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デュエル・マスターズについて語る非公式ファンサイトです。
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デュエル・マスターズ初心者向けを意識した記事を書いています。
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私、一ノ瀬博成(いちのせひろなり)はカードゲーム専門の雑誌で記者をしている。
『新生球舞(ネオきゅうぶ)』の一人、三浦槍汰(みうらそうた)が天龍寺(てんりゅうじ)リズに接触した。槍汰は自らの能力『スティンガー』を使い、デュエルカフェ・レッドの関係者をターゲットにすると脅す。人質を取られたリズは彼のペースに嵌るが、そこに最上(もがみ)アオイが現れる。保持者だったアオイによって槍汰は倒されるのだった。

20XX年 一ノ瀬博成

第七話 叫び

その日、最上アオイはデュエルカフェ・レッドでたこ焼きセットを食べていた。天龍寺リズのたこ焼きが気に入ったのか、満面の笑みで平らげている。
「いや~、いい食べっぷりですねぇ~。見てるこっちも幸せになりそうですよぉ~」
それを見ていた店長、道方愛菜(みちかたまな)が声をかける。それに対して、アオイはこう返した。
「当然ですぅ。だって、おいしいんですもの~」
「あらあら~、ゆっくりしていってくださいねぇ~」
そう言って愛菜は去った。それと入れ替わるようにしてリズがアオイに近づく。彼女はアオイの正面の椅子に座った。
「がんばって改良したたこ焼きを褒められるのは嬉しいけど、あたしとしては焼き鳥丼を食べて欲しいんだけどな」
そう言って彼女はちらりと横目で他のテーブルを見る。視線の先にはホワイトボードがあった。『本日のおすすめ!焼き鳥丼!』と書かれている。
「私はあなたのたこ焼きを食べに来たのよ。今のところ、他のメニューに興味はないわ」
アオイの口調が愛菜と話していた時のものと変わる。相手を見て話し方を変えるのが彼女のやり方だ。
「たこ焼きばかりで飽きないのかよ」
「飽きたら、別のおいしいものを注文するわ。ところで、仕事はいいの?」
アオイはリズの姿を見る。今のリズは仕事中に付けているエプロンと三角巾を外してパーカーを羽織っていた。
「今日はもう終わり。三時も過ぎたから、落ち着いてんだよ」
ここで彼女達の紹介をしておこう。
デュエルカフェ・レッドの店員、天龍寺リズ。年齢不詳、本名不明の少女で外見から推測できる年齢は十代半ばといったところ。金色のポニーテールが特徴的だが、仕事中は三角巾で隠している。
そして、最上アオイ。リズ達の前に現れた謎の多い少女だ。小柄な体格の少女で、甘えたような話し方をする事が多い。
彼女達は『保持者』と呼ばれる特殊な能力を持ったデュエル・マスターズプレイヤーだ。『スタンプ』と呼ばれる集団と戦っている。
「最近よく来るよな。ヒロさん、探してるのか?ファンなんだろ?」
リズが言う「ヒロさん」とはこの店によく来ている青年、一ノ瀬博成の事だ。TCG専門の雑誌記者をしている。何人もの保持者を集めて『スタンプ』と戦うチームを作っていた。
初めてデュエルカフェ・レッドに来た時、アオイは博成のファンだと言っていた。リズはその事を覚えていたのだ。
「そうじゃないわ。ファンっていうのもウソ」
「え?」
突然の言葉にリズは驚く。そのまま、アオイは続けた。
「もちろん、興味はあったし、彼と面識があったら便利だとは思ったわ。色々な保持者ともつながりがあるみたいだし」
「そんな事まで知ってたのか」
「調べれば判る事よ。少しは気になっていたけれど、毎日探して追いかけるような相手ではないわ」
「そっかー」
それを聞いてリズは少し残念そうな顔をする。アオイにはそれが意外だった。
「私が彼のファンじゃないのがショック?」
「いや、ヒロさんと話してる時、楽しそうにしてると思っただけだぜ」
それを聞いたアオイは溜息を吐いた。呆れた、とでも言うように。
「演技よ、演技。情報を引き出す為の演技」
「じゃ、あたしの前では演技しなくていいのかよ」
「あなたみたいなタイプは演技するよりも本音で話した方が情報を引き出しやすいはずよ。単刀直入に聞くわ。あなた、保持者についてどれだけの事を知ってる?」
「正直、よく知らないんだよな」
駆け引きも考えずにリズは答えた。嘘も偽りもない本音だ。
「あたし、一年前からの記憶がないんだ。保持者の力だって使えるのは判るけれど、どういうものなのか実はよく判ってないんだ」
「一年前……。多くの保持者が目覚めた時と一致しているわね。私も一年前に保持者の力を得たわ。……本当に何も知らないの?」
リズの言葉を信用しつつも、再度アオイは問いかける。
「何も知らないって言うのは違うかな。ヒロさんと一緒にいる内に少しだけ判った事がある。保持者が『スタンプ』の奴らを倒せば、奴らの力を消せる。保持者同士の戦いで負けた奴はデュエル・マスターズの記憶を失ってデュエルできなくなる。あと、保持者同士の戦いはどちらかが拒否すれば戦わずに済む」
「知っているのは本当に基本的な事だけみたいね。丁度いいわ。聞いて欲しい事があるの」
そこで一息入れてアオイがリズを見た。
「あなたの力を貸して欲しいの」
「ヒロさんに同じような事を言われたの、思い出すな」
リズはデュエルカフェ・レッドの常連客の少年、翔太(しょうた)が『スタンプ』に操られた時の事を思い出す。彼が暴力的な衝動に身を任せた時、リズは保持者の力を使って彼を止めた。それを知った博成がリズを自分達のチームに勧誘したのだ。
「あんたもヒロさんみたいに保持者のチームを作ってるのか?あのチームは駄目になっちゃったみたいだけど」
数日前の博成の話を思い出した。何者かの襲撃を受けて、博成が集めた保持者は全滅してしまったのだ。それがショックだったのか、その連絡の後、博成はリズの前に顔を出す事もなく、デュエルカフェ・レッドにも来ていない。
「チームで動くのは苦手なのよ。コンビを組みたいの」
「いいけれど、理由を聞きたいな」
「深い理由はないわ。信用できそうな人間とコンビを組みたいだけ。あなたは知らないでしょうけど、保持者同士の戦いで勝てば相手の力を奪う事ができる」
