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デュエル・マスターズについて語る非公式ファンサイトです。
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ネギ博士
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男性
自己紹介:
デュエル・マスターズ初心者向けを意識した記事を書いています。
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『TOKYO決闘記・真』




あるところに、ドラゴンの王様がいました。
ドラゴンの王様はとても力持ちです。
「俺はとっても強いんだぞ」と、いつも自分の力を自慢していました。
王様は強かったけれど乱暴だったので、国の人々は王様を嫌っていました。
ある時、どこからか黒い怪物がやって来て人々を国の人々を襲うようになりました。
それを見た王様は激しく怒り、城を飛び出しました。
「俺の仲間をいじめるのはやめろ!」
力自慢の王様は黒い怪物を追い払いました。
人々は王様に感謝し、王様は自分の力を国の人々の為に使うようにしました。
人々は王様を好きになったのです。

~A国の伝承を絵本にしたものより抜粋~

第一話 選ばれし者

『2020年、東京オリンピックの後はデュエリンピック!』
改札を抜けた一ノ瀬博成(いちのせひろなり)の目に、その広告が映った。
数か月前に発表された様々な国からプレイヤーが参加する世界初にして世界最大のイベント、デュエリンピック。東京オリンピックの跡地の再利用の案として、経済効果を期待されて話が進められている。ここ数年、力をつけているA国と日本が協力して組織委員会を立ち上げた話は記憶に新しい。
「僕も参加したかったな」
誰にも聞こえないような声で博成は呟く。遠慮などせずとも、忙しく歩く人々は彼の独り言など聞いてはいない。
この青年、一ノ瀬博成はTCG専門雑誌のデュエル・マスターズ担当記者として働く青年だ。彼のコラムは評判がよく、彼の記事目当てに雑誌を買う読者もいるほどだ。
「自分の目で見て、自分の耳で聞いた事を丁寧に伝える」というスタンスで記事を書く男で、取材の為に日本全国を行き来している。今は、出張を終えて一休みしているところだ。
「やっぱり暑いな……」
昨日までいた北の大地が恋しく感じられる気温だった。シャツで体を仰ぎながら、彼は地上へ上がる階段を上る。
階段を上がり、殺人的な日差しに照らされた博成は逃げるように足を進めた。
少し歩いたところに、彼の目的地はあった。駅に近いビジネス街と商店街の間にある店。『デュエルカフェ・レッド』という看板が出ている純喫茶風の店に迷う事なく入っていく。シャツは既に汗を吸い始めていた。
「いらっしゃいませ!」
店に入った彼を出迎えたのは冷房の心地よい風と元気のいい声だった。初めて聞く声に戸惑いながら、博成は声の主を見る。
初めて見る店員だった。元気な笑顔で博成を見ている少女だ。バンダナから金髪が覗く。クラシックなメイド服に似た制服を着た他の店員とは違い、この少女だけは黒のタンクトップに近い色のエプロンをつけていた。
「お兄さん、大学生か何か?まだランチメニューあるけれど、食べてくか?お客さん、ほとんど帰ったからゆっくり食べられるぜ!」
「そうだね」
私服でいるところを見てそう言ったのだろう。少女に促されて博成は券売機に近づく。二時近いという事もあり、確かに店内は空いていた。ランチタイムの終わりも近い。
「新しい店員さん?」
「そうだぜ。あたしの名は天龍寺(てんりゅうじ)リズ。よろしくな!」
