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デュエル・マスターズについて語る非公式ファンサイトです。
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デュエル・マスターズ初心者向けを意識した記事を書いています。
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 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 のどかな休日を楽しむ征市、陸、彩弓の三人。会話の途中で出たY市に来た鎧武者の噂。夜中に動くというその噂を聞いた陸は、その鎧武者がプライズである可能性を考え調査を開始する。陸の調査中、鎧武者と遭遇する征市と彩弓。征市が戦いを挑み、切り札《ボルシャック・大和・ドラゴン》の攻撃が決まるところで鎧が抵抗し、攻撃が防がれる。同時に、その光景を見ていた若月湊(わかつきみなと)が結界に触れる。様々な要因が重なり、結界は破られる。その場に征市、陸、湊の三人は倒れ、鎧はその場を去るのだった。

 File.6 眠れ、哀しい器

 ソファにテーブルといくつかの椅子があり、壁側に飲み物の自販機が置かれた部屋。魔法警察の休憩室だ。征市と陸が椅子に座り、戦いに乱入してきた湊がソファで眠っていた。三人は医務室で手当てを受けた後、ここで休んでいた。
 山城公園に現れた鎧武者と征市のデュエル。鎧武者の思いがけない抵抗と、湊の乱入によって征市と陸は大きなダメージを受けた。結界に触れていた湊も例外ではなく、魔法警察によってここに連れて来られてからも目を覚まさない。白い肌を隠すように巻かれた包帯が痛々しい。征市と陸も疲れた顔をしていた。
 ノックの後、ドアが開き、二人はその方向を見る。そこには、肩で息を切らした菜央が立っていた。
「よかった……。二人とも無事だったんですね」
「無事、って言えるかどうかは微妙だけどな」
 征市が立ち上がりながら顔をしかめる。シャツに隠れて見えないが、彼も胴体に包帯を巻いている。 まだ、体に痛みが残っているのだ。戦闘でのダメージはそれだけではない。
「体は痛むし、カードに魔力が宿らない。攻撃が弾き飛ばされたせいかもしれないな。魔力、戻るか?」
「ええ、一日はカードが使えないかもしれませんが、明日になればいつもと同じように戦えるはずです」
「それを聞いて安心したよ。陸もそうだろ?俺よりは軽いみたいだけど」
 征市は振り返って陸を見る。だが、彼は征市に返事をする事もなく、湊を見ていた。
「おい、陸……」
「しっ、静かにして下さい」
 話しかけようとした征市を厳しい口調で止める陸。椅子から立ち上がると、険しい表情のまま、湊の横に立って両手を出した。手のひらを湊に向けて念を送るようにしている。
「菜央、あれは何かの魔法か?」
「私にもよく判りません。陸君、それは一体……?」
「話しかけないで下さい!僕の究極必殺奥儀『将来、巨乳になれビーム』の波長が乱れたらどうするんですか!」
 二人に対して怒鳴る陸。征市と菜央は目を点にして陸を見ていた。
「あー……。何ビームだって?」
「だから『将来、巨乳になれビーム』ですよ!この子、まだ子供ですけれど、磨けば光る逸材です!こうやって念じれば必ず、将来、僕好みの巨乳に……!」
「あ、そうか。がんばってくれ」
 これ以上話しかけても無駄だと悟った征市は、話を切り上げる。それを見ていた菜央は、持っていたバッグから革の手帳を取り出した。菜央のものではない。
「それは何だ?」
「この子の生徒手帳です。職員の方からお借りしました」
 菜央は持っていた生徒手帳を見る。表紙の裏に顔写真付きで名前などのプロフィールが書いてあるページがあった。
「名前は、若月湊さんですね」
「若月湊か……。いいぞ。間違いなく、将来、巨乳美女になる名前だ!」
 陸が一人で納得しているのを無視しながら菜央は続きを読む。
「十二歳の男の子みたいですね」
「そうか。男の子ね……。お、男ぉっ!?」
 『将来、巨乳になれビーム』を続けていた陸は、驚いて手を止める。横で聞いていた征市もそれには驚いた。
「う、嘘言わないで下さいよ!だってほら!こんなにぷりちーじゃないですか!どう見ても女の子じゃないですか!セーラー服だって着てるし、スカートから覗く生足がいやらしせくしーじゃないですか!この子が男の子だって言うなら、僕は何を信じればいいんだよぉっ!」
 陸は意味不明な事を叫び、菜央から生徒手帳をひったくるようにして取るとそのページを見て、絶望したような表情になった。
「征市さん、リーダー……。いつからこの世の中は純粋な思いを抱えた人間が生きづらい世界になってしまったんでしょうね」
