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デュエル・マスターズ初心者向けを意識した記事を書いています。
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 デュエル・マスターズ。
 それは、魔力によって生み出された四十枚のカードを使用する戦闘魔法の奥儀。
 これは、デュエル・マスターズカードを使って戦う若者達の『ウソのようなホントウ』の物語である。
 仕事の時間になってもトライアンフの事務所に来ない征市(せいいち)を心配した菜央(なお)は、陸(りく)と湊(みなと)に様子を見に行くよう命じる。征市の家で二号から彼が昨晩出て行ってから帰っていない事と彼の行先を聞いた二人はI崎に向かう。I崎にある古い映画館に向かった二人は、そこで征市が観た『荒野の星』を観ている最中に映画の世界へ閉じ込められた。そこで征市と再会した二人。再会を喜ぶのもつかの間、その世界を『荒野の星』の主人公、アーニーが破壊し始めたのだ。征市はアーニーを止め、改心した彼を見て映画の世界を去る。映画の余韻に浸りながら、三人は夜のI崎を歩いた。

 File.8 魔法のランプ

 征市は、姿見に自分の全身を映してコインを使った手品の練習を行う。右手にあったはずのコインが上着のポケットから出てきたり、数が増えたり、いきなり消えたりする基本的な手品だ。鏡を見ながら、無駄な動きはないか、タネや仕掛けが見えていないか、表情が硬くなっていないかをチェックする。これを終えた後、他の様々な手品の練習に映るのだ。
 一週間に一度訪れるトライアンフの仕事もデパートでの実演販売もない休日がやってきた。征市は、この休日を手品の練習に当てるようにしている。練習は毎日やっている事だが、何もない休日は一日かけてじっくり練習ができる。今までできなかった事ができるようになる日はこの日が多く、上達したという感覚を得られる事も多い。
 二時間ほど練習をした征市は、休憩のためにその場を離れた。邪魔をしないように静かにして待っていた二号も飛び上がって征市に近づく。
『大分上達してきたじゃねぇか』
「だろ?でも、まだまだだな。自分で見ていて判るんだが、覚えたての奴はまだまだ無駄が多い。もっと早く動けるようにしたい」
 薬缶をコンロにかけ、紅茶の葉を戸棚から取り出しながら二号の言葉に答える。どれだけ上達しても、満足してはいけない。満足したら、そこで成長が止まってしまうからだ。
 征市が、祖父が住んでいた頃からあるティーセットを取り出した時、呼び鈴が鳴った。火を止めて征市は玄関に移動し、二号もついていく。
 ドアを開けると、そこには陸と湊が立っていた。陸は新しい玩具を買ってもらった子供のような満面の笑みを浮かべて立っていた。
「気持ち悪い顔してんじゃねぇよ」
 それが、陸の顔を見た征市の素直な感想だった。
「セーイチさん、日本でも有数の美形を捕まえて何言ってるんですか」
「よう、湊。学校はもう終わりか?」
 陸の存在が視界に入っていないかのように振舞いながら、征市は湊に話しかける。
「こんにちは、征市さん。授業はもう終わったので、途中でトライアンフの事務所に寄って来たんです」
「そうか。紅茶淹れてるから中に入れよ」
「お邪魔します」
「お、いいね。じゃあ僕もご馳走になろうかな?」
「あれ?お前、いたの?」
「ひどっ!そんな冷たい事言わないで僕にも紅茶下さいよ!」
「判ってるよ。冗談だ」
 征市はいたずらをした子供のように意地悪く微笑むと、二人を家の中に入れた。見ると、陸は近所のスーパーの買い物袋を持っていた。
「何だ、陸。俺の夕飯の買い物までしてくれたのか?」
「これについてはこれから話します。湊君、あれ見せてあげて」
 陸に言われて湊は持っていた鞄から何かを取り出す。ティーポットに似た金属製の入れ物だ。真鍮に似た色をしていて、表面の痛み具合からその入れ物がどれだけの長い歴史を生き抜いてきたのかが判る。
「これは何だ?随分、古いな」
 征市は湊からそれを受け取る。二号もそれを見た。
『征市、これはお前が探していた黄金のティーセットの一つ、黄金のティーポットじゃないのか!?』
「黄金のティーポット?」
 湊が二号に聞き返す。
『ああ、その昔、貴族が金に物を言わせて作った純金製のティーセットだ。純金であるだけでなく、超一流の職人が作ったため、表面の細工、そして形も完璧だと言われているティーセットだ。しかも、魔力を帯びているため、これで茶を飲んだ者は最強の魔法使いになれると言われている。伝説のティーセットは七つあり、今まで数多のコレクターやトレジャーハンターが人生を賭けて探したと言われるが、全て集めた者はいなかった。まさか、こんなところでお目にかかれるとはな。長生きはするもんだぜ』
「へぇ、じゃ、これすごいじゃないですか!」
 湊はその入れ物を見て興奮するが、征市と陸は醒めた顔をしていた。
「いや、どう見てもこれはティーポットじゃないだろ」
「そうですね。ティーポットであるわけがない」
「ティーポットにしては、横に長いし、上から力をかけて潰したような形になってないか?それに二号は長生きって言っても俺よりも長く生きていないじゃないか」
 征市達は入れ物を持ってダイニングに移動する。湊も、征市の手からテーブルの上へ移動したその入れ物を見ているとそれがティーポットではなく別のものだと判ってくる。
「その通り。これはカレー入れですよ!」
 陸は胸を張って自分の推測を口に出すと、買い物袋をテーブルの上に置いた。中にはじゃがいも、ニンジン、玉ねぎなどカレーの材料が入っている。
「今日はみんなでカレーを食べましょう。僕は一晩寝かせたカレーの方が好きなんですが、今回は仕方ないですね。セーイチさんも湊君も手伝って!あと、二号は邪魔にならないように待機!」
 材料を取り出しながら指示を出した陸は、台所へ消えていく。
