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デュエル・マスターズについて語る非公式ファンサイトです。
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デュエル・マスターズ初心者向けを意識した記事を書いています。
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TOKYO決闘記・真



東京決闘記。
かつて、私の周りで起こっていた戦いを、私はそう名付けた。
デュエル・マスターズのプレイヤーが次々に消える怪事件『東京連続失踪事件』から全てが始まった。事件を起こしていたのは、特殊な力によってデュエル・マスターズカードを引き出した者達。そして、それに対抗できる力を持った保持者。
力を持たない私達は保持者の戦いを見守った。保持者の中でも最も強い男、赤城勇騎(あかぎゆうき)の勝利によって全てが終わった。そう思って七年が経った。
今、私は新たな戦いの始まりを見ている。

20XX年 一ノ瀬博成(いちのせひろなり)

第二話 天龍寺リズは決意する

天龍寺(てんりゅうじ)リズは動かない。
アパートの自室で頭からタオルケットをかぶったままでいた。
「はぁー……」
昨日から数えて何度目になるか判らない溜息。戦いの恐怖が今、全身を駆け巡っている。体から力が抜け落ちるような感覚をずっと味わっていた。
「怖かった」
『似合わない台詞だな』
彼女の左手の中指で何かが呟く。銀色の龍の飾りがついた指輪、ボル太だ。
「慰めてくれてもいいだろ」
『戦った事を褒める為の言葉ならいくらでもくれてやる。だが、慰めの言葉など持っていない』
「ボル太。お前、人間だったら絶対モテないぜ。優しくないって言われる」
『恋愛など、俺にはない感情だ』
「つまらない事言いやがって」
そう言った後、体に震えが走った。リズは急いでタオルケットをつかむ。震えが消えるように必死になって手に力を入れた。
昨日の奇妙なデュエルの後、どうやって家に帰ったのかまでは覚えていない。ボル太の話では、翔太(しょうた)を家まで送り、その後、自分の足で帰宅したらしいが。
『リズ、お前は戦った事を誇りに思っていい。お前が戦う決心をしなかったら、お前もあの子供も敵と同じ存在になっていた』
「それなんだよ。なあ、あいつらと同じになっちゃいけないのか?手に変な模様つけているだけだろ?」
『奴らは負の感情に身を任せた操り人形だ。俺はお前が奴らと同じになるところを見たくはない』
「そっか……」
ボル太の言葉を聞いた後、リズはしばらく黙っていた。そして、何も言わずに立ち上がる。タオルケットが床に落ち、金色の髪が揺れる。
「あんな風になったら、自分じゃなくなっちまうのか。今のあたしが本当のあたしなのか判らないけれど、操り人形みたいになっちゃうのは嫌だな。あたしは今のあたしが気に入っている」
そう言った彼女の顔はさっきより明るい。声を聞いたボル太は安心した。
『どこに行くんだ』
「台所だよ。何か食べたくなった。それに、ボル太が言ってくれた言葉が利いたぜ。お前、やればできるじゃねぇか」
『相棒の子守も俺の仕事だからな』
「一言余計だな」
そう言った後、リズはゴムで髪をしばる。
天龍寺リズ。
正体も本名も記憶も不明の少女だ。彼女の正体の手掛かりは『天龍寺リズ』と書かれた白い封筒のみだ。
そして、彼女の左手にある意思を持った話す指輪、ボル太。「火文明のドラゴンに『ボル』ってつく奴が多いから」という安直な理由で名付けられた。口数は多くはないが、リズにとっては信頼できる存在のひとつだ。
『新しい環境で疲れているのもあっただろう。今日は休日だ。少し休め』
