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デュエル・マスターズについて語る非公式ファンサイトです。
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デュエル・マスターズ初心者向けを意識した記事を書いています。
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 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 相羽征市(あいばせいいち)と鎧武者のデュエルに乱入した少年、若月湊(わかつきみなと)。湊は予知夢を見て鎧武者が戦ってはいけない存在だと感じていたのだった。遠山陸(とおやまりく)は、琴田菜央(ことだなお)に見せられた鎧武者の資料を元に、鎧武者を鎮めるための鏡を探す。再び、暴走を始める鎧武者を止めるために戦う湊。陸が持ってきた鏡によって鎧武者は鎮まり、鎧武者を操っていたものは消え去った。
 トライアンフを狙う謎の少女。彼女達の次の策略が征市達を狙う。

 File.7 活動写真の時間

 学校の授業が終わると、湊はすぐにトライアンフの事務所に向かう。モダンな外観の博物館に入ると、関係者用の通路を抜け、トライアンフメンバー専用のエレベーターを使って事務所がある階まで下りる。扉が開くと、すでに中にいた菜央と陸が同時に湊を見た。
「あ……あの、おはようございます」
 いきなり、二人に見られて驚きながら湊は挨拶をする。
「ああ、おはよう。早かったね」
「おはようございます、若月さん」
「はい、今日は土曜日ですから」
 エレベーターを出て、自分のデスクの前に向かう湊。「ああ、なるほど」と相槌を打って、陸は納得する。
「あれ?征市さんは来ていないんですか?」
 征市はデパートの手品グッズの実演販売と、トライアンフのメンバーの掛け持ちをしている。土日と祝日は、デパートで働いている事の方が多いが、今の時間には来ているはずだ。湊は不思議に思って聞いてみた。菜央と陸が開いたエレベーターの扉を見ていたのも、征市が来たと思ったからなのかもしれない。
「ん?ああ、サボりじゃないかな?ケータイに電話しても出ないんだよね。だから、セーイチさんもとうとうおしおき部屋のお世話になるのさ」
 陸は、おしおき部屋の扉を指しながら邪悪な顔でほくそ笑んでいる。湊は、今まで陸以外のメンバーがおしおき部屋に入ったのを見た事はない。
「もしかしたら、何かの事件に巻き込まれているのかもしれません。今のところ、プライズが動き出して人を襲っているという情報はありませんが」
「あれ?何だか僕が仕事に遅れた時とは随分対応が違いません?この前は事務所に入ったら即おしおき部屋行きだったじゃないすか!」
「陸君、この前遅れた理由を言ってみて下さい」
「はい!巨乳の美少女をナンパしていたからです!」
「それは陸さんが悪いですよ、どう考えても」
「そんな事言ったって、これが運命の出会いかもしれないじゃないか」
「とにかく」
 菜央が陸と湊の会話を遮る。今、やるべき事はもう決まっているからだ。
「相羽さんの家に二人で向かって下さい。他の向かう場所があったら連絡しますから」
「判りました。……はぁ、男の家かよ」
 陸は肩を落としながら、菜央から征市の家の住所が書かれたメモを受け取る。湊もその紙を見た。征市の家には行った事がなかったが、ここから近いので迷う事もなさそうだ、と感じた。
 トライアンフのオフィスを出て、坂道を登る。道に沿って建っているのは、どれも西洋風の外観をした家だ。湊は、初めて通るこの風景を見て、日本ではない別の国に来てしまったかのように思った。
「坂を登るのはつらい……。本当につらい」
 陸は、周りを見る事もなくぼやいていた。二人が坂を登る事数分。今、二人はこの住宅街で最も古くからある相羽邸の前に立っていた。
「すっげ……!セーイチさんって金持ちの坊ちゃんだったの?初代総長の孫だってのは聞いてたけど、こりゃ、マジですごいわ」
「大きいだけじゃなくていい家ですね。征市さんを守る想いみたいなものが伝わってきます」
 二人は家を見てそれぞれ感想を述べる。鉄製の門を開けてドアの前に立った二人は、呼び鈴を鳴らした。しばらくして、ドアが開く。
「お、征市。朝帰りとはやるな。もう午後だけどな。あれ?」
 ドアが開いて出てきたのは、話す肖像画だった。突然現れたプライズを見て、湊は驚き、陸は警戒する。
「何でこんなところにプライズがいるんだよ」
 陸は、二号を鋭い目で睨みつける。二号も、いきなりやって来た知らない二人組の片方に睨まれていい気分はしない。
「ここは俺の家だぞ。いて悪いか!」
