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デュエル・マスターズについて語る非公式ファンサイトです。
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ネギ博士
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デュエル・マスターズ初心者向けを意識した記事を書いています。
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 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 トライアンフのメンバーとなった相羽征市(あいばせいいち)の最初の仕事が始まった。トライアンフから市営地下鉄で数駅のところにある魔法図書館。リーダー、琴田菜央(ことだなお)の指令を受けて遠山陸(とおやまりく)と共にそこへ向かった征市は、人語を話す黒猫、館長に依頼されて館内の魔道書を食べるデュエリストを探す。魔道書を食べている青年を見つけた陸は、攻防共に隙のない彼の戦略を打ち破り、勝利するのだった。

 File.5 素敵なお人形12歳

 今にもこの地に落ちてきてしまいそうな重い雲。暗雲立ちこめる世界の中央に立つ二つの人影。
 一つは、赤いブレザーの青年。もう一つは、日本風の鎧で身を包んだ鎧武者。二人は、人知を超えた能力を使って戦っているのだ。
 青年の右手から離れたカードから赤い光が飛び出し、鎧武者を打つ。その光景を隠すように流れるノイズ。倒れた姿の鎧武者は涙を流して叫ぶ。
 悲しい光景を目の当たりにして、鎧武者に手を伸ばすが届かない。自分の体が、そこから遠ざかっていく。自分の意思とは無関係にこの世界から引きはがされていく。どれだけ伸ばしても、その手は空を切るだけで届かないのだ。
 場面は急に変わる。会社のオフィスのような場所。赤いブレザーの青年を中心に数人の男女がそこにいる。ブレザーの青年は鎧武者を倒した男に間違いない。
 彼は、自分達を見ている存在に気づくと、手を伸ばしてきた。それに恐怖して拒絶しようとしたところで、またノイズが視界を遮る。

「また……か」
 春の穏やかな日差しの中で、彼は目覚める。黒く長い髪。長いまつげに白い肌。フランス人形のような美しい顔。『彼』と表すのにふさわしくない少女のような外見だが、彼は少年なのだ。
 若月湊(わかつきみなと)十二歳。体中のほぼ全てが女性用の部品で出来ているかのような美少年だ。声も少女のような高い声であり、服装も少女のような物を選ぶせいか、彼が少年である事を知る者は少ない。
 ベッドの上で上半身を起こし、目を閉じて、今見た夢を反芻(はんすう)する湊。一週間ほど、何度か見る夢。赤いブレザーの青年と謎の鎧武者の人知を超えた戦い。青年の攻撃を受けて、倒れていく鎧武者。悲しみの涙。
 それと、同じように続くもう一つのシーン。鎧と戦っていた青年達の姿。彼は何のために湊に手を伸ばしたのか判らない。
 湊は夢の中に出てくる青年を嫌っていた。あの鎧は、悪い存在ではないと湊は感じている。それを倒すあの青年は悪なのだ。
 訳の判らない恐怖に縛られるような夢。湊は、あれがただの夢でない事をよく理解している。生まれながら湊が持っている能力で、あれは予知夢のようなものだ。故に、近い将来、夢と似たような事が現実に起こるのだ。鎧武者が何の暗示なのか、そして、赤いブレザーの青年が何者なのか考えながら湊はベッドから出た。
「怖い……」
 小動物のように震えながら呟く。今回の夢は、ただの夢だと思えないような臨場感があった。そこに流れる不快な空気や焦り。様々なものがリアルな感覚となって襲いかかってくる。予知夢を見た事は何度かあったが、これほどまでにリアルなものは初めてだった。ただの暗示のレベルを超えた未来からの警告のようなものなのかもしれない。予知夢を見たからといって、湊に何かができるわけでもない。ただ、未来で夢に近い出来事が起こるというのを知るだけだ。
