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デュエル・マスターズ初心者向けを意識した記事を書いています。
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デュエル・マスターズ。
それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
トライアンフのリーダー、琴田菜央(ことだなお)によって仮面のプライズをトライアンフアメリカに送る任務を命じられた相羽征市(あいばせいいち)と遠山陸(とおやまりく)。囮を使ってプライズを狙っていた殺し屋をおびき寄せた征市は、それを撃破。本物の仮面は陸と魔法警察によって無事、トライアンフアメリカに届けられたのだった。
トライアンフアメリカで仮面のプライズを受け取る相羽総一郎(そういちろう)。死んだはずの彼が何故、この場にいるのか?

 File.4 魔法図書館へようこそ!

 目覚まし時計の音と共に征市の朝は始まる。古臭いデザインの目覚まし時計を止め、寝室から出た彼が最初に向かうのは一階にある浴室だ。どんな季節でも少々熱いくらいの温度のシャワーを浴びるのが征市の日課になっている。浴室から出て着替えたら、ダイニングルームで紅茶を飲みながら一服する。
『おい、征市。今日も早いな!』
「おはよう、二号」
 征市の祖父、相羽総一郎の肖像画が自我を持ったプライズ『二号』と話す。内容はプライズに関する事や魔法使いに関する事だ。征市が仕事に出かける間、二号は勝手に近くを散歩しているらしく、色々なところから情報を仕入れている。
 しばらくしたら、征市は赤いブレザーを羽織って玄関に向かう。もちろん、ブレザーの襟には彩弓からもらった羽のような形をした銀色のラペルピンがついている。
『お、今日は出勤か?いつものスケジュールだったら休みだろ?』
「今日の仕事は手品じゃないよ。トライアンフだ」
『そうか。今日からお前もトライアンフのメンバーか。……聞いた話だと、今のトライアンフのリーダーはナイスバディの姉ちゃんだって聞いてたんだが……。そうか、あんなちびっこいのじゃなくて、ちゃんと女らしい体型の子を引っ掛けてくる気になったんだな』
 目を閉じて何度も頷く二号。呆れた目で彼を見た征市は
「馬鹿な事言ってんじゃねぇよ。じゃ、行ってくる」
と言って、玄関を出た。
 Y市Q区の住宅街。坂道に沿って建てられた家は、どれも景観を損なわないように配慮された西洋風の外観である。その中には、古くからこの街に建っているものも多く、征市が住むのもその一つだ。
 その坂道を歩く事約五分。征市は、通りに面したモダンな建築物の前に立った。現在は博物館として使われているその建物の扉を開き、関係者用の通路を抜けてとある絵画の前に立つ。その絵画の下に触れると自動ドアのように白い壁が開いた。
 中の部屋は数人しか入れないような部屋と呼ぶのにふさわしくないせまいスペースで、トライアンフのメンバーとして登録されたものでなければ入る事ができないという点や、中に入るとただの白い壁しかない点を除けば、エレベーターのようなものだと言える。その部屋はしばらく下降して目的地についた。窓がないトライアンフのオフィスだ。
「おはようございます、相羽さん」
「おはよう、菜央」
 既に仕事の準備を終えてデスクについているこの少女がトライアンフのリーダー、琴田菜央だ。まだ高校生くらいにしか見えない彼女が、何故、海外にも支部を持つこの組織のトップに立っているのかその理由は征市もまだ教えてもらっていない。
「陸はまだ来ていないのか?」
 征市がデスクの前まで来ると、背後のエレベーターのドアが開き、半分目を閉じた陸がオフィスに入ってきた。
「ふぁ……おはよう~っす」
 そして、寝ぼけたような顔で自分のデスクの前まで移動すると着席して書類をまくら代わりにして寝た。
「おい、陸。起きろって。仕事だろ?」
 征市が近づいて起こそうとするが、それより早く菜央が近づいて陸の肩にそっと手を置いた。
「陸君、疲れているんですね」
