の進化クリーチャーを持ってくるカード。俺の進化クリーチャーは強いゾォ……!ケケケケ!」
征市は、殺し屋が手に入れたカードに注意しながら、カードを引く。殺し屋が入手したのは、黒いカードだった。闇のカードが得意とするのは除去など破壊に関するものが多い。手札を増やして選択肢を広げなければならない。
「俺は、手札を増やす!《トリプル・ブレイン》!」
三つの水の塊が征市の持つ青いカードから飛び出し、それらが一枚ずつ、征市の山札からカードを持ってきた。手札は増えたが、マナが足りないのでこのターンはもう征市は動けない。
「足掻くんダナァ。俺は負けなイ。殺してやるヨォ……。ケケケケケ!」
征市ほど早くはないが、マナを増やし手札もキープしている殺し屋が山札から一枚のカードを引いた。

空港の駐車場から、魔法警察の覆面パトカーが出る。仮面のプライズは無事、トライアンフアメリカの担当者に手渡されたのだ。他の殺し屋や、プライズを盗みに来ている者がいないか気を配って緊張していた陸だったが、邪魔されずに受け渡しが成功して今はほっとしている。
「リーダー、仕事はうまくいきましたよ。後は、セーイチさんですね」
仕事の終了を知らせるため、陸は携帯電話で菜央に連絡した。
『陸君、御苦労様です。そのまま、相羽さんがいる場所に向かって下さい』
「へいへい、りょーかい!」
軽い調子で返事をする陸。向こうから、菜央が笑う声が聞こえる。
陸は思う。もし、征市がトライアンフのデュエリストとして一緒に仕事をしてくれれば、菜央の孤独も和らぐのかもしれない。
半年前の襲撃までは多くの頼れる仲間がいた。二か月前に新しくスタートした組織も今は、菜央と陸の二人しかいない。死んでいった仲間も、もう前線で戦えなくなった仲間も帰ってこない。陸は、菜央を支えてくれる仲間が欲しかった。
征市は強いデュエリストだ。相羽総一郎の孫なのだから、魔法の知識もあるだろう。そして、数日間観察して判った事だが、彼自身の人間性も悪くなく、話していてもおもしろい。
陸も征市がずっとトライアンフのメンバーとして働いてくれる事を願っていた。菜央だけでなく、陸も仲間が少ない今の組織に寂しさを感じているからだ。
「さてと、仲間失わないためにも、急がないとね。そんな簡単にやられちゃう人じゃないはずだけど」
菜央との通話を終えて携帯電話をしまった陸が言う。空港から征市のいる場所までは時間がかかる。陸は外の景色を見ながらその時間を潰していた。