「それ、本当かよ!?」
初めて聞く話に驚き、声が大きくなる。それを見てアオイは「落ち着きなさい」と軽く注意した。
「相手の力を奪うとは言っても、保持者が持つ固有の特殊能力を奪えるという事ではないわ。私は『新生球舞』の黒マスクを倒したけれど、槍を出す特殊能力を使えるようにはなっていない。保持者が持つ魔力のようなもの、保持者の証しとも言える力のようなもの、それを根こそぎ奪えるの」
「そうだったのか……」
「一ノ瀬さんのチームはそれを禁止できていたのね。私には真似できないわ」
アオイの言う通りだった。保持者にも色々なタイプがいる。ならば、他の保持者を倒して相手の力を奪おうとする者がいても不思議ではない。それが出来たのは、博成が持っていた力によるものなのか、人徳によるものなのかは定かではない。
「そういう訳で、保持者は常に力を奪うか奪われるかの緊迫した状況で戦っているの。だから、誰かと手を組んだ方がいい。一人で戦うのは限界が来るものよ」
「だから、あたしを選んだっていうのか」
「ええ、あなたは信じた人を裏切りそうにないもの」
アオイはリズの目を正面から見る。リズには、その視線が策略や計算を感じさせない本物の感情がこもった目だと感じた。
「あたしだって欲がある。うまい汁を吸う為に裏切るかもしれないぜ」
「その時は、私があなたを退治してあげるから心配いらないわ」
「すごい自信だな」
アオイの返答に笑うとリズは右手を出した。
「手を貸すぜ。だけど、約束してくれ。あたしが力を貸すのは、この前の黒マスクみたいな悪い奴を倒す為だけだ。元々デュエルが好きな奴を倒す事には協力しないぜ」
「それでもいいわ」
アオイはリズの手を握った。交渉成立だ。
「それじゃ、あなたの実力を見たいからちょっとそこまで来てくれるかしら?」
アオイはそう言うとデッキケースを持って立ち上がった。彼女は視線でデュエルスペースを指す。
「ああ、判った」
リズもそれに応じてついて行く。それを見て、周囲のプレイヤーも集まってきた。
「リズ姐さんがやる気だ」
「また、いつものが見られるぜ!」
リズとアオイがデュエルスペースに着席して対戦の準備を終える頃には、周りは観客でいっぱいになっていた。
「わぁ、こんなに見られると恥ずかしいですぅ!さ、リズさんの先攻ですぅ!」
周囲の目を意識してアオイは口調を変える。アオイはリズに開始を促したが、彼女は山札の上に手を乗せたまま動かない。
「あれぇ?」
アオイは気になって彼女を見た。すると、リズは準備を終えた状態で気を失っていた。

一ノ瀬博成は、その喫茶店で緊張した面持ちで座っていた。対面にいるのは年下の若い女性だ。怯えるような相手ではない。彼女が『新生球舞』の一員でないならば。
「お越しいただいてありがとうございます」
対面の女性、七門(ななかど)美鞘は落ち着いた声で話す。肩に力が入った博成とは違い、優雅な動作でミルクティーのカップに口をつける。
「おいしい。いい喫茶店ですね。喫茶店が保持者達の秘密基地だったんですね。昔の特撮ヒーローみたい」
「用件はなんだい?」
博成は努めて冷静でいようとする。しかし、声は硬かった。視線は相手ではなく、自分の前に置かれたコーヒーを見ていた。真っ黒なものを見ながら、自分を保とうとしている。
「今日はあなたにお話があって来ました」
美鞘は博成の顔から視線を離さない。その視線は厳しいものではないが、博成は見る事ができなかった。
「その前に言っておきますが、私は能力を使っていません。そんなに硬くならないで下さい」
「硬くなんかなってないさ」
図星を突かれた博成は多少むっとした様子で言い返し、顔を上げる。それを見て美鞘は「やっと顔を見せてくれた」と言って微笑む。
「話って何かな?」
「一ノ瀬さんは私達『新生球舞』の事をよく知らないでしょう?まず、それを説明させて頂きます。それと、ひとつお願いがあって来ました」
「交渉しに来たって事?」
「ええ、でも、それはお話を聞いてもらってから。私達『新生球舞』はデュエル・マスターズが好きだけど、同時に嫌いでいる。そういう集団です」
「矛盾しているね」
頭がおかしくなりそうな言葉だった。そのまま聞いていたら、相手に飲みこまれそうなので言い返す。
「ええ、矛盾しています。本当はデュエル・マスターズというゲームが好きだけど、ある要因のせいで嫌いに思えてしまうというのが正しいでしょうか?」
「ある要因って?」
「プレイヤーです」
静かな短い言葉だった。美鞘の表情は大きく変わっていない。しかし、その一言に憎悪が込められているように、博成は感じた。
「全員ではありませんが、私達はデュエル・マスターズのプレイヤーを敵視しています。一部のプレイヤーによって、デュエル・マスターズを楽しむべき場から追い出されたからです」
「追い出されたって大袈裟じゃ……」
弱い言い方で博成は反論する。彼は気付いているのだ。『追い出された』という感情が彼らの行動原理であるという事に。
「周りから見れば、対した事ではないのかもしれません。でも、私達にとっては大きな出来事だったのです。強い故に追い出された者、弱い故に追い出された者、どちらもいます。ただ、私達はゲームを楽しみたかったのに、コミュニティがそれを許さなかったという点だけは共通しています。だから、復讐するのです」
「そんなの駄目だ!」
ここで初めて博成が感情をむき出しにして反論した。それを見て平常心の美鞘が言い返す。
「駄目ならどうするんですか?」
「話し合おう。何とかして君達がプレイヤーとして戻れるようにするから――」
「お断りします」
博成の言葉を遮って美鞘が言う。
「話し合いで解決できるのならば、とっくにやっています。私が間に入っても何も変わらなかった」
美鞘はそこで初めて表情を変えた。微笑んでいるのではない。変えられない過去の出来事に対して、舌打ちでもしているようだった。
「それにコミュニティに戻る事やプレイヤーとして復帰する事が望みではないのです。私達の目的は復讐です」
優雅な口調で語られているとは思えない物騒な話だ。博成は圧倒されながらそれを聞く。
「ここから先はお願いです。一ノ瀬さん、あなたは私達と保持者の戦いに関わらないで欲しいのです」
「僕だって……、保持者だよ」