「ここはセーイチさんの家だろ?何で、プライズが住んでるんだよ!」
「陸さん」
 二号につかみかかろうとする陸の袖を湊が強く引っ張る。
「このプライズ、征市さんが話していた絵のプライズじゃないですか?トライアンフの偉い人が征市さんのお祖父さんで、その肖像画がしゃべるって教えてもらいましたよね?」
「ん?……あ」
 湊に注意された陸は、自分の記憶の中にある相羽総一郎の情報を引き出しながら、改めて二号を注意深く見た。その肖像画に描かれているのは、陸が写真で見たのと同じ相羽総一郎だ。
「なるほど。じゃ、これがセーイチさんの言っていた二号なんだね」
「なんだ、不審人物一号。お前達、征市の知り合いか?」
 相羽総一郎の名前が出てきたのを聞いて、二号が二人の周りを飛びながら尋ねる。
「ああ、僕はトライアンフのエース。遠山陸」
「僕は若月湊です」
「判った判った。征市から話は聞いてる。変態で巨乳好きの陸と、プライズの心が判るちびっ子の湊だな」
「セーイチさん、僕がエースだって事を伝え忘れてるな。巨乳好きなのは間違ってないけれど」
「いつ、エースになったんですか」
 顎に手を当てて唸る陸を呆れた目で一瞥した後、湊は二号を見た。
「征市さんは帰ってきていないんですね」
 ドアを開けた時の二号の言葉から、彼が征市の帰りを待っていた事が判る。征市は家にもいないのだ。
「朝帰りって事は、昨日から帰ってないって事だよね。どこに行ったのか聞いてる?」
 陸も征市の行先が気になり始めて二号に問う。
「I崎にある映画館だ。妙に嬉しそうな顔で出かけるから、デートかって聞いてやったんだが、古い映画のレイトショーをやるんでそれを観に行くとか言ってたな。一人で映画観に行ってどこが面白いんだか、判らねぇな。俺だったら、気に入った女の子引っ掛けて映画の後に甘~いデートとしゃれこむんだが」
「おっと、二号。その映画の内容がエロいのだったから楽しみにしていたのかもしれないじゃないか。それだったら一人で行くんじゃない?」
 一人で行った事が信じられないと言うように溜息交じりで話す二号に、陸は自分で冴えていると思った推理を披露する。
「駄目だ。それだったら尚更二人で観に行く。その方が楽しい」
 だが、二号はその推理を一蹴した。
「なるほど。そういう考え方もできるね」
「くだらない事を言ってる場合じゃないと思います」
 湊は、二人の会話の聞きながら眉間に皺を寄せている。その様子を見てさすがにふざけすぎたと感じた陸は、二号にその映画に関する情報を聞いた。
「一人で古い映画を観に行くって言ってたけれど、何を観に行くのかって聞いてない?タイトルとか」
「お前達が生まれる前の奴だぜ。確かタイトルは『荒野の星』だ」
「判ったよ、ありがとね!」
 陸は、タイトルを復唱してそこから去る。湊もそれに続いた。
「征市を頼むぞ!」
 最後に二号の口から出た祈りにも似た響きの言葉に、陸は右手の親指を立てて答えるのだった。

 Y市の市営地下鉄でQ区の最寄り駅から二駅のところにI崎はある。Q区が明治時代に多くの外国人が住み、教会やガス灯などの西洋風の建築物が増えていったのに対し、このI崎は、最近になって外国人が多く住むようになった町だ。モダンな建物が多いQ区に対してI崎は近代的な建築物が多い。輸入食品の専門店も多く、陸は途中で立ち寄った店で派手な色をした菓子を買っていた。
「次の角を曲がったところですね」
 湊は、地下鉄を降りた後に確認した地図の情報を思い出しながら歩く。駅を出てから十五分近く歩いていて、賑やかな場所からは遠ざかっていた。
 角を曲がった二人が見たのは、彼らがよく知っているショッピングセンターと一体型になったようなシネマコンプレックスではなく、古ぼけた大きな建物だった。ガラス越しに見たポスターの中に、陸や湊が知っているような新しい映画はない。その中に二号が言っていた『荒野の星』のポスターもあった。銃を持った若い保安官と、いかにも悪人といったような雰囲気の赤ら顔の男が写っている。西部劇のようだ。
「古い映画だって二号が言ってたんだから、ここに間違いないかもね。入ってみようか」
 扉を開けて二人は中に入る。二人が最初に目にしたのは、長いテーブルと安物のソファだった。観客が映画を観た後に歓談するために用意してあるようだが、土曜日であるにも関わらず、そこには誰も座っていなかった。
 歓談のためのスペースを通り過ぎると、右手に自販機があり
「うお!やったよ!ここ、ジュースが一本百十円だ!他のより十円安い!」
と、陸が喜んでいた。その先に受付があり、眼鏡をかけた小柄な老人がその中で座っていた。
「あの、すいません」
 湊に声をかけられて、老人は初めて客に気がつき、立ち上がる。
「やあ、いらっしゃい。昨日に続き、若いお客さんが来るなんて珍しい事もあったもんだ」