「判ったよ。でも、何もしないってのはあたしらしくないな。よし!新しいメニューでも考えてみるか!」
『その意気だ』
リズはボル太を外して台所に立つ。その頃には昨日の戦いの恐怖など完全に忘れていた。

その日、翔太は朝早くに家を出た。夏休みの宿題はほとんど終わっている。友達と遊ぶ時間を確保する為に、早く片付けたのだ。計画的な少年である。
親は仕事に行っている為、家には誰もいない。友達と一緒にいなければ、その時間は一人きりだ。
「よぅ」
曲がり角から一人の男が飛び出してくる。昨日、出会った桑野雄二(くわのゆうじ)だ。左手にあった模様が消えたからか、左手に包帯は巻いていない。
威嚇するような目を見て、翔太は後ずさりを始める。
「逃げんじゃねーよ。今日はパーカーの女はいないみたいだな」
「リズおねえちゃんに用?」
この男が負けた姿は見ているし、昨日のような特殊な能力を使えるとは思えない。だが、体格の差があるだけで恐怖を感じる。
「あの女に復讐するのは後だ。まずはお前だよ。おい、須磨(すま)さん!」
桑野の呼びかけに応じて一人の男が角から出て来た。夏だというのに、黒いスーツに黒いネクタイ、黒のサングラスという奇妙な服装だった。それなのに、汗をかいていない。彼は持っていた黒いアタッシュケースを無言で開ける。
「な、何をする気……?」
翔太は相手に聞きながら逃げ出すタイミングを伺い、両脚に力を入れる。
「忙しい中、呼びとめて失礼しました。逃げる前にこちらの話を聞いて下さい」
その穏やかな声は桑野から発せられたものではない。須磨と呼ばれた黒服の男のものだった。彼はアタッシュケースから取り出した黒い筒のようなものを翔太に見せる。そして、それを翔太に持たせた。体育の授業で使った縄跳びのグリップを思い出す大きさと形だ。
「これはあなたを強くする道具です。これの先端を体の好きなところに押すとそこに模様が出ます。それはあなたの弱さを消す力を持っています」
須磨は翔太の両肩に手を乗せて目を見る。その手は力がこもっているわけではないが、離す事はできなかった。
「君がどういう人間なのか、桑野君からの話で聞いています。君は本当は友達より強い。しかし、大人しい性格なので、自分を強く出す事が出来ずにいる。違いますか?」
翔太は否定しなかった。自分の強さに自信がある訳ではないが、大人しい性格で自分らしさを出せずにいるのは本当だった。
「我々は才能のある者しか仲間にしません。我々の仲間になれば、君はもっと強くなれます。友達の後ろでこそこそする必要はないんです。君の力を開放して、友達の誰よりも強い事を証明してあげなさい」
優しい声だった。逃げようとする気持ちは消えて、話に聞き入っていた。
「我々の名は『スタンプ』。その道具で模様をスタンプのように押して力を引き出す事からそう名乗っています。それを使うかどうかの判断は君に任せます」
そう言うと、須磨は手を話した。翔太は一歩、後ろに下がる。筒を両手で持ったまま、須磨と桑野に背を向けると家に向かって走り出した。
「ここで無理矢理押さなくていいのかよ?」
「これでいいんです。『無の領域』での覚醒に失敗した以上、これが最善なんです」
そう言って須磨は歩き出す。桑野もそれに続いた。
「なあ、須磨さん。それよりも俺に新しい力をくれよ。昨日、パーカー女に負けたせいで力が出ねーんだ」
「仕方ないですね。スタンプは一人一回というルールがありますが、特別に新しいスタンプを押してあげましょう」
立ち止まった須磨はアタッシュケースから一本の黒い筒を取り出す。それを見ていた桑野はひったくるようにしてそれを取ると、左手の甲に押しつけた。
「待ってたぜ!これで俺はまた暴れられる!俺を除け者にした奴らに復讐を……っ!」
そう言った時、桑野は目を見開いて震えた。持っていた筒が落ちて、乾いた音を立てる。