「お前は不純な思いを抱いていただろうが」
「オフィスに戻ったらおしおき部屋行きですよ」
 征市と菜央にツッコまれながら、陸は壁に背を預けた。
「あ、あの……」
 陸に注目していた二人は、聞き慣れない声に呼ばれた。ソファを見ると湊が起き上がっていたのだ。
「気がついたみたいだな。悪いとは思ったけれど、生徒手帳を見せてもらったよ。若月湊……君でいいのかな?」
 『君』なのか『ちゃん』なのか迷いながら征市が聞く。湊はそれに対して首を縦に振って答えた。
「なあ、戦っちゃ駄目だって言ってたけれど、あれは何故なんだ?」
 征市が、そこにいる者達が疑問に感じていた事を湊に聞く。だが、湊は気まずそうな顔で下を向くだけで答えない。
「言いにくい事かもしれないけれど、答えてもらえないかな?」
 無理に問い詰めるような事をせずに、征市はソファに座っている湊と目線を合わせるためにしゃがむ。だが、それでも湊が目を合わせる事はなかった。どうしようか考えていると
「相羽さん、どいて下さい」
と、言って菜央が湊の前に出る。その時の菜央は征市が今まで見た事のない険しい表情をしていた。
「何故、相羽さんの戦いを妨害したのか、言えないんですね?」
 湊はその質問にも答えない。征市も時間をかけて聞き出すしかないと思った時、その場にパンと乾いた音が響いた。菜央が湊の頬を叩いたのだ。自分が何をされたのか判っていないような表情をしている湊に、菜央は言う。
「ふざけないで!あなたがした事のせいでこの二人が危険な目にあっていたかもしれなかった!それなのに、何も言えないってどういうつもりなの!?もし、この二人がいなくなってしまったら……私は、私は……」
「大丈夫だよ、リーダー」
 興奮した声で湊を攻める菜央の両肩を支えるように陸が手を置く。その時、菜央は初めて自分が狼狽していた事に気づき、胸に手を当てて黙る。
「僕は、絶対にどこにも行かないから。さ、ここはセーイチさんに任せて、ね?」
 陸に連れられて菜央は休憩室を出た。
 人が変わったかのように怒った菜央を見て征市は、陸に聞いていた事を思い出した。それは半年前のトライアンフ旧事務所の襲撃事件。デュエリストによって襲撃されたトライアンフの事務所で生き残ったのは、ほんの数人であり、多くはその事件で死亡、もしくは消息不明になっている。生き残ったメンバーの中でも戦えるのは菜央と陸のみだった。
 菜央が湊に怒鳴ったのは、トライアンフのリーダーとしてメンバーを失うわけにはいかないという使命感だけでなく、仲間を失う事の恐怖と悲しみを知っているからなのかもしれない。
「……めん、なさい……」
 そんな事を考えながら二人が出ていった休憩室の扉を見ていると、そんな声が聞こえてきた。湊が肩を震わせながら謝っている。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「大丈夫だよ。俺もあいつも頑丈なんだから。それより、話を聞かせてもらえるか?」
 征市の問いに、涙を瞳に溜めたままの湊は縦に首を振って答えた。

 魔法警察を出た菜央と陸は、近くのベンチに座っていた。昼下がりの穏やかな光景を見ながら、陸は菜央にどんな言葉をかければいいのか考えていた。
「すごく……不安だったんですよ」
 ぽつりと静かな声で菜央が口を開く。陸は黙って彼女の言う事を聞いていた。
「トライアンフのリーダーになってから、仲間を失わないようにがんばらなきゃいけないと思っていましたから……。あの時みたいに、誰もいなくなって欲しくなかったから……。なのに、陸君や相羽さんがいなくなってしまう気がして。私が、一人ぼっちになってしまう気がして、それで……!」
 菜央の手は震えている。十六歳の少女が人の命を預かっているのだ。不安にならないはずがない。
「大丈夫ですよ。僕はそんなにやわじゃない。それに、絶対にリーダーの前からいなくならない」
 陸がベンチを降りて菜央を見る。目の奥に光る信頼できる輝き。菜央はその瞳の輝きを眺めながら、落ち着きを取り戻していくのを感じていた。
「セーイチさんだって、強いから大丈夫。だから、今はあの鎧を止める方法を考えなくちゃ。ね?」
「そう……ですね」
 笑顔を作る菜央。鎧を止める方法を菜央は知っている。今、やるべきなのはその方法を征市と陸に教えてこの事件を終わらせる事だ。
 菜央は持っていたバッグから一冊の本を取り出す。魔法図書館から借りてきたプライズに関する資料だ。
「陸君、この資料を見て下さい」
「あー、僕、本は苦手なんですけどね。……って、これはあの鎧武者じゃないですか!」
 鎧武者の写真が載せられた詳細な資料。持っていた槍や脇差なども載っている。詳細な資料を見ながら、陸には疑問に思う点があった。この資料には、あの鎧武者が持っていなかった丸い鏡があるのだ。
