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TOKYO決闘記・真



私、一ノ瀬博成(いちのせひろなり)はカードゲーム専門の雑誌で記者をしている。
天龍寺(てんりゅうじ)リズと最上(もがみ)アオイは協力して戦う事を決めた。アオイが得た情報を元に地下鉄に向かった二人はそこで『新生球舞(ネオきゅうぶ)』の四谷佳矢(よつやかや)と五味弓佳(ごみゆみか)に遭遇する。弓佳の能力で現実とは違う世界に閉じ込められた二人はそこで佳矢と弓佳のコンビと戦う。弱さ故の嘲笑に晒された経験のある二人は自分達を笑った者達への復讐のために動いていた。彼女達を倒す事で記憶を失う事を悩んだリズだが、それが救いになると知り、とどめを刺すのだった。
20XX年 一ノ瀬博成

第八話 裏切りと交渉

その日のデュエルカフェ・レッドの昼は平穏そのものだった。子供達の一部は、夏休みの宿題のラストスパートを始めた為、少ない。昼食を摂りに来る大人の客も少なく、落ち着いた一日だった。
「お客様が来ないと困っちゃいますけどぉ、たまには、こんな日もいいですよねぇ」
店長、道方愛菜(みちかたまな)も気が緩んでそう言ってしまうような昼だった。
しかし、そんな空気は彼ら二人が来る事で一変する。
「ここが天龍寺リズが働いているデュエルカフェ・レッドか!うおー!」
髪、服、靴、全てが赤い男、九鬼拳慈(くきけんじ)。
「落ちつけ、拳慈」
拳慈とは対照的な理知的な風貌の少年、八景盾一(はっけいじゅんいち)。
『新生球舞(ネオきゅうぶ)』の二人が入店した時、彼らの事を知っていた元『スタンプ』のメンバーの表情が凍りつく。
「焦るんじゃない、俺は腹が減っているだけなんだ」
「焦ってなどいない。お前こそ、目的を忘れるな」
「目的は忘れちゃいないぜ。おいしいものを食べてこその人生なのです、という言葉もあるように、うまいものを食べる事が……痛ぇ!つねるな、盾一!無言でつねるんじゃねぇ!」
「馬鹿が」
盾一が呆れたような顔で言うと、入口近くにいる彼らの元に愛菜がやって来た。
「いらっしゃいませですよぉー!そちらの券売機で食券を買って、お好きなお席に座って下さいねぇー!」
「ういっす!」
それを聞いて拳慈は早速、券売機を見る。
「ハンバーグセット、たこ焼きセット、焼き鳥丼、どれもうまそうだな。せっかくだから、俺はこの赤のボタンを選ぶぜ!」
拳慈は千円札を入れ、赤文字で書かれていた『からあげセット』を選んだ。その間、盾一は何も選ばず、何も話さない。
「おい、盾一?」
奇妙な思った拳慈が盾一を見た。盾一はぼーっとした様子で何かを見ている。拳慈が視線の先を追うと、そこには店の中をせわしなく移動する愛菜の姿があった。
「お前、あの人に惚れた?顔もいいし、ボンキュッボンだし、悪くねえよな」
拳慈がふざけた様子で言った時、盾一は目の色を変えて相棒を見る。そして、拳慈の胸倉をつかんでこう叫んだ。
「俺の女神を汚らわしい目で見るな!!」
「つば飛んだぞ。女神って、お前……。判りやすいな。それよりも、早く食べるもん決めろよ。優柔不断な男は嫌われるかもよ」
「何!?」
狼狽した盾一は慌てて券売機を見る。そして、財布から小銭を出そうとして、中の小銭を何枚かその場に落としてしまった。慌てて拾おうとすると、誰かがその小銭を拾う。
「はい、どうぞ。大丈夫ですか?他に落としてないですか?」
それは愛菜だった。盾一は自分だけに向けられた声に驚き、顔を真っ赤にしながら答えた。
「だっ、大丈夫でひゅっ!」
「お前、噛んでるぞ」
「料理はまだ充分ありますからぁ、落ち着いて選んで下さいねぇ」
「はいっ!」
盾一は勢いよく返事をして、再び、券売機を見る。彼は笑顔だった。拳慈が初めて見るタイプの笑顔だった。思わず「だらけ過ぎてキモいぞ」と言いたくなるほどだった。