「確かに、ティーポットじゃないけれど、カレー入れか?これ……」
 征市もレストランで皿に盛られたごはんとカレールーに分かれたカレーを食べた事があるから陸の言いたい事は判る。しかし、目の前にある入れ物は店で見かけるカレー入れとは違い、丸い蓋がついていて、しかも、入口が小さい。征市は、この入れ物はカレー入れとして使うよりティーポットとして使う方が向いていると感じた。
「せーいーちくーんっ!!」
 廊下を走る音と賑やかな声が聞こえて、征市と陸はドアを見る。二号は動く肖像画である事を悟られないように壁に張り付いた。
 ドアを開けて部屋に入って来たのは彩弓(あゆみ)だ。学校帰りらしく、手には通学カバンを持っている。
「入ってくるんだったら、呼び鈴くらい鳴らせよ」
「ドアが開いていたんだもんっ!それに征市君の家だし」
「勝手知ったる人の家って奴か?でもなぁ……」
「あーっ!!」
 征市が注意をするのも聞かず、彩弓はテーブルの上の入れ物を見つけて飛びつく。その時の声と素早い動きを見て湊は驚き、小動物のように体を一瞬だけ震わせた。
「ねぇねぇ!これって魔法のランプじゃない?征市君の家って古い物が結構あるけれど、こういうのもあるんだね!?」
 彩弓は、それを手に取って眺める。その目はまるで、生まれて初めて連れて行ってもらった遊園地で色々なアトラクションを見ている子供のような輝きがあった。
「征市さん、この人は……」
 人見知りをしているのか、湊が征市の後ろに隠れながら聞く。
「こいつは、一ノ瀬(いちのせ)彩弓。俺の近所に住む女子高生だ。信じられないかもしれないけれど、これでも陸や菜央と同い年なんだぜ」
 「女子高生」そして、「陸や菜央と同い年」のところで湊は疑うような目で征市を見た。何故なら、彩弓の身長は十二歳の湊より少し高いくらいでほとんど大差がないからだ。彩弓も湊に気がついたのか、初めて見る食べ物に興味を持った犬のような顔で近付いてくる。
「こんにちはっ!征市君、このかわいい子、誰?」
「セーイチさんが誘拐してきたんだよ」
 台所から陸が声を出して話に加わる。それを聞いて彩弓が一歩後ろに下がる。
「ゆ、ゆゆ、誘拐!?征市君にそんな趣味があるなんて……。征市君の馬鹿馬鹿っ!!」
「陸の言う事を真に受けんな。あと、陸も変な事を言うなよ」
 征市は後頭部を軽くかいたあと、湊の手を引っ張り自分の前に連れて行く。
「こいつは、若月湊。陸と同じようにサークルで知り合ったんだ」
 彩弓には魔法の事もデュエル・マスターズカードの事もトライアンフの事も話していない。彩弓が危険な事件に首を突っ込まないようにするための配慮だ。
 上目遣いで彩弓の表情を見ていた湊だったが、彼女の敵意が全くない笑顔を見て安心したのか右手を出して自己紹介を始める。
「はじめまして。僕は、若月湊です。よろしくお願いします」
 彩弓は、湊が差し出した手を両手で握る。そして、上下に振り回す。
「わたし、一ノ瀬彩弓だよっ!よろしくね、湊ちゃん!征市君にこんな小さい女の子の知り合いができるなんてびっくりだよ!」
「あ、あの……僕、男……」
「湊ちゃん、征市君の手品見た事ある?すっごくびっくりするんだよっ!」
 助けを求めるような視線で、湊は征市を見る。「適当に相手をしてやってくれ」と言い残して征市は台所に向かった。きびきびした動作で陸がカレーを作っている。元々手伝うつもりがなかった征市は手伝う事がなさそうなのを見て安心した。
「手際がいいな」
「僕はカレー大好きですからね。日本のカレーは最高ですよ!」
 陸はまな板から目を離さない。その視線は、プライズや悪い魔法使いと戦う時と同じくらい真剣だった。普段から真剣になればいいのに、と征市は思ったが、それは無理だという事にすぐに気がついた。
「あの入れ物、どこから持ってきたんだ?微かに魔力を感じる。プライズじゃないのか?」
「んー、そうかもしれないですね。実は、トライアンフの事務所に入った時に見つけたんですよ。リーダーの机の上に置いてあって」
「菜央が怒ったんじゃないのか?これをカレー入れにするって言ったんだろ?」
「リーダー、いなかったんですよ。これがカレー入れだって判ったから、カレーの材料を買いに行ったんじゃないんですか?だからこそ、普段がんばって働いているリーダーのためにおいしいカレーをご馳走してあげないと!ちゃんとリーダーの机にはセーイチさんの家でカレーパーティをしている事を書いたメモを置いてありますから、気にしないでいいですよ!」
「俺がカレーパーティをやる事を断るとは思わなかったのか、お前は」
 征市は溜息をつき、菜央がいなかった事について考えた。いい加減な性格の陸はともかく、他のトライアンフのメンバーが時間通りにトライアンフの事務所にいなかった事はない。菜央が勝手にいなくなる事は考えられない。
 征市が、菜央の居場所について考えているとダイニングの方から、ぽん、というシャンパンの蓋を開けた時のような音がした。聞き慣れない音を聞いた征市と陸はダイニングに向かう。
 ダイニングのテーブルの上に白い煙のようなものが充満していた。彩弓はそれを見ながら呆然としていて、湊は泣きそうな顔で征市を見ている。
「何があったんだよ!」
「ランプ……。やっぱり、魔法のランプだ!」
「何?」
 そこにいる三人が驚いている中、彩弓だけはその煙を見て興奮していた。征市と陸も煙に近づく。
「征市さん、彩弓さんがランプをこすったんです。魔法のランプだったら、願いをかなえてくれるかもしれないって。僕は、これがプライズかもしれないから止めたんですよ。ですけど……」
「判ってる。彩弓がそれを聞かずにこすったんだろ?」
「とんでもない子だな。僕ならそんな事はしませんよ」
「お前も似たようなもんだろ」
 湊から事情を聞いた征市と陸は、改めて煙を見る。四人に見られながら煙が消えていく。中から出てきたのは、禿頭で上半身が鍛えられた筋肉に包まれた男だった。頭部には、輝く青い宝石のようなものが埋め込まれている。下半身は煙に包まれていてよく判らない。その煙はランプの先に繋がっていた。