 ゆっくりした口調でそう言うと、老人は何を観るのか二人に聞く。
「あ、ごめんね。僕達、映画を観に来たんじゃないんだ。ちょっと人探しをしてて、その人が昨日、ここに『荒野の星』ってタイトルの映画を観に来たって聞いたんだけど」
「ああ、『荒野の星』ね。あと二十分くらいで始まるよ。代金は一人八百円ね」
「いや、だから観に来たんじゃなくてね」
「昨日も赤いブレザーの若い子が観に来てたよ。若い人が来るなんて珍しいのにねぇ」
「赤いブレザー!?」
 老人の言った「赤いブレザーの若い子」という言葉が二人の耳を刺激し、彼らは同時にその言葉を呟く。
「昨日来たって事はやっぱり、セーイチさんか。じいさん!その人、映画を観た後、どこに行ったから判る?」
「いや、判らないねぇ」
 手掛かりを期待した陸だったが、老人の言葉は素っ気ない。老人の煮え切らない言葉に苛立ちながら、陸は征市の行先を考えていた。
「おじいさん、『荒野の星』を見せて下さい」
 陸が手掛かりの少なさに悩んでいると、湊が財布から金を出してチケットを買おうとしていた。
「湊君。映画なんか観てる場合じゃないんじゃないの?いや、決して金がないからそう言っているわけじゃないよ?」
 突然の湊の行動に驚き、同時に財布が入っているポケットを抑えながら陸がそれを止めようとして手を伸ばす。だが、湊は陸の手を握って止めた。
「この映画館の出入り口はここ一つしかありません。もしかしたら、ここを征市さんは出ていないんじゃないですか?」
「出ていなかったらどこにいるのさ。映画館から出ずにかくれんぼでもしてるって言うのかい?」
「出ないんじゃなく、出られないと思います。プライズか何かのせいで」
「まさか……ねぇ?」
 確かに、デュエリストであっても対処に困るような強力なプライズが存在する事は事実だ。だが、陸には征市がそのプライズによって拘束された事が信じられなかった。
「この映画館の中に手掛かりがあるのか。この映画に手掛かりがあるのかは観てみないと判りません。調べてみる価値はあると思いますよ?」
「判ったよ……」
 陸は財布の小銭入れの部分を開ける。そして、その中から百円玉五枚、五十円玉二枚、十円玉八枚と五円玉三枚、一円玉五枚を取り出した。受付のカウンターに細かい小銭が散らばる。
「さようなら、僕の全財産……」
「帰りの電車賃はどうするんですか?」
「ごめん、貸して頂戴」
「……陸さんって、本当に僕より年上なんですか?」
 泣き出しそうな顔で財布の中を見ている陸と、呆れた顔で彼を見ている湊は、チケットを手に劇場へ進んだ。
 中にある劇場も二つしかなく、二人が入ったのは教室ほどの大きさしかない部屋だった。湊は、ロビーのソファにも誰もいなかったが、ここにも誰もいない事に驚き、陸は、座席にドリンクのホルダーがない事を嘆いた。二人が中央に着席してしばらくすると場内が暗闇に包まれ、映画が始まる。
 古さを感じさせる音楽と共に二人の目に飛び込んで来たのは、砂の道と木でできたいくつかの家。馬に乗って移動する人々や馬車。よくある西部劇の光景だった。
「男、多いな。もっと、こう……巨乳のヒロインとか出ないもんかな?僕が監督だったら、そういうの絶対に出すのに」
「陸さん!」
 湊の鋭い声が聞こえる。陸は、さすがに上映中に騒ぐのはよくないと感じて
「はいはい、判りました。静かにしますって」
と、湊に答えて画面に注目する。だが、その反省した陸の袖を湊が引っ張った。
「だから、何さ!全財産出したんだから、その分楽しみたいんだよ!」
「そうじゃなくて、あれ!あそこにいる人を見て下さい!」
 湊に言われて陸がスクリーンを凝視すると、その中に一人だけ日本人の青年がいる事に気がついた。赤いブレザーではなく、黒いベストにシャツ、腰にガンベルト、ジーンズにブーツ、頭にはカウボーイハットという見慣れない服装だったが、そこにいるのは相羽征市だった。
「何で、セーイチさんが映画に出てるんだよ!ちょっと待てよ!」
 陸は、席を立ってスクリーンに走り寄る。湊も座席から腰を浮かしかけた。その瞬間、スクリーンが白い光を放つ。二人は映画の演出かと思ったが、目を開けていられないほどの光が人々を襲う演出などあるはずがない。目を閉じた二人は、そのまま眠るように意識を失っていった。

 陸が目を覚ますと、目の前にホットサンドを食べながら自分を見ている顔があった。丸く太ったその顔の持ち主は、陸が目覚めたのに気が付くと、近くにいた青年に
「アイバ、お前の知り合いが起きた!」
と、告げた。ホットサンドの細かいかすが落ちてきて顔にかかったので、陸はそれを払いながら体を起こす。