 湊は、夢の内容を記憶から追い出すように頭を振った。そして、部屋を出る。
 二つの個室とダイニング、キッチンとバスルームがあるごく普通のマンション。同居人の若月は仕事に行っているのか、家の中にはいなかった。彼は、苗字は湊と同じだが血縁関係にあるわけではない。研究のため、湊と共に住んでいるのだ。
 研究といっても、湊は何をしているのか判らない。若月と一緒に暮らして、研究と関連がある学校に通うだけの生活だ。ただの生活をしているだけで研究にとってプラスになる事があるとは思えない。最初は疑問に思っていた湊だったが、長い間若月と暮らす内にその疑問は消えていった。
「ああ、今日は休みだったっけ」
 カレンダーを見て、今日が祝日である事を思い出す。どこかへ出かけるのもいいのかもしれない。そう思った湊は、部屋に戻って出かけるための準備を始めるのだった。

 Y市Q区の港付近には、観光施設も多い。港自体は貿易港なのだが、その付近を遊覧船が通る事もある。船の内部を改装した博物館もあり、征市は小学生の頃、社会科見学でここに連れて来られた事がある。
 そこから少し歩くとLタワーを中心にした通称『未来地区』と呼ばれる様々な施設がある。遊園地や多数の専門店が入ったショッピングセンター、レストラン街があり、平日でも賑わっている。
「いい天気だねっ!」
 彩弓(あゆみ)がガラス越しに富士山を眺めながら言う。ここはLタワー内の展望台にある喫茶店だ。地上から遥か上空にあるこの場所で、晴れている時ならば遠くにある富士山を見る事も可能である。
テーブルを囲んで彩弓と同じ席にいるのは、征市と陸だ。祝日という事もあって、展望台には多数の観光客がいた。
「そうだな。天気予報じゃ曇りなんて言っていたが、晴れて良かった。入場料が無駄にならずにすんだ」
「もう!そういう現実的な事、言わないでよっ!」
「現実的な事言うな、って言われても……なぁ?」
「別に晴れでも雨でもいいじゃないですか。僕は、うまいコーヒーとクッキーがあればそれで満足なんだから」
 征市に話を振られた陸は、クッキーとコーヒーを前にそう答える。入場料含め、それらの代金を払ったのは征市だ。
「お前!クッキーまで頼んでんじゃねぇよ!」
「給料出たからおごりだって言ったじゃないですか!おごりだと聞いたからには、ここのメニュー全部制覇するつもりでいきますよ!」
「陸君、それは図々しいよ……」
 陸が店員に追加の注文をしようとするのを征市が止めるのを見ながら、彩弓が苦笑した。
 征市の気前がいいのは給料日の後だからである。給料日後は彩弓ともよく遊びに行くのだが、それに陸がついてきたのだ。
「リーダーに給料減らされてピンチなんです!僕の生活に潤いを与えると思って!」
 そう言って入場料を出させた陸も一緒にLタワーの展望台まで来たのだ。
「お前……この後、土産もおごれとか言うんじゃねぇよな?」
「おお!その発想はなかった!セーイチさんが土産も買ってくれるって言うのなら、僕はお言葉に甘えますよ!」
「甘えるな!」
 陸にツッコミを入れた後、征市は紅茶に口をつけた。普通の紅茶だが、空に近い場所からの風景を眺めながら飲んでいるせいもあって、普段よりおいしく感じる。
「そう言えば、この前、学校でこんな噂を聞いたんだよ!」
 会話の色々なネタを振ってきた彩弓が別の話題を出す。いくつかの話題を聞いている内に聞き役に徹していた征市は、相槌を打つ。
「最近、外国から日本の侍の鎧が輸入されてきたんだって!」
「何で日本の侍の鎧が、外国から日本に輸入されんの?普通、日本から外国に輸出とか、外国から西洋の鎧を輸入とかじゃない?」
 陸が疑問に思った点を口に出す。征市もそれは引っかかった。
「うん、わたしも最初はそう思った。でも、その鎧って外国に住んでる日本通のコレクターに売られちゃったんだって!」
「なるほど。それだったら話の筋は通るな」
「でしょ!?それで、その鎧なんだけどね。理由があって日本に戻ってきたんだって……」
 彩弓が声をひそめ、周りの様子を窺う。極秘の情報を話しているかのようだ。