金色のポニーテールを揺らしながら少女は言う。
「天龍寺リズ……」
「はぁい、リズさぁーん!厨房に入っちゃってくださぁーい!」
博成がその名前を反芻した時、甘い声と共に一人の女性が二人に近づいてきた。
肩の辺りで切りそろえた栗毛色の髪と印象的な笑顔、クラシックな制服が引き立たせるスタイルの良さ。美人というよりはかわいいと思わせる女性だった。
博成はその姿に見覚えがある。
「店長さん、こんにちは」
「あ、一ノ瀬さんじゃないですか!こんにちは、出張は終わりですかぁ~?」
彼女はこのカフェの店長、道方愛菜(みちかたまな)。博成よりも年下だが、この若さでデュエルカフェを取り仕切っている。
「じゃ、店長。あたしは厨房行くんで後はお願いします!」
「はいはーい!店長に任せちゃってくださぁーい!」
そう言って、リズは去って行った。小気味よい動きと共に動くポニーテールが本物の尻尾を思わせる。
「元気な子ですね。もしかして、彼女が例の……?」
「そうです。前に話していた期待の新人さんなのです!」
「へぇ……、楽しみにさせてもらいますよ」
愛菜との話を切り上げた博成は空いている席に座った。少し離れた場所に目を向けると、店舗に設置されたデュエルスペースで楽しそうにデュエル・マスターズカードで遊ぶ子供達の姿が目に入った。今は夏休みだ。この時間でも賑わっている。
デュエルカフェ・レッドはこの春にできたばかりのレストランだ。
レストランだが、子供が入る事が多いこの店舗ではアルコールを取り扱っていない。そして、扱っているのは五百円程度のセットメニューが多い。デュエル・マスターズをプレイする子供達が気軽に入って来られるようにする為の配慮だ。安価である事が幸いして、子供達が来ないような平日の昼間は近くのビジネス街に勤める会社員が来る為、経営は安定している。
「おまちどうさまでしたぁーっ!ご注文のハンバーグセットですっ!」
しばらくすると、注文した料理を愛菜が運んできた。
少々、小ぶりだが食べやすいサイズのハンバーグで、熱いソースの香りが鼻をくすぐる。
「リズさんが愛情をこめて作って私が愛情をこめてお運びしましたっ!」
「いただきます!」
箸でも切れる軟らかいハンバーグを一口サイズにして口に運ぶ。その後、白い皿に盛られたライスにも口をつける。夏の暑さや出張の疲れなど忘れてしまいそうなおいしさだった。
そのまま、夢中になってほとんど食べ終えた辺りで、博成は気になった事を愛菜に尋ねた。
「さっきの子、天龍寺さんって言いましたっけ?あの子は……?」
「お、もう新しい子に目をつけちゃってますか。さすが一ノ瀬さん!お胸が豊満な女性好きなだけの事はありますね!」
「わ、わーっ!そういうんじゃないですから!」
「隠さなくてもいいですよぉ。初めて会った時も、私の胸をよく見てたじゃないですかぁー」
「え、いや……、その、大きいな、とは思いましたけれど!だけど、そうじゃなくて!」
「ところで、彼女さんの胸もそんな風にじっと見てるんですかぁ~?」
他愛のない言葉だった。それを聞いて最後の一口を口に運ぼうとしていた博成の動きが止まる。
「ははは、彼女なんていないですよ。そう……、生まれてからずっとね……。ははは……」
まるでスイッチのオンとオフが切り替わったように博成の様子が変わってしまった。目はうつろになり、何も見えていないようだった。
「うわ、盛大に地雷踏んじゃった感じですかねぇ~」
初めて見せる博成の顔に戸惑いながら、愛菜は別の話題を切り出そうと考える。話題を探してデュエルスペースを見ると、今日の仕事を終えたリズが向かっているところだった。
「一ノ瀬さん、ほら!リズさんの話でしたよね!ほらほら!仕事終えてデュエルスペースに行きましたよ~」
「ああ、そうですね」