「なんだよ、これ……!気持ち悪い……!」
桑野は両手で頭を押さえる。左手のスタンプは白い光を発しては消える。点滅を繰り返していた。それを見つめる須磨の表情は変わらない。淡々とした口調で彼は言った。
「君の戦いは、君の目を通して主が見ていました。スタンプを押しても強くなれない者に用はありません。あの少年にも言ったでしょう。我々は才能のある者しか仲間にしません」
「俺は……、才能あるぞ……!賭けデュエルで勝ったんだぞ……!何度も勝ったんだぞ……!」
倒れながら、桑野は必死に叫ぶ。荒い息を吐きながら、須磨に向かって手を伸ばした。
「自分より弱い子供を相手に何度も勝った事なら知っています。子供を威嚇しながら勧誘できるかと思ったが、間違いでした」
須磨は桑野に背を向ける。そして、思い出したように言った。
「そうでした。君に押したスタンプがどんなものか説明していませんでしたね。デュエルに関する記憶が消え、二度とデュエルができなくなる呪いのスタンプです。君のような愚か者にはうってつけのスタンプですね」
須磨は去っていった。
「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょぉぉぉっ!!」
桑野の叫びはもう届かない。どんどん記憶が消えていく。
まだデュエルが楽しかった頃の思い出も、悪事を始めた頃の記憶も、出入り禁止を告げられた時の絶望も、須磨に声をかけられて救われた感謝も。
そして、苦しみや痛みが全て消えた時、彼はただの抜けがらになっていた。

一ノ瀬博成は編集部にいた。出張した時に書いた記事を編集長にチェックしてもらっていたのだ。今回も編集長の反応は良く、手直しが必要なところはなかった。
「やっぱり、一ノ瀬君はすごいねぇ。高校生の頃から文章を書いて発信していた人は違うねぇ」
「いえ、そんな。対した事はしていませんよ」
大福の親玉のような体型の編集長は扇子で自分を煽ぎながら言う。一度「先祖代々、こんな体型だった」とか「何代か前の先祖は大福が好きで大福の食べ過ぎで大福に似た体型になった」という冗談のような話を聞いた事がある。博成は信じていない。
ちなみに、先祖とは違って編集長の好物はクリームパンだ。よく考えればクリームパンの親玉のような体型と言えなくもない。先祖が大福の食べ過ぎで大福に似た体型になったのだとしたら、編集長はクリームパンの食べ過ぎで似た体型になったのだ。
「そう言えば一ノ瀬君はこういう話って聞いた事あるかなぁ?東京連続失踪事件っていう七年前にあった出来事なんだけどね」
「ええ、覚えていますよ」
博成はその事件に関して日本中の誰よりも詳しいと言っていい。
『東京連続失踪事件』は七年前に起こったデュエル・マスターズのプレイヤーの連続失踪事件だ。その裏にはデュエル・マスターズで命のやりとりをする悪の組織と、それを倒す為の特殊なデッキを持つ者、保持者の戦いがあった。激しくエスカレートした戦いに勝利したのは保持者達だった。
博成は保持者達と知り合いだった。彼は保持者の戦いをまとめた記録は個人の特定ができない程度に編集し、ネットで公開している。
しかし、博成は自分がそれをまとめた事を公にしてはいない。知っているのは保持者と一緒に戦いを見た友人達だけだ。
「突然昔の話をしてどうしたんですか?東京連続失踪事件なんて、七年前に一時的に話題になっただけで、すぐにほとんどの人が忘れてしまったじゃないですか」
「うん……、最近、よく似た事件が起きているらしいんだよねぇ」
編集長は言った。
デュエル・マスターズのプレイヤーが一日か半日ほどいなくなり、その後、凶暴化するというのがその事件だ。東京連続失踪事件もそうだが、長い時間失踪する訳ではない。
「ただの噂だといいですね」
「そうだよねぇ。もし、本当だったとしてもうちの読者さんが被害に遭わないでいて欲しいねぇ」