「スパイが情報の受け渡しをやってるんじゃないんだから、普通に話せよ」
「征市君は判ってないな!雰囲気作りだよ、雰囲気作り!」
「そうそう。セーイチさんは空気読めない人ですね!」
「へいへい、あっしが悪うございました」
 征市が反省した振りをしたのを見て、彩弓は声をひそめながら再び、話し始める。
「その理由っていうのがね。すっごいんだよ……」
 彩弓は精一杯恐怖を煽るような表情を作りだそうと試みているのだが、かわいらしく幼い顔つきのせいか、どうやっても怖くはならず、征市と陸は苦笑しそうになるのをこらえた。
「その鎧は、何と……」
「何と……?」
 征市と陸の声が重なり、彩弓に視線が注がれる。二人の注目を受けて彩弓は鎧が戻ってきた理由を話す。
「何と、夜中になると暴れ出す魔法の鎧だったのです!戦で負けた執念が鎧に籠っていて、人を斬るために歩き回るんだよ!怖いよねぇー!」
「……」
 彩弓の話を最後まで聞いた二人は、呆気に取られた表情で彼女を見ていた。
「え?あれ?どうしたの?」
「彩弓。もしかして、それで終わり?」
「うん、そうだよ!そんな風に夜中に人を斬る鎧がY市に来てるんだよっ!」
「いや~、どう考えてもそれってただの噂話で作り話じゃないかな?」
「陸君までそういう風に言うの!?もし、本当に人斬りの鎧が来ていたらどうするのっ!?」
「もし、本当にそんな鎧が来ていたとしたら、今まで誰も被害に受けていないっていうのがおかしいだろ?作り話だって」
「え?やっぱりそうかな?」
 征市に言われて、彩弓もやはりどこかおかしいと感じ始めた。よく考えれば中身の入っていない鎧が勝手に動く事などありえない。
「案外、貴重だったから日本で調べる事になったとか、そういう理由で来たんじゃないのか?鎧が来たっていうのは多分、嘘じゃないだろうけどな」
「ま、噂ってのはこんなもんだね」
 そう言って、陸は立ち上がる。征市と彩弓はまだ紅茶を飲んでいる途中だった。
「すいません。ちょっと僕、用事を思い出しちゃったもんで。先に帰りますね!」
 用事と言っていたが、征市には理由が判った。鎧武者のプライズがY市に来ていないか調べに行くのだ。
 征市も陸も、彩弓の話を信じていないわけではない。噂になるからには、それの元となった『何か』が存在するはずである。本当に鎧武者のプライズが存在するのだとしたら、早く対処しなくてはならない。『ただの噂話』のレベルで片づけられる内に。
「おっと、忘れてた。二人で末永くラブラブして下さいよ!」
 喫茶店の出入り口まで行った陸が振り返って二人に告げる。その一言に喫茶店にいた客の何人かは、征市と彩弓を見た。
「ば、馬鹿!変な事言うんじゃねぇよ!」
 慌てて征市が言い返すが、陸は笑ったまま去ってしまった。
「あはは……。何だかここに居づらくなっちゃったね……」
 彩弓も苦笑する。周囲の客はもう二人を見ていないが、征市にとってカップルだと意識される今の状況は受け入れがたかった。
「仕方ねぇな。どこか、別のとこに行こうぜ」
 征市が伝票を持って立ち上がる。この場に居づらかった彩弓もそれに賛成した。

 征市達がいる場所から市営地下鉄で数駅のところにある魔法図書館。人目につかず、一般人では見つけられないような場所にあるこの施設は、祝日であっても人は少なかった。調べものをしているのは、トライアンフのリーダー、菜央くらいのものである。外出中なので、今はトライアンフのオフィスにいる時に着ているアレンジされた軍服のような服装ではなく、春らしい色の私服だ。
「姉ちゃんがここに来るなんて珍しいな。事務所は大丈夫なのか?」
「ええ、今日は魔法警察の方に事務所を任せています。私もたまには出かけたいんですよ」
 調べものをするために眼鏡をかけて手に本を持った菜央が、足元にいる黒猫の館長に答える。大好物のまぐろの刺身を食べて、館長は上機嫌だった。
「お出かけでここか。ほら、この前来てた新入りと助平を連れて買い物とかないのか?ここに連れてくればできるだろ?」
「彼らとは、あくまで仕事の上での付き合いですから」