精一杯の気持ちを振り絞って反論する。この程度の事しか言えないのが情けなかった。
「旧世代の保持者の力を借りて戦っている仮初めの保持者。いえ、保持者とも言えません。あなたは保持者の真似をしているだけです」
図星だった。博成はあくまで保持者の力の一部を借りているだけに過ぎない。『スタンプ』のメンバーなら止める事はできるが、保持者の力を持った『新生球舞』を止める力はない。
「でも、その実力は本物ですわ。だから、戦いが終わるまで私達にも保持者にも力を貸さないで欲しいのです」
「真似ごとをしているハンパな奴には首を突っ込んで欲しくないって事?」
絞り出すような声で博成が問う。
「それもありますが、アジア大会三連覇の実力は脅威です。あなたがどちらの陣営に力を貸してもパワーバランスは崩壊します。だから、どちらにも力を貸さないで欲しいとお願いしているのです」
美鞘はカップを置いた。彼女のミルクティーは既になくなっていた。
「話を聞いてくれてありがとうございました。これはミルクティーのお代です」
美鞘が千円札を出そうとするのを博成は手で遮る。
「いいよ。ここは僕が払っておく」
「それじゃ、ごちそうさまでした。あなたとはいい関係でいられる事を願いますわ」
そう言って美鞘は去って行く。
博成にとって『保持者の真似』という言葉は強烈だった。美鞘が言うように、博成が使っているデッキは最強の保持者、赤城勇騎(あかぎゆうき)から借りている者だ。自分で手に入れたものではないデッキで戦うという行為が、彼女らにとっては真似ごとに見えるのかもしれない。
「僕は……、何なんだ。勇騎君、僕は何をすればいい……?」
彼は頭を抱えて友人に問う。最強と呼ばれた友人は何も答えてくれない。

「ここか」
その夜、リズはデュエルカフェ・レッドの最寄り駅の入り口に立っていた。
リズがアオイに手を貸す事を約束した日から二日が経った。リズはアオイに呼び出されてここにいる。
「ここで、いいんだよな?」
不安になったリズは横にいたアオイに聞く。
「そうよ。間違いないわ」
アオイは駅の入り口を見ながら答える。
一昨日から、電車に乗っていた中高生が突如行方不明になるという事件が発生していた。警察はまだ被害者の共通点をつかめずにいたが、アオイだけは独自の情報網を駆使してデュエル・マスターズのプレイヤーだけが被害に遭っている事をつかんでいた。
「被害者の共通点が判ったり、事件が起こる場所が判ったりしてすごいな。何でそんな事できるんだ?」
「一つは私の能力よ。集中すると、人の悪意みたいなものが黒いもやになって見えるのよね。あなたが一ノ瀬さんとデュエトピアに行った時も、同じものを感じたのよ」
「あの時か!」
「そうよ。手帳にメッセージを挟んであげたの、覚えてる?」
リズは博成に誘われてデュエトピアに行った時の事を思い出した。あの時、二人は博成の手帳に挟んであった『鏡の迷路に気をつけて』と書かれた紙を見て警戒していたのだ。残念ながら、敵の能力のせいでアオイのメッセージはそれほど効力を発揮しなかったが。
「でも、それだけじゃ答えの半分にしかならねえよな、女子高生探偵さんよ?」
二人の進行方向から声が聞こえる。見ると、赤い髪に赤い服、赤い靴の少年が立っていた。九鬼拳慈だ。
「何者!?」
見知らぬ存在を見てアオイは警戒する。拳慈は気にしていない様子でお辞儀をした。
「ドーモ、保持者サン。九鬼拳慈です」
「あ、どうも」
釣られてリズも頭を下げる。だが、アオイは警戒した様子を崩さなかった。
「九鬼拳慈、知っているわ。『新生球舞』のリーダーね」
「え!?じゃあ、敵の親玉かよ!」
「俺の事よく知ってるな。さてはファンだな、オメー」
リズは驚いた顔で拳慈を見る。だが、その顔から敵意は感じられない。
一度咳払いした後、拳慈はアオイを見た。
「女子高生探偵、最上アオイ。斧馬(おのま)と槍汰を倒したのはお前だろ?噂はよく聞いてるぜ?」
「女子高生探偵って、そんなの初めて聞いたぞ」
「言わなかったからね」
アオイの目はリズではなく、拳慈を見ていた。敵に対して、まだ警戒している。
「とりあえず、そんな事はどうでもいいんだ。今日は天龍寺リズに話があって来たんだよ」
彼は真剣な表情でリズを見る。そして、一呼吸置くと言った。
「これから、お前と俺達が何度も戦う事になるだろう。負けたら二度とデュエルができなくなるかもしれねえ。でも、手加減するな。斧馬の時みたいに情けをかけるな」
拳慈の声にさっきまでのふざけたような軽さはなかった。相手の心に、自分の言葉を刻みつけるかのような重さがあった。
「いいのかよ?お前の仲間と戦うんだぞ?」
「負けたら負けたで仕方ねえよ。それまでだったって事だ。それに……、あの二人はその方が幸せかもしれねえからな」
そう言うと、拳慈は二人の脇を横切っていく。アオイは目でそれを追っていた。
「追うか?」
リズが聞いたが、アオイは首を横に振る。
「この奥にいるはずの敵の方を先にするわ」
「だな。色んな人が被害に遭ってるからな」
二人は改札に向かって進む。改札を抜けてホームまで進んでも異常はなかった。やがて、電車がやってくる。
「見えたわ」
電車が到着し、ドアが開いた時にアオイが口を開いた。
「上で見た時以上にはっきりと見える。この電車の中よ」
二人は顔を見合わせて頷く。覚悟はできているという事だ。
ドアはまるで地獄の釜の蓋のように開いて二人を待ちうけている。
「行こうぜ」
リズの言葉が合図になった。二人はほぼ同時に電車に乗り込んだ。

『リズ、起きろ』
「ん……」
リズは自分を呼ぶ声を聞いて目を覚ました。見ると左手の中指に銀色の指輪がはまっている。喋っているのは、指輪についた龍の飾りだ。自らの意思を持つこの指輪を、リズは『ボル太』と呼んでいる。
「ボル太。何があったんだ?」
ボル太に声をかけながらリズは体を起こす。そして、周囲を見た。
デュエル中に見る『無の領域』のように真っ白な世界だ。普段と違うのは、周囲に何もないという事だ。
しかし、人は大勢いる。倒れていたり、座った状態で顔を伏せていたり、皆、活力のない状態でそこにいる。そして、誰もがすすり泣いていた。恨みの声にも似た泣き声が聞こえる。
「やられたみたいね」
横にアオイがいた。彼女も周囲を見ている。異様な光景を見たせいか、冷静な彼女も怪訝そうな表情をしている。