「嘘だろ……。本当に魔法のランプだったのか?」
 唖然とした顔でそれを見る征市。陸と湊もランプから現れた男に驚いていた。
「願いを三つかなえてやるじぇ」
 男は奇妙な語尾でその場にいる四人に語りかける。間違いなく、魔法のランプとそれに閉じ込められたランプの精霊だ。
「ほら、やっぱり魔法のランプだった!征市君みたいに言うなら『ウソのようなホントウ』って奴だね!どんな事を願おうかな~」
 彩弓は腕を組んで考える。だが、願いを考えるのは簡単ではない。かなえられる願いは三つだけなのだ。くだらない事で消費しないように熟慮する必要がある。
「願いをかなえてくれるのはいいけれど、その外見は何なんだよ。どうせ願いをかなえてくれるんだったら、巨乳で美人のねーちゃんにかなえて欲しい」
 陸がぼやくように言う。それを聞いた精霊の宝石が光った。
「その願い、かなえてやるじぇ」
 再び、シャンパンの蓋が飛ぶ時のような音がして、煙が精霊の体を包む。煙が晴れた頃、そこに現れた精霊の姿は、妖しげな視線で陸を挑発してくる長い黒髪が似合う美人に変わっていた。スタイルもよく、薄い布で包まれた胸から腰に繋がるラインを陸は目をこれ以上開けられないレベルまで開き、その全てを脳に刻むかのようにしっかりと凝視していた。
「坊や、これで満足したかしら?」
 声やしゃべり方も妖艶なものに変わっていた。陸は満足した声で
「はい、満足です!ひゃっほう!」
と、答える。陸の様子を見て微笑んだ精霊は
「そう、それはよかった。これで願いは残り二つね」
と、重要な事を告げた。
「陸君!勝手に願いを使ってどうするの!みんなの願いが残り二つになっちゃったよ!この三つの願いでおいしいものをいっぱい食べるっていう願いとかわいい服をいっぱい出してもらうっていう願いと旅行するっていう願いをかなえてもらおうと思ったのに、二つしかかなえられなくなっちゃったじゃない!」
 彩弓は、精霊の姿に見とれていた陸の首をつかんで前後に揺する。その顔は、例えるなら鬼。もしくは修羅。陸を殺さんばかりの勢いで揺さぶっている。征市は、普段はのほほんとしている彩弓が初めて見せる姿を見て「人間の欲は怖い。食べ物の恨みは怖いっていうが、食べ物だけにとどまらないな」と悟った。
「つーか、お前。一人で残りの願いを独り占めするつもりだったのかよ」
「ねぇ、この願いってここにいるみんなで三つなの?それとも、一人三つ?」
 征市の問いかけを無視し、不安そうな顔で聞く彩弓。質問をしながら陸の首を絞めていた手の力が徐々に強くなり、彼の顔が青くなっていく。
「大丈夫。一人三つだから安心して。あなたの願いは残り二つね」
 精霊は彩弓の様子を見て笑いながら答える。質問に答える事も願いとしてカウントされた事にショックを受けた彩弓だったが、残り二つもあれば充分だ。笑顔になって、陸を放す。
「よっしゃ!だったら残り二つの願いだ!一つ、僕が住む寮の部屋に僕専属の巨乳で美人のメイドを派遣しろ!二つ、僕の毎月の給料を五パーセント増やせ!」
「わたしもわたしもっ!かわいい服とおいしいものがいーっぱい欲しい!」
「その願い、かなえてやるわ」
 神々しい声と共に、煙が部屋を満たす。しばらくして煙が消えると、テーブルの上に和洋中の様々な料理が置かれていた。料理マンガで料理が光る表現をする事があるが、あの時のように料理全体が輝いているように征市には思えた。そして、部屋の壁を埋め尽くすように置かれた白い箱。彩弓が近づいてそれを開けると、中には女物の服やバッグや服飾品が入っていた。願いはかなえられたのだ。
「なるほど。じゃ、今日から僕は仕事から帰ったら巨乳で美人の専属メイドと一緒に過ごす事になるんだね。お風呂で背中流してもらったり、他にもいやらしいハプニングがあったり、夜は……。ぐへへへへ……!」
「二つ目はお前らしいって判るけれど、三つ目、五パーセントアップでいいのか?お前にしては随分慎ましい願いじゃないか」
 征市に言われて陸が振り返る。その顔は、姿を変えた精霊に興奮している顔でも願いがかなって喜んでいる顔でもない。とても寂しそうな顔だ。
「だってね……。リーダー、よく僕の給料減らすんですよ。セクハラしたからカットとかセクハラしたからカットとか……。理不尽じゃあないですか。給料がカットされずに五パーセント増えるんだったら、それは巨乳で美人の専属メイドが寮に来る事と同じくらい嬉しい事ですよ。本当は三パーセントにするべきか迷ったんですけどね」
「何というか、その……すまん」
 謝る事ではないのだが、征市はその場の陸が出した暗いオーラに押しつぶされそうな気がしてつい謝ってしまった。
「これで三つね。願いはかなえたわ」
 精霊がそう言うのと共に、陸と彩弓の体の周りを煙が包む。二人が抵抗する間もなく、煙に包まれた二人は、ランプに吸い込まれていく。
「彩弓!陸!」
 征市が手を伸ばして二人をつかもうとするが、煙のようになった二人の体をつかむ事はできない。手が空を切り、指が空しさに震える。
「次はお前らだじぇ。三つの願いをかなえてやるじぇ」
 精霊の姿は、最初に征市達の前に現れた時と同じ、男の姿に戻っていた。
「野郎……!」
 征市は、二人をつかもうとした手を強く握りしめると、怒りの表情で精霊を睨んだ。その手を湊が抑える。
「湊……」
「征市さん、落ち着いて下さい。あれはきっとプライズです。もしかしたら、菜央さんもあの中に……」
 征市はランプを見る。ランプの精霊に騙されて菜央が閉じ込められたとしたら、事務所にいなかった理由も、ランプだけがその場にあった理由も説明がつく。
「変な事を言ったら、あの精霊は勝手な解釈をして願いをかなえた事にしてしまいます。ここは、冷静になって戦いましょう」
 湊がポケットから携帯電話を取り出すと、それについていた雪ダルマのストラップが緑色の輝きを放つ。ストラップは金属製のデッキケースへ姿を変えた。