「リーダー、この鏡は一体?」
「これが、鎧武者のプライズを止める切り札です」
 菜央はページをめくる。そこには、鏡に関する情報が載っていた。
 その鏡は、鎧の持ち主が恋い焦がれている女性の持ち物だった。鏡の持ち主も鎧の持ち主の事を想っていた。しかし、運命によって無残にも二人を引き裂かれてしまう。
 鎧の持ち主は戦死。その知らせを受けた鏡の持ち主は、その後、入水自殺を図る。鎧の持ち主の強い意志が残り、プライズとして機能しているのだ。
「鎧も鏡も元々Y市にあったもの。同じ場所に保管されていたはずですが、何者かによって鎧だけが海外に持ち出されたようです」
「引き離されちゃたまったもんじゃないね。せっかく一緒にいられたのにつらいよなぁ」
 そこまで言って陸は気付いた。
「そうか。だから、あの子はセーイチさんと鎧の戦いを止めようとしていたんだ」
「プライズの心が判るという事ですか?」
 菜央が陸に聞くが、陸にも詳しい事は判らない。だが、間違ってもいないだろう。
「そこら辺はセーイチさんに後で教えてもらいましょう。それより、リーダー。鎧も鏡も元々Y市にあって鎧だけ持ち出されたって言うんなら、鏡はまだY市にありますよね?僕、取ってきますよ」
「陸君、体は大丈夫なんですか?」
 心配して聞く菜央の前で陸は飛び跳ねてみながら
「へーきへーき。僕は大丈夫だから、リーダーはセーイチさんにこれを教えてから事務所に戻ってバックアップお願いしますね」
と、言う。陸の態度に安心したのか、菜央は鏡が置いてある場所のメモを陸に渡した。
「途中でプライズやデュエリストの妨害を受ける事はないと思いますが、気をつけて下さいね」
「大丈夫ですって。セーイチさんは魔力戻ってないみたいだけれど、僕の魔力は完全回復してますから。どんな奴が出てきたってすぐにやっつけちゃいますよ!」
 そう言うと、陸は走り出した。陸の元気な姿を見て安心した菜央は表情を引き締める。そして、魔法警察に向かって走る。征市に鏡の話をして作戦を立て直すのだ。
 少し離れた場所でその様子を見ていた陸は、腹を抑えながらつらそうな顔をして歩いていた。
「これでひとまずOKかな。はは……。元気な振りするのって、結構つらい」
 菜央からもらったメモに書かれていた場所はここから遠くない。痛む体に鞭打って、陸は歩き続けた。

 泣き止んだ湊に征市は水で濡らしたハンカチを渡す。湊はそれで目元を拭いていた。
「もう、話してくれるか。あれだけの事をして俺達の戦いを止めた理由を」
 湊は征市にハンカチを返すと、静かに口を開いた。
「信じてもらえないかもしれないけれど、僕は予知夢を見る事ができるんです」
「予知夢!?」
 それは、征市にとって思いがけない一言だった。目の前の少年は未来を見る事ができると言っているのだ。
「今回は、特にはっきりと未来が見えたんです。赤い服の男の人と鎧が戦っている未来が……」
 湊はそこまで言って征市を見る。予知夢で見た赤いブレザーの青年は、征市で間違いない。
「その赤い服の男っていうのは俺の事だったんだな」
 征市は話に反応して続きを促す。
「そうです。夢の中で僕は何とか戦いを止めようとしました。倒れた鎧は本当に悲しそうに叫ぶんです。何故、悲しんでいるのかは判らないけれど、僕はそれが見ていられなくて……」
「確かに、倒されたら悲しいのは判るけど……。でもなぁ、あの鎧は人を襲っていたわけだし」
「あの鎧も自分で自分が判らなくなっているんです。そんな哀しい器なんです」
「哀しい器、か……」
 征市には、あの鎧武者のプライズの考えている事が判らなかった。だが、もし湊の言う事が本当だとしたら、戦う以外の解決方法があるのかもしれない。
「判ったよ。倒す以外の方法を見つけてみよう。また戦って攻撃を跳ね返されたら困るからな。それで、その予知夢には鎧を鎮めるヒントみたいなものはなかったのか?」
 湊は今まで自分が見ていた予知夢の内容を話す。鎧が倒されて涙を流す部分に征市は反応した。
「倒された事が悲しいんじゃないって事か。他の目的が達成できなかった事が悲しいとも考えられるな」
「大事な何かが欠けているんです」
 抽象的な湊の言葉。だが、征市はその一言が核心をついているような気がしてならなかった。湊は説明を続ける。
「気を失っている間に新しい夢を見ました。予知夢の後、たまに夢の中に出てくる女の子がいるんです。僕と全く同じ姿の女の子。その子が光る何かを持っていました。それがきっと」
「鎧に欠けているもの、か……。その光る何かが具体的に判ればいいんだけどなぁ」