 天使がささやくような優しい言葉が、ますます陸の眠気を促進する。
「ああ、そうなんですよ~。もう眠くて眠くて」
「では、ゆっくり休んでいて下さいね。あの部屋で」
「あ~、そうしま……げえぇっ!!」
 上品に微笑みながら菜央が指している部屋を見て、陸は叫ぶ。その声を聞いた征市も、驚いて陸と菜央を見た。
 菜央が指しているのは、『おしおき部屋』と書かれたプレートが貼ってある扉だ。傷一つない他の部屋の扉や、部屋を清潔に見せている真新しい白い壁紙とは対照的に、その扉はところどころ錆ついていたり、重苦しさを感じるような鉄製の扉であったり、血のような赤い汚れがついていたりするなど、とてもまともな部屋の扉には見えない。
「も、もう大丈夫っす!今日もがんばります!がんばりますから!」
 必死になって立ち上がる陸。その目はすでに涙目だ。
「いいんですよ。疲れているんだったら、休むのが一番じゃないですか。ねえ、相羽さん?」
 いきなり、話を振られた征市は、菜央の笑顔と陸の命乞いにも似た目を見て考える。そして、本能的に、ここは菜央の意見に賛成した方が安全だと考えた。
「そ、そうだな。陸、ここはお言葉に甘えて休んどけよ、な?」
 それを聞いて陸は、「ここは空気読んで僕の事、助けて下さいよ!」と、目で訴える。それに対して征市は、「あの扉、怖いし、菜央の笑顔の裏に潜む『何か』も超怖いんだよ!すまないが、俺の代わりに死んでくれ」と目で返事をした。
「そ、それよりも、今日の仕事はなんですか?セーイチさんもトライアンフのメンバーになった事だし、僕も先輩としてがんばらないと!」
 陸が大声で言って話を切り替えようとする。菜央はそれを聞いて「それもそうですね」と、頷いた。
「陸君に先輩の自覚があるなんていい事です。仕事の話を始めましょうか」
「そうそう!そうですよ!」
「でも、陸君。ふざけていたら……判っていますね?」
 菜央の笑顔と共におしおき部屋の扉が数センチ開く。そこから漏れる白い霧と、何者かの「ハァーハァー」という声。それを見て征市と陸は顔を見合せ、表情を凍りつかせた。
「全力でがんばらせていただきます!」
 そして、二人は同時にそう言って菜央に敬礼したのだった。
「よろしいです。今日は二人に向かって欲しい場所があるのです」
 菜央はそう言って、自分のデスクの上のコンピュータのモニタを二人に向ける。モニタには、等間隔で並べられた大量の本棚と階段しかない部屋が写し出されていた。
「図書館、ですか……?僕、本ばっかのとこ苦手なんだけどなぁ……。も、もちろん、仕事だから努力しますよ!」
 苦手な場所の写真を見た陸は、ぼやいていたが、菜央の指がおしおき部屋を差していたのを見てすぐに意見を取り消した。
「で、ここは何だ?図書館か?随分広いところだな」
「Y市にある日本最大級の魔法図書館です」
「魔法図書館?」
 征市と陸の声が重なる。すかさず、菜央は二人の疑問の声に答えた。
「ええ、魔法に関する様々な書物や魔道書などが置かれています。その中にはもちろん、本のプライズも存在します」
「プライズも?一般人が入って、事件に巻き込まれたらどうするんだよ」
 征市は、トライアンフに入る前にも多くのプライズを見てきた。
 プライズは本来、『神様からのご褒美』という意味で名付けられたもので、人々に恩恵をもたらすものが多い。だが、その中には自我を持って暴走するものや、人々を不幸にする性質を持ったアイテムがある事も事実だ。それらの悪いプライズや暴走したプライズ、そして、プライズを悪用しようとする者達と戦うのがトライアンフの役目である。
 征市は、何も知らずにプライズに触れてしまった者達が事件に巻き込まれる事を危惧しているのだ。
「大丈夫です。魔法図書館は一般の方は入る事はもちろん、見つける事もできません。そうですよね?陸君」
「え?そうなんですか?」
 陸も判っていなかったらしく、菜央の説明に疑問で答える。おしおき部屋を見る菜央に
「判った判った!とにかく一般人は巻き込まれないんだな!よく判ったよ、菜央!」