「食らえ!」
 湊は、デッキケースの中から一枚のカードを取り出す。緑色に輝いたカードから丸いエネルギーの塊のようなものが出てきて精霊の体を貫いた。
「ふぅ……。そんなの痛くないじぇ。俺を倒す事なんて誰にもできないじぇ」
 だが、ダメージを与えた部分も煙に包まれてすぐに治ってしまう。湊は、もう一度カードを通して魔力をぶつけたが、結果は同じだった。
「攻撃は効かない。だけど、願いを三つかなえる以外に僕を倒す手段もない。じゃあ……」
 湊は、何を思いついたのかデッキケースのカードを全て取り出し、五枚のカードを投げる。投げられたカードは、ドアと同じくらいの大きさの透けた緑色の壁―シールドへと変化する。
「湊、あいつはカードで攻撃を仕掛けていないんだぞ?デュエルの準備なんかしたって……」
「大丈夫です。精霊が願いを三つかなえる事でしか攻撃できないんだったら、その願いを使ってこっちのペースに巻き込めばいんですよ」
 湊は征市に説明すると、精霊を見た。
「デュエル・マスターズでのデッキを用意しろ。それを使って僕と戦え!」
 煙と共に、精霊のデッキが現れる。精霊の目の前でカードは飛びまわり、五枚のシールドが現れる。
「二つかなえたじぇ。残りあと一つ」
「あと一つはかなえる必要はないよ。自分でどうにかする」
 湊の目に闘志が宿る。五枚の手札を持つ右手に力がこもった。
「哀しい器よ、眠りなさい」

 ランプの中は暗闇で包まれていた。光のない空間だったが、不思議な事に周囲にいる人間の顔を見る事はできた。
 陸は、ランプの中を歩きながら周囲にいる人間を見る。様々な人種、様々な年齢の人々がいる。そこには、国籍も肩書も関係ない。ただ、欲に敗れた人間がいるだけだった。
 しばらく歩くと、陸は彩弓を見つけた。隣には、彼もよく知っている少女がいる。
「リーダー!彩弓ちゃん!」
 陸は、手を振って二人に近づく。二人はすぐに陸に気がついた。
「陸君!こっちこっち!」
 二人の前まで来た陸は菜央の顔を見た。頬を赤くした恥ずかしそうな顔をして陸から目を逸らす。
「リーダーも三つの願いをかなえてもらったんですか?」
「リーダー?この子、偉い人なの?」
 彩弓は、菜央と陸の顔を交互に見る。菜央は陸に「トライアンフの事は言わないで話して下さいね!」と、目で訴えた。
「そうだとも!リーダーは、僕達のリーダーさ!セーイチさんや湊君と同じように僕達の手品サークルのリーダーをしているんだ」
「そ、そうなんです。手品の……え?ええええぇぇぇっ!?」
 予想していなかった陸の回答を聞いて、菜央は叫ぶ。トライアンフのメンバーで手品をできるものなど一人もいないのだ。嘘をつくにしても、もっとましな嘘があるはずである。
「すごいすごい!征市君だけじゃなくて、陸君や湊ちゃんも手品できるんだ!じゃあ、リーダーさんはリーダーだからもっとすごいのできるんだよね!?ね!?」
 彩弓は、尊敬のまなざしで菜央を見つめる。手品ができない菜央には、その期待のまなざしが痛い。
「琴田菜央です。よろしくお願いします」
「わたしは、一ノ瀬彩弓だよっ!ねぇねぇ、菜央ちゃんは征市君よりすごいから、脱出マジックとかイリュージョンとか瞬間移動とかできるんだよね!?」
「えーっと……どんな手品ができるかは秘密ですよ。手品師ですから、やる事を先に言ってはいけないんです」
 必死に頭を働かせた菜央は、口に人差し指を当ててごまかそうとする。そして、陸の耳に口を当て、小声で
「どうするんですか、陸君。私は、手品なんてできませんよ!陸君はできるんですか!?」
と、話す。
「大丈夫ですよ。僕、親指が取れる手品ならできますから」
「相羽さんの手品をよく見ている一ノ瀬さんにそんな手品が通用しますか!」
「んー、通用するんじゃないかなぁ」
「ここ、どこかなぁ?」
 手品に関して言い争っていた二人は、頭上を見上げる彩弓の疑問を聞いて我に帰る。言い争っている場合ではない。この魔法のランプから出る方法を考えなければならないのだ。
「恐らく、あの魔法のランプの中でしょう。ここにいる人達は皆、魔法のランプから出てきた精霊にそそのかされて三つの願いを言った人達なのです」
 菜央は周囲を見てから彩弓に答える。そこにいる者達は皆、疲れ切った顔をしていた。
「ここ、出られないんですか?」
「私も、それを試みました。ですが、どこまで歩いても出口が見えないんです。まるで無限に続くかのように広がっています」
 陸はそれを聞いてからもう一度周囲を見る。暗闇で囲まれているのは、どこにも出口がないからなのかもしれない。出入り口がないから、光が入るところもないのだ。
「陸君、彩弓さん、気をつけて下さい。精霊が願いをかなえる瞬間、ここにいる人達の生命力が吸い取られていきます。恐らく、それをエネルギーに変換して願いをかなえるのでしょう。難しい願いであればある程、多くのエネルギーを消耗するようです」
 彩弓と陸は、周りにいる者達が疲れ切った顔をしている理由が判った。出る事もできず、いつ生命力が吸い取られるか判らない。心も体も休まらない。
「死ぬほど吸い取られる事はないようです。あくまで、生かさず殺さず……」
「それって、最悪じゃないですか」
 それを聞いた陸が初めて不安そうな顔をする。だが、その陸の肩に彩弓が手を置いた。陸がその顔を見ると、彼女は笑っている。
「大丈夫だよっ!征市君がいるもん!」
 二人が口を開けて彩弓を見ていると、彼女は続けて話した。
「征市君って、何か不思議な事があるとわたしの知らないところで解決しちゃうんだ。よく判らないけれど、わたしが知らないすごい力を持っている人なのかもね!」
 陸と菜央は思う。征市は、彩弓は魔法の事もデュエル・マスターズカードの事も知らないと言っていた。彼がそう思っているだけで彩弓は勘付いているのかもしれない。全てではなく、一部かもしれないが。
「だから、征市君を信じて待とうよ!ね!」