 簡単には行きそうにない事を知って征市は腕を組む。すると、ノックの音がしてドアが開いた。菜央が戻って来たのだ。菜央に頬を叩かれた事を思い出し、湊は征市の背後に隠れるように移動した。
「相羽さん。あの鎧を止める方法があるかもしれません」
「それは、本当か!?」
 驚く征市に、菜央は鎧武者の資料を見せて鏡について説明する。湊の説明を聞いていた征市は鎧に欠けているものが鏡であると理解した。
「光る何か……。鏡だったら光を反射して光っているように見える事もあるな」
「二人で何か話でもしていたんですか?」
 征市は菜央に湊の予知夢について話した。菜央はそれについて疑う事もなく、真剣になって聞いていた。
「欠けていたのは、愛する人の持っていた鏡。長年一緒だった存在。全てを丸く収めるには、その鏡を持ってくるしかなさそうだな」
「それは陸君が行ってくれています。近い場所にあるので、すぐに見つかるでしょう」
「判った。俺も念のため、パトロールに行ってくる」
 そう言うと、征市は休憩室のドアに手をかけた。
「待って下さい!」
 その背中に湊が声をかける。真剣な表情で征市を見ていた湊は、ドアの前まで歩いていくと彼の手を握った。
「僕も一緒に連れて行って下さい。僕のせいで怪我をさせてしまったんだから、仕事を手伝わせて下さい。お願いします!」
 頭を下げる湊。征市にも真剣さは伝わって来たが、部外者を連れて行く事はできない。
「気持ちは判るけれど、でも……」
「僕もデュエル・マスターズのカードを使えます。デッキも持っています」
 その言葉に征市と菜央が驚く。二人の視線を集めながら、湊はポケットから携帯電話を取り出す。彼のストラップについている雪ダルマの人形が緑色の光を発し、四角いケースに姿を変えた。それは征市も見慣れた形のデッキケースだった。
「もし、鎧が暴れたら、今度は僕が止めます。だから……!」
「相羽さん、連れて行ってあげて下さい」
 湊に続き、今度は菜央が言う。
「いいのか?デュエルができるって言っても、部外者なんだぜ」
「もし、鎧が暴れるような事があったら今の相羽さんでは止める事ができません。今、鎧を止められるのは若月さんだけです」
 菜央が一歩、湊に近づく。脅えたような表情で彼女を見る湊に、菜央は手を差し出した。
「若月さん、私達に協力して下さい。お願いします」
 湊は恐る恐る手を握った。そして、理解する。目の前にいる少女は、悪い人ではないと。
「戦いの邪魔をしてごめんなさい。僕が必ず鎧を止めます」
「相羽さんとの戦いの後ですから、鎧もすぐには動けないと思います。陸君が鏡を持ってくるまでの間、暴走を食い止めていて下さいね」
 菜央の指令は言い渡された。行動を開始する時が来たのだ。
「湊、山城公園に戻ろう。もしかしたら、鎧があの場所に戻っているかもしれない」
「相羽さん。私は、一度、事務所に戻ります」
「判った。陸が鏡を見つけたら連絡を頼む」
 それを聞いて菜央は返事をする。三人は休憩室を出て歩き出した。悲しい鎧を止めるために。

 日も落ちてきた。人が来ないような暗い倉庫で夕焼けを見ながら鎧は休む。
 動く自分の姿を見たら逃げ出す者が多かったが、あの赤いブレザーの青年は違った。そして、自分に傷まで負わせたのだ。何とか逃げる事はできたが、次はどうなるか判らない。
「こんなところにいたのね」
 落ちる日を背に立つ二つの人影。一人は長い銀髪の少女。十代前半くらいの年ごろに見える小柄な少女で、挑発的な目をして鎧を見ている。
 もう一人は、少女の後ろに立つフォーマルスーツに身を包んだ執事のような銀髪の男だった。白い大きな傘を持って、少女が日に焼けないようにしている。
 銀髪の少女がゆっくり鎧の前まで歩いてくる。銀色の髪が夕日を受けて赤く染まり、白いワンピースの裾が風を受けたように揺らめく。
「あなたを鏡から引き離した人間に復讐をするんでしょう?サボっていちゃ駄目じゃない」
「……」
 鎧は少女の質問には答えない。それが不満だったのか、少女は軽く舌打ちをする。
「デッキをあげたのは誰か忘れた?思うように動かないんだったら、あなたなんかいらない」
それを聞いた鎧が素早く槍を少女に向けて突く。だが、それを執事風の男が片手で握った。鎧は両手で槍を持って全力で押しているのだがびくともしない。
「はい、そのまま。動いちゃ駄目よ」
 少女の手から発せられる紫色の光。そこから現れる黒い箱。手に乗るような大きさの箱が開くと、中からは光と同じような紫色の飴が入っていた。少女はその飴を一つつまむと、鎧の口に入れた。
「が……!ぐおおお!!」
 槍を落とし、その場でもだえる鎧。少女はその様子を見て満足したように微笑んだ。燃えるような赤い夕焼けとは対照的な冷たい微笑。
「気づきなさい。主人は誰か。プライズは物でしかないのよ。主人に逆らうなんて許されないわ」