 菜央はそう言った後に「ここで調べなければならない事もありましたし」と付け加える。
 菜央が気にしているのは、噂になっている鎧武者だ。実際に動くかどうかはともかく、Y市にいわくつきの鎧が来たという話は本当だ。厄介な事にトライアンフの管轄から外れているので、事件が起きるまでは手が出せない。
「館長。最近のY市、どこかおかしくないでしょうか?」
 本を棚に戻した菜央は別の本を取り出しながら館長に問いかける。大きく口を開けて欠伸をしていた館長は、「ん?」という顔をして菜央を見上げる。
「おかしいか?プライズが暴れ出すのは今に始まった事じゃないし、昔から外国のもんはあふれていたからな。あの頃は、ここだって色々な魔法使いがいたんだぜ。今よりも狭かったけどな」
「プライズの暴走回数が多すぎるのではないかと思っているのです」
 菜央の一言を聞いて、館長の目が鋭くなる。
「今月に入ってから、コードDレベルの事件が週に二回は発生しています。今は、陸君だけでなく、相羽さんも戦ってくれていますが、これ以上大規模の暴走が増えたら彼ら二人では対処できなくなるでしょう。これ以外にもプライズが暴走し、人々に危害を加える事件は昨年に比べて二倍に増えています」
「それだけの数の事件が起きているからおかしい、か。俺はここから出る事があまりないから判らんな。だが、おかしいって言ったらプライズの暴走だけじゃないぜ」
 館長の言葉を聞いて、菜央も思い出す事があった。
 魔法図書館に入り浸っていた魔道書を食べて魔力に変える青年。陸に倒された彼は、魔法警察の調査で何者かによってその能力を与えられた事を話した。一度顔を合わせただけの人物で、詳しい事は覚えていないと言っている。
「普通の人間を魔法使いにして、デュエル・マスターズのデッキを与えているんだ。裏にいるのはただの魔法使いじゃねぇな」
「私は、一連の事件の裏にはトライアンフを襲ったのと同じ黒幕がいると思っています」
「マジかよ……!」
 半年前のトライアンフ襲撃。それによって助かった仲間はほんの数人で、戦い続けられるのは菜央と陸の二人だけになってしまった。決して、倒されたメンバーが弱かったわけではない。不意打ちに近いやり方だったのもあるが、同時に強い相手であったのだ。
「今までの事件は、Y市に移転したトライアンフの力を見るための様子見。恐らく、近い内に全面戦争が始まると思います」
 菜央は、冷静な口調で館長に告げる。十六歳の少女の言葉とは思えない。
「勝てるのか?」
 館長の言葉に菜央は首を横に振る。
「陸君もあの後に特訓を重ねて強くなりましたし、相羽さんも陸君と同じくらい強いデュエリストですが、まだ戦力が足りません」
「あいつらと同じくらいのデュエリストがいてくれれば、って事か」
「ないものねだりなのは判っています。ですが、せめてあと一人……!」
 その一人が難しい事は誰でも判る事だった。しかも、ただの強いデュエリストであればいいというのではない。信頼できる人間である事が条件だ。
 調べものをしていた菜央の手が止まる。探していた鎧武者の資料が見つかったのだ。
「館長。最近、Y市に来た鎧武者の噂がご存じですか?」
「あれなら一度、運ばれた頃に見てきたぞ。ありゃ、間違いなくこの国で作られたものだな。今までどこに隠してあったのかは判らねぇが、かなり昔の鎧でしっかりした形で残ってる。で、あれがどうかしたのか?」
「いえ……。実物を見ていないので詳しくは判りませんが、もしかしたら……」
 菜央が考えていると、持っていたハンドバッグの中から軽快な着信音が流れる。「館内ではマナーモードな。他の客いねぇけど」と、言う館長に頭を下げて謝りながら菜央は携帯電話を取り出す。相手は陸だ。
『リーダー、動き出す鎧武者の噂って知ってますか!?』
 陸も鎧武者の噂について知っていた事に菜央は驚く。菜央はそれに関する命令を出した。
「陸君。仕事です。鎧武者が暴走する危険性があるので、パトロールをお願いします」
『ええっ!?やっぱり鎧武者はY市に来てたんですね!?っつーか、夜中に動き出すんじゃなかったのか……』