デュエルの言葉を聞いて博成の目に光が戻った。愛菜はほっと胸を撫で下ろす。
「ねえちゃん、今、仕事終わり!?」
「今日はそうだぞ!お前ら、ちゃんと宿題やったか!」
リズの声を聞いて子供達は口々に「もう終わったー!」「まだやってなーい!」と言い出す。少し離れた位置にいる博成にも、子供達の楽しそうな様子が伝わってくる。その後、子供達はリズにデッキの診断をしてもらっていた。
「天龍寺さん、子供に大人気ですね」
「そうですよぉー。料理もできるし、デュエルの知識もある。でもぉ、恥ずかしがってここの制服を着てくれないのだけが残念ですねぇー」
「あ、それで一人だけシンプルな服装なんですか」
博成はリズだけがシンプルな黒のエプロンで働いている事に納得した。彼女の性格なら、ここの制服よりも簡易な服装を好みそうだ。
「デッキできた!ねえちゃん、デュエルしてくれ!」
「ん、おお、そうだな」
「お、始めちゃいますか。じゃ、リズさん、これを使ってくださいな!」
そう言って、愛菜はデュエルスペース近くの鍵付きの棚からレンタル用のデッキを取り出して、リズに渡した。
「あ、どうも」
それを受け取るリズの表情は硬い。些細な変化だったが、それを見た愛菜は首をかしげた。
「始めようぜ!こっちは準備できた!」
既にシールドのセットと手札の準備を終えた子供がリズに急かす。リズはそれには答えずにデッキをシャッフルし、準備を終えた。
「デュエルですか」
食事を終えた博成もデュエルスペースに顔を見せる。昨日も出張先で何回もの対戦を観たが、それでも観るのはやめられない。常に携帯しているメモ帳を出して、観戦の準備をした。
「マナを置いてターンエンド!」
客として来ていた子供が先攻だった。一枚のカードからデッキを想像するのは楽しい。置かれたカードを見ながら、博成は色々なデッキのパターンを考えていた。
そこで彼は気付く。子供がマナゾーンにカードを置いてからリズは行動していない事に。
彼女の顔を見た博成は唖然とした。
「固まってる……?」
リズは手札のカードを持ったまま、無表情で固まっていた。まったく動きもせず、息もしていないような彼女を博成や周りの人物は困った顔で見ていた。

「記憶喪失ですか?」
アイスコーヒーを飲みながら、博成はオウムのように聞き返した。
「ええ、実はそうなんですよぅ」
愛菜の話を要約するとこうだ。
彼女は一年前までの記憶がない。その名前も彼女が持っていた白い封筒に書かれていたもので彼女のものではないかもしれない。
「ここへはある方の紹介でやってきたんです。料理も得意だし、カードの知識もあるので採用しました」
彼女が得意とする料理とデュエル・マスターズの知識を活かせる職場として、ここは理想的だ。しかし、彼女自身に問題があった。
「知識はあっても対戦はできない」
「ええ、びっくりしちゃいました。私もそれを知ったのは今日が初めてなんです」
想像できるだろうか。カードの知識もあり、子供達にアドバイスをする能力もあり、カードに触れて楽しんでいたはずの少女が対戦できないなんて。
「でも、リズさんにはがんばって続けて欲しいですねぇ~。彼女、きっとデュエル・マスターズカードが好きだと思うんですよぉ」
「確かに、そうですね」
愛菜の意見に関して博成も同意した。デッキ診断をする時の彼女を見たら、デュエル・マスターズカードが嫌いだとは思えない。
「ごちそうさまでした。また来ますよ」
「はい!お待ちしてますよぉ~!」
愛菜の声を聞きながら、店を出る。そして、誰に聞かせる訳でもなく、呟いた。
「彼が選んだ子だ。期待しているよ」

「あ~、やっちまったぜ」
デュエルカフェの裏口のドアを開けたリズが最初に発した言葉はそれだった。外の日差しは熱い。タンクトップの上から羽織ったパーカーを脱いで帰ろうか迷うほどだ。