と、言って征市がなだめる。ちらりと陸を見て「お前、空気読んで知っている振りくらいしろよ!」とアイコンタクトをするのも忘れない。
「でも、一般人に見つけられないんだったら、俺達はどうなるんだ?俺はそんなとこ行った事もないし、陸も知らないみたいだぜ?」
 疑問に思う征市に、菜央は一枚の紙を見せた。どうやら、地図のようだ。
「ここに行って下さい。行けば判りますから」
「アバウトだな。ま、行けば判るって言うんだったら行ってみるしかないか」
「あと、これを持って行って下さい」
 地図以外にもう一枚の紙が手渡される。それは買い物メモのようだった。だが、内容が妙だ。
「菜央。猫でも飼ってるのか?」
 メモに書かれている物の多くは猫缶だ。色々な会社の様々な味の猫缶の名前が書かれている。
「いいえ。私が必要としているのではないのです。買い物メモに書いてあるものを途中で全て買ってそこに持って行って下さいね。そこにいる方から今回の仕事の内容が伝えられます」
「判った。行ってくるよ。ほら、陸。準備しろよ」
「判りました、セーイチさん。リーダー、仕事の前に聞きたい事があるんですが」
「何ですか?」
 陸は、菜央の前に顔を突き出して
「あの……行ってらっしゃいのチュウはまだですか?」
と、聞き、同時におしおき部屋の扉が開いたのだった。

 トライアンフの最寄り駅からY市市営地下鉄に乗る事数十分。征市と陸は、ごく普通の住宅街にいた。
 駅前には、数年前にできた大型のショッピングセンターがあり、衣食住、全ての買い物がここで揃う。少し歩くと、ショッピングセンターの開発に合わせて建てられたマンションが並んでいて、さらに歩くと、建てられて数年しか建っていない一軒家が集まっている。西洋建築やモダンな建物の多いQ区とは違い、日本のどこにでもあるような住宅街である。
「あ~、ひどい目にあった。くそっ!いつか、行ってらっしゃいのチュウを成功させてやる!」
「お前、絶対、反省してねぇだろ……」
 二人が最初に向かったのは、ショッピングセンターの食料品売り場だった。ここで、数種類の猫缶と、まぐろの刺身を購入し(もちろん、領収書を書いてもらう事も忘れない)地図の場所に向かった。
「なあ、陸。ここでいいんだよな?」
「そう……ですよね?」
 二人は指定された場所を見て唖然としている。猫の額ほどの大きさしかない、草が伸びた立ち入り禁止の空地だ。よく見ると、中には小さな小屋があるので正確には空地ではない。だが、どう見ても日本最大級の魔法図書館には見えなかった。
「陸、魔法図書館ってあのショッピングセンターの中にあるんじゃないのか?」
「なるほど。あのショッピングセンターなら、巨乳のお姉さんとか巨乳の女の子とかもいそうですからね。行く価値はあります」
「お前はそれしかないのか」
 陸に対して呆れた声で返事をした征市だったが、彼も目の前の状況が理解できなかった。菜央は行けば判ると言っていたが、理解できない。菜央が渡す地図を間違えたとしか思えないのだ。
「おい、デュエリストが二人して、人の家の前で何突っ立ってんだ?」
 低い声に反応して、二人は振り向く。だが、そこには誰もいない。
「こっちだ。下、下!」
 声に促されて下を向くと、そこには黒猫がいた。猫が人間の言葉を話しているのだ。
「マジで?猫だよな?」
「プライズだって話すだろうが。猫が言葉しゃべって何が悪い」
 しゃがみこんで猫を見る征市と、馬鹿にしたような声で答える黒猫。黒猫は、二人の間を抜けると小屋の中に移動していった。
「トライアンフのお嬢ちゃんが言っていたのはお前らだろ?ついて来い。それと、俺の飯忘れるな」
 猫に促されて征市と陸は、その土地に入っていく。そして、今にも壊れそうな小屋の扉を開けて中に入った。
 中に入ると、そこはホテルのラウンジのような場所だった。巨大なシャンデリアが二人を照らす。
「なるほどな。確かに一般人はこんなところ入らないし、大きな図書館って言われてここを探す事もないな」
「お~い、ここだ。ここ」
 外見と中身にギャップに驚く二人は、黒猫の声を聞いて彼を探す。大理石でできたカウンターに、さっきの黒猫が座っていた。
「ようこそ、魔法図書館へ。俺がここの館長だ」