「そうですね」
 彩弓の笑顔を見て、菜央の表情も緩む。陸も同じだった。中からは駄目でも、外から精霊を倒す事ができれば中にいる人達は解放されるかもしれない。頼みの綱は外にいる征市と湊の二人だ。

「《ポッポ・弥太郎・パッピー》で最後のシールドをブレイク!」
 兜をかぶった小鳥が体当たりで精霊のシールドを突き破っていく。精霊を守る壁はこれでなくなった。だが、湊には他に攻撃できるクリーチャーがいない。場にいるのは召喚したばかりの《戊辰の超人(ヒジカタ・ジャイアント)》と《ポッポ・弥太郎・パッピー》だけだ。しかし、シールドはまだ三枚残っていた。
 対して、精霊の場にはクリーチャーはなし。シールドも一枚もない。
「一つ、聞くじぇ。かなえて欲しい願いはないのか?あるはずだじぇ」
「ない。僕は自分の手で願いをかなえる」
「そうかそうか。でも、そう言った奴もみんな俺の力を頼ったんだじぇ。きっとお前もランプの中に閉じ込められて俺の養分となるんだじぇ。お前達みたいな強い魔法使いのエネルギーが手に入るなんて今日は最高だじぇ!」
 精霊の手札から手裏剣のような物を持った二体のアースイーターが飛び出した。《斬隠カイドウ・クロウラー》だ。シールド・セイバーという能力を持っているため、シールドがブレイクされる時はその命と引き換えにシールドを守る事ができるのだが、シールドが一枚も残っていない今、その能力を使う事はできない。
「ただのブロッカーが二体?何を考えているんだ」
 《宣凶師ゼメキス》によって破壊されてしまったが、湊のデッキにはブロッカーを破壊するクロスギア《熱刀 デュアル・スティンガー》が入っている。ブロッカーによる防御は不可能に近い。だが、精霊は勝利を確信したようににやにやといやらしい笑みを浮かべている。
「気をつけろ、湊!そいつはまだ何かを企んでいるはずだ!」
 征市に言われて湊は気を引き締める。ほぼ勝てるデュエルだが、勝ったわけではない。勝つまで油断はできない。
「判っています!ここで、僕の切り札が出れば……!お願い、来て!」
 湊は、山札の上に手を置いて念じる。そのカードに征市も注目する。湊は、緊張を体の奥へ押し込めてからカードを引いた。そのカードは《大神秘ハルサ》。湊の切り札だ。
「これで僕の勝ちだ!《戊辰の超人》を《大神秘ハルサ》に進化!効果で《デュアル・スティンガー》をジェネレート!!そして、クロス!」
 投げつけられたカードから力を受けて《戊辰の超人》がその姿を大きく変えていく。座禅を組んだ巨大な仏像のような姿の巨人、《大神秘ハルサ》は、効果でジェネレートした《デュアル・スティンガー》を指輪のように指にはめた。
「《ハルサ》で攻撃!《デュアル・スティンガー》の効果で、《カイドウ・クロウラー》を一体破壊!《ハルサ》がクロスギアをつけている時の効果で《カイドウ・クロウラー》を一体マナに!」
 二体いた《カイドウ・クロウラー》の内、一体が砕け散り、一体が地面に閉じ込められていく。《ハルサ》は持っていた巨大な杖で精霊を突き刺そうとする。だが、後一歩で届くというところで《ハルサ》は動きを止めてしまった。
「どうしたんだ……?湊、《ハルサ》にもう一度命令するんだ!」
「駄目です、征市さん。僕は、もう……!」
 征市が湊を見ると、彼の体が煙に包まれていた。まだ無事な顔が征市を見る。泣きそうな表情で湊は、征市に告げる。
「僕、どこかで間違えちゃったみたいです。ごめんなさい」
「心配するな、湊」
 征市は、ブレザーの胸ポケットからポケットチーフを取り出し、左手にかけ右手で指を鳴らす。左手に現れた金属製のデッキケースを持って、彼は湊に近づいた。
「あとは、俺がやる。お前がヒントをくれたから、俺は必ず勝つ」
「お願い……しま……」
 湊の体が全て煙に包まれ、彼はランプの中に吸い込まれていった。同時に、彼のクリーチャー達も力を失い、カードの姿に戻ってしまった。床に落ちたそれらを、征市は一枚ずつ拾う。
「これで三つ。願いは全部かなえたじぇ」
「湊は、願ったわけじゃないのにな。ふざけた解釈しやがって」
 吐き捨てるように征市が言うと、彼は精霊を睨みつけた。その目には、全身に流れる怒りのエネルギーが宿っている。
 湊は、切り札を引く事を精霊に願ったわけではない。だが、陸のつぶやきや彩弓の質問を一つの願いと解釈したように、湊のデッキへの願いを自分への願いとして受け取ったのだ。
「最後だ。お前の願いを三つかなえてやるじぇ。さっさと言うんだじぇ」
「まず、一つ」
 目を閉じて静かに深呼吸する征市。勝つためにも、いい手品で観衆を楽しませるためにも冷静になる事が必要だ。一度で駄目なら二度。これで気分を落ち着けた征市の中で、怒りが自分の動かすためのエネルギーとなって働いている。
「そのデッキで俺と戦え!」
「OK。一つかなえたじぇ。残りは二つだじぇ!」
 再び五枚並べられる精霊のシールド。同時に、征市の前にも彼の闘志を現すような赤いシールドが五枚現れる。
「《宣凶師ベルモーレ》召喚だじぇ!」
 精霊が出したのは、どことなく埴輪や土偶によく似たデザインのブロッカーだ。2マナという低いコストに比べて3500という比較的高いパワーを持つが、相手クリーチャーの攻撃を必ずブロックしなければならないという欠点を持っている。
「必ずブロックしなくちゃならないってのも嫌なもんだろ!《無頼勇騎ゴンタ》召喚!」
 対して、征市が召喚した《ゴンタ》は同じ2マナでもパワーは4000のクリーチャーだ。デメリットはない。
「《ゴンタ》が攻撃したら、お前の《ベルモーレ》は必ずブロックしなくちゃならない!そうなったら《ベルモーレ》は墓地送りだ!」
「ぬぬぬ……!なめるんじゃないじぇ!」
 精霊の手札から、勾玉に似たデザインのクリーチャーが飛び出す。《光陣の使徒ムルムル》だ。
「《ムルムル》!お前の力を見せてやるんだじぇ!」
 精霊の叫びを受けて、《ムルムル》は体の左右から出たマニピュレーターから魔法陣を出す。その魔法陣のエネルギーを吸収して《ベルモーレ》は巨大化するのだった。