子供との対戦から一時間ほどが経っていた。
あの後、デュエルは中止になり、リズの代わりに別の店員が子供と戦う事になった。リズは愛菜を含むスタッフによって休憩室に運ばれ、しばらくすると元に戻った。固まってから元に戻るまでの記憶はない。
デュエルカフェの店員なのに、デュエルができないというのは考えものだ。これから仕事をやっていけるのか疑問に思いながら、リズは足を動かす。
「あ!」
高い声が聞こえて、リズはその方向を見る。昼間に見かけた子供達の一人だ。大人しい少年で、グループの中では後ろにいた子だ。
「おう、今帰り?」
リズが聞くと少年は頷いた。
「じゃあ、一緒に帰るか。あたしも今日は仕事終わりだし」
そう言うと、少年は特に反対する事もなく、二人で一緒に歩き始めた。
「おねえちゃん、デュエルはできないの?」
翔太(しょうた)という名前の少年はしばらくしてからリズに聞いてくる。
「そうだな~。カードの使い方は判るんだけど、ダメだな。でも、料理はできるからまた食べに来てくれよ!」
「うん」
翔太少年は素直に返事をする。
リズは今日の出来事を思い出していた。
カードを見ている間は何事もなかった。カードを手に取っても大丈夫だった。実際、リズはカードを手に取って子供達にアドバイスをしていたのだ。
だが、デッキを握って対戦の準備を始めると駄目だった。心臓が骨や皮膚を突き破りそうな勢いで動き、頭は沸騰した湯のように熱を発し始める。体の自由が利かなくなって意識が遮断される。これは初めて経験した事ではなかった。そして、直そうと努力しても直せるものでもなかった。
「おい」
五分ほど歩いたところで、リズと翔太は声をかけられる。低く敵意を感じる声だ。それは目の前にいる左手に包帯を巻いた少年が発したものだった。彼の睨むような目つきと威圧するような立ち方から友好的な人物でない事は一目で判る。
「悪い人だ!」
「悪い?」
翔太はリズの後ろに隠れるように一歩下がる。それを見た包帯の少年は不機嫌そうに吐き捨てる。
「悪くはねぇよ。悪いのは俺じゃねぇ!」
「こいつ、何したんだ?」
包帯の少年の言葉を聞かず、リズは背後にいる翔太に聞く。
「ぼく、知ってる。嫌がる子に無理矢理賭けデュエルを仕掛けてカードを取ったんだ。だから、近くのカードショップで入店禁止になったんだ!」
「なんだ、やっぱり悪い奴じゃないか」
「うるせぇな。部外者の癖によ。まあいいか」
包帯の少年は左腕に巻かれた包帯を取った。彼の左手には黒い円のようなものが描かれている。その円の中にはどこかの国の文字や記号のような模様があった。
「お前、それ自分で描いたのか。なかなかやるじゃん」
「ほざいてろ。もうザコからカードを奪うなんてセコいやり方はやめだ。俺はもっとでかい事をやる」
そう言った少年の左手の円の模様が白く光る。すると、それに合わせて周囲の景色が変化していった。形や風景は変わっていない。だが、色だけが消えて白い紙に黒い線だけで描かれたような世界になっていった。
「なんだ、こりゃ……!?」
変化した世界を見てリズは驚き、翔太は彼女のパーカーの裾を両手でつかんだ。
「お前ら、『無の領域』は初めてか。まあいい。この桑野雄二(くわのゆうじ)様がたっぷり教えてやるよ。理解する頃には、お前らも俺の仲間入りだ」
桑野の左手の模様が再び光る。すると、彼の左手に突如、白いデッキケースが現れた。
「手品……、じゃなさそうだな」
そう言ってリズが口の中に溜まった唾を飲み込む。その直後、背後から声が聞こえた。
「うわあ!」
同時にリズの視界の端にまばゆい光が映る。振り向いた瞬間、リズは翔太の左手が光っているのを見た。
「左手、熱い……。頭が……、痛くなってくる……!」