 鎧の全身が紫色の光を発する。その光の動きが止まると同時に、一瞬、鎧も動きを止めた。動きを止めた鎧は落した槍を拾うと、少女に背を向けて歩き出した。その目の部分には紫色の光が宿っている。
「判っているわね。あなたの仕事は人を殺す事。あなたはそのために生まれた。プライズになる前も、プライズになった後も人を殺す事しかできない」
 夕日は沈もうとしている。夜の闇の中に鎧は足を踏み入れていった。

 征市と湊は、海沿いの道を歩いていた。少し前に日は沈み、夜になっている。征市は時折やってくる鋭い痛みに耐えながら、それを顔に出さないようにして歩いていた。
「あの……痛み、ますか?」
 それでも、湊は気付く。プライズの感情だけでなく、人の細かい気持ちにも気付けるようだ。
「少しな。でも、少しだから心配するなよ」
「少し、休みましょう」
「……判ったよ」
 嘘をついても、湊には通じない。二人は近くのベンチまで歩くと、そこに腰かけた。休む事で征市の痛みが引いていく。湊が言いだすまで征市は自分から休むつもりはなかった。だから、征市は彼が声をかけてくれた事が嬉しかった。
「なあ、何で女の子みたいな格好をしているんだ?」
 少し休んでからまた歩き出し、征市が聞く。菜央も陸も同じ疑問を抱いていただろう。ただ、湊と長い時間話す時間がなかっただけで、余裕があれば聞いていたかもしれない。
「言いたくなければ言わなくてもいいんだけどな」
 恐らく、その質問は多くの人間が湊に投げつけていただろう。聞かれる事自体が煩わしいかもしれない。そう考えて、征市はすぐに質問を引っ込めた。
「研究、らしいんです」
「研究?」
 日常生活ではあまり聞き慣れない単語が征市の耳に入った。湊は説明を続ける。
「僕は研究のために研究団体に養われているんです。僕は女の子の格好をして生活する事と一か月に一度、検査を受ける事だけ義務付けられていて、他は特に変わった事をしないで普通に生活をしています。何のための研究なのかは判りませんけど」
「養われているって……両親は?」
 湊は首を横に振る。絶句する征市に
「物心付く前から親の姿を見た事がなかった僕にとって、研究団体が親代わりでした。僕の苗字の若月も僕と一緒に暮らしている研究者の人の苗字なんです」
と、話した。
「そうだったのか」
 想像を絶する湊の生い立ちを聞いて、征市はショックを受けた。それと同時に、その団体の研究の内容が気になり始めた。それは、湊の能力に関係する事なのかもしれない。
 湊は、予知夢の中に自分によく似た姿の少女が出てくる事があると話していた。湊に少女のような格好をさせる事もこれと関連があると征市は考えていた。
「なあ、湊。その研究ってもしかして……」
 征市が話を切り出そうとした時に、彼の携帯電話が鳴り出した。このメロディは、トライアンフの事務所からの電話だ。
「菜央か?」
『相羽さん、今すぐ山城公園に向かって下さい』
 菜央の声に緊張が混じっているのを感じた征市が質問をしようとするが、それより先に菜央は言葉を続けた。
『鎧武者が現れました。魔法警察の方々を襲っています』
「嘘だろ!?だって、鎧は俺との戦いでダメージを受けてしばらく動けないはずじゃなかったのか!?」
 征市の反応に驚いたのか、それとも鎧に関する事が話で出たのか湊が反応する。
『私にも判りません。これだけの速度で魔力が回復するのは明らかに異常です。それだけ回復力の強いプライズだったのか、あるいは……』
「鎧の魔力を回復させた奴がいるかもしれないって事か」
『ええ』
 鎧の回復力に驚きながら、征市は詳しい場所を聞いて菜央との通話を終える。そして、湊に会話の内容を説明した。
「すぐに回復したっていうのが信じられないが、これもウソのようなホントウって奴かもな。急ぐぞ!」
「はい!」
 痛みに耐えながら走る征市とそれに続く湊。
 山城公園の周辺は、ロープが張り巡らされていた。征市と鎧の戦いの調査を魔法警察が行っていたからだ。そこへ鎧が現れ、調査をしていた警官に襲いかかった。以上が菜央から征市が聞いた事件のあらましだ。
 中央の噴水広場の近くまで二人が移動すると、何人もの倒れた男達を見下ろす一つの人影があった。鎧武者だ。
「お前がやったのか……」
 鎧武者に近づこうとした征市は、すぐに立ち止まる。鎧の目には昼間戦った時にはなかった紫色の怪しい光が宿っていた。それに、全体を覆う魔力の波長もどこか禍々しいものになっている。
「一体、誰が……」
 震えるような湊の声。征市が振り返ると、湊は目を伏せて、肩を震わせていた。一瞬、泣いているのかと勘違いした征市だったが、強く握った拳がそうでない事を伝えている。
「誰が、こんな事を!勝手にプライズの感情を無視して操るなんて!」