「そうか。《ムルムル》は他のブロッカーのパワーを3000プラスするブロッカー。《ベルモーレ》はこれで、パワー6500になったな」
 攻撃が難しくなったのを見て、征市は《青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)》を召喚する。《青銅の鎧》が持っていた槍から緑色の魔力を発射し、征市の山札を撃つ。撃たれた山札は上から一枚目をマナへ飛ばした。
「くくくくくっ!いい感じだじぇ。《サイバー・ブレイン》で三枚ドロー!ターンを終了するじぇ」
 カードを引いた精霊の目が光るのを征市は見逃さなかった。あの三枚の中に、精霊の切り札が入っている。
「いいカードを引いたじぇ。願いを使って負けてくれって言っても、かなえられないじぇ!」
「願わないからそんな心配はしなくていいぜ。こいつを食らえ!」
 征市の持っていたカードが赤と緑の光を発する。その内、赤い光が《ムルムル》の体を貫いた。
「ノォォォーッ!俺の《ムルムル》が!何故だじぇ!何故なんだじぇ!?」
「俺のクリーチャーの効果だぜ」
 既に召喚された二体のビーストフォークの横に並ぶのは《無頼勇騎ウインドアックス》だ。場に出た時、相手のブロッカーを一体破壊し、山札の上のカードを一枚、マナにするクリーチャーだ。
「これで、《ベルモーレ》のパワーは3500だ!《ゴンタ》で攻撃!」
 シールドに向かって突進する《ゴンタ》。それを《ベルモーレ》が阻む。
「《ベルモーレ》!戻れ!戻るんだじぇ!」
 だが、精霊の言葉も空しく、《ベルモーレ》の体は《ゴンタ》の槍で貫かれてしまった。さらに、《青銅の鎧》が精霊のシールドを叩き割る。不安そうな顔で見ていた精霊だったが、割られたシールドの破片が青く輝くのを見て、またにやりと笑った。割られたシールドは、人の形へと姿を変えていく。そして、そこから巨大な波が押し寄せ、《ゴンタ》を飲み込んでいった。
「シールド・トリガー、《アクア・サーファー》!これで厄介な《ゴンタ》を手札に戻すじぇ!」
 手札に戻ってきた《ゴンタ》を見て、征市は舌打ちをする。そして、精霊は手札からさらにブロッカーを召喚する。
「《宣凶師ベリックス》と《カイドウ・クロウラー》を召喚するじぇ!《ベリックス》の効果で呪文をマナから手札に!」
 ブロッカーを二体失った精霊だが、すぐに態勢を立て直す。しかも、《ベリックス》の効果で呪文を回収し、これからの備えもしている。
「へへへっ、《アクア・サーファー》で《青銅の鎧》を攻撃するじぇ!これで、お前のクリーチャーは一体だけだじぇ!」
 征市は、シールドの数では勝っているものの、クリーチャーの数では差をつけられている。状況を変えられるカードはないか手札を確認し、山札からカードを引いた。
「おっと、さらにこうしてやるじぇ!」
 煙が征市の周囲を包む。分厚い煙の層に覆われていて何も見る事はできない。
「てめぇ!卑怯だぞ!」
「へへへっ、じゃあ、煙をなくしてやるじぇ!」
 煙が消えた瞬間、征市の視界が真白に染まる。足元を覆う白銀の雪。吹きすさぶ雪が混じった冷たい風。征市は、真冬の山の中のような空間に閉じ込められてしまった。精霊は、その寒さの中でも平気だった。腕を組んで笑いながら征市を見ている。
「寒い……」
 征市が着ているのは、冬用の服ではない。厚いコートが欲しいと思ったが、それを口に出したら願いを消費してしまう事になる。
「OK。じゃ、コートを出してやるじぇ!」
 ふと気が付くと、征市にコートが着せられている。手袋や耳当てまでついていた。
「俺は願いを言ってないのに……。余計な事を!」
「これで二つ。あと一つでお前も俺のものだじぇ」
 笑う精霊の顔を睨みつけながら、征市は手札から一枚のカードを引き抜いた。

 Y市の道を走る一台の黒塗りの車。その後部座席にその少女は座っていた。征市達に鎧武者のプライズを差し向けた銀髪の少女だ。常に一緒にいる執事風の男に運転を任せ、携帯電話で通話している。
「トライアンフの連中を倒すために新しいプライズを送ったんですってね。今までプライズも殺し屋も通用しなかった彼らにそれが通じるのかしら?」
『お嬢さんが罠として使った映画のプライズでも相羽征市は倒せなかったですからね。ふふ、怒りました?』
 聞こえてくる男の声に苛立ち、少女は奥歯を噛みしめ、握りつぶさんばかりの勢いで携帯電話を持つ手に力を込めた。
「じゃあ、あなたが用意したプライズは彼らを倒せるというの!?」
『多分、ね……』
 勢いよく聞く少女に対して、電話の向こうにいる声は曖昧な返事をする。
「多分?随分と弱気なのね。私のように自信があるわけじゃないの?」
『邪魔者を消すという点では自信はありますよ。ただ、僕が用意したプライズは彼らを殺すんじゃない。文字通り消すプライズですからね。持っていても手に余るプライズだったから処分できてよかった』
 その声を聞いて少女は眉をひそめる。強力なプライズのようだが、手に余るという点が引っかかった。
「そんな強力なプライズがあったのなら、何故もっと早く使わないの?」
『手に余るんですよ。本当に厄介なプライズなんです。人間の欲望に作用して色々な事を勝手にする厄介な奴なもので……。お嬢さんもあれには興味を持たない方がいい。無事にトライアンフを倒せたら、説明してあげますから』
「判った。楽しみにしているわ」
『良い報せを待っていて下さいね』
 電話が切れる。少女はあの男が気に食わなかったが、実力は認めている。今回、用意したプライズならば、トライアンフのメンバーを全員闇に葬る事ができるかもしれない。
「覚悟しなさい。私をここまで手こずらせた事を後悔させてやるわ」

「《ドルボラン》召喚!《ムルムル》を破壊して、《タイタンクラッシュ・クロウラー》を手札に!」