 そう言う館長の尻尾は二本に分かれていた。ただの猫ではないのだ。
「トライアンフの新入りと助平のぼっちゃんだろ?今日は来てくれてありがとよ。この体じゃ、猫缶一つ買うのも手間取るから困る」
「新入りと助平?新入りで助平とイケメンナイスガイのコンビの間違いじゃない?」
 スーパーの袋をカウンターに置いた陸が館長に言う。館長はそれを無視して
「うおっ!まぐろだまぐろだ!食べるから開けてくれよ!」
と、言っていた。
「俺達は魔法図書館で仕事があるって聞いて来たんだが、おつかいが仕事なのか?だったら、もう帰るぞ」
 まぐろの刺身のパックを開けた征市に対し、館長はまぐろをくわえながら
「おつかいがメインの仕事じゃない。本番はこれからだ。お前達に倒してもらいたいデュエリストがいるんだよ」
と、答えた。
「なるほど。依頼はよく判ったよ」
「あ、てめ!俺のまぐろを勝手に食うんじゃねぇ!」
 まぐろの刺身を一切れ口に運んだ陸に、館長が吠えて威嚇の態勢をする。
「でも、それってめんどいなぁ。セーイチさん、この仕事は簡単だから訓練だと思ってやってみてよ。僕はそれを見ているからさ」
「お前なぁ……」
「だって、本ばっかのところですよ?僕、こういうとこ苦手なんだよね」
「この仕事をやってくれたら、秘蔵の巨乳魔女のグラビアを見せてやるぞ」
 やる気がなさそうな顔をしていた陸だったが、館長の言葉を聞いて目の色が変わった。
「館長!僕に任せて下さい!で、そのデュエリストはどんな奴なんですか?」
 突然の態度の変化に驚きながら、館長は征市と陸に説明を始めた。
「学生風の若い男だ。奴がここに来たのは一週間くらい前からだな。ウチにある魔道書を盗んでいっているみたいなんだ」
「盗難か!おのれ、公共の財産に対して卑劣な行いを!許せん!」
「陸、お前はちょっと黙ってろ。でも、図書館だったら、盗まれないように対策はしているんじゃないのか?」
「普通の図書館とここは違う。……って言っても、魔道書盗んだ奴がいたら、本の匂いがするから俺が気付くぜ。だがな、そいつの体からは匂いはしても本は持っていないんだ。一度に何十冊も魔道書を盗んでいるはずなのに、本は一冊も持っていない。何故だか判るか?」
「魔法で本を移動させた、とかじゃないのか?」
「ここの本には、移動禁止の印が刻まれてる。俺の特製だ。移動なんかできるわきゃないね」
 館長は自信を持って征市の問いに答えた。この方法でなければ、本を一冊も持たずに何十冊もの魔道書を盗む方法など思いつかない。
「判らないかな。そいつは魔道書を食っちまうんだよ」
「食う、だって!?」
 二人とも予想していなかった答えだ。人間が紙を食べるなど信じられない。
「ヤギかなんかの間違いじゃないのか?大体、盗まれたのは何十冊ってレベルだろ?例え、本を食べる事ができたとしても、それだけの本を食べられるとは思えない」
「巨乳グラビアだったら食べたくなるけどね!」
「陸、お前は黙ってろって。それに食べた魔道書はどうするんだ?」
「さあな。魔道書を食っちまった後、どうするのかは判らない。だが、奴は魔道書を食うために毎日ここに来ている。今日も来ているから、見つけて退治してくれよ」
「判った」
「おのれ、悪魔め!僕のグラビアまで食ったら許さん!美人魔女の巨乳グラビアは僕のもんだー!」
 陸が大声と共に走り出し、征市も「図書館では静かにしろよ」と注意してそれに続いた。

 征市と陸が、魔法図書館の中を探し始めて二時間が経った。始めは意気込んでいた陸も手掛かり一つ見つからないせいか、今は欠伸をしながら退屈そうに歩いていた。
 しかし、征市は大量にある魔道書に興味を示しているため、二時間が経過した事すら気づいていなかった。彼の家の書斎にも多くの魔道書が置いてあるのだが、その多くは総一郎が買い集めたものであり、新しいものを征市が買う事がないため、最新の資料を読む機会がなかったのだ。
 気がついたら、征市と陸は別行動を取ってしまっていた。