翔太は右手で左手を押さえ左手は頭を押さえた。苦悶の表情や額にかいた玉のような汗を見て、リズは彼を抱きかかえる。
「翔太!しっかりしろ!」
「無駄だ。『無の領域』の中では戦う力を持たない者に自由はない。俺らと同じような力がない奴にはな!」
リズは桑野を睨みつける。
「翔太を戻せ!」
「無駄だって言ってんだろ!お前もすぐ、同じようになるんだよ!」
『そうはならない』
そこにいる者とは別の声が聞こえた。それもリズのすぐ近くだ。
『リズ、ここだ』
彼女は驚いて左手を見る。彼女の中指には銀色の指輪があった。その指輪には宝石の代わりに鉄の色をした龍の彫刻がついている。
『俺をおいて行くな、と師匠からも言われていたはずだ』
「悪いな、ボル太。料理の時に指輪はしちゃいけないからな」
『了解した』
「なんなんだよ、その指輪!」
人語を話す指輪を見て、桑野が苛立たしげに言う。指輪との会話を邪魔されたリズは、一言「ボル太だ」とだけ説明して会話を続けた。
「で、そうはならないってどういう事だよ!?」
『お前は師匠から教わった力と技がある。それを使えば戦える』
「戦える?どうやって?」
「こうするんだよ!」
桑野は持っていた白いデッキケースからカードを引き抜いた。その裏面には見覚えがある。
「デュエル・マスターズ……!」
さっきまでリズが目にしていたカードだ。だが、彼女はこれで戦う事はできない。カードの裏面を見た途端、怯えて青ざめてしまう。体が震える。膝に力が入らず、しゃがみこんでしまいそうになる。
その様子を見た桑野が笑った。
「戦えねーのかよ!いいぜ!それならお前も後ろにいるガキと同じだ!俺らと同じになって楽しくやろうじゃねーか!」
前から嘲笑。後ろからは悲鳴。自分の内側からは緊張と恐怖。
リズは外と中から追い詰められていた。
『仕方ないな』
ボル太と呼ばれた指輪が呟いた。すると、真っ白な世界を染め上げるように赤い光が空から降ってくる。その光は、隕石のような速度で飛び、リズの足元に着地した。それは銀色の鎖で巻きつけられたデッキケースだった。
『リズ。俺がいる。お前だけでは無理でも俺がいればお前は戦える』
ボル太の目が赤く光る。それに促されるようにリズは足元のデッキケースを取る。そして、その瞬間、彼女の動きが止まった。
「どうした?やっぱり戦えないか!?」
「おねえちゃん!」
桑野のあざけるような声が聞こえる。翔太の絞り出すような声も聞こえる。
その二つの声を聞きながら、リズは声高らかに笑った。
「何がおかしいんだ!」
桑野の言葉を聞いたリズは笑ったまま、静かにこう言った。
「思い出したぜ。あたしはデュエルが好きだった。記憶も思い出も消えちまったけれど、その感情だけは思い出せる!そして……!」
リズはデッキを持ち上げた。同時に蓋が開いてカードが飛び出し、彼女の周囲を飛び回る。
「今のあたしはこいつと戦える!勝負だぜ、桑野雄二!」
「野郎……!」
互いのカードは自由に飛び回った後、再び、所有者の前に集まる。二人の前に透明なテーブルが現れ、二人はカードのセットを始めた。シールドのセットを終えた時、二人の前に青いガラスの板のようなもの、シールドが現れる。二人が五枚のカードを手札とした時、カードの表には何も書かれていない状態だった。だが、デュエルの開始を念じると、そこに絵と文字が浮かび上がってくる。
『師匠から教わった通りだ。このデッキはお前の記憶と戦いの記録を反映して、自動生成される』
「そうか。いいデッキでいい手札だ。負ける気がしないぜ!」
「黙れーっ!」
リズの宣言ははったりや油断ではなかった。先に行動したのは彼女だ。マナゾーンに置かれたカードをタップし、自分の場に一枚のカードを置く。
「召喚《トップギア!》」