その直後、博成は話を切り上げて編集部を出た。噂だといいとは言ったが、それが噂でない事はよく知っている。
だが、七年前に似ているのは悪い部分だけではない。博成はそれも知っている。
「今度も僕らが勝つさ」
そう信じて博成は外へ出た。

「むむむ……。困っちゃいますねぇ~。も~」
道方愛菜(みちかたまな)は目の前にある物を見てそう言った。そこにあったのは子供達が忘れて行ったカードだ。今日はいつもと比べて忘れ物が多い。
「あれ?どうかしたんすか?」
「あ、リズさん!」
愛菜背後にはリズがいた。不思議そうな顔をしている。
「今日は休みじゃないんですか?」
「暑かったし、暇だったんで来ちゃったんですよ。で、何かあったんすか?」
「そうでした!これを見てくださいよぉ」
愛菜は胸元で両手を叩いて言う。
「カードですね。いつも遊びに来る子達のですか?」
「そうなんです。今日は忘れたまま帰っちゃったんです。いつもなら、こんな事はないんですけどねぇ~」
愛菜はカードを片付けるために手を伸ばした。リズもそれを手伝う。子供達の忘れ物のカードは事務室の棚にしまっておいた。
「これでよし、と。明日、子供達が来たら返しましょう!」
「いつも来るのに今日だけ忘れものをするなんて変ですね」
「あ!そう言えば今日は翔太君がいませんでした!」
「翔太が?」
その名を聞いたリズの脳裏に昨日の出来事がよぎる。しかし、無関係だと思って思考から切り捨てた。
「翔太君はよく気がつく子なんですよ。人の事をよく見てるから、他の子にアドバイスするのも上手ですし、みんなが帰る時はいつも最後に残って忘れ物がないか確認してくれるいい子なんですよぉ~」
「いい奴ですね」
「そうなんです!あと、他の子と違って習い事をしているわけじゃないから、夏休みの間は毎日ここに来てたんですけどねぇ」
「じゃあ、風邪でもひいたのかな?」
「そうじゃないといいですけどねぇ」
その時、ホールから道方を呼ぶ声が聞こえた。「はーい、今、行きますよぉー!」と答えた道方はリズを見る。
「リズさん、お構いもできなくてごめんなさい。ここで休憩しててもいいですよ。ゆっくりしてて下さい」
「判りました」
ふと、事務室の窓から外を見る。小さな後ろ姿が見えた。翔太だ。
「翔太!」
リズは思わず声を上げて裏口から店を出た。翔太はリズに気付く事なく、ゆっくり歩いている。
「翔太、待てよ!待てってば!」
リズは走って追いつき、彼の肩をつかむ。彼はようやく振り返った。その目は冷たい。リズの事など見ていないようだった。
「翔太、だよな……?」
リズが聞き返してしまうのも無理はない。今の彼には目にも顔にも表情がない。感情を忘れた人形のような顔をしている。
「そうだよ、おねえちゃん。何言ってるの」
それは翔太の声だった。だが、リズにはそれが翔太の声だとは思えなかった。
目の前の光景がどうしても信じられなかったリズは翔太の両肩に手を載せて真正面から彼の目を見た。
「本当に翔太なのか。あたしが知っている翔太か?」
「おかしなおねえちゃんだね。昨日、一緒に帰ったじゃない」
冷たい声で言った翔太はリズの手を振り払う。
「あ、そうだ」
翔太はそこで感情を見せた。笑ったのだ。普段の彼のような屈託のない笑みではない。ぞっとするほど冷たい氷のような微笑みだった。
「これを見てよ」
彼は自慢するように右の袖をめくって肩を見せる。リズはそれを見て声を上げた。その様子を見た翔太は満足そうに笑った。
「翔太、それ……!」
「かっこいいでしょ」
右肩にあったのは、昨日までの翔太にはなかったものだ。桑野雄二の左手にあったものと同じ模様がそこにあった。彼が泣き叫んで拒否したはずのものがそこにあったのだ。
「ウソだろ?」