「動き出すのが夜中とは限りません。今日は祝日ですし、武器を持ったプライズは危険です。急いで!」
『りょーかい!』
 陸の活気ある声が聞こえて通話が終わる。菜央もバッグに携帯電話をしまうと、館長に持っていた資料を見せて
「こちら、お借りします!」
と、言って魔法図書館の出口に向かった。

 休日の山城公園は人が多い。平日でも多くの人が集まるが、休日はもっと多いのだ。山城公園はパフォーマーにとっても大事な場所である。土日祝日はプロのパフォーマーが様々なパフォーマンスを披露する。征市もいつか、ここで大勢の客を相手に手品を披露したいと思っていた。
 今日は、海沿いの道でピエロのような格好をした男がジャグリングをしている。彩弓は男の芸術的な動きを楽しみ、征市はどうやって観衆の心を掴むのか知るために、男の動きを真剣に観察している。
 男が風船を膨らまして動物を作っていると、観衆の一人が「あ。あれ、何?」と妙なものを発見して注目した。一人が見ると、周りの数人も注目する。征市もその方向を見た。
 重苦しい音を立てて歩く人影。モダンな海外風の街であるQ区とは―いや、日本中のほとんどの場所で見ても違和感を覚える風貌の存在。噂になっていた鎧武者が現れたのだ。突き刺されたような胸元の穴が痛々しい。
「あれって、噂の鎧?」
「中に人が入ってるんでしょ?」
「もしかして、何かの演出かも」
 人々は思った事を口に出すが、征市にはあれがプライズである事が判っていた。鎧武者が手に持っていた槍を構えた瞬間、ピエロの男が逃げだした。演技ではないその動きを見て観衆もようやく鎧の危険性に気づいたらしく、その場を離れ始める。
「征市君、あの人どこかに走って行っちゃったよっ!プロ意識がないよねぇ~」
 彩弓だけはマイペース過ぎたのか、今までずっとパフォーマンスを見ていたようだ。
「馬鹿言ってんじゃねぇ!あれを見ろ!」
 征市に言われて彩弓はようやく鎧武者を発見する。そして、「うわ、本当だ。でも、人が中に入ってるんでしょ?」と言った。
「馬鹿!多分、あの中に人はいないって!逃げるぞ!」
「征市君も大げさなんだから。わたし、そう簡単には騙されないよ!せっかくだから鎧の中の人にサインもらってくる!」
 鎧に近づこうとする彩弓の腕を征市がつかんで止める。丁度その時、鎧武者は槍を振り下ろし、金属製の手すりが真っ二つに切られた。鎧武者はぎこちない動きで振り返ると、征市と、驚いて口を開けた彩弓を見た。ゆっくりした動きで二人に近づいてくる。
「いいな!?安全なところまで今すぐ逃げろ!俺もすぐに行くから!」
「う、うん!」
 彩弓が逃げた事を確認する征市の前に槍が振り下ろされる。だが、その槍は征市を守るように現れたデュエル・マスターズカードによって止められた。
「大人しくしな!でないと、こいつでお前を消すぜ!」
 征市は、槍を受け止めたカードを手に取る。すると、それは赤く輝いた。カードを通して魔力を発射すれば、大抵のプライズは倒せると陸に教わった。この鎧武者相手にもそれが通じるかもしれない。
 征市がそう思っていると、鎧武者は槍を地面に突き刺し、腰の袋から何かを取り出した。デュエル・マスターズのデッキだ。
「お前、デッキを持っているのか!?」
 予想していなかった事だが、相手がデッキを持っているかどうかなど、征市にとっては些細な問題だ。征市と鎧のカードが宙を舞い、三十枚が山札。五枚が魔力を帯びた壁―シールドとなって主を守り、残りの五枚が手元に飛んでくる。戦いが始まった。
「先手必勝!《幻緑の双月(ドリーミング・ムーンナイフ)》召喚!」
 征市の手札から飛び出したのは、小動物のようなビーストフォーク《幻緑の双月》だ。ダンスのような動きで傘のように持っていた葉を振り、征市の手札一枚をマナに変換する。手札は減るものの、これによってかなり早い動きができる。
「……守る」
 鎧武者の口からくぐもったような低い声が聞こえる。鎧武者が三枚のマナをタップし、一枚のカードにそのマナを与える。
「《ジル・ワーカ》」