火山の噴火のような爆発と共に、その場に人型のクリーチャーが現れる。《一撃奪取トップギア》。火文明クリーチャーの召喚コストを下げるクリーチャーだ。弓を引き、矢を敵に向けている。
「《トップギア》か。だったら、こっちは《アクロアイト》だ!」
桑野が召喚したのは《一撃奪取アクロアイト》。《トップギア》と同じようにコストを下げるクリーチャーだ。
「俺は賭けデュエルで勝ってカードを奪えるくらい強いんだ!お前みたいな女に負けるかよ!」
そう言い終えた時、《アクロアイト》の体が粉々に砕け散った。予想外の出来事に桑野は自分の目を疑った。
「デュエルは口でやるもんじゃないぜ」
見ると、《トップギア》の隣に新たなクリーチャーが並んでいる。巨体と侍、二体の獣のコンビクリーチャー《双勇ボスカツ闘&カツえもん武》だ。
「《ボスカツ&カツえもん》は場に出た時、相手クリーチャーにバトルを仕掛ける。これで邪魔な《アクロアイト》は消えた。行くぜ、《トップギア》!」
《トップギア》が放った矢は真っ直ぐ桑野のシールドを目掛けて飛ぶ。そして、中央のシールドを貫いて止まった。
「おねえちゃん!」
翔太がまた叫んだ。恐怖か、痛みか、その声は悲鳴に近い。
リズは振り向くと優しい声で語りかける。
「待ってろよ、翔太。こいつをやっつけて、すぐに楽にしてやるからな」
「なめんな!」
桑野も黙ってやられるわけではない。二体目のクリーチャーとして《ガガ・ピカリャン》を召喚する。登場時の振動で桑野の山札のカードが揺れ、一番上のカードが跳びはねた。
「《ガガ・ピカリャン》の効果で一枚手札に。よっし!いいカードだ。次のターンでぶっ潰してやる!」
「次のターンか。いいカードを引いてるのはあたしも同じだぜ!召喚!」
赤と緑、二色の炎の中から四本足の龍が姿を見せる。対になった巨大な槍を持つ龍《メガ・スピア・ドラゴン》だ。
「《メガ・スピア・ドラゴン》はスピードアタッカーのW・ブレイカー!このターンでお前のシールドを全部なくしてやるぜ、一斉攻撃だ!」
リズの命令を聞いてまず、《メガ・スピア・ドラゴン》が飛び出した。その上に《トップギア》が飛び乗り、シールドに突っ込む。
「やめろー!」
飛翔しながら近づく二体のクリーチャーに対して桑野が叫ぶ。だが、その叫びも虚しく、三枚のシールドが割られた。
「オッケー!ラスト一枚だ!《ボスカツ&カツえもん》!任せたぜ!」
だが、《ボスカツ&カツえもん》は動かない。その場で倒れてしまった。
「どうしたんだよ?まさか……!」
リズは《トップギア》が割ったシールドを見た。亀裂の入ったシールドが光を発している。
「そのまさかだ。シールド・トリガークリーチャー!《交錯の翼 アキューラ》召喚!」
白い翼が生えた剣士のようなクリーチャーが場に現れる。その力でリズのクリーチャーの動きは止まってしまったのだ。
「大した速攻だったな。だが、もう終わりだ!」
《アキューラ》が背中の翼で自分の体を包む。そして、そのまま《メガ・スピア・ドラゴン》に向かって突進してきた。
「自分のクリーチャーを無駄死にさせるつもりか!?」
「違うな!死ぬのはお前のクリーチャーだけだ、女ぁ!」
《アキューラ》の体に黒い雷が落ちる。それと共に羽根が飛び散り、中から鉄の色をした物体が現れる。
『リズ、侵略だ』
「ああ、判るぜ。攻撃した時に進化できる奴だな」
リズ達の前で《アキューラ》は別のクリーチャーへと姿を変えていた。機械の体で出来た地蔵のようなクリーチャー《三界ゼンジゾウ》が錫杖を《メガ・スピア・ドラゴン》に投げつける。リズの龍はそれに貫かれ、赤い光を発して消えてしまった。
「死ぬのはそいつだけじゃねぇ!喰らえ!」
次に動いたのは《ガガ・ピカリャン》だ。ジャンプして巨体で《トップギア》を踏みつぶす。
「やるじゃないか。だが、あたしにはまだ《ボスカツ&カツえもん》がいるぜ!」