 自分の顔にホットサンドの食べかすをつけた男に文句を言ってやろうと思ったが、その前に部屋を見た。天井では静かにファンが回り、壁には「WANTED」の文字が走るポスター。下に数字が入っている事や中にはバツの字になるように赤いラインが引かれている事から、そのポスターが手配書である事が判る。電話の近くで待機していた青年は、椅子から立ち上がり、こちらを見た。
「よぅ、陸。やっと起きたか」
「セーイチさん!?」
 そこにいたのは、行方不明だったはずの征市だった。彼を見て、陸の中には色々な疑問が生まれ、それを言葉にしようとするのだが、なかなかまとまらない。それを見て言いたい事を察したのか
「陸。この世界は何なのか、何故、俺達がここにいるのか説明するから少し待ってろ」
と、話しかける。
「この世界は『荒野の星』の映画の中だ」
「冗談、でしょう……?」
 信じたくなかった。だが、征市が映画の中に映っていた事を考えると、陸と湊が映画の中に入ってしまったと考える方が自然なのかもしれない。
「理由は判らないが、俺達は映画の中に引きずり込まれたみたいだ。俺をこの映画の中に入れてくれるとはな……」
「やっぱり、早く出たいですよね?」
「馬鹿言うな」
「へ?」
 常識的な返答を期待した陸だったが、何故か征市の口から出たのは予想外の言葉だった。征市は、今まで陸が見た事のないような笑顔で目を輝かせながら
「だって、『荒野の星』の世界だぞ?俺の大好きな映画の世界だ。俺が子供の頃、何度この世界に入りたいと思った事か……。何度も想像したんだよ。この世界でアーニーと一緒になってギャングのボスをやっつける自分の姿を……!思いがけない形で願いがかなったぜ!」
と、力強く言葉を吐き出しながらその辺りを歩いた。
「あー、そうですか。ところで、アーニーって誰?確か、そんな名前のクリーチャーいましたね」
 陸の質問に征市は口を丸くして目を見開く。
「お前、それ本気で言ってるのか?アーニーって言ったら、この映画の主人公で町を守る保安官だろうが!父親がバラードファミリーっていうギャングのボスに殺されて、その父親の意思を受け継ぎ、仇を取るために保安官になったんだけれど、自分でこの町を守れるかとか、本当にギャングのボスに勝てるのか、とか色々悩んで一人前になるヒーローだよ!」
「僕達、この映画見るの初めてなんだから知りませんって!」
 そこまで言った後、陸は再び周囲を見る。この部屋には、征市と陸以外にホットサンドを食べている太った男しかいない。湊の姿がないのだ。
「セーイチさん、湊君は一緒じゃなかったんですか!」
「心配すんなって。湊もお前と一緒だったよ。服が汚れたから、着替えているだけだ。お前ら、道端に倒れていたんだからな。お前も後でシャワー浴びて着替えて来いよ」
「判りました。……覗くなよ?」
「誰が覗くか」
 その後もしばらく征市と陸はこの世界に関する話を続けた。ホットサンド男の名前はキース。アーニーと共にこの町を守る保安官として働いている男で、彼の幼馴染だ。征市も保安官としてアーニーとキースに認められ、一緒に町を守っている。
 物語は、クライマックスが目前に迫っている。バラードファミリーの襲撃予告を受けて怖気づいたアーニーは、一度町を逃げ出す。しかし、逃げた先で精神的に成長して町に帰って来てギャングのボスと対決するのだ。
「もうすぐバラードファミリーの襲撃が始まるぜ。その後にアーニーの登場だ」
「町が襲われるっていうのに、結構嬉しそうっすね」
 ガンベルトについた銃を磨きながら微笑む征市を見た後、陸は、もう一度壁に貼ってある手配書を見た。その中に、ポスターにあった赤ら顔の男の手配書がある。賞金の額も一番高い。
「それが、ギャングのボスだ。覚えておけよ」
「これから戦いに行くみたいな感じですね」
「戦いに行くんだよ。アーニーが戻ってくるまで、俺達が町を守るんだ。で、そいつはアーニーが倒すんだから、間違って撃つなよ。判ったな?」
 征市は、陸に向かって念を押す。
「間違って、セーイチさんを撃ってもいいですか?」
「じゃ、俺も間違って陸を撃つけれど、いいよな?」
「あの……」
 征市と陸がにらみ合っていると、静かな遠慮しているような声が聞こえた。二人が、声のした方を見ると、そこには、征市と同じようにシャツやカウボーイハットなどの服装で身を包んだ湊が立っていた。長い黒髪はまとめてアップにしていて、下は黒のホットパンツだった。
「女の子みたいだ」
 二人の声が重なる。
「僕は男ですよ。陸さん、空きましたから、次どうぞ」
 陸は、湊が手で示したシャワールームに入っていく。湊は、陸が寝ていたソファの上に腰かけた。
「征市さんは、どうしてこの世界が僕達を呼び寄せたか考えていますか?」
 この映画の中の世界にとって征市達三人はいてはいけないはずのイレギュラーな存在だ。しかし、三人が加わっても物語に支障をきたす事はなかった。