 鎧武者を守るように立ちふさがる金属のような光沢を持った飛行物体。ブロッカーとしての力を持ったクリーチャー《時空の守護者ジル・ワーカ》だ。両サイドに浮いているマニピュレーターは、《ジル・ワーカ》が破壊されたショックで自動的に飛び、相手のクリーチャー二体の動きを封じるようにプログラムされている。
「ブロッカーってだけでも厄介なのに、倒しても厄介な能力付きとはな。だったら、腰を据えてじっくりやり合ってやろうじゃねぇか!《サイバー・ブレイン》!」
 征市が投げたカードから、三つの水の塊が飛び出し、それらが一枚ずつ征市の山札の上からカードを取って征市の元へ戻る。三枚増えた手札を見ながら征市は自分のターンを終了する。
 鎧武者は、一枚のカードを手札から引き抜き征市に見せた。すると、《幻緑の双月》の足元から溶岩が噴き出し、《幻緑の双月》が連れ去られてしまった。そして、鎧武者のカードは彼の手の上でドロドロに溶けたかと思うと、地面に落ち、マナへと変化した。
「そうか。《クリムゾン・チャージャー》か」
 鎧武者が使った火文明の呪文《クリムゾン・チャージャー》は、相手のパワー2000以下のクリーチャーを破壊し、その時の余剰エネルギーをマナに還元する呪文だ。これによって、鎧武者のマナは5マナになっている。
 ブロッカーによる防御。除去呪文による破壊。さらに、マナ増強など戦術の基本がうまく組み合わさったデッキだった。鎧武者が言っていた「守る」の一言を体現していると言ってもいい。
「守るって言うんだったら、こっちは徹底的に攻めるだけだ!《青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)》!《クゥリャン》召喚!」
 《青銅の鎧》も《クゥリャン》も場に出た時に効果を発揮する軽量クリーチャーだ。《青銅の鎧》は出た時に山札の一番上のカードをマナに変え、《クゥリャン》は山札の一番上のカードを征市の手札に変える。手札とマナを増やし、クリーチャー二体を呼び出した征市は挑発的な視線で鎧武者を見た。
 鎧武者は征市の挑発に乗る事もなく、静かにカードを引いた。そして、手元にある彼の呪文が光る。
耳をつんざくような音に、征市は思わず耳をふさいだ。鎧武者が持っていたカードから飛び出したのは炎と雷。炎は《クゥリャン》を焼き、雷が落ちたショックで《青銅の鎧》が倒れる。光文明と火文明の両方の特技と持った呪文《雷撃と火炎の城塞》だ。火の効果でパワー3000以下のクリーチャーを焼き、光の効果でクリーチャー一体をタップし無力化したのだ。
 タップされて無防備になった《青銅の鎧》を放っておく理由はない。鎧武者の《ジル・ワーカ》が発した光線が《青銅の鎧》を飲み込んだ。
「そうだったな……。光文明のブロッカーはそれが厄介だってのを忘れていたぜ」
 一瞬で全滅した自分のクリーチャーを見て、征市は息を飲む。光文明のブロッカーは他の文明のブロッカーとは違い、シールドへの攻撃はできなくてもクリーチャーへの攻撃は可能な者が多い。《ジル・ワーカ》もクリーチャーへの攻撃が可能なブロッカーだった。
「俺のクリーチャーが全滅させられたのはショックだが、今ならシールドが隙だらけだぜ!喰らえ!」
 マナゾーンにある六枚のカードがそれぞれ光を出し、征市の手札にあるカードに集まっていく。そこから飛び出した炎の塊は龍の形を形成しながら鎧武者のシールドに向かって突進していった。炎を振り払いそこから現れたのは、侍のような甲冑に身を包んだ征市の切り札《ボルシャック・大和・ドラゴン》だ。《ボルシャック・大和・ドラゴン》は巨大な刀を引き抜くと、目にも留まらぬ速さで鎧武者のシールド二枚を叩き割った。その二枚にシールド・トリガーは入っていない。
「守るだけじゃ俺の相手はできない。このまま、片づけてやるぜ!」

 いつしか空は曇り始めていた。晴れていたのが嘘のようだ、と彩弓は感じる。
 征市に促されて彩弓は逃げていた。今月の初めに仮面に助けられた時もそうだが、彩弓はああいった奇妙なものに狙われやすい。自覚はある。その度に征市に助けられているのだが、どうやって征市が奇妙なもの達と戦っているのか、その方法を彩弓は知らない。ただ判る事が一つだけある。それは征市に任せておけば必ずうまく行くという事だ。