「あ~、かったり~。学生風の若い男って言うけれど、他に手掛かりがないじゃないか。それどころか、ここに入ってから征市さん以外の人間を見てないし……。この本の山の中で僕は野たれ死んでしまうんじゃないだろうか。死ぬ前に一度、リーダーの胸を思いっきり揉みたかった」
 くだらない事を言いながら、陸は棚の間を探して歩く。
 平日で、しかも、一般人が入る事のない上に広い魔法図書館だ。人の姿を見かける事がなく、歩いても歩いても同じような棚しかない。征市のように魔道書に興味が持てるのならば楽しいかもしれないが、陸のように本を読むのが好きでない人間にとって、この光景は苦痛でしかない。
 それでも調査を続けるのは、これが菜央に命じられた仕事だからなのかもしれない。
「あ~、ここも異常なし。……じゃ、ないな」
 何気なく見た棚。その近くに館長が言うような若い男が立っていた。征市と同じくらいの年齢に見える男で、眼鏡をかけた背の高い男だった。全体的な雰囲気から、陸は「うわ、インテリぶったやな奴」という感想を抱いていた。
 特に目立つ人間ではないので、調べものに来ている学生かと思ったが、すぐにそうではない事が判った。その青年の肩には、布で作られた人形が乗っていて、短い腕や足を動かしていた。プライズだ。
「ねぇ、これもたべちゃおうよ!たべたいよ!」
「食べたいと食べちゃおうは違うだろう。でも、その意見には賛成だ」
 青年は手に持っていた本のページを一枚破ると、片手でくしゃくしゃと丸めた。そして、手のひらに隠れるようになったそのページを口の中に入れると飲み込んだのだ。
「おいしいな。いい魔力が詰まった本だ」
「いいほんだ!」
 次に青年は、何枚か破ってそれを口にくわえて飲み込んでいく。館長が言うように、魔道書を食べている。陸が見ている事にも気付かず、青年は分厚いカバーまで飲み込んでしまった。
「さて、次だ。次はどれを……」
「おっと、本を食っちまうのはマナー違反だぜ、お客さん。図書館で本を食べちゃいけないって、子供の時に誰かに教わらなかったかな?」
 確信を持って陸が青年に近づく。そして、彼のループタイのドクロの目が怪しく光った。同時に陸の右手に黒い光が集まって、その光は金属で出来たデッキケースとなる。
「デュエリストか。確か、猫の館長が僕をどうにかすると言っていたね。君ごときで僕をどうにかできるとは思えないけれど」
「おもえないけれど!」
 青年の言葉を繰り返して言う人形の口が大きく開く。その中から、デュエル・マスターズカードが飛び出す。同時に、陸のデッキケースからも四十枚のカードが飛び出した。それぞれの準備が終わってデュエルが始まる。
「《青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)》を召喚!マナよ、生まれろ!」
「うまれろ!」
 青年のカードから生まれたのは緑色の肌をした二本足で歩く獣、《青銅の鎧》だ。《青銅の鎧》が槍を空にかざす事で緑色の光が青年のマナゾーンに降り注ぎ、山札の上のカードが移動してマナになる。
「初手の動きは同じって事か。準備が終わってからが勝負、かな?」
 陸も《青銅の鎧》を召喚して、マナを増やす。後半に動く事を考えている陸のデッキでは、序盤にできる事は少ない。
「同じじゃない。差を見せてやる!《無頼聖者スカイソード》召喚!」
「しょうかん!」
 青年がかざしたカードより飛び出したのは、鎧を纏った騎士と見紛うような獣だ。右腕に持っていた剣が緑に光り、左腕に持っていた剣が金色に輝くと山札の上のカードが、それぞれマナゾーンとシールドゾーンに飛んでいった。
「マナもシールドも増やしてくるとは、やるじゃないか」
「これで、準備はほとんど終わったかな。ここからは殴るだけでいい」
「だけでいい!」
 青年の《青銅の鎧》が、槍で陸のシールド一枚を突き刺した。割れたシールドはすぐにカードへと姿を変えて陸の手元へ飛んでいくが、陸はそれを右手で空へ跳ね飛ばした。
「やけになったかい?」
「なったかい!」
「違うな。もっとマナを増やすのさ」
 陸が空に飛ばしたカードが緑色の輝きを放つ。それを見て、青年はそれが何なのか理解した。
「シールド・トリガーか。相手の攻撃のエネルギーを利用して能力を発動させる技の事だね」