 湊は怒りの声と共に、顔を上げる。彼の目に映るのは操られた哀しいプライズ。それは、血で汚れた槍を湊に突き出した。
 だが、その槍は華奢な少年の体を貫く事なく、空中へと弾かれた。魔力を帯びたデュエル・マスターズカードがそれを弾き飛ばしたのだ。
「征市さん、少し離れていて下さい。この鎧を大人しくさせます」
 征市が素直に言葉に従って離れたのを見た湊は、携帯電話についている雪ダルマのストラップを光らせる。金属製のデッキケースに変化したそれから四十枚のカードが飛び出す。鎧武者が腰から下げていた袋からもカードが飛び出した。
 湊の前に緑色に光る五枚の魔力の壁―シールドがセットされ、準備が整った。
「哀しい器よ、眠りなさい」
 怒り、悲しみ、そして、慈悲がこもった言葉。それを一言告げると湊は一枚のカードを場に投げた。緑色の光を放ったそれは、羽飾りに姿を変える。《覇翼 フェアリー・アクセラー》。これを装備したクリーチャーが攻撃をする時、山札の一番上のカードをマナに変える事ができるカードだ。
「《ポッポ・弥太郎・パッピー》を召喚」
 続いて湊のカードから炎のように赤い小鳥が飛び出す。鎧や兜で身を包んだその小鳥《ポッポ・弥太郎・パッピー》はサムライかドラゴンの命を守るクリーチャーだ。次のターンに《フェアリー・アクセラー》をクロスしてマナを増やす事もできる。
「邪魔をする者……。全て殺す」
 昼間とは違う低く殺意に満ちた鎧の声。その手札から召喚されるのは二つのマニピュレーターを持った飛行物体《時空の守護者ジル・ワーカ》だ。《ポッポ・弥太郎・パッピー》が攻撃したら、相討ちになってしまう。
「大丈夫。まだ大丈夫」
 自分に言い聞かせるように言うと、湊は二体目のクリーチャーを召喚する。場に投げたカードが緑色の光を放つと、そこから緑色の巨人が出てくる。《戊辰の超人(ヒジカタ・ジャイアント)》。クロスギアをつけていないとシールドを攻撃できないクリーチャーだが、パワーが5000もあり、クリーチャーを攻撃する事もできる。
「なるほどな。《戊辰の超人》につけるためのクロスギアはもう準備してある。問題はなさそうだ」
 征市は、湊の場にある《フェアリー・アクセラー》を見る。軽量なこのクロスギアならば、すぐにつける事が可能だ。それに湊のマナにもクロスギアが見える。充分な数のクロスギアを入れたデッキなのだ。
 征市が安心した瞬間、《ポッポ・弥太郎・パッピー》の足元から溶岩が噴き出し、地中へと連れ去られた。
「え?何が……」
「湊、《クリムゾン・チャージャー》だ」
 突然、クリーチャーが破壊された事に驚く湊に征市が教える。鎧武者が使った呪文、《クリムゾン・チャージャー》は、相手の小型クリーチャー一体を破壊し、その余剰エネルギーを利用してマナになる呪文だ。これによって鎧武者のマナはすで五枚になっている。
「《フェアリー・アクセラー》を《戊辰の超人》にクロス!そして、攻撃!」
 だが、湊も負けてはいない。《戊辰の超人》がその巨大な拳を振るう瞬間、湊の山札の上一枚がめくられ、マナへと移動していった。鎧武者の《ジル・ワーカ》に止められる事もなく、その拳はシールドを貫く。
「《戊辰の超人》のパワーは《ジル・ワーカ》のパワーを圧倒的に上回っている。これなら……」
 征市は昼間のデュエルを思い出す。鎧武者のデッキは防御と相手クリーチャーのタップを主軸に置いたデッキなので、攻撃に使えるクリーチャーは少ない。《戊辰の超人》を止めるのも容易ではないはずだ。
 湊もそう思って、鎧武者の動きを待った。鎧武者は、まず3マナを使って《エナジー・ライト》を唱えて手札を補充。その後に3マナを使ってそのエネルギーを一枚のカードに注ぎこんだ。
「召喚。《紅神龍ガルドス》」
 鎧武者が投げたカードが、炎を出しながら長い体の龍に変わっていく。赤い体の龍《ガルドス》は、《戊辰の超人》と同じようにクリーチャーへの攻撃しかできないドラゴンだ。だが、3コストで5000のパワーを持ち、スピードアタッカーであるため、召喚酔いもしない。
 《ガルドス》は、《戊辰の超人》の体にかみつく。《戊辰の超人》も《ガルドス》の体を殴りつけた。二体を中心に爆発が起こり、二体はその場から消えてしまった。これで湊のクリーチャーは0体になってしまった。鎧のクリーチャーも攻撃できない《ジル・ワーカ》だけだが、彼には切り札の《ダブルソード・レッド・ドラゴン》がある。鎧武者のマナは6マナ。あと一枚のマナをチャージして手札に《ダブルソード・レッド・ドラゴン》があれば、出す事ができるのだ。
「それでも、必ず救ってみせる」
 だが、湊は諦めない。手元にあるカードを見ながらチャンスを狙っていた。

 陸は、山城公園の中を走っていた。手に持っているバッグには、両手で持てるほどの大きさの鏡が入っている。