「俺達という『異物』を取り込む事にどんな意味があったのか。それを考えているんだが、さっぱり判らない。映画の内容は俺が観た内容と変わった点はほとんどない。変わった事と言えば、キースが活躍するシーンを俺が奪っちまった事くらいだ」
「このまま映画が終わったら、僕達どうなっちゃうんでしょう?出られるんでしょうか?」
「無事に終わればいいけどな」
 下を向く湊に征市が言う。その声は、少し前までこの世界にいる事を楽しんでいた人物と同じ人物が言ったとは思えない重い響きを持っていた。
「さっきも言ったように、この世界は俺達という『異物』を三人も取り込んでいるんだ。影響がまったくないとは思えない。今までは俺一人だったけれど、三人に増えたから何か変化が……」
 征市が話している途中で、体中の血液を揺らすような重い音が響き、この付近一体の地面が揺れた。征市と湊は鼓膜が破れてしまいそうなほどの暴力的な音に驚き、不快さに顔を歪めた。
「ア、アイバー!大変だ!と、ととと!とにかく大変なんだ!」
 キースが部屋の中に入って来て、両手両足だけでなく、体中を動かしながら説明しようと試みる。だが、文章にまとめきれない。
「大変なんだな。判った。とりあえず、お前は食べかけのホットサンドをコーヒーで口の奥に流し込め」
 キースに指示を出した征市は、湊に目で合図する。その意図を理解した湊は、征市と一緒に外に出た。
 外に出た征市と湊。それに遅れてやってきたキース。そして、シャワーの途中で出てきたのか、まだ髪が濡れている陸を含む四人は、何か計り知れない巨大な力で破壊された町を見ていた。店も家も、原型をとどめないほどに破壊されている。
 四人は振り返ってその悪事を行った巨大な物体を見る。金属でできた四角い体。その背中から伸びて先から煙が出ている筒状の物体。獣であれば足があるはずのスペースには、悪路を走破するためのキャタピラがついていた。
「戦車、かよ……」
 征市達の目の前にあるのは戦車だった。そして、その上に一人の男が立っている。
「アーニー!お前、何やってるんだ!」
 征市は、拳がつぶれてしまいそうなほど強く自分の手を握り締めながら叫ぶ。戦車を撫でながら彼らを見ているその人物は、この町を救うヒーローのはずのアーニーだった。だが、彼は戦車で町を撃ったのだ。
「アイバ、俺はこの世界を壊してここを出て行く」
「何言ってんだよ。そんな事できるわけないだろ?」
 淡々と話すアーニーに対して、征市は怒りと少しの悲しみが混ざった震える声で聞く。
「お前達がこの世界に来てやっと確信できたんだ。お前達がこの世界に入ってきたように、俺達も外へ出る事ができる。お前達と入れ替わりに出られるはずだ」
 戦車の大砲が征市達に向く。
「おい……。冗談だろ?こっちにはキースだっているんだぜ?」
「アイバ、キース。ごめん。俺の自由のために死んでくれ!」
 アーニーの言葉が終わるのと共に発射される弾丸。征市達の元に到達したその弾丸は、そこにいる生き物全てを焼きつくすような熱と、世界の全ての音をかき消すような爆音を体から噴き出した。彼らの死の証明のように、煙が立ち上る。
「じゃあな、アイバ。お前が俺に憧れているって言った時、正直、ものすごく嬉しかったんだぜ。何度も 同じ世界で同じ出来事を繰り返す事しかできない俺に憧れているなんて……」
「そう言うんだったら、俺にもっと格好いい姿を見せてくれよ」
 煙の中から征市の声が聞こえる。耳を疑ったアーニーは、両の目を凝らしてその中から征市の姿を探した。風が吹き、煙が晴れる。その中から現れたのは、傷一つない姿で立っていた四人と、彼らを守るように立ちふさがる五枚の赤いシールドだった。
「やれやれ……。まさか戦車の砲撃を受け止める日が来るとは思わなかった」
 乾いた声で征市が笑うと、アーニーを鋭い視線で射抜いた。
「何で生きてるんだよ!これだったら、世界もお前達もぶっ壊せるってもらってきたのに!」
「お前が誰からそれを受け取ったかは聞かない。だが、これだけは言っておくぜ、アーニー」
 五枚のカードを左手に持った征市は、右手でアーニーを指して、厳粛に判決を言い渡す裁判官のように宣告する。
「ヒーロー交代だ。お前は今から倒されるべき悪役で、俺がこの物語のヒーローになる」
「嘘だ!俺はヒーローだ!お前を殺して、お前の世界に行って、そこでヒーローになるんだ!」
 アーニーは、戦車から降りると懐からカードを取り出す。デュエル・マスターズカードだ。
「征市さん!アーニーもデュエル・マスターズカードを!」
 五枚のシールドを展開し、征市を睨むアーニーを見て湊は叫ぶ。この映画に存在しないはずの戦車を使っただけでなく、一部の魔法使いしか操れないはずのデュエル・マスターズカードを持っているのだ。湊だけでなく、陸も驚いてアーニーの手の中にあるカードを見ていた。