翔太に、そして目の前の現実に問いかけるようにリズは言う。それに答える者は誰もいない。
「ぼく、強くなった気がするよ。今なら、昨日みたいな事があっても負けない。友達にも負けない」
翔太は一歩踏み出す。呆然としているリズの横を通り過ぎようとしていった。
「そうだよ。ぼくは友達よりきっと強いんだ。だけど、みんな塾とか習い事で忙しいからってぼくをよく見てないんだ。だから、デュエルで勝って今のぼくと同じようにする。ぼくから目を離せないようにする」
翔太はリズの横を通り過ぎた。どんどん離れていく。
「これ、すごいんだよ。ぼくの弱い心を封じ込めてくれるんだ。ぼくなら誰にでも勝てる。そんなすごい気分にさせてくれるんだ。今から、友達みんなを同じようにする。そうすればきっと、みんな楽しくデュエルができるよ」
「待て」
リズは振り返り、もう一度翔太の肩をつかんだ。翔太は振り返る事なく、横目でリズを見た。
「離して」
「教えろ、翔太。お前をそんな風にしたのは誰だ」
「勝ったら教えてあげるよ、おねえちゃん。無理だと思うけど!」
翔太は桑野と同じようなデッキケースを懐から取り出した。同時に、世界が真っ白な色を失った世界へと変わる。桑野が言っていた『無の領域』だ。
「おねえちゃん、昨日のしゃべる指輪してないね。あの指輪してないとデュエルできないんでしょ?デュエルできない人は抵抗できないよ!」
リズの右肩が突然、熱くなる。まるで熱した鉄の板を押し当てられたような熱さだ。右肩を押さえて彼女は唸る。
「そうだな。ボル太がいないとあたしはデュエルできない。だけど、あたしは翔太を止めるぜ。その姿を誰かに見せたか?」
「おねえちゃんが最初だよ」
「だったら、あたしが最初で最後だ。止める!どんな事をしてでも止める!悪い翔太はここで終わりだ!」
リズが叫んだ時、上空から赤い光の塊が降って来て彼女の前の地面に落ちる。鎖で覆われた赤いデッキケースだ。リズは地面にめりこんだそれに両手を伸ばした。だが、触れる直前で手が止まる。
「どうしたの?やっぱりデュエルできないんでしょ?」
嘲笑にも似た声で耳に入る。翔太の言った事は間違いではなかった。デュエル・マスターズのカードを使って戦う事への恐怖は消えていない。額に玉のような汗をかいて目を閉じる。
脳裏に浮かぶ光景があった。詳しくは判らないが、男の人影だ。男の背後に巨大な怪物のシルエットが見える。リズはその存在に怯えていた。
「ちくしょう……!あたしにもうちょっとだけ力があれば……!」
『なら、そのもう少しの差は俺が埋めてやる』
落ち着いた声を聞いてリズは目を開けた。デッキケースに向けて伸ばした左手には銀色の龍の飾りがついた指輪、ボル太がいた。
「ボル太!」
『俺を置いていくな、と言ったはずだ。瞬間移動は楽じゃない』
「だってお前、シャワーする時も一緒とか嫌だろ」
『俺は気にしない』
「あたしは気にするんだよ!まあいいか。ボル太がいれば戦えるからな」
そう言ってリズは両手を伸ばし、デッキケースをつかむ。頭上に向けて持ち上げると、デッキケースを覆っていた鎖が弾け飛んだ。
「何が起こったんだ?」
『デッキがお前を本当の主だと認めたんだ。あの小僧を守ろうとするお前の決意がデッキの封印を解いた』
「そうか」
リズは自分の赤いデッキを握り、翔太を見た。
「ぼくは桑野みたいな人にも負けないよ!それに昨日のデュエルをちゃんと見てたんだ!スタンプで自分を強化した!だから、おねえちゃんにも負けない!」
「本当に負けないかどうか、試してみようぜ!」
リズと翔太は同時にデッキケースを開ける。それぞれのケースからカードが飛び散り、自ら意思を持つように宙を舞った。直後、二人の前に透明なテーブルが現れる。通常のデュエルと同じようにカードをセットし、二人の戦いが始まった。
「行くぜ、《トップギア》で攻撃!」