「やられたって、もしかして敵の能力か!?」
「ようこそ、天国へ」
それを遮るような声がした。リズとアオイが声のする方を見ると、二人と同じ年頃の少女が手をつないで歩いてくるのが見える。
二人とも同じ制服を着ていた。
一人は丸い目をして髪を二つ結びにした少女だ。新しいおもちゃでも見るような興味を持った目でリズとアオイを見ている。
もう一人はきつそうな目をしたショートカットの少女だ。軽く腕組みをしたまま歩いてくる。
「私は四谷佳矢(よつやかや)」
「五味弓佳(ごみゆみか)だよ」
佳矢、弓佳と名乗った少女はそれぞれデッキを持っていた。
歩く途中で、二つ結びの少女、弓佳は近くにいた少年を蹴飛ばした。蹴飛ばされた少年はやり返す事もなく、ただ泣き続けている。
「邪魔」
「何するんだよ!」
リズが怒鳴った時、ショートカットの少女、佳矢がリズに掌を向けた。すると、彼女の手からもう一つの手が現れ、リズの首をつかむ。
「がっ!」
リズは佳矢の手から飛び出した手首をひっかくが、それは外れない。
「抵抗は無駄よ。それに、あたし達の天国を邪魔する奴は許さない」
「天国?さっきもそう言っていたわね。ここが天国だって言うの?」
周りを見ながらアオイが聞いた。
「そうだよ。私の能力『トレイング』で悪いプレイヤーを連れて来たんだ。ここで私達に負けた悪い人達はずっとここから出られないんだ。悪い人達は自分達の罪を認めて謝るしかないんだ。天国でしょう?」
弓佳がゆっくりした口調で説明し、首を傾けてアオイを見る。彼女の丸い瞳を見て、アオイは目を逸らした。見続けていると、心の奥がかき乱されてしまいそうだったからだ。
「判らないわね。どういう基準でいい悪いを決めているのかしら?それに、連れて来て閉じ込めるなんて、随分大人しい能力ね」
挑発的な言い方で弓佳の考えを探る。アオイは過去の経験から、挑発して相手の思惑を自ら喋らせる方法を選んだ。しかし、それはすぐに間違いだったと悟る。
「佳矢!」
泣きそうな声で弓佳が言うと、佳矢は左手をアオイに向ける。すると、リズに対してやったのと同じように彼女の左手が飛んできてアオイの首をつかんだ。
「弓佳の能力の詳細を知ろうとしたの?無駄よ!でも、あたしの『ミュート』だけは教えてあげる。あたしの能力は余計な事やくだらない事を喋らせない為の能力。相手の首を絞めて、何も言わせない。弱点は五分しか使えない事だけど、そんなの些細な事よ」
佳矢はアオイに対して笑みを浮かべる。見るだけで背筋がぞっとするような邪悪な微笑みだ。
「この能力で五分も首を締めつけられた奴は死ぬわ」
「佳矢の能力で死んじゃうか、デュエルで負けてずっとここにいるか、どっちがいい?」
アオイは二人を睨みつける。しかし、首を締めつける手のせいで叫ぶ事ができない。二人の邪悪な笑顔が目から離れない。
「言い返せないの?首を絞められたまま死ぬのが好み?」
「デュエルで負けてここに閉じ込められるのもおすすめだよ」
「冗談じゃないぜ!」
二人の言葉を跳ね飛ばすようにリズが叫んだ。彼女は、佳矢の能力で生み出された手を無理矢理引きはがして地面に叩きつけた。その後、アオイに近寄ると彼女の首を絞めていた手も引きはがす。
「ありがと」
「気にすんなよ」
アオイは軽くせき込んだ後、礼を言う。彼女の無事を確認した後、リズは弓佳と佳矢を見た。
「死ぬか出られないかの選択肢なんて、どっちでも嫌だ!あたしは勝つ方を選ぶぜ!」
彼女は既にデッキケースを握っていた。
「そうね。私達は保持者。あなた達みたいな悪者を倒す者よ!」
リズの言葉でアオイの目にも気力が戻った。彼女も自分のデッキを握って臨戦態勢に入る。
「佳矢……」
「弓佳、怯えちゃ駄目よ!あたし達に挑んできた奴らは全員倒して来た!ずっとここに閉じ込めてやる!」
二人と二人。四人の視線が重なり、デュエルが始まった。
「《ゴーゴー・ジゴッチ》召喚!」
リズと弓佳のデュエル。先に動いたのはリズだった。戦闘機を背負ったような鳥のマスコット、《ゴーゴー・ジゴッチ》を召喚して相手の様子を見る。
「これで、《メガ・スピア・ドラゴン》を手札に加えるぜ。ターンエンドだ!」
「かわいい鳥さん!でも、邪魔する子は許さないよ」
弓佳は《ゴーゴー・ジゴッチ》を見て目を輝かせた後、リズに対して冷たい声で言い放つ。そして、マナをタップして一体のクリーチャーを召喚した。
「《タルー》だよ」
弓佳は球体にドラゴンの子供のような顔が生えたクリーチャー《魔法の玉 タルー》を召喚した。《タルー》の頭上の輪が光った時、弓佳の山札の上のカードが光る。そのカードが勝手に移動して新しいシールドになった。
「《タルー》はシールド追加ができるブロッカーだよ。いい子だよ」
「シールド追加のブロッカーかよ。防御を固めてきたな。だけど、こうするぜ!」
リズは二体の獣が一体となったコンビのクリーチャー《双勇 ボスカツ闘&カツえもん武》を召喚した。
「《ボスカツ闘&カツえもん武》はバトルゾーンに出た時、相手のクリーチャーとバトルできる!それに、今のパワーは《タルー》と同じ3000だけど、バトル時のパワーは3000プラスで6000だ!行け!」
リズの命令を聞いて、大きい方の獣《ボスカツ》が拳を突き出した。すると、拳の衝撃波を受けて《タルー》が爆発する。その隙をついて《ゴーゴー・ジゴッチ》が弓佳のシールドに体当たりした。
「これでシールドの数は同じ。だけど、クリーチャーがいる分、あたしが有利だな!」
「そんなの、すぐに覆してあげる」
金色の光と共に、弓佳の場に新たなクリーチャーが出現した。飛行物体ともオブジェとも言える形をしたクリーチャー《雷鳴の守護者ミスト・リエス》だ。
「佳矢ちゃんが教えてくれたんだ。序盤からどんどんクリーチャーを出してどんどん攻撃するのは強いけれど手札が減りやすいって。でも、序盤が弱くても手札がいっぱいになるデッキなら、カウンターで倒せるって」
弓佳は《ミスト・リエス》を信頼した目で見ている。《ミスト・リエス》は他のクリーチャーが出る度にドローできる強力なクリーチャーだ。放置していたら、放置していた分だけ危険である。
「いいじゃん、手札いっぱい増やしてみろよ。でも、カウンター決める前にあたしが勝つ!」

「《ブラッドレイン》を召喚!」
「《コアクアンのおつかい》!