「ここまでは予想済みだ。俺達を消すために、戦車と一緒に渡されてたんだろう。アーニーにいらん事を吹き込んだ奴は、相当俺達が気に食わないみたいだな」
 征市は、冗談のような口調でそう言いながら、菜央が話していたトライアンフを狙っている敵の事を思い出した。征市達をこの映画の世界に連れ込み、アーニーに戦車とカードを与えたのは、その敵がやった事なのかもしれない。
「アイバ、アーニーを頼んだよ。俺、アーニーの友達なのに、なんにもできなくて……」
 後ろでキースが元気のない声を出す。本当の映画の中では、アーニーが間違えた道に進んだ時、それを正すのはキースの役目なのだ。
「大丈夫だよ、キース。お前にできる事は必ずある。そして、アーニー。見せてやるぜ、『ウソのようなホントウ』って奴をな!」
 征市の啖呵と共に戦いが始まった。
 先に動いたのは、アーニーだ。光のマナを一つ吸収した彼のカードがすぐに丸いクリーチャーに姿を変えていった。《予言者ジェス》。1マナで召喚できるパワー2000の特殊能力のない平凡なブロッカーだ。
「俺がクリーチャーを出す前からブロッカー召喚か。だったら、こっちはパワーで対抗だ!」
 征市の手元にあるカードに火と自然のマナが一つずつ集まっていく。マナを得たカードは、征市の手元を離れて槍を持った人型のクリーチャーに変化していった。《無頼勇騎ゴンタ》。《ジェス》が平凡なブロッカーなのと同じように、このクリーチャーも特殊能力のない平凡なクリーチャーだ。だが、2マナで4000という高いパワーを持つ。
「《ゴンタ》のパワーだったら、《ジェス》と戦っても超えられる。さすがセーイチさんだ」
「それに、征市さんのデッキにはブロッカーを破壊する効果をクリーチャーに追加する《デュアル・スティンガー》があります!アーニーのデッキが防御をメインにしたデッキだったら……!」
「行けるね。セーイチさんの圧勝かな?」
 湊と陸の視線を集めながら、戦いは続く。
「《青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)》召喚!そして、《ゴンタ》で攻撃!」
 2ターン目にクリーチャーを召喚できなかったアーニーに対して、征市は二体目のクリーチャーを召喚しマナを増やしながら攻撃を開始する。《ゴンタ》がシールドを割った瞬間、その下の地面に真っ黒な穴が開く。何もない完全な闇を思わせる黒い空間から、同じような色をした何本もの手が出てきてその中に《ゴンタ》を引きずりこんだ。《ゴンタ》の体が穴の中に消えた瞬間、その穴は閉じる。穴があったところに、《ゴンタ》が吸い込まれないように抵抗して地面を引っ掻いた爪痕が痛々しく残っている。
「シールド・トリガー、《デーモン・ハンド》か」
「俺のシールド・トリガーはこれだけじゃないぜ。攻撃をするんだったら、覚悟しておけよ!」
 アーニーは、二体目のクリーチャーを召喚する。ガラスで出来たような透明の外装の中にいるサイバーロード、《クゥリャン》だ。《クゥリャン》の外装についていたマニピュレーターが、アーニーに山札の上のカードを一枚渡す。
「防御の光にドローの水、そして破壊の闇か。さらにシールド・トリガーでの防御もしてある。簡単にはいかないみたいだな」
 征市は《トリプル・ブレイン》を使った。カードから出た水流が征市の手元に三枚のカードを運ぶ。その中には、《青銅の鎧》から進化できる《大勇者「ふたつ牙」(デュアル・ファング)》も入っている。征市は攻撃をせずに動きを止め、ターンを終了した。
「いいカードを引いたみたいだな」
 山札からカードを引きながら、アーニーが征市に聞く。
「さあ、どうかな?」
 曖昧な態度を取ってはぐらかす征市を見ながら、アーニーは一体のクリーチャーを召喚した。《電磁聖者ウォルミル》。水で出来たような丸いサイバーロードの体に、金色の勾玉のような腕がついたクリーチャーだ。《ウォルミル》の両腕が光の輪を発射し、《青銅の鎧》を拘束する。バランスを崩してその場に倒れた《青銅の鎧》の上に《ジェス》がのしかかった。
「《ウォルミル》は相手のクリーチャーをタップする力がある。アイバ、お前のクリーチャーは攻撃する前に倒させてもらうぜ。さらに、シールドももらった!」
 《クゥリャン》がマニピュレーターでシールドを突き刺す。カードに戻ったシールドは征市の手元に飛んでいった。
「さすがだよ、アーニー。一瞬、俺を幻滅させたけれど、やっぱりあんたは最強のヒーローだ」
 征市は、アーニーを褒め称えながら、一枚のカードを手札の中から引き抜く。燃え盛る炎のような赤い光を放つそのカードにマナが与えられ、征市の手元を離れた時、カードは炎の塊となってアーニーのシールドへ飛んでいった。
「だが、それでも俺は負けない!《ボルシャック・大和・ドラゴン》!シールドを叩き割れ!」