「あれ?」
 彩弓が逃げる方向とは逆に、征市と鎧武者が戦っている場所に向かうセーラー服姿の人影があった。湊だ。
 まるで、何かに操られているようなふわふわした足取りで進んでいる。
「ねぇ、そっち行っちゃダメだよっ!」
 彩弓に腕をつかまれて、湊は驚いたような顔で彼女の顔を見る。だが、すぐに振りほどいて進む。
「大丈夫ですから。放っておいて下さい」
「そんな事はできないよ。危ないよ!」
「いいから、放っておいて!」
 突き放すような言い方に彩弓は何も言えず黙る。湊も言い過ぎたと思ったのか、相手の顔を見てばつが悪そうな顔をしたが、すぐに頭を切り替えて鎧武者がいる方向に進んだ。
「彩弓ちゃん!」
 湊を止められず、その場に立っていたら後ろから陸が走ってくるのが見えた。
「陸君!用事はいいの?」
「何かそれどころじゃないって感じだからね。セーイチさんは?」
「あっちで鎧が暴れてて、征市君が!」
「判った。危ないから、彩弓ちゃんはあっちに行ってて。君を保護してくれる人がいるから」
「う、うん!征市君をお願いね!」
「りょーかいっ!」
 陸は、彩弓が逃げるのを確認する。陸が指示した方向には、彼が呼んだ魔法警察がいる。征市が動いたのならば、もう決着はついているかもしれないが、念のためだ。
 陸は、彩弓が指していた方向に向かって走る。少ししたところで結界の中で戦う征市と鎧武者の姿が見えた。
「セーイチさん!魔法警察が来ました!もう周りに人の避難はOKですから思いっきりやっちゃって下さい!」
「ああ、判った。って言いたいとこだけどな……」
 陸の報告を聞いた征市は目の前のクリーチャーを見る。《ボルシャック・大和・ドラゴン》と同じように和風の甲冑に身を包み、二本の刀を腰に据えた龍。鎧武者が召喚した切り札《ダブルソード・レッド・ドラゴン》がそこに鎮座していた。鎧武者のシールドは残り一枚だが、そう簡単には破れない。
 《ダブルソード・レッド・ドラゴン》は、タップされている相手のクリーチャーを二体まで破壊できるクリーチャーだ。パワーの上限はあるものの、二体のクリーチャーを破壊するという能力のため、征市は隙を作らずにチャンスを窺っていた。下手にクリーチャーを召喚すると、《ジル・ワーカ》の能力や《雷撃と火炎の城塞》でタップされて破壊されてしまうのだ。征市のクリーチャーの中で、《ダブルソード・レッド・ドラゴン》にパワーで勝る者はいない。
 一方、征市の場には、《青銅の鎧》が一体残っていた。前のターンに召喚したクリーチャーで、運よく《ダブルソード・レッド・ドラゴン》の攻撃から逃れたのだ。
「そこを何とかして下さいって……。ん?」
 陸はそこで、自分とは別に結界の中のデュエルを見ている者がいるのを発見した。彩弓の静止を振り切って進んだ湊だ。
 結界の中で行われるデュエルは、魔力を持たない者だったら見る事はもちろん、そこで何かが行われている事を認識する事すらできない。それを見る事が出来るというだけで、只者でない事が判る。
「仕方ねぇ!イチかバチかだ!」
 陸が湊の姿を見ていると、征市が動き始めた。彼のシールドも残り一枚しか残っていないのだ。攻め続けるしかない。
「《紅神龍ジャガルザー》召喚!」
 征市が呼び出した紅い鱗の龍。《紅神龍ジャガルザー》は、蛇のように長い体をくねらせながら鎧武者のシールドを見る。
「《ジャガルザー》のスイッチ入れて一気に片をつける!《青銅の鎧》でシールドをブレイク!」
 《青銅の鎧》が飛び出し、《ダブルソード・レッド・ドラゴン》の上を軽快に駆けながらシールドを目指す。そして、勢いに乗せて持っていた槍でシールドを突き刺した。中央からひびが入るシールドを見て《ジャガルザー》は吠える。征市の言うスイッチが入ったのだ。
「俺の《ジャガルザー》は、他のクリーチャーがシールドをブレイクした時、自分の全てのクリーチャーにスピードアタッカーを与えるボルケーノ・ドラゴンだ。もちろん、《ジャガルザー》自身もスピードアタッカーになる!行け、《ジャガルザー》!」