アオイと佳矢のデュエルも始まっている。先にクリーチャーを呼び出したのは佳矢だ。しかし、アオイは後半に向けて準備を重ねている。
「手札を増やしても無駄よ。使う前にあんたを叩き潰してやるわ!」
佳矢は《ブラッドレイン》のカードに一枚のカードを重ねる。すると、《ブラッドレイン》は銀色の馬に乗った漆黒の騎士へと姿を変えた。
「《夢幻騎士 ダースレイン》!登場時の効果で山札の上のカードを墓地へ。そして、墓地からクリーチャーを一枚手札へ!」
《ダースレイン》の効果で手札補充をした佳矢はアオイのシールドを睨んだ。すると、《ダースレイン》がシールドに向かって突っ込む。
「W・ブレイクよ!」
アオイを守っていた盾二枚が勢いよく割れる。しかし、彼女は眉ひとつ動かす事なく、シールドのカードを回収した。
「あたしの攻撃が早いから、怖くなったかしら?」
「いいえ、この程度、いくらでも耐えられると思っただけ。《スパーク・チャージャー》を使って手札を増やすわ。こちらはターンエンドよ」
アオイは佳矢の攻撃を受けても、対策できるカードを出せなくても涼しい表情を崩さなかった。それが佳矢の癇に障る。
「気に食わないわね、あんた!」
「好かれようとも思っていないわ。そんなくだらない話をしにきたんじゃないんだから、さっさとかかって来なさい」
アオイは挑発しながら佳矢を見る。いや、佳矢ではなく、自分の勝利への道筋を見ているのかもしれない。

「始まったかな」
拳慈は地下鉄の駅近くにあるコンビニの看板の下に立って呟く。コンビニで買ったばかりのコーラを口に含んで横を見た。そして、隣にいる盾一(じゅんいち)に言う。
「女二人にこんな事をさせる俺を軽蔑したっていいんだぜ?」
拳慈は自嘲するように言う。
『新生球舞』のリーダーである彼は、メンバー全員の能力を熟知している。弓佳の『トレイング』と佳矢の『ミュート』もよく知っていた。
『トレイング』は弓佳と同じ電車に乗っている者の中から、デュエル・マスターズのデッキを持っている者、スタンプで凶暴化したプレイヤー、保持者を全て特殊な空間へ閉じ込めるという『新生球舞』の中でも最強の能力だ。『トレイング』で生み出した空間の中で弓佳がデュエルに敗北すると解除されるが、能力を使った時の弓佳は負けた事がない。
それは佳矢が『ミュート』を使っているからだ。『ミュート』は彼女が気に入らない者を黙らせる為に使う能力。彼女の手と同じエネルギー体を飛ばして気に入らない者の首を絞めて黙らせる。五分で消える、二発までしか連射できない、という欠点はあるが、これで五分も首を絞められた者は死ぬ。
二人はコンビで行動していた。弓佳が『トレイング』でプレイヤーを呼び出し、佳矢が『ミュート』で牽制する。首を絞められながら自分のペースで戦える者などいない。三分もせずにギブアップする者、戦い続けて負ける者の二種類しかいなかった。ギブアップした者と負けた者に対して、佳矢は『ミュート』を解除している。五分も首を絞めて殺した相手はいない。
「軽蔑なんかしないさ。俺達の目的の為には必要だ。クズ共への復讐と、奴らの打倒という俺達の目的の為にはやらなくてはならない事だ」
「悲しいけどこれ戦争なのよね、って感じだな」
静寂。
どちらも何も言う事もなく、夜を感じている。
流れる額の汗を拭った後、拳慈が再び口を開いた。
「だけど、妙だよな」
「どうした?」
「佳矢も弓佳も能力を使いたくねーって言ってたはずなんだぜ。なのに、ここ最近になってどうして急に?斧馬と槍汰がやられたからか?」
「いや……」
否定しながら、盾一は考える。彼も二人の行動には疑問を覚えていた。弓佳と佳矢の二人は憎しみの心は持っていたが、自分達の負ったトラウマのせいか、戦う事に対して消極的だった。二人が行動を起こした時、盾一は奇妙だと思ったが、目的の為という考えが疑問を打ち消した。
拳慈の言葉を聞いた時、彼の中で再び、疑問が蘇る。
「盾一?」
気がつくと、心配した表情で拳慈が自分を見ていた。盾一は拳慈を見て言う。
「……嫌な予感がする」

今から一年ほど前。
四谷佳矢と五味弓佳はデュエル・マスターズの初心者だった。始めるきっかけがなんだったか、二人は覚えていない。二人にとってきっかけなど些細な事で、楽しいもので楽しく遊んでいるという事実が重要だった。
周囲にプレイヤーがいなかった彼女らは近くのショップの大会に参加する事にした。他のプレイヤーとの交流ができる。それに、もしかしたら優勝できるかもしれない。
初めての大会に対して、二人は大きな期待を込めて参加した。
結果は最悪だった。初心者だった二人の実力では大会で勝つのは不可能だった。だが、そんな事は二人にとっては重要ではない。初心者で女性プレイヤーというところに目をつけた他の大会参加者は二人を煽り、罵倒し、嘲笑した。
「こんな実力で大会来るなんて」と煽る者。
「このカード弱過ぎ」と罵倒する者。
「センスないわ」と嘲笑する者。
佳矢はこんな嫌な奴らは黙らせてやりたいと思い、弓佳はこんな奴らはここではないどこかに閉じ込めてやりたいと思った。
大会が終わる前に、二人はその場から逃げだしていた。好きだったはずの物が嫌いな物に変わっていた。
「佳矢ちゃん」
二人で肩を落として歩いていると、弓佳が呟いた。