 炎を振り払って場に出た《ボルシャック・大和・ドラゴン》を止められるクリーチャーはいない。アーニーのシールドを守っていた《ジェス》は、《青銅の鎧》を攻撃した時にタップされてしまったからだ。ガラスが割れるような音と共に砕け散る二枚のシールド。シールド・トリガーが多めに入っているデッキだが、その中にシールド・トリガーはなかった。
「シールドが残り二枚か。じゃあ、増やすしかないな」
 アーニーは二枚のシールドをブレイクされた事に驚く素振りすら見せず、一枚のカードを表向きにして征市達に見せた。全員がそのカードを見て息を飲み、目を見開いた。アーニーのそのカードに光と水のマナが加わり、それと同時に彼の支配下にあった《ジェス》と《クゥリャン》がカードに戻って空へ舞い上がった。空を舞う二枚のカードは円を描くようにして飛び、それによって巻き起こされる風が渦を作り始める。アーニーはその中心に持っていたカードを投げつけた。激しい輝きと共に渦が消え、中から一体のクリーチャーが現れる。
「これが俺の切り札だ。その名も《英霊王スターマン》!」
 表面が金属のように輝いた人型のクリーチャー、《スターマン》は両手の先に光を集めている。左手の青い光は、アーニーの山札に触れ、その一番上のカードをシールドへ変化させた。シールドへと変わったカードがアーニーを守るように立つ。そして、右手の金色の光は槍のように鋭く変化し、《スターマン》はそれで征市の《ボルシャック・大和・ドラゴン》を斬りつけた。パワーでは《スターマン》の方が勝っているため、傷口から火花をまき散らしながら《ボルシャック・大和・ドラゴン》は倒れる。
「どうだ、アイバ。パワーが9000もある、W・ブレイカーの切り札。充分な攻撃力を持っていて、さらに攻撃した時と場を離れた時にシールドを増やす力も持っている。攻防一体の俺の切り札を倒せるか!」
 切り札を失った征市に追い打ちをかけるように《ウォルミル》が彼のシールドをブレイクする。その中にも、シールド・トリガーは入っていない。
「シールド・トリガーはなしか。だったら、こいつで……!」
 征市が取り出したカードが緑色の輝きを放った瞬間、腕を組んで立っていた《スターマン》の腕にツタが巻きつく。《スターマン》がそれに気づいた時には、ツタは全身を覆っていた。《ナチュラル・トラップ》を使って《スターマン》をマナにしたのだ。
 しかし、場を離れながら《スターマン》は左腕を伸ばしシールドを増やした。その中には、シールド・トリガーが入っているかもしれない。
「どうした、アイバ。俺を倒すんだろ?」
 アーニーは、挑発的な視線で征市を見ながらオブジェのようなクリーチャーを召喚する。そのクリーチャー《曙の守護者パラ・オーレシス》は、征市のターンにアーニーのクリーチャーのパワーを2000増やすカードだ。ブロッカーでもあるため、征市のクリーチャーの攻撃から仲間やシールドを守る事も可能だ。
「シールドもブロッカーもどんどん増えていくぞ。そして、もう一丁!」
 《ウォルミル》が再び征市のシールドをブレイクする。そこにも、シールド・トリガーはない。
その後も、皆が見守る中、デュエルは続いていった。強力なパワーのクリーチャーでブロッカーを蹴散らしながらシールドをブレイクし続ける征市の攻撃に対して、アーニーのシールド・トリガーが征市の攻撃のテンポを崩していく。
「《ボルシャック・大和・ドラゴン》でシールドをW・ブレイク!」
 征市のクリーチャーは二体。どちらも《ボルシャック・大和・ドラゴン》だ。シールドは二枚残っている。
アーニーのクリーチャーは《クゥリャン》一体のみ。残っていた二枚のシールドも、今の《ボルシャック・大和・ドラゴン》の攻撃によって破られてしまった。残っていた《ボルシャック・大和・ドラゴン》が刀を抜き、構える。
 だが、突如膝をつき、行動を停止してしまった。見ると、大きな手が生えたような丸いクリーチャーが目の前に立っていた。
「シールド・トリガーが多いって言っただろ?シールド・トリガークリーチャー《予言者コロン》だ」
 《予言者コロン》は《ウォルミル》などと同じように場に出た時に相手クリーチャーを一体タップできるクリーチャーだ。シールド・トリガーもついているので、今回のように瀬戸際で相手の攻撃を止める事もできる。
「このままだと負けちまうな。どうするかな」
 アーニーは、腕を組んで熟慮するポーズを取る。だが、その顔は隠そうとしても隠れない笑いで彩られていた。そして、充分な時間を取った後、一枚のカードを場に投げる。
「やる事はこれに決まっているけどな」
 《コロン》と《クゥリャン》が渦を巻き、アーニーが投げたカードを中心に融合する。再び、アーニーの《英霊王スターマン》が姿を現したのだ!