リズの闘志に呼応するように《ボスカツ&カツえもん》が立ち上がり、拳と剣を突き出して桑野を威嚇する。だが、それを嘲笑うかのように二体の前に《ゼンジゾウ》が立ちふさがる。
「無駄だ。《ゼンジゾウ》はターンの終わりにアンタップするブロッカーだ。攻撃も防御もこいつがいれば問題ねえ!」
勝利を確信した桑野は笑った。同じように笑っているのか《ゼンジゾウ》の体が細かく揺れる。
「判ったぜ」
カードを引いたリズは静かに言った。
「負けを認めるか?」
「そうじゃない。そんな事は必要ないぜ。あたしはこのターンで勝つ!それが判ったって言ったんだぜ!」
再び、赤と緑の炎。飛び出すのは《メガ・スピア・ドラゴン》。《ゼンジゾウ》に向かって一直線に突き進む龍を見て桑野は笑った。
「お前、まだ判らねーのか!?無駄なんだよ!《メガ・スピア・ドラゴン》のパワーじゃ《ゼンジゾウ》には勝てない!」
「あたしは《メガ・スピア・ドラゴン》で勝つなんて言ってない!こいつを喰らえ!」
リズが《メガ・スピア・ドラゴン》のカードを引き、代わりに別のカードを置いた。そうする事で《メガ・スピア・ドラゴン》の体が赤と緑の光を発しながら変化していく。その光に触れた事で《ゼンジゾウ》の体が砂粒のようになって消滅した。
「何をしやがった!」
「革命チェンジ。出したのは《DXブリキング》だ!」
その場に現れたのはドラゴンのロボットとも言うべき形のクリーチャーだ。《DXブリキング》は体中のゼンマイを高速回転させながら、最後のシールドに向かって走る。
「《ブリキング》はあたしのドラゴンが攻撃した時に、場のドラゴンと交代して出るクリーチャーだ。そして、出た時にコスト6以下のクリーチャーを破壊する!《ゼンジゾウ》のコストは5。《ブリキング》の射程範囲内だぜ!!」
《ブリキング》の両腕の大砲が最後のシールドを撃ち抜いた。その中にシールド・トリガーはない。
「ウソだろ……。ああ、そんな……!この力で暴れられると思ったのに……!」
負けを認めた桑野の顔は哀れなものだった。リズ達の前に姿を見せた時の威勢の良さは欠片も残っていない。
「とどめだ!《ボスカツ&カツえもん》、行けーっ!!」
二体の獣が突進する。大きい方の獣、《ボスカツ》の拳が桑野の顎を捕えた。とどめを受けた彼の肉体は高く宙を舞い、その場に倒れた。
その瞬間、桑野の左手の模様が光を発して消える。周囲の景色も、色と音を取り戻した。クリーチャー達の姿も消えていた。
「翔太!」
リズは後ろに隠れていた翔太を見る。彼は片腕を押さえていた。
「大丈夫か!?ちょっと見せてみろ!」
心配した顔で見ると、左手の光は消えていた。おかしいところはない。
『リズ、お前の勝ちだ。お前はこの子供を救ったんだ』
「あたしが、救った……」
「頭が痛いのも左手が熱いのも、もう大丈夫だよ。ありがとう、おねえちゃん」
まだ余熱が残るのか、翔太は弱々しい笑顔を見せる。だが、リズにはそれだけで充分だった。

「彼の弟子っていうだけの事はあるね」
そんな二人を離れた場所から見つめる者がいた。一ノ瀬博成だ。
「敵は彼一人じゃない。これからどうなるか。選ばれし者の力、見せてもらうよ、リズさん」
そう言った彼の手には、桑野が使ったデッキケースによく似たデザインの灰色のデッキケースが握られていた。

次回につづく

次回予告
私、一ノ瀬博成はかつて東京で起こった戦いをまとめていた者だ。
新たなる戦い。新たなる戦士。そして、邪悪な印を刻まれた新たなる敵。
記憶を失った天龍寺リズは戦いの中に何を見出すのか?
『次回 第二話 天龍寺リズは決意する』
決意は人の運命を変える。

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