「こんなデュエルやだぁ……!」
弓佳はそう言って、子供のように泣き出した。それに釣られて佳矢も泣き出す。
二人で悲しみ、絶望しながら歩いていた時、頭上から光が差した。その光が二人を包みこんだ時、二人は保持者の力を手に入れ、運命が変わった。
二人の想いは特殊能力へと変化し、復讐したいという彼女達の願いを叶えた。
「おい、ぼーっとするなよ!」
リズの声を聞いて、弓佳は過去の自分の体験を頭の隅に追いやった。そして、冷たい笑顔でリズを見る。
「デュエル、楽しい!?」
突然、弓佳がリズに聞く。
「ああ、楽しいぜ!当然、今やってるこのデュエルも楽しいね!」
リズの《ボスカツ&カツえもん》がシールドに突っ込む。それを見たリズは自分の手持ちのカードを空へ投げた。
「革命チェンジ!《DXブリキング》!」
《ボスカツ&カツえもん》の姿が炎に包まれて消える。その直後、炎の中からゼンマイで動くロボットのドラゴンのようなクリーチャー《DXブリキング》が出て来た。
「《ブリキング》はドラゴンの攻撃時に場のクリーチャーと交換して出せる革命チェンジのドラゴン!そして、登場時に相手のコスト6以下のクリーチャーを破壊できるぜ!これで《ミスト・リエス》は終わりだ!」
《ブリキング》は右腕の大砲で《ミスト・リエス》を撃ち抜き、左腕の大砲で弓佳のシールドを撃つ。これで弓佳のシールドはなくなった。しかし、リズのクリーチャーは《ブリキング》一体だけだ。これ以上の攻撃はできない。
「邪魔な《ミスト・リエス》はやっつけたぜ。これでもうドローはさせない」
「いいよ。もう充分引いたもん。それに、これからは引くんじゃなくて押すんだよ」
突如、弓佳の頭上に巨大な光と共に二つの門が現れる。それが開くのと同時に羽音が聞こえて来た。虫のような羽音だ。
「シールド・トリガー《ヘブンズ・ゲート》だよ。ブロッカー二体出すね。おいで、《ギャツビー》!」
羽音の正体は蜂のようなクリーチャー《五極 ギャツビー》だった。《ギャツビー》が持っていた槍を振り回すと、破壊したはずのシールドが弓佳の前に現れる。
「《ギャツビー》が出たら、山札の上二枚を見れるんだ。一枚は手札、一枚は新しいシールドになるんだよ。そして、もう一度《ヘブンズ・ゲート》!もう一度《ギャツビー》だよ!」
羽音と共に、ブロッカーと盾が増えて行く。リズの猛攻で一度は0にしたはずのシールドは四枚になっていた。
「これで終わりじゃないよ!《ギャツビー》で《ブリキング》を攻撃!やっつけちゃえ!」
《ギャツビー》は《ブリキング》に向かって飛ぶ。その横をすれ違う一瞬の隙をついて《ギャツビー》の槍が《ブリキング》の胴を刺す。
「楽しいって言ったよね。ここに来た人の中にもそういう事言う人はいたよ。その人達は、弱い奴をいたぶるのが楽しいって言った!あなたも同じなんだ!」
弓佳は目を見開いて叫ぶ。持ち主の叫びに呼応するように《ギャツビー》の群れは倒れた《ブリキング》を何度も槍で突き刺した。
「でも、判るよ!弱い奴をいたぶるのは楽しいもの!私強い人!負けるのは弱い人!楽しいね!こうやっていたぶるのは楽しいね!」
「嘘をつくな!!」
空気まで痺れるようなリズの声が響いた。それを聞いて弓佳は黙り、《ギャツビー》は動きを止める。
「楽しいなら、何で泣いてんだよ……」
リズは心の底から悲しそうな顔をしていた。怒りの感情をぶつけられると思っていた弓佳は唖然としている。
「泣いてないもん。ほら」
弓佳は目に指を当てて言う。涙は出ていなかった。
「いや、あたしには判るぜ。あんたの心は泣いている。心が叫んでる!本当はこんな悲しいデュエルはしたくない。楽しいデュエルをしたいって叫んでるんだよ!!」
「うるさいよ!」
攻撃可能な《ギャツビー》がリズのシールドに突っ込む。これでリズのシールドは0になった。
「楽しいの!いたぶっている時は楽しいの!ほら、あなたのせいでつまらなくなった!嫌い!あなた嫌い!大嫌い!」
「否定するんだったら思い出させてやるよ。あんたの本当の想いを!」
リズの声と共に四体の《ギャツビー》が爆散して燃え上がる。そして炎の中から二本の刀を携えた侍の龍が現れる。
「《熱血龍 GENJI・XXX》だ。登場時にブロッカーを全て破壊する。そして、スピードアタッカーでもある!まずはブロッカーを破壊したぜ!次はシールドだ!」
《GENJI・XXX》が弓佳のシールドに向かって飛ぶ。それを見た弓佳は言った。
「無駄だよ!私のシールド、四枚あるもん!」
「無駄じゃない!革命チェンジだ!」
《GENJI・XXX》の前に赤い壁が現れる。それを潜り抜けた時、ドラゴンは別の龍へと姿を変えた。
まず、目につくのは翼のように広がる赤いマント。次に、見る者の目を奪う空のような青い鎧。そして、あらゆる悪を両断する金色の剣。《蒼き団長 ドギラゴン剣》だ。
「《ドギラゴン剣》にチェンジした。効果でコスト6以下になるまで多色クリーチャーを呼び出すぜ。行け、《メガ・スピア・ドラゴン》!」
《ドギラゴン剣》の咆哮を受けて、リズの手札から《メガ・スピア・ドラゴン》が飛び出す。
「《ドギラゴン剣》はT・ブレイカー。一気に三枚もらった!」