「《スターマン》!《ボルシャック・大和・ドラゴン》を攻撃し、シールド回復!」
 《スターマン》の金色をした光の槍が《ボルシャック・大和・ドラゴン》の鎧を貫き、体を突き破る。そして、青い光がシールドを増やした。
 破壊される切り札。増えていくシールド。征市は、このまま、ただ攻撃を続けるだけではアーニーを倒す事はできないと感じた。
「どんどんシールドを増やしやがって。シールドさえなければここで直接攻撃ができたのに……」
 そこまで口に出して、征市は自分の手札を見る。うまく行けばこのターンで勝てるかもしれないのだ。
「俺のデッキに《ボルシャック・大和・ドラゴン》はもう入っていない。だが、この切り札がある!」
 征市が場に投げたカードから姿を現したのは、紅い鱗で全身を武装した長い体の龍、《紅神龍ジャガルザー》だ。
「なんだよ、そりゃ。出したのはいいが、召喚酔いしているじゃないか!笑わせるぜ」
 アーニーは、笑おうとして顔の筋肉を引きつらせるが、表情は笑顔にならない。その場にいる誰もが判っているのだ。このターンで決着がつくと。
「無理すんなよ、アーニー。《紅神龍ジャガルザー》はターボラッシュを持つクリーチャーだ。こいつのターボラッシュ能力は、他のクリーチャーがシールドをブレイクした時、自分のクリーチャーを全てスピードアタッカーにする能力。《ボルシャック・大和・ドラゴン》がシールドをブレイクすれば《ジャガルザー》の召喚酔いも解除される!」
 《ボルシャック・大和・ドラゴン》が飛び上り、頭上に掲げた刀でアーニーの最後のシールドを真っ二つに切り裂く。シールドは、その場にいる者達の視線を集めながら爆発と共に砕け散った。そのカードはシールド・トリガーではない。
 それを見て《ジャガルザー》が天にも届くような大きな声で吠え、アーニーに近づく。アーニーの目の前まで来た瞬間
「ストップだ、《ジャガルザー》!」
という、征市による静止の声がかかった。お預けを食らった犬のような目をした《ジャガルザー》は、振り向いて征市を見る。
「アーニー、お前の負けだ。お前には、この世界で生きるしか道はない」
 征市に改めて現実を突き付けられて、アーニーは手札を落とし、膝をつく。征市はそれを見てカードをデッキケースに戻した。
「俺はずっとずっと……いつまでこの映画の世界にいなきゃいけないんだよ!誰も見ていないような世界で、いつまで……!いつまで……」
 途中から泣き声のようなものが混ざる。征市がアーニーに何か言おうとした時、キースが彼に近づく。
「誰も見ていない世界なんかじゃないさ。アイバは俺達の映画を楽しんでみてくれたし、ここにいる間、楽しんでくれた。アーニーだってそれは判るだろう?」
 キースは、相棒の肩に手を置く。その瞬間、アーニーの言葉にうっすら混ざっていた泣き声が激しい嗚咽に変わった。
 それを見守っていた征市達三人の周りが激しい光に包まれる。白い光の中で、征市はアーニーに向かって叫んだ。
「アーニー!まだ終わってないんだ!この世界の正義の味方が活躍しなくちゃ終われないんだよ!ずっとお前に憧れていた俺に見せてくれよ、最高のクライマックスを!」
 光が消え、征市達の姿も消える。消えたのは、征市達だけではない。アーニーの手元にあったデュエル・マスターズカードも戦車も消えた。そして、アーニーが壊した町も元に戻っていく。
「アーニー、ここに戻ってきやがったのか」
 低い声がアーニーとキースの背後から聞こえる。振り返ると、そこには赤ら顔のギャング率いる数人の男達がいた。指名手配になっているバラードファミリーだ。宿敵の姿を見つけて、アーニーとキースは立ち上がる。
「逃げたと聞いていたが、また戻って来やがったか」
「ああ、本当に大事なものが判って、それを守る事にしたからな」
「大事なもの?女でも守るつもりか?白馬の王子様気取りか」
 アーニーは首を横に振る。アーニーの大事なものはもっと抽象的なものだ。彼にも詳しくは言えないが、心の奥底でしっかりと理解している。
「白馬の王子様なんてガラじゃねぇよ。名乗るんだったら……そうだな」
 アーニーはしばらく考えると指を鳴らした。
「俺が名乗るんだったら、正義の味方の方がいいに決まってる」
 アーニーとボスが銃を抜く。アーニーが元のアーニーに戻った事を理解して、ボスは一瞬、笑った。父親が子供の成長を見て微笑むような、ギャングのボスらしくない笑顔だ。
「行くぜ、キース。ちゃんと援護しろよ」
「判ってるぜ、相棒。お前こそ、調子に乗って的を外すなよ!」
 二人の保安官がギャングのファミリーに立ち向かう。バラードファミリーのメンバーも銃を抜いて応戦した。

 映画が終わり、主題歌と共にエンドロールが流れる。どこか呆けたような顔でスクリーンを見ていた陸と湊は、征市の手を叩く音を聞いていた。三人の胸に、言葉で表しにくい何かが残った。
 映画館を出るまで、三人は無言だった。外はすでに暗くなっていて、蛍光灯の光が夜のI崎を照らしている。
「あの映画、じいさんが俺をあの映画館まで連れて行ってくれたんだよ。俺が生まれて初めて観た映画なんだ」
 二人に語りかけるように、征市がゆっくり話し始めた。夜風を受けて彼の赤いブレザーの裾が舞う。
「最初は、どこがおもしろいのか判らなかった。だけど、どんどん進んでいく内にアーニーを応援している自分に気がついたんだ。あの時の思い出、バラードファミリーのボスに勝つアーニーの姿、その全てを今でも思い出せる」
 征市は、今でもその思い出を忘れた事はない。だからこそ、この映画を観に来たのだ。
 映画が終わったら、アーニーの役目も終わってしまう。そして、最初からその世界の物語を始めなければならないのだ。アーニーはそれに気づき、それに抵抗した。何度も自分の世界を繰り返す事が自分の役目だと気付いた彼は、これからあの世界でどうやって生きていくのだろうか?
 想いが少しずつ夜の街に溶けていくのを感じながら、三人はトライアンフの事務所に向かって歩いていた。

  『File.8 魔法のランプ』につづく

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