「ことだね!」
 陸が使ったシールド・トリガーは《フェアリー・ライフ》。《青銅の鎧》と同じように山札の上から一枚をマナにするだけの呪文だ。だが、自分のターンで使うのと相手のターンで使えるのとでは大きな違いがある。
「これで5マナ。一枚置いて、6マナだ。さあて、行くよ!《凶刻の刃狼ガル・ヴォルフ》!」
 《ガル・ヴォルフ》は陸が好んで使うデーモン・コマンドのクリーチャーだ。陸のカードから飛び出し、着地すると狼のように遠吠えをした。
「OKOK。さあ、相棒。あいつの手札にあるビーストフォークを食ってやろうぜ!」
 陸の命令に応えるようにして、《ガル・ヴォルフ》は持っていた剣を青年の手札めがけて投げつける。剣によって青年の手札は全て弾き飛ばされ、宙を舞った。それを注意深くチェックする陸だったが、ビーストフォークは見当たらない。
「不発だね。残念残念」
「ざんねんー!」
 軽く舌打ちすると、陸は《青銅の鎧》に命令を出す。
「《青銅の鎧》で《青銅の鎧》を攻撃!」
 激しくぶつかり合う二つの槍。二匹の獣。互いに同じタイミングで槍を相手に突き刺した《青銅の鎧》はその場から消えていった。
「《青銅の鎧》がやられたか。準備のためのクリーチャーはこうなってもかまわない。こっちにはもう切り札を出す準備が整ったからね」
「ととのったからね!」
「何だって!?」
 驚く陸を見ながら、青年はマナをタップし、一枚のカードに青いマナを注いていく。青年が持っていたそのカードから手を離した瞬間、意志を持った巨大な波がその場に現れた。
 《タイタンクラッシュ・クロウラー》。波に擬態しているようにも、波の化身のようにも見えるその一つ目のクリーチャーは、体と同じような大きな目で陸の《ガル・ヴォルフ》を見ていた。
「僕の《タイタンクラッシュ・クロウラー》は、一度だけタップした後にアンタップする能力を持った攻撃可能なブロッカー!一ターンにつき、最大で二回のブロックと二回の攻撃ができる!」
「こうげきができる!」
「厄介だ。確かに、厄介だ……」
 《タイタンクラッシュ・クロウラー》のパワーは6000。陸の《ガル・ヴォルフ》と同じパワーだ。だが、必ずしも《タイタンクラッシュ・クロウラー》で陸のクリーチャーと戦わなければならないという事はない。二回のブロックで《青銅の鎧》のような小型クリーチャーを止めたり、普通に二回の攻撃をしたりするだけでも充分な脅威である。
「まだだ。僕の切り札の真の力はこんなものじゃない。死にゆく君にきちんと最後まで見せてあげるよ」
「あげるよ!」

 征市は、一度入口に向かっていた。何かあったら、入口に戻るように最初に決めていたからだ。だが、それだけではない。征市は手に持っている資料について館長に聞きたい事があったのだ。
「館長、いるか!?」
「おぅ、新入り、どうした?」
 まぐろを食べてのんびりしている館長に征市が近づいていく。そして、持っていた本を見せた。
「この本、相羽総一郎が書いた本だよな?」
「ああ、そうだ。相羽総一郎っていや、有名人だな。お前もファンか?」
「相羽総一郎は俺の祖父だ。俺の名は相羽征市。だが、今はそんな事はどうでもいい」
 征市は本のページをめくると館長に見せる。
「俺は、五年前にじいさんは死んだと聞かされていた。だが、この写真の日付は今から三年前のものだ。そして、この本が出版されたのは半年前。相羽総一郎は生きているのか?」
 館長はゆっくり伸びをすると、征市を真正面から見据えた。
「それは俺にも判らない。本は、そういうものだからだ」
「どういう事だよ?」
「征市って言ったな、新入り。お前、相羽総一郎が死んだと聞かされたと言ったな?」
「ああ、聞かされたんだ」
 征市の両親は本当の両親ではない。血が繋がった肉親は、相羽総一郎だけだった。五年前に征市はその両親から総一郎が悪い魔法使いと戦って死んだ事を告げられた。
「でも、じいさんは生きているのかもしれない。死んだ事にしたのには理由があったのかもしれない。もし、生きていたら、俺は……」