ジェット機のような激しい速度と共に《ドギラゴン剣》は弓佳の盾に突っ込み、三枚を破壊する。その中にシールド・トリガーはない。
「だから無駄だよ!《メガ・スピア・ドラゴン》じゃシールドはブレイクできても、とどめはできないもん!」
「まだあたしの攻撃は終わってないぜ。最後まで見ろ!」

「これでどう!?」
佳矢の《ダースレイン》の攻撃が通る。これでアオイはシールドもクリーチャーもない。対して、佳矢はシールドは三枚。《ブラッドレイン》と《ダースレイン》がいる。
「偉そうな事を言った割に対した事ないわね。その辺りで転がっている雑魚と一緒だわ」
佳矢はアオイを見る事なく吐き捨てるように言う。そんな佳矢の様子を見ながらアオイはカードを引いた。
「あなた達、どうしてこんな事を始めたの?」
「復讐よ」
大きな声ではなかった。しかし、今までの佳矢の言葉の中でその言葉が一番彼女の想いが乗った言葉だった。
「あたし達を笑った奴らへの復讐。あたし達のデュエルを馬鹿にした奴らへの復讐。あたし達を嫌な気持ちにさせた奴への復讐。あんな奴らには何をしたって許されるのよ!」
「そう、復讐なの」
そう言って、アオイは周囲を見る。周りで泣く者、呻く者は十人や二十人ではない。百人近いだろう。平静を装ってはいるが、正直、嫌な気分だった。
「彼らがあなた達を笑ったの?」
アオイが聞いた。
「笑ってないけれど、同罪よ。あの場にいたら、きっとそうする。同じ事をする!」
「よく判ったわ。あなたはここで止める。私がそう決めたわ」
パイプオルガンの音と共に、アオイの場に一体の龍が現れる。《音感の精霊龍 エメラルーダ》だ。効果でアオイは一枚のカードをシールドとして仕込む。これでアオイのシールドは0から一枚に回復した。
「これでターンを終えるわ」
「何がいいたいの?あたし達の復讐を否定したいの!?いいわ、あんたも敵!敵は滅ぼしてやる!」
佳矢の場に小さい人形のようなクリーチャーが現れた。《福腹人形コダマンマ》だ。《コダマンマ》は佳矢のシールドにかじりつく。すると、そのシールドは割れてしまった。
「《コダマンマ》で手札補充完了。これでシールド残り二枚。こいつの出番よ!」
佳矢は《コダマンマ》に向けて一枚のカードを投げつけた。そのカードに触れた瞬間、黒い光を発しながら《コダマンマ》の姿が変わっていく。腕と脚は太く、指先には巨大な爪。叫んだ時に覗く口の中には巨大な目玉が見える。
「《悪魔龍王 ギランギラー》よ!自分のシールドが二枚以下なら、攻撃時に相手クリーチャーを破壊できる!邪魔な《エメラルーダ》は死ね!」
《ギランギラー》が腕を振り下ろすだけで《エメラルーダ》の肉体は紙切れのように切り裂かれてしまった。《ギランギラー》はもう片方の腕で《エメラルーダ》の残骸を弾き飛ばし、シールドを見る。口の中の目玉から赤い光線が発射され、アオイのシールドを貫いた。
「次、行くわ……んっ!」
佳矢が次の攻撃を仕掛けようとした時、金色の光がその場を包んだ。眩しさに佳矢は目を閉じる。
「次なんてないわ。あなたの行動はこれで終わりよ」
アオイの場に新たな龍が現れる。いや、それは龍と言うよりは、龍と天使が融合した存在と言った方が正しい。龍の下半身に精霊の上半身を持った《龍聖霊ウィズダムフェウス》だ。
「仕込んだ《ドラゴンズ・サイン》で《ウィズダムフェウス》を出したわ。そして、《ウィズダムフェウス》の力で《レインボー・スパーク》をタダで使った。見なさい、あなたの場で攻撃できるクリーチャーはもういないわ」
目が回復した佳矢が自分の場を見ると、自分のクリーチャー達は光から目を守るように目を閉じたり、手で目を覆ったりしていた。
「何でよ……。あたし達の復讐は正しいのに、何で……っ!」
「間違っていたからよ。だから、こうなった」
混乱する佳矢にアオイが告げる。彼女は二体目の《エメラルーダ》を召喚して、盾を回復させた。そして、《ウィズダムフェウス》で《ダースレイン》を攻撃して破壊する。
「復讐が間違っているって言うの!?」
「復讐が正しいか間違っているかは問題ではないわ。あなたは無関係な人も巻き込んだ。その時点ではこれは復讐じゃない。八つ当たりよ」
「黙れーっ!」
佳矢の叫びと共に、彼女のクリーチャーが動く。《ギランギラー》が《エメラルーダ》を八つ裂きにして、シールドに突進した。
「黙れ黙れ黙れ!あんたも他の奴らと同じようになれ!この世界にずっといればいい!そこで反省しろ!頭を冷やせ!許しを請え!」
《ギランギラー》の爪がアオイのシールドに触れる。再び、金色の光が全てを包んだ。
「何なの!?」
「シールド・トリガー《音階の精霊龍 コルティオール》よ。場のドラゴンの数だけ相手クリーチャーをタップするわ。これで、またあなたのクリーチャーを無力化できたわね」
二度だ。勝てると思って攻撃して二度も防がれた。今までにない屈辱的な経験に、佳矢は舌打ちする。
「二度あっても、三度はないわ!次こそ、必ず……!」
しかし、それでもまだ彼女は気付かない。弓佳と自分だけの特別なフィールドで戦う事に慣れ切っていた彼女は気付けない。二度目を防がれた時点で、敗北の沼へ足を踏み入れている事に。
「ここまで来てまだ次があると思っているの?もう、あなたに先はない」