 征市の命令を受けて飛び立つ《ジャガルザー》。だが、突如、鎧武者の前でその動きが止まる。光の輪のようなものが《ジャガルザー》を拘束していた。
「守ると言ったのだ」
「そうか。シールド・トリガー《スーパー・スパーク》か」
 《スーパー・スパーク》はシールド・トリガーで発動する事も可能な光文明の呪文だ。相手のクリーチャー全てをタップし、無力化する事ができる。タップされたクリーチャーは攻撃する事ができない。《ジャガルザー》の攻撃は届かなくなってしまった。
 鎧武者は、《ブレイン・チャージャー》で手札を増やした後、征市の《ジャガルザー》と《青銅の鎧》を見た。《ダブルソード・レッド・ドラゴン》はその視線の意味を悟り、両腰についていた鞘を握り、腰を落とす。
 一瞬、熱風が吹き荒れた。征市にはそれくらいの認識しかなく、他に変わった事は何もなかった。だが、変化は突然訪れる。《ジャガルザー》と《青銅の鎧》の体が炎を噴き出し、そのまま燃え尽きていったのだ。慌てて手を伸ばす征市。そんな彼の前髪が数本、はらりと舞い落ちる。
「全く見えない抜刀って奴か……。恐ろしいぜ」
 もしかしたら、自分に当たっていたかもしれない刀の一撃。目で捉えられないその速さに征市は恐怖した。
「だがな。俺にはまだ切り札が残っているんだよ!《ボルシャック・大和・ドラゴン》召喚!!」
 征市の手札から飛び出す炎の塊。すぐに龍の形になって飛ぶ《ボルシャック・大和・ドラゴン》は鎧武者に刀を振り下ろした。
「ぬおおお……!」
 振り下ろされる瞬間、鎧武者は低い声で吠える。獣のものとは違う覇気のある雄たけびに、征市は一瞬、気圧されそうになった。その瞬間、鎧武者の目が光り、動かないはずの《ダブルソード・レッド・ドラゴン》が《ボルシャック・大和・ドラゴン》の前に立った。
「まだだ……!」
 《ダブルソード・レッド・ドラゴン》は刀を抜き、《ボルシャック・大和・ドラゴン》の一撃を受け止める。征市と鎧武者の魔力がぶつかり合い、互いの刃から火花が飛び散る。
「嘘だろ……?こんなのってありかよ!」
 鎧武者は特別なカードで《ダブルソード・レッド・ドラゴン》を動かしたのではない。執念。彼の恐るべき執念と魔力が《ダブルソード・レッド・ドラゴン》を動かしたのだ。
「駄目だ!戦っちゃ駄目だ!」
 征市は、結界の外から聞こえる聞き慣れない声の主を見る。そこにいた湊が結界に両手を当てて立っていた。後ろからは陸が離れるように引っ張っているが、湊は離れない。
「馬鹿!結界から離れろ!」
 征市も大声で注意する。この結界は征市の魔力で作りだしている。それに触れようとする者を弾き飛ばすような性質を持った魔力だ。ずっと触れていればただでは済まない。
「駄目だ、って言ってるのに……!」
 湊はつらそうな顔をしながら、鎧武者に向けて手を伸ばそうとしている。すでに彼の腕は結界を突き破っているのだ。
 突然の衝撃を受けて、征市は後ろに弾き飛ばされる。そんな中見ていたのは、飛び散っていく自分のカード、砕けていく結界、同じように吹き飛ばされる陸と湊、そして、鎧武者だった。
 鎧武者が執念で征市の攻撃を止められた事。さらに、湊が結界を破った事。この二つが原因だったのかもしれない。結界が破られ、カードも一時的に魔力を失ってクリーチャーの姿も消えた。
 鎧武者は立ち上がって自分のデッキを拾うと、足を引きずるようにして立ち去って行った。
「待てよ!」
 陸が起き上がって鎧武者を追いかけようとするが、すぐに倒れて動けなくなる。敵の姿を見ながら歯ぎしりをしていた。
「陸、鎧を追うのは後回しだ。この子を助けるのが先だ」
 征市が陸と湊に近づく。陸も苛立った顔をしながら湊を見た。眠っているような顔でそこに倒れている湊。
「そうですね。色々しゃべってもらわないと」
 山城公園に、魔法警察のパトカーのサイレンが響いていた。

  『File.6 眠れ、哀しい器』につづく

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