 征市は、総一郎に聞きたい事がたくさんあった。デュエル・マスターズカードの事。トライアンフの事。屋敷の事。何よりも、どこで何をしていたのか、総一郎の口から聞きたかった。
「新入り。いい事を教えてやる。本は真実など教えちゃくれないよ。そこまでの道しるべにはなってくれるがな」
「どういう事だ?」
「本は総一郎が生きているかどうかなんて教えてくれない。お前の知りたい事も教えてくれない。だけど、それを知るための方法が載っているはずだ」
 館長の言っている事を理解しようとしている征市の肩に、人語を話す猫が飛び乗った。
「まだ判らなくてもいいよ、お前は。でも、俺が言った事だけは覚えておけ。それが判らないから、奴は本を食ってるんだな」
 館長は遠くを見てひげを動かす。
「見つけたぜ!どうやら、助平が戦っているみたいだ。俺達も乗り込むぞ!」
 そう言った館長に促され、征市は戻ってきた道を引き返した。

「はぁ……。毎回のようにピンチになるのはどうにかならないかね~、ホント」
 陸がぼやくのも無理はない。
 青年のシールドは一枚残っていて、目の前に並ぶ敵クリーチャーは五体。巨大な舌を持つ《スペース・クロウラー》、機械の体を持つ《戦攻王機トルネイダー》という二体の防御のためのアースイーターの他に、巨人の上半身とアースイーターの下半身を持つ《剛撃戦攻ドルゲーザ》、《タイタンクラッシュ・クロウラー》の二体が攻撃を担当する。
 その四体のアースイーターの周辺を金粉のような物が舞っている。それを放出しているのは、女神の彫像のようなクリーチャー《光器ペトローバ》だ。一つの種族を選んでパワーを4000プラスする《ペトローバ》で青年はアースイーターを強化した。青年のアースイーターのパワーに太刀打ちできるカードが陸の場には存在しない。
 陸の場にいるのは、《ガル・ヴォルフ》のみだ。シールドは一枚も残っていない。
「さあ、どうする?まだ僕に勝つつもりでいるの?」
「いるの?」
 自分のターンが回ってきた陸は、青年の挑発に耳を貸さずに一枚のカードを手札から引き抜く。そして、静かに息を吐いた。
「諦めた?」
「あきらめた!」
「勝手に諦めたとか決めるな。素人にしてはよくやったな~、って思っただけ。誰にデッキをもらって誰にデュエルを教わったのかは気になるけれど、そういう尋問は僕の仕事じゃない。僕の仕事は君を倒す事!それももう終わるね!」
「何を馬鹿な!僕が負けるはずがない!ここの魔道書を食べて、魔力もデュエルの知識は蓄えた。実戦で何人も葬ってきた!今も魔力と知識を増やしている僕が負けるはずがない!」
「はずがない!」
「判った判った。じゃ、実戦で鍛えた僕が教えてやるからよく見ておきな!」
 陸の手札から飛び出したのは《ガル・ヴォルフ》だ。何が出るのか緊張していた青年はそれを見て笑う。
「まさか、それで最後のシールドを消すとか言うんじゃないだろうね?無理無理!また不発だ!」
「ふはつだ!」
「それは、どうかな?《ガル・ヴォルフ》!手札に残っている《タイタンクラッシュ・クロウラー》を破壊だ!」
 《ガル・ヴォルフ》は陸の命令に頷き、持っていた剣を青年の手札に投げつける。剣が突き刺さった一枚のカードが灰のようになって崩れ落ちる。
「おかしい!見えていたわけでもないのに、何故、《タイタンクラッシュ・クロウラー》があるって……」
「見えていたわけじゃないけれど、見たもん。最初に《ガル・ヴォルフ》を召喚した時にね」
「あの時……!そうか、あの時に……!」
 陸が最初に《ガル・ヴォルフ》を召喚した時、青年の手札には《タイタンクラッシュ・クロウラー》が二枚あった。その内の一枚は、目の前で陸と対峙しているが、もう一枚は手札から移動していない。陸は観察した情報を記憶していたのだ。
「よし!条件はクリアした!次はシールドだ!」
 《ガル・ヴォルフ》が投げつけたもう一本の剣が青年の最後のシールドを両断する。
「さて、ここからが本番だよ!全滅させてやるからね」
 陸が一枚のカードを投げる。その一枚が黒く怪しい光を放って召喚したばかりの《ガル・ヴォルフ》に突き刺さった。