リズの先制攻撃が決まった。《トップギア》が放った矢は真っ直ぐ飛び、翔太のシールドを貫いた。
「へえ、やっぱりすごい速攻だね」
攻撃を受けても翔太は動じない。破られたシールドをチェックして手札に加えると、カードを引いてリズの場を見た。攻撃した《トップギア》の他に、背中にジェット機を背負ったような鳥のクリーチャー《ゴーゴー・ジゴッチ》がいる。
「ああ、速攻で決めてすぐに元の翔太に戻してやるぜ!」
「焦らないでよ。デュエルはまだ始まったばかりだし、長くなるんだからね!」
翔太は自分の《アクロアイト》に向かって一枚のカードを投げつける。カードが刺さった瞬間、《アクロアイト》の体が光に包まれて変化していった。
「ぼくがリズおねえちゃんに勝つ為に選んだカードの一枚。《シルドアイト》だよ!」
光が消えた時、そこにいたのは球体に龍の頭部がついたようなクリーチャーだった。そのクリーチャー、《シルドアイト》が天に向かって吠えた時、破ったはずの翔太のシールドが回復していく。
「《シルドアイト》は出た時に山札の上のカード一枚を新しいシールドにできるんだ。それに進化クリーチャーだからすぐに攻撃できるよ、それっ!」
《シルドアイト》は《トップギア》に向かって突進していく。力負けした《トップギア》は跳ね飛ばされてしまった。
「やるじゃん。《シルドアイト》のパワーは6000か。今のあたしのクリーチャーじゃ対抗できないな。こいつに頼るか!」
リズが召喚したのは二体の獣のコンビクリーチャー《双勇 ボスカツ闘&カツえもん武》だ。二体が《シルドアイト》に向かって突撃していく。
「《ボスカツ&カツえもん》は強制的にバトルさせる能力を持つ!それにバトル時のパワーは6000だ!」
《シルドアイト》も迎撃の為に突進した。それぞれのクリーチャーがぶつかり合った瞬間、爆発が起こり、その場には何も残らなかった。そして、煙を切り裂いて《ゴーゴー・ジゴッチ》が飛ぶ。
「《ゴーゴー・ジゴッチ》で攻撃!」
今、リズのクリーチャーの攻撃を止める者はいない。《ゴーゴー・ジゴッチ》の体当たりで翔太のシールドが砕けた。
「どうだ、翔太!シールドを増やしても全部壊して勝つぞ!」
「そうだね。じゃ、これはどう?」
そう言って翔太は、白い翼が生えて頭部に鳥の頭部のような兜をかぶった天使のようなクリーチャーを召喚した。リズはそのクリーチャーを注視していたが、特に奇妙な動きをする訳ではなかった。シールドが増える訳でもない。
「ただのクリーチャーか?」
「そうだね。《不死の翼フェニクル》は今は何もしないクリーチャーだよ。でも、このクリーチャーは破壊されたらシールドになるんだ」
「またシールド追加のカードかよ……!」
その後もデュエルは続いた。リズの猛攻を翔太はシールド追加で耐えて、わずかな隙をついて攻撃していく。
「《シルドアイト》で攻撃!」
この時点でリズのシールドは二枚。翔太のシールドは四枚になっていた。
リズの場にクリーチャーはいない。そして、翔太の場には《シルドアイト》が一体。どちらが有利なのかは明らかだった。
『リズ、どうした?』
「どうしたもこうしたもないぜ。翔太が強いんだよ。想像以上だぜ……!」
リズは汗をかいた顔で笑う。自然と心の奥からこみ上げてくる笑いだった。追い詰められた状況でも、消える事のない笑顔だ。
それが不満なのか、翔太は終始口をへの字にしていた。
「どうして?ぼくの方が強いんだよ。今の見れば判るでしょ!おねえちゃんじゃ勝てないよ!」
「まだデュエルは終わってないだろ?気にするなよ。もっとお前を見せてみろ!」
リズがクリーチャーを召喚した。両肩を巨大な槍で武装した龍《メガ・スピア・ドラゴン》だ。
「《メガ・スピア・ドラゴン》で翔太のシールドを攻撃!」
「ただの特攻じゃ無駄だよ!シールドが手札になって、ぼくが有利になるだけだよ!」