「ケーケケケケ!行ケェ!!」
半身半馬の巨大な赤い龍《超竜騎神ボルガウルジャック》が征市の《クゥリャン》を踏みつぶし、持っていた剣で《無頼勇騎ゴンタ》の体を切り裂いた。
そして、その隣にいた《ボルガウルジャック》と酷似した姿の黒い龍《九龍騎神ドラン・ギレオス》が体中にある黒い龍の頭から光線を出し、征市の《翔竜提督ザークピッチ》を焼き尽くした。その光線は《ザークピッチ》の体を貫通して、征市の目の前にあった二枚のシールドも砕いた。
「残りゼロ!お前のシールド、なくなったナァ!ケーケケケケ!」
殺し屋のクリーチャーは二体だ。しかし、その二体で三体もいた征市のクリーチャーが全て倒されてしまった。その中には切り札級の《ザークピッチ》もいた。そして、シールドは二枚残っている。シールドなし、残ったクリーチャーもいない征市に勝ち目はない。
「黙れよ。汚い声で笑うな、鬱陶(うっとう)しい」
征市に言われて殺し屋は笑うのを止める。だが、その顔にはいやらしい笑みが浮かんでいた。
「負け惜しみだナァ?」
「そうでもないぜ?今の俺にはマナも手札もある。充分過ぎるくらいにな」
涼しい声で征市は言う。笑い飛ばそうとした殺し屋だったが、征市が言うように彼のマナゾーンには、既に十二枚のカードが置かれていた。
「でも、俺の経験で判ル!そこから逆転はできないナァ……」
「俺も経験上、理解している。ここからは俺の逆転の時間だってな!」
征市のカードから一体のクリーチャーが現れる。殺し屋が注目していたが現れたそのクリーチャーは、《無頼勇騎ゴンタ》だった。
「それじゃ、動けないナァ!逆転も無理ダ!」
「できるぜ。焦るなって。まず、これだ!」
征市が空に掲げたカードに、緑色のマナが集まっていく。充分なマナを吸収して輝くそのカードを、征市は《ゴンタ》の背中に投げつけた。背中に刺さったカードの力を受けて、《ゴンタ》の体が緑色の光に包まれ、巨大化していく。光が消えた瞬間、そこに立っていたのは四本の腕を持ち、二本の太い足でその体躯を支える巨大な獣、《大勇者「ふたつ牙」(デュアル・ファング)》だった。
「し、進化クリーチャー!?」
「お前、「俺の進化クリーチャーは強い」とか言ってたよな。俺の進化クリーチャーも強いぜ」
征市の言葉に応えるように、《ふたつ牙》の白い角が緑色の光を出す。その光に釣られるように、征市の山札のカード二枚がマナゾーンに飛んでいった。
「俺の《ふたつ牙》は、進化と同時に山札の上のカード二枚をマナに置くカードだ。8マナ使ったが、2マナ増えて残り6マナ!もう一度拝ませてやるぜ!俺の切り札!」
征市が見せた一枚のカードに、赤いマナが集まっていく。征市がそのカードを手放すと、火山が噴火するような音と共にそのクリーチャーは姿を見せた。《ボルシャック・大和・ドラゴン》だ。
「《ふたつ牙》は進化クリーチャーだから、召喚酔いはない。《ボルシャック・大和・ドラゴン》もスピードアタッカーだから召喚酔いしない。勝ったな!」
《ふたつ牙》が剣を振るい、殺し屋を守っていた二枚のシールドを薙ぎ倒す。その様子を見た殺し屋はパニックに陥り、意味不明な言葉で叫んでいた。
「嘘!嘘!嘘!信じなイ!殺すのが仕事の俺が消されるなんて、信じなイ!」
「これが『ウソのようなホントウ』って奴だ。信じろよ!」
《ボルシャック・大和・ドラゴン》の横薙ぎが決まり、刀を鞘にしまった瞬間、殺し屋は倒れた。その体からは紫色の煙のようなものが出ている。魔力だ。デュエリストとデュエリストの対戦で負けた者は、勝者に魔力を奪われる。魔力を奪われたら、魔法が使えなくなるし、危機からデュエル・マスターズカードが守ってくれる事もない。
サイレンの音と共に、魔法警察のパトカーが征市の近くに停まり、中から魔法警察が数人出てきて殺し屋を取り押さえていた。
「お疲れさん。これでしばらくはこの辺りも平和になるね!」
パトカーから、陸が降りてきた。片手を上げていたので、征市も片手を上げ、その手にタッチする。手に響く軽い衝撃を感じながら征市は、こういう仲間も悪くない、と感じていた。

数日後。トライアンフアメリカ。
そのオフィスがあるビルの会議室で、ジュラルミンケースに入った肌色の仮面を見ている者達がいた。ほとんどがトライアンフアメリカの所員だが、仮面の最も近くにいる東洋人の老紳士と黒いローブを纏った少女だけは違う。
「私が探していたプライズで間違いないのかね?」
「ええ、間違いありません。仮面関連のプライズ研究チームが調べましたから」
研究チームのリーダーの青年が答える。老紳士の存在に緊張しているせいか、額に汗をかいていた。
チームリーダーの報告を聞いて、老紳士は肌色の仮面を手に取る。
「元の人に寄生する状態に戻っていますので、御気をつけ下さい」
「それは判っている。私が、その状態に戻してくれと頼んだのだからな。戻っていなくては困る」
老紳士は、持っていた仮面を黒いローブの少女に渡す。顔はローブに隠れているせいで、口元しか判らない。少女は両手で持っていたその仮面を自分の顔に押し当てた。そして、しばらくすると、顔のパーツがなくなった状態になった顔を老紳士に見せる。
「これで、またしばらく押さえつけられるか……」
老紳士は立ち上がると、黒いローブの少女の手を取る。そして、トライアンフアメリカの所員達に「世話になったね」と言って部屋を出た。その瞬間、部屋の中にあった緊張した空気が和らぐ。所員達が緊張するのも無理はない。トライアンフアメリカに仮面の入手と鑑定を依頼したあの老紳士は、トライアンフを作り上げた男、相羽総一郎なのだから。

 『File.4 魔法図書館へようこそ!』につづく

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