 征市が召喚したどっしりした体格の龍が相手のブロッカー二体を睨みつける。《ムルムル》を左腕に持っていた槍で突き刺し、右手に持っていたバズーカが《タイタンクラッシュ・クロウラー》を打ち抜いた。だが、精霊のブロッカーはまだ残っている。
 征市のクリーチャーは今召喚した《ドルボラン》一体。シールドは二枚だ。
 対して、精霊は《カイドウ・クロウラー》が一体残っている。シールドは残り一枚だ。
「まだまだ俺の小型ブロッカーはあるんだじぇ!《ベルモーレ》召喚!そして、進化だじぇ!」
 宙に浮いている《ベルモーレ》に精霊が投げたカードが刺さる。そのカードが光を発し、《ベルモーレ》の姿を変えていった。変化を終えたその体は、銃火器を装備した巨大な土偶のような姿をしていた。征市の《ドルボラン》さえ圧倒するような巨体でそこに浮いている。
「《超戦攻賢者アギラ》だじぇ。《アギラ》はブロッカーではないものの、アースイーターとグラディエーターがブロックした時にカードを一枚引く能力を与え、パワーを2000増やす!」
「野郎のクリーチャーはアースイーターとグラディエーターのブロッカーが多い。厄介な能力だ」
 征市の視線を受けながら、《アギラ》がその巨体を震わせる。左右の銃が征市のシールドを打ち抜いていく。砕かれたシールドは、カードとなって手札に戻っていった。
「まずは一枚。あと一枚だじぇ!」
 追い詰められていく征市。だが、彼にはまだ勝つための秘策が残されていた。
「今、破られたシールドにいいカードが入っていたぜ。召喚!」
 征市の持っていた手札に火のマナが集まっていく。勢いよく手札から飛び出したカードは火の玉をまき散らしながら、龍の姿へと変化していく。地響きと共に着地したその龍の足元の雪が音を立てて蒸発していく。発熱によって赤く変色している背中の大砲と銃に変化した両手の指。機械で構成されたようなその体から発せられるプレッシャーに、精霊のブロッカーは体を震わせた。
「ブロッカー対策の切り札《ガトリング・フォース・ドラゴン》だ。俺のドラゴンが攻撃する時、お前のブロッカーを一体破壊する!」
 征市の意思をくみ取って、《ドルボラン》が体中の武器を精霊のシールドに向ける。
「やれ、《ドルボラン》!一斉砲火だ!」
 《ドルボラン》の銃撃が精霊のシールド目がけて飛んでいく。だが、精霊がその攻撃を黙って見ているわけもなく、シールドの前に《カイドウ・クロウラー》が立ちふさがる。
「《カイドウ・クロウラー》シールドを守るんだじぇ!」
 だが《カイドウ・クロウラー》の横から数多の銃弾が押し寄せてその体を消し去っていく。《ガトリング・フォース・ドラゴン》の援護射撃だ。
「言ったはずだぜ。ブロッカーをぶっ潰すってな!」
 一枚のシールドに過剰なまでの銃弾やミサイルの爆撃が押し寄せる。耐えきれなくなったシールドは粉々に砕け散り、手札に戻っていった。
「ち、ちくしょおっ!」
「どうした?顔色が悪いぜ?寒いところでそんな格好をしているから、風邪でもひいたんじゃないのか?」
 追い詰めたつもりでいた征市に挑発され、精霊は激昂する。一方、征市は防寒具のお陰で寒さにも耐えられるようになり、冷静なプレイができるようになっていた。
「じゃあ、俺が風邪をひかないようにしてやるじぇ!」
 また煙が征市の周囲を包む。そして、すぐに消えていった。
「うわっ!」
 煙が消えた瞬間、熱い光線のようなものが征市の目を襲った。否、それは光線ではない。太陽の光だ。征市と精霊が立っているのは、先ほどまでいた日の光から遮断されている吹雪いた山ではなく、砂に覆われた砂漠地帯だ。太陽との距離が近いせいか、照りつける日差しは非常に強い。
「暑い……。寒さの次は暑さかよ」
 うだるような暑さに不快感を覚えた征市はコートを脱ぐため、ボタンに手をかける。だが、外れない。手袋や耳当てを引っ張ってみるが、結果は同じだった。
「何でだよ……?このクソ暑い場所なのに、何で脱げないんだよ!」
「人の親切は無駄にしちゃいけないんだじぇ?さっき、寒そうだったから脱げないようにサービスしてやったんだじぇ!これで寒くはならないんだじぇ!」
「とことん卑怯な野郎だ……!」
「何とでも言うがいいじぇ!それっ!召喚!」
 精霊を守るように、二体のブロッカーが並ぶ。《ベルモーレ》と《ムルムル》だ。
「《ベルモーレ》のパワーはこれで6500だじぇ!《ドルボラン》でも倒せないじぇ!」
「お前、馬鹿か?俺には、《ガトリング・フォース・ドラゴン》がいる。ブロッカーは破壊できるんだよ!」
 征市が腕で額の汗を拭いながら言う。それを聞きながら、精霊は一枚のカードを《ガトリング・フォース・ドラゴン》に投げつけた。雄たけびと共に《ガトリング・フォース・ドラゴン》の体が粒子状に分解され、赤い壁に変わっていく。シールドになってしまったのだ。
「邪魔者はいなくなったじぇ。俺の《魂と記憶の盾(エターナル・ガード)》でな」
「《ベリックス》で何か回収していると思ったら、それだったか。いいタイミングまでキープしてやがる……!」
 《魂と記憶の盾》は進化でないクリーチャーをシールドに閉じ込める呪文だ。自分のクリーチャーにも相手のクリーチャーにも使えるため、厄介なクリーチャーを封じたり、自分のシールド・トリガークリーチャーをシールドに再装填したりするのに使える。シールドにクリーチャーを封じられた場合、余程の事がない限り回収はできない。
「《ガトリング・フォース・ドラゴン》のシールドは最後にブレイクするじぇ!まずは、残っていたシールドを《アギラ》でブレイク!」
 征市の最後のシールドを《アギラ》が打ち抜いていく。そこにもシールド・トリガーは入っていなかった。
「次のターンでもう一枚の《アギラ》を出してとどめだじぇ!さあ、負けを認めるか三つ目の願いを言って暑さから解放されるか選ぶんだじぇ!」
 征市は、手札に視線を落としたまま何も話さない。意識を失ったかのように立ちつくしている。
「暑さで死んだみたいだじぇ。愚かな奴だったじぇ」