菜央からの連絡によれば、湊が鎧と戦っているはずである。
「かなり、大暴れしちゃってるみたいだね」
 途中、何人もの倒れている警官を見ながら陸は思った事を口に出した。すでに他の警官が応援に来ていて、倒れている者達は運ばれている。
 陸がそれの手伝いをする事はない。今の陸の仕事は鎧を止めて、これ以上の被害を出さない事だ。 今、それができるのは湊しかいないし、彼も鏡がないと鎧を完全に止める事はできないはずだ。
 全力で数分走り、結界を見つけた。鎧が狂暴化している事は連絡で受けて知っていたが、実際に見るとその違いに驚いた。陸は、人を操り狂暴化したプライズはいくつも見て来たが、その中でも鎧武者は群を抜いて異常なオーラを漂わせていた。目に宿る紫色の光を見るだけで、本能が「危険だ」と警告を促していた。
 だが、それでも湊は鎧を止めるために戦っていた。彼のシールドは残り一枚。クリーチャーは《西南の超人(キリノ・ジャイアント)》、《フェアリー・アクセラー》をクロスした《戊辰の超人》、《ポッポ・弥太郎・パッピー》が一体ずつ立っていた。
 鎧のシールドも一枚。だが、《ジル・ワーカ》が攻撃を阻んでいて、その隣には切り札の《ダブルソード・レッド・ドラゴン》がその刀を抜く機会をうかがっている。
「全てを……殺す」
 鎧の手札から金色の輝きと共に、二体目の《ジル・ワーカ》が現れる。ブロッカーである上に、破壊されると二体のクリーチャーの動きを止める《ジル・ワーカ》が増えたのは厄介だ。
 どうやってこの防御を崩そうか湊が思案していると、突如、鎧の《ジル・ワーカ》と湊の《ポッポ・弥太郎・パッピー》が爆発した。《ジル・ワーカ》のマニピュレーターは、《戊辰の超人》と《西南の超人》をつかみ、地面に叩きつけた。
「そんな……!自爆した?」
「湊!《ディオライオス》だ!」
 征市は、エンジン音を響かせてそこに立っている無骨な機械のクリーチャーを見ていた。湊もその存在に気づく。
「《銃神兵ディオライオス》は、自分と相手のクリーチャーを破壊するクリーチャー。鎧はその効果で自分の《ジル・ワーカ》を破壊し、破壊された時に発動する能力を使った。湊が突っ込んでこないなら、自爆させてタップするって事かよ……!」
 目の前にいる二体のクリーチャーが倒れたのを見て、《ダブルソード・レッド・ドラゴン》は腰についていた鞘を握る。
 一瞬、その場を通り過ぎる熱風と、燃え盛る二体の超人。それを見て陸は、肩を落とした。鎧と湊ではクリーチャーの数に差があり過ぎる。《ジル・ワーカ》の防御を崩しシールド一枚を破って鎧にとどめを差すか、《ダブルソード・レッド・ドラゴン》と《ディオライオス》を倒さなければ湊は負けてしまう。だが、それはクリーチャーが一体も残っていない湊にとっては簡単な事ではない。
「いや、大丈夫。仲間を助けて!」
 湊に言われて《西南の超人》は燃え盛る体を引きずって立ち上がる。その手から発せられた緑色のマナが《戊辰の超人》に注がれると、その体を覆っていた炎が消えた。その効果に鎧は驚いた。
「《西南の超人》の能力はジャイアントのコストを下げる能力ともう一つ。自分を身代りにしてジャイアントを助ける能力だ」
 征市が解説する。その力で、《戊辰の超人》は生き残ったのだ。
 それでも、クリーチャーの差がある事に変わりはない。だが、湊は勝利を確信していた。
「大丈夫。もうすぐ助けてあげるから。待っていて!」
 湊が投げた緑色のカードが《戊辰の超人》に刺さり、力を与える。緑色の輝きが、巨大なその肉体をさらに大きなものへと変えていった。
 座禅を組んだ仏像のような巨大な存在。《大神秘ハルサ》。それがその進化クリーチャーの名前だ。
 《ハルサ》が持っていた杖を振ると、湊の手札から一枚のカードが飛んでいってクロスギアに姿を変えていく。《ハルサ》の特殊能力の一つ、侍流ジェネレートだ。場に出たのはブロッカー破壊の能力を持った《熱刀 デュアル・スティンガー》だ。湊が2マナ使い、《ハルサ》はそのクロスギアを腕輪のようにしてはめる。進化する前に《戊辰の超人》がクロスしていた《フェアリー・アクセラー》は、指輪のような状態で装備されていた。
「お願い、《ハルサ》!シールドを攻撃!《ジル・ワーカ》を破壊!そして、《ダブルソード・レッド・ドラゴン》をマナに!」
 湊を見下ろすようにして見ていた《ハルサ》はゆっくり頷くと、《デュアル・スティンガー》がクロスされていた腕で手刀を繰り出し、《ジル・ワーカ》を真っ二つにする。既に攻撃の動作に入っている《ハルサ》をマニピュレーターがつかむ事はできなかった。
 さらに、《ハルサ》が持っていた杖を振る事で《ダブルソード・レッド・ドラゴン》の肉体が粒子状になって、カードへと変化していく。そして、カードはマナゾーンへ飛んでいった。《ハルサ》はクロスギアをクロスしている時に攻撃すると、相手クリーチャーを一体、マナに送る事ができるのだ。