 一瞬、周囲を包む完全な闇。視界が回復した世界で青年が見たのは、舞い落ちる黒い羽根と、朽ちていく自分のクリーチャーの姿。そして、その場の中央に鎮座するデーモン・コマンドの姿だった。
「な、何なんだ、そのクリーチャーは!」
「そのくりーちゃーは!」
「知らないの?神様だよ」
 陸は怪しく微笑んだ後にこう付け足した。
「悪魔の神様だけどね」
 《悪魔神バロム》。デーモン・コマンドから進化するそのクリーチャーの能力はバトルゾーンにある闇以外のクリーチャーを全て破壊する事。闇以外のクリーチャーで構成された青年の部隊は、陸が言うように全滅させられてしまったのだ。
「狙え、《バロム》!さあ、あの世で神様に懺悔しな!」
 《バロム》の右手から黒い光線が発射され、青年の姿を飲み込んでいく。デュエルが終わった後、そこには倒れて気を失った青年の姿があった。人形も動かない。
 倒れた青年の口から、紫の煙のようになった魔力が出ていく。魔力はその近くの空間に移動すると、魔道書の形に姿を変えた。青年から吐きだされる魔力の量は多く、何十冊もの魔道書になってもまだ止まらない。その様子を見た陸は、
「悪い魔女に閉じ込められたお姫様を助けだした気分かな。随分と色気のないお姫様だけど」
と、呟いた。
「陸!」
「助平小僧!無事か!?」
 全ての魔力が魔道書に戻った頃、征市と館長がやってきた。そして、その場を見て全て終わった事をすぐに悟った。
「よくやってくれたな。ただの助平じゃなかったって事か」
 そう言って館長は、青年に近づき「えいえい」と言いながら青年の顔を叩く。
「何やってんだよ」
 呆れた顔で館長を抱き上げる征市。館長は暴れながら
「放せ、新入り!こいつ、この前、俺の事を蹴飛ばしやがったんだ!十倍にして返してやらないと気がすまん!」
と、答えて毛を逆立てる。
「判った判った。後は、魔法警察に任せようぜ。陸も行くぞ」
 征市に促されて陸も彼に続いた。館長も観念したのか、大人しくなると征市の腕から降りて自分で歩き始めた。
「あ、そうだった。館長!約束の巨乳グラビアを見せて下さい、早く!」
 陸が大事な約束を思い出し、館長にせがむ。館長は征市を見て
「こいつに預けてあるぜ」
と、言った。征市は、外見は他の魔道書と変わらないその本を陸に渡す。
「おお……!素晴らしい装丁なんだ……。表紙に女の子の写真があるのが一般的だけれど、こういうシックなのも悪くないね。それじゃ、いただきまー……あぁ!?」
 本を広げた陸は愕然となる。それは陸が期待していたようないやらしいものではなく、ただの裸婦画が載せられていたのだ。
「巨乳だろ?タイトルは『魔女』だそうだ」
 陸の顔を見て、笑いをこらえながら征市が解説する。本を見て征市の顔を見て、また本を見て館長の顔を見た陸は
「嘘だろ……!確かに巨乳だよ。巨乳だけどさ!」
と、肩を震わせていた。
「陸、嘘なんかじゃない。『ウソのようなホントウ』って奴だ」
「うわーん!ちっくしょーっ!!」
 陸は、本を持ったまま走りだしてしまった。
「予想通りって奴だな」
 征市の足元で館長が笑う。どうやら、最初からこうなる事が判っていて陸にこの話をしたようだ。
「軽い罪悪感が残るぜ。ま、陸も少しは懲りるだろう」
「おい、新入り」
 今までとは違う、真剣な館長の声を聞いて征市は足元を見る。
「助平には内緒なんだが、お前には言っても大丈夫だろう。お嬢ちゃんが探していた魔道書は見つからなかった。それを伝えておけ」
「菜央が陸に内緒で探していた魔道書?」
 征市は、菜央が陸に対して内緒にしていた事があった事に驚いた。二人は信頼し合っていて、秘密などないと思っていたからだ。
「助平には言うんじゃねぇぞ。お前も教えてもらってないんだったら、あまり深く追求するなよ」
「……判ったよ」
 少し納得できないものを感じながら、征市は答える。菜央が何を秘密にしているのか、何のために秘密にしているのか。疑問を感じながら、征市は魔法図書館の長い廊下を館長と共に歩いた。

  『File.5 素敵なお人形12歳』につづく

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