アオイは《コルティオール》に向けて一枚のカードを投げる。そのカードの力を受けて、《コルティオール》の体は変化していった。天使のような純白の翼に、高貴さの象徴とも言える青と金の鎧を纏った王の姿。
「《聖霊龍王 アルカディアスD》。T・ブレイカーを持つ私の切り札よ」
「こっちにはまだシールドがある!シールド・トリガーだって、きっと……!」
佳矢はすがるような目で自分のシールドを見た。その時、《ウィズダムフェウス》の突進で残っていた二枚のシールドが破られた。その中の一枚が黒く輝くのを見て佳矢は笑って手を伸ばす。だが、彼女が触れる直前にその光は消えた。
「どうして!?どうして、シールド・トリガーが使えないのよ!」
「《アルカディアスD》の特殊能力よ。誰も光以外の呪文は使えないわ」
《アルカディアスD》の鏡面のような鎧に佳矢の顔が映った。彼女は自分の絶望しきった顔を見ていた。
「そ、そうよ……!弓佳、まだ弓佳がいる!弓佳だけでも勝てば……!」
佳矢は慌てた顔で弓佳を見た。リズと弓佳のデュエルも終わりを迎えようとしていた。
「《メガ・スピア・ドラゴン》で攻撃!そして、革命チェンジ!」
リズの《メガ・スピア・ドラゴン》は炎の輪をくぐり抜ける。すると、その体は全身が機械でできた龍に変わっていた。背面に、巨大な二門の大砲を背負っている。
「チェンジ完了!《荒ぶる大佐 ダイリュウガン》だ!行っけー!」
《ダイリュウガン》の大砲が弓佳の最後のシールドを撃ち抜く。弓佳のシールドはシールド・トリガーではなかった。だが、攻撃が終わったのを見て彼女は笑う。
「終わったね。もう攻撃できないね」
そう言った弓佳に向かって《ダイリュウガン》が飛んだ。攻撃を終えたクリーチャーが動き出したのを見て彼女は狼狽する。
「え!?攻撃終わったのに、何で……!?」
「《ダイリュウガン》は攻撃の後で、火と自然のドラゴンを手札から捨てればアンタップして再攻撃できる!これで終わりだぜ!」
《ダイリュウガン》は弓佳の眼前に着地した。それを見た弓佳は怯えたように頭を腕で隠す。だが、彼女がいつまで待っても《ダイリュウガン》の攻撃はなかった。
『リズ、何をしている』
ボル太の淡々とした声が聞こえる。
「何してるの?」
信じられないといったニュアンスのアオイの声も聞こえた。それを聞きながらリズは弓佳と佳矢の二人にこう言った。
「ここにいる奴らを解放しろ。そうすれば、お前達にとどめは刺さない」
それを聞いた弓佳と佳矢は驚いた顔でリズを見た。
『リズ!』
「正気なの!?」
ボル太とアオイからは非難の声が聞こえた。
「おかしいって言われるのは判ってるよ。でも、戦っている時、こいつの心は泣いてたんだ。理由は判らないけれど、辛い気持ちでいたんだよ!だから……!」
「馬鹿じゃないの!」
声を上げたのは佳矢だ。顔を真っ赤にして怒っていた。
「そんな同情なんかいらないわよ!何で復讐しようとした相手に同情されなくちゃいけないの!どうして!どうして……!」
最後には、彼女は泣きだしていた。それを見た弓佳も言う。
「同情なんていらないよ。私達をやっつければ、ここにいる人達は元に戻る」
「ごめん。あたしは傷つけるつもりじゃ……」
「判ってる。優しさで言った事も判ってる。でも、勝ったら辛い事が忘れられないよ……」
『あの二人はその方が幸せかもしれねえからな』
弓佳の寂しそうな笑顔を見た時、リズの頭の中で拳慈が言っていた言葉が響いた。彼が言っていたのは、この事だったのだ。二人は勝ち続ける限り、復讐という呪いから解き放たれる事はない。彼女らはどれだけ復讐を果たしても憎しみの中から解放されないのだ。
「どうするのか決めなさい。私の答えは既に決まっているわ」
アオイは既にカードに手を添えてとどめを刺す準備をしている。
「でもね、今日のデュエルは楽しかったよ!」
迷っているリズに対して、弓佳が言った。今度は寂しそうな笑顔ではない。心の底から発せられた笑顔だ。
「こんなすごい事できる人がいるんだね!終わったら全て忘れちゃうけれど、もう一度戦いたいな!」
「……ああ!次に会った時はまた戦おうぜ!腕磨いて待ってるからな!」
リズは決心した。その瞬間、《ダイリュウガン》と《アルカディアスD》が同時に動き、デュエルが終わった。

「終わったかな」
盾一が呟いた。
「敵とは言え、辛い目にあわせちまったな」
「敵相手にそこまで気を使う必要はない」
拳慈に盾一が返した時、一人の少年が二人の元に走ってきた。二人は彼をよく知っている。『新生球舞』の仲間の一人、二宮砲助(にのみやほうすけ)だ。
「砲助じゃん。こんな時間にどうしたよ?」
「何かあったのか?」
「イエスと……、答えます」
二人の前で立ち止まった砲助は息を切らせながら答える。そして、泣きそうな顔で二人を見た。
「美鞘さんと雅刀(まさと)さんが裏切りました」

次回につづく

次回予告
仲間。チーム。その言葉は偽りだったのか。『新生球舞』の七門美鞘と六車(むぐるま)雅刀がかつての仲間に敵として襲いかかる。九鬼拳慈はリズとの共闘を申し込んで戦いに挑む。
次回『第八話 裏切りと交渉』
裏に、何が潜んでいるか?

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