 そして、最後にシールド。巨大な拳が鎧の最後のシールドを砕いた。その中にシールド・トリガーはない。
「ぐぅおおお……!」
 追い詰められた鎧は吠える。手元には、《ハルサ》を倒せるカードがないのだ。《ディオライオス》がシールドに突っ込むが、湊にとどめは刺せない。勝負は決した。
「よし、今だ!」
 陸は持っていた鏡を結界の中へ投げ入れる。飛んでいった丸い鏡は宙に浮き、鎧の姿を照らした。
「うぅ……うおおお……!!」
 すると、鎧から紫色のオーラのようなものが溶けて落ちていった。全て落ちた頃、鎧はその場に倒れる。オーラのようなものは、人の形を形成すると、もう一度鎧を操ろうとして飛びかかった。
「やめろ!これ以上、その鎧を操らせるような事はしない!」
 湊が手を伸ばし、それに呼応して《ハルサ》が動く。杖が緑色の光を発し、オーラはその光にかき消されていった。戦いは終わったのだ。
「あ、ああ……」
 結界を消し、カードをしまった湊は、征市、陸と共に鎧に近づく。倒れていた鎧を、鏡の光が照らしていた。その鎧の目の部分から透明な涙が流れる。
「あ、ありがとう……」
 礼の言葉と共に、鎧の動きは止まり、鏡の光も病んだ。ここで、湊は予知夢の場面を思い出す。鎧の流す涙は悲しみの涙ではなく、感謝の涙に変わった。未来をいい方向に変える事ができたのだ。
 効果が切れたのか鏡が落ちてくる。それを陸がキャッチした。
「うわ、あぶね!落して割ったら大変だよね」
 陸の場違いな冗談に二人は笑った。そこに魔法警察のパトカーが近づき、菜央が降りてくる。
「全て終わったみたいですね。みなさん、お疲れ様でした」
「今回はさすがにちょっと疲れましたね。というわけで、リーダー。ご褒美のチューを」
「陸君は事務所に戻ったら、すぐにおしおき部屋行きですけれど、いいですよね?」
 表情のない菜央の目が陸を見る。陸は、その目を見て狂暴化していた鎧よりも怖いと思った。
「あの……」
 菜央に湊が近づく。何か迷っているような表情をしている湊だったが、しばらくすると何か決心したような顔で上を向いた。
「僕も、あなた達の仲間にして下さい。まだ色々な哀しい器があると思うんです。それらを救うために、僕にもお手伝いをさせて下さい」
 頭を下げて「お願いします」という湊。
「私達は、暴走したプライズから人々を守る組織です。プライズを守る組織ではありません」
 菜央の言葉に、湊は表情を暗くする。だが、菜央の言葉には続きがあった。
「ですが、あなたの言うように哀しいプライズが存在するのも事実。これからは、プライズを助ける事も考えなければいけないかもしれませんね」
 そう言って、右手を差し出す。
「私達、トライアンフに協力して下さいますね?」
 これも、予知夢の最後の部分と酷似している。予知夢ではその手を拒絶したが、今の湊にはそれを拒む理由がない。
 湊は、笑顔で菜央の手を取った。

 同日、夜中。Q区の教会跡地。
 ここにはもう人はいないが、建物自体は残っている。まだ教会が残っているこの場所に近づく者は少ない。心霊スポットだと思って近づく者もいるが、幽霊よりも恐ろしい者に遭遇して去る事になるだろう。窓から差し込む月明かりを受けて銀髪の少女は呟いた。
「つまらないわ。あのプライズだったら、トライアンフのメンバー全員を殺せると思ったのに」
 その背後では、銀髪の執事風の男が少女の髪をとかしている。
「ねぇ、聞いているの?」
 少女は後ろにいる執事風の男に言ったのではない。目の前に人影に話したのだ。
「ええ、もちろん」
 暗がりの中にいるので姿は判らない。聞こえてくる声は若い男のものだった。
「僕は最初から反対だったんです。プライズ一つで潰せるほどやわじゃないって思いません?半年前の襲撃だって入念な準備を重ねてからやったんですから」
「でも、今のトライアンフは死に損いよ。あの時の十分の一くらいのメンバーしかいない」
「新しいメンバーが厄介なんじゃないですか?あの相羽征市っていうのがね……」
 髪をとかし終わったのか、執事風の男が少女から一歩離れる。少女は不機嫌そうに髪をかきあげると言った。
「判ったわ。プライズ一つじゃ潰せないくらいに成長した組織。だったら、もう一度地獄を見せてあげようじゃない」
 少女、執事風の男、そして謎の人影の三人はデッキケースを取り出す。暗い闇の中で金属の冷たい輝きがその存在を主張していた。早く、標的を狩りたいと言うように。

  『File.7 活動写真の時間』につづく

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