「そうでもないぜ!」
突進の途中で《メガ・スピア・ドラゴン》の体が炎に包まれる。炎から抜けた時、その体は別の存在になっていた。
「革命チェンジ《DXブリキング》だ!出た時の効果で《シルドアイト》を破壊!」
《DXブリキング》は左腕の大砲で《シルドアイト》を撃ち抜き、右腕の大砲で翔太のシールド二枚を撃ち抜いた。
「そうか。革命チェンジで《シルドアイト》とシールドを両方攻撃したのか。でも、それじゃ駄目だよ!」
破られたシールドが光を発する。それはクリーチャーへと姿を変えた。
「シールド・トリガークリーチャー《アキューラ》!」
クリーチャーを除去しても、さらなるクリーチャーが場に現れる。そして、シールドを破っても新たなシールドが追加される。翔太の戦いに隙はなかった。
「これで終わりじゃないよ。もう一度《フェニクル》を召喚!そして、《アキューラ》で攻撃!」
翔太は攻撃の為に動き始めた《アキューラ》に向かって手元のカードを一枚投げる。突進しながら《アキューラ》は発光して姿を変えていった。
「行け!《ナラカ・マークラ》!」
翔太がその名を叫んだ時、光が消える。そこにいたのは、翼が生えた金色の仏像のようなクリーチャー《三界 ナラカ・マークラ》だった。両の拳を振り上げ、リズを守っていた二枚のシールドを打ち砕いて行く。
「《ナラカ・マークラ》は侵略を使って攻撃時に進化できるW・ブレイカー。しかも、攻撃の後にシールドを追加できるんだ」
《ナラカ・マークラ》が天に向けて手を伸ばすと翔太のシールドが回復した。これで彼のシールドは三枚だ。
『リズ!』
「なるほどね。これがデュエルしてる時の翔太か!」
危険を感じてボル太が叫ぶがリズはマイペースだった。翔太の戦略を見て、まだ笑っている。
「翔太。デュエルは好きか?」
「いきなり、何を言い出すの?」
『リズ、無駄話をしてないで集中しろ』
リズは翔太とボル太の声に答えない。そのまま、続けた。
「あたしは好きだぜ。この世界のどんな事よりも興奮するからな。それだけじゃない。デュエルは新しい自分を見つける事ができる。自分でも知らなかった新しい自分だ。それに、知っていたはずの奴の新しい一面を知る事ができる。今日、あたしは翔太の新しい一面を見た」
「それがどうかしたの?」
「守りを固めて攻撃は最小限にするスタイル。大人しいだけじゃない。しっかりと攻撃もできる戦法。同時に、相手を拒絶する戦い方」
最後の言葉を聞いた翔太の眉が動く。その微かな動きをリズは見逃さなかった。
「何を隠してるんだ、翔太。あたしは気にしないからそれを見せてみろ!」
そう言ってリズは再び《メガ・スピア・ドラゴン》を召喚した。リズの場には攻撃できるドラゴンが二体揃った。
「《ブリキング》と《メガ・スピア・ドラゴン》で攻撃するつもり!?それでも、シールドブレイクだけだよ!おねえちゃんの攻撃は届かない!ぼくには触れられない!」
「届けてみせるぜ、あたしの想いって奴をな!」
《メガ・スピア・ドラゴン》の前に巨大な炎の輪が現れる。《メガ・スピア・ドラゴン》はためらうことなく、その輪に向かって突進した。
「行くぜ、《メガ・スピア・ドラゴン》。革命チェンジだ!」
「無駄だよ!革命チェンジなんかしても《ブリキング》なんかじゃ……!」
翔太は途中まで言って言葉を止める。炎の輪から出て来たのは《ブリキング》ではない別のクリーチャーだ。
空の色よりも青い鎧、リズの闘志のように赤いマント、口元に光る金色の剣。見ただけでそれがリズの切り札だと判る。言葉を奪うほどの美しさがあった。
「《蒼き団長 ドギラゴン剣》!5コスト以上のドラゴンが攻撃する時に出るあたしの最強クリーチャーだ!」
《ドギラゴン剣》が出現した炎の輪から《メガ・スピア・ドラゴン》も出てくる。《ドギラゴン剣》を先頭に《メガ・スピア・ドラゴン》と《ブリキング》が翔太目掛けて突進していった。