 精霊がそう言うと、征市の肩がぴくりと動き、顔を上げる。そのまま、大声を出して笑った。
「馬鹿か!?暑さでおかしくなったじぇ!」
「おかしくなってなんかいねぇよ。俺の願いはかなった!」
 征市は、笑顔のままドローする。そして、手札をものすごいスピードでシャッフルすると、その中から一枚を弾き飛ばした。
「こいつをよーく見て欲しい。お前のブロッカーを焼き尽くし、お前を叩き潰す俺の切り札だ」
「ふざけるな!一枚で俺を倒せるわけがないじぇ!」
「ふざけちゃいない。俺は真面目に言っている!見せてやるよ……。『ウソのようなホントウ』って奴をな!!」
 征市は、マナゾーンにある七枚のカードをタップしていく。空に舞っていた切り札に赤いマナが注がれた。太陽をも超越するような光が、焼き尽くすようにその場を照らした。
「強い光だ。でも、まだそれじゃ足りないんだな。食いしん坊な奴だ!」
 征市は、マナゾーンにあった赤いカードを二枚引きはがすとそれを切り札に投げつけた。三枚がぶつかる瞬間、爆発が起こる。
「うわっ!?何が起きるんだじぇ!?」
 精霊は両腕で顔を隠す。爆発が治まってから顔を出し、目を開けると、そこには巨大な真紅の鳥がいた。体に巨大な城塞が突き刺さったような姿をしたその不死鳥は、虫けらでも見るような目で精霊のブロッカーを見る。
「ぎゃあああっ!ありえない!ありえないんだじぇ!何だ、そのクリーチャーは!?」
「俺のとっておきの切り札《超新星アレス・ヴァーミンガム》だ。マナゾーンのクリーチャーを進化元にするマナ進化だから、バトルゾーンに進化元のクリーチャーがいなくても出す事ができる」
「そ、そんな……!」
 《アレス・ヴァーミンガム》の肉体から、赤い球が飛んでいき空中で弾けた。その瞬間、《アレス・ヴァーミンガム》が召喚された時と同じような爆発が周囲を包む。それが終わると、精霊の《ムルムル》と《ベルモーレ》の姿が消え、砂に二体のクリーチャーの黒い影が焼きついていた。
「そして、攻撃時にメテオバーンで進化元のクリーチャーを墓地に送る事で、相手のコスト3以下のブロッカーを全て破壊できる。お前のブロッカーは全てコスト3以下だったな」
 《アレス・ヴァーミンガム》が城塞についている二門の大砲で精霊を狙う。
「願いを三つ言ってみろよ。聞いてやるから」
「すぐに砂漠を元に戻すし、服も戻すから俺を許して欲しいんだじぇ!みんな解放するから俺を許して欲しいんだじぇ!俺を許したら、俺はいなくなるから捜さないで欲しいんだじぇ!俺がいなくなったら、俺がいた事を忘れて欲しいんだじぇ!それから、それから……」
「長い。それに三つって言っただろ?『お前を許す』『いなくなったらお前を捜さない』『お前がいた事を忘れろ』か」
「そ、そうなんだじぇ!かなえて欲しいんだじぇ!」
 指を折って数える征市を見ながら、精霊は必死になって懇願する。既に景色は砂漠ではなく、相羽邸のダイニングに戻っていたし、征市の服装も赤いブレザーにグレーのスラックスといういつもの服装になっていた。
「嫌だね。俺は聞くって言っただろ。聞いたけれど、かなえるなんて言ってない。反省するんだな!」
 《アレス・ヴァーミンガム》の大砲が精霊の体を焼き尽くす。断末魔の叫びと共に精霊の姿が消えると、シャンパンの蓋が飛ぶ時のような音がしてランプの蓋が弾けて飛んだ。その中から煙が出てきて、煙の中から彩弓、陸、湊、そして菜央が出てきた。全員、無事だったようだ。
「よかった。助かったみたいだな……」
「そうだね。征市君のお陰だよ!ありがとう!」
 最初に彩弓が近づいて征市に礼を言う。
「中にいた他の人達はどこに行ってしまったんでしょう?」
 湊は、ランプの中にいた人々が気になって周囲を見る。ここには、トライアンフのメンバーと彩弓はいたが、他の人々はいない。
「恐らく、自分達がいた故郷に戻ったのでしょう。自分達の国の自分達がいた時代に」
「へぇー、そうなんだ」
 彩弓は、菜央の説明を聞いて納得する。戻っていった彼らは、また欲望に呑まれるのだろうか。それとも自分の欲望に打ち勝つのだろうか。
 ふと、陸は精霊に出してもらった服や料理を見た。
「あーっ!料理が!」
 その料理はきらきら光る砂のようになってテーブルの上から消えてしまった。大量に置かれていた白い箱も同じように消えていく。
「どうやら、精霊が消えると願い事も無効になるようですね。少し、残念です」
 菜央が溜息をついて言う。彼女が何を願ったのかは誰も知らないが、その顔は何かを失ったような悲しみのようなものが垣間見えた。
「せっかく、おいしいもの食べて、かわいい服着られると思ったのに……。ひどいよぉ……!」
 彩弓は幼い子供のように頬を膨らませて怒る。その横で陸も体を震わせていた。顔から血の気が消えている。
「そんな……。それじゃ、僕専属の巨乳美人メイドも給料アップもなしかよ……」
 陸は、近くの椅子に座りうなだれる。その表情や体から発せられるオーラから、ショックの大きさが伝わり、誰も声をかける事ができなかった。
「相羽さん、お疲れ様です。何か欲しいものはありますか?」
 菜央はその場に座り込んだ征市に声をかける。紺のネクタイを緩めて、シャツのボタンを外した征市が菜央を見上げると一瞬だけ迷ってから聞いた。
「それは三つまでか?」
「常識の範囲内でそろえられるものであれば三つでなくてもいいですよ」
「じゃ、願いをかなえてからランプに閉じ込められるとかはないよな?」
 征市は、テーブルの上に乗ったままになっているランプを見て言った。精霊が消滅したせいか、ランプから魔力は消え去っていた。
「大丈夫ですよ。私はランプの精霊ではないですからね」
「そうだよな。それじゃ……」
 征市は右手を伸ばして
「水をくれ。のどがカラカラなんだ」
と、願った。

  『File.9 眠りのオルゴール~陸の悪夢~』につづく

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