「《ドギラゴン剣》は革命チェンジで場に出た時にコストの合計が6になるまで多色のクリーチャーを手札かマナから出せる。あたしは《メガ・スピア・ドラゴン》を選んだ。そして、《ドギラゴン剣》はT・ブレイカー。シールドを全てブレイクしてとどめを刺す!」
《ドギラゴン剣》が首を振り、口元にくわえていた剣が触れるだけで、翔太の三枚のシールドは豆腐のようにあっさり斬られてしまう。
「シールド・トリガーだ!《アキューラ》!」
シールドから場に出た《アキューラ》が手を伸ばす。すると《ブリキング》が失速し、動きを止めた。その横を《メガ・スピア・ドラゴン》が走る。
「い、いやだ……!ぼくは強くなったんだ!強いから一人にならない……。負けたら、また一人になっちゃう!」
自分に向かってくる《メガ・スピア・ドラゴン》を見ながら翔太は弱々しく首を振る。だが、リズの最後のクリーチャーは容赦しない。勢いをつけた体当たりで翔太を突き飛ばした。彼の体は紙のように宙を舞う。
「翔太!」
リズは自分の前のテーブルを踏み台にして跳ぶと、落下する翔太を両手で受け止めた。その二人を《ドギラゴン剣》が背中で受け止める。
「サンキュー、《ドギラゴン剣》」
リズの礼に《ドギラゴン剣》は小さな咆哮で答える。《ドギラゴン剣》が二人を下ろすと、『無の領域』は消え、周囲に色が戻って行く。
リズが翔太の右の袖をめくって肩を見ると、黒い模様は消えていた。それを見て彼女は安心したように息を吐く。
「おねえちゃん、ごめんなさい……!ごめんなさい!」
そこにいたのはいつもの翔太だ。リズは泣いて謝る翔太を抱きしめ、静かに頭を撫でた。
「ぼく、一人でいるのが怖いんだ。一人でいると、ずっと一人でいなくちゃいけない気がして、どうしようもなくなるんだ。みんながぼくを一人にしちゃう気がするんだ!寂しいんだよ!」
「そうか。だから、周りの奴が目を離せなくなるように、なんて事を言ったんだな」
翔太を優しく撫でながらリズは遠くを見た。そして、語りかける。
「なあ、翔太。時々、一人になる事があるかもしれないけれど、翔太はひとりぼっちじゃない。変な模様に頼らなくても、友達はお前の事を見てるんだぜ」
「え……?」
泣き顔だった翔太は不思議そうな顔でリズの顔を見上げた。彼女は翔太の気持ちを包みこむような笑顔を見せる。
「翔太ー!」
遠くからいくつもの足音と声が聞こえる。いつも一緒にいる友達の声だ。彼らは翔太に向かって走ってきた。
「翔太、どこ行ってたんだよ!お前がいないと盛り上がらないぞ!」
「俺達の中で一番強いの翔太だもんな!やっぱ翔太がいないと!」
彼らの口から出るのは翔太がいなかった事への不満と、翔太を称賛する声だった。
「な?言っただろ?」
翔太はリズの手を離れて友達の輪に入っていく。リズは立ち上がると満足した顔で少年達を見ていた。
「さすがだね、リズさん」
背後から声をかけられてリズは振り向く。その声を聞いて子供達も声の主を見た。そこに立っていたのは一ノ瀬博成だ。
「あんたは昨日来てたお客さんか。さすがって……何の事だよ?」
「君の戦いを見ていたんだ。単刀直入に言おう」
博成はリズの目を見た。真剣な眼差しが彼女の目を貫き、脳まで届く。彼は口を開き、こう言った。
「君の力を貸して欲しい」

次回につづく

次回予告
私、一ノ瀬博成はかつて東京で起こった戦いをまとめていた者だ。
人の上に立つ者には、それに相応しい資格が必要になる。頭脳明晰である事。華麗な技を持つ事。信頼されている事。そして、強い事。
次回『第三話 強き者の義務』
結果を出せなくなった時、その資格は失われる。

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