数分が経過し、二人は食券を購入して席に着く。その直後、彼らは元『スタンプ』のメンバーに囲まれた。周囲にいる者達は友好的な目をしていない。
「どうした?俺の誕生日を祝ってくれる感じ?でも、悪いな。俺の誕生日は今日じゃないんだ」
「そうじゃねえ!何で『新生球舞』の二人がここにいるんだ!」
顔を見なくても判った。怒鳴りつける彼らの声は震えている。小動物の威嚇のような声だ。それを聞きながら、拳慈は笑顔で答える。
「俺達だって人間だ。腹が減れば飯を食う。どうせ食うならうまいものがいい」
「とぼけるんじゃねぇ!」
一人がテーブルを叩く。その瞬間、拳慈の笑顔が消える。刃物のような視線でテーブルを叩いた者を見る。
「行儀の悪い奴だな。お前、誰を相手にものを言ってるんだ?」
それを見て、元『スタンプ』のメンバーは何も言えなくなる。同じ威嚇でも重みが違った。
「どうしましたかぁー!」
ただ事ではないのを察して、愛菜がやって来た。元『スタンプ』達は彼女の為に道を開ける。
「あ、何でもないっすよ。こいつら、知り合いだったもんで、ちょっと挨拶が激しくなっちゃいました。なっ!?」
拳慈は笑顔で周囲を見る。そして、盾一の腹を肘で突く。
(なんだ?)
(ここで平和的解決したら、モテるかもよ)
二人は小声で話す。普段の盾一なら「馬鹿な事を言うな」と一蹴しただろう。だが、今の彼は違った。
「そうなんです!僕達は友達です!デュエマをやっている奴はみんな友達ですとも!」
盾一は満面に笑みで愛菜を見た。そして、同じ顔で周囲を見る。だらけ切った彼の笑顔を見て、元『スタンプ』のメンバーは唖然とする。
「友達だもんな!」
「あ、ああ……」
勢いに負けて彼らは頷いた。
「それはよかったです~!仲良くしていって下さいねぇ~!」
「もちろんです!」
愛菜は再び、厨房に戻った。それを見て拳慈が呟く。
「この場を抑える為とは言え、お前の口から『デュエマをやっている奴はみんな友達』なんて言葉が出るとはな」
「それは言うな。俺も、自分でも馬鹿な事を言ったと思っている。それよりも、都合がいいな」
盾一は咳払いをして周囲を見た。今の彼の顔は真剣だ。
「天龍寺リズと最上アオイはいるか?」
「あたし達に何か用か?」
タイミングよくリズが入口から現れた。アオイも一緒だ。元『スタンプ』のメンバーは二人に対して道を開ける。
「九鬼拳慈と、そっちの彼ははじめまして、かしら?」
「俺は『新生球舞』の八景盾一だ」
「盾一は巨乳ハンターの異名を持つ男だ。……お前は守備範囲外だから、大丈夫」
拳慈は二人に対して言った後、アオイに対して一言付け加えた。
「殺されたいのかしら?」
「大丈夫って言ったのに……」
殺意のこもった目を向けるアオイに対して、拳慈は口を尖らせて言う。
「話がこじれるからお前は黙れ、拳慈」
「扱いがひでぇ!俺、リーダーなのに……」
盾一は咳払いをしてリズとアオイを見た。
「単刀直入に言おう。お前達の力を借りたい」
「いいぜ」
リズは即答した。盾一は拍子抜けした顔で彼女を見る。確認するような目で横にいるアオイを見るが、彼女も首肯した。
「リズ姐さん!?」
リズの答えに戸惑ったのは盾一だけではない。元『スタンプ』のメンバーも驚いた顔で彼女を見た。
「こいつらは『新生球舞』って言って、悪い奴らなんすよ!」
「知ってるぜ。面識はあるからな。でも、今は手を組まないといけないんだ」
「私達だけじゃ、対処できない相手がいるからね。不本意だけど、今はこうするのよ」
「そういう事だ。今、『スタンプ』を抜けて知らない奴もいるだろうから教えてやる。『スタンプ』のメンバーがボスの津村(つむら)を裏切って別の新しいチームを作ってる。これがどういう事か判るよな?」
それを聞いた元『スタンプ』のメンバーはざわついた。
彼らは『スタンプ』という大きな組織ではあったが、別々の多くのチームの集まりだった。力なきプレイヤーを襲うだけでなく、他のチームの縄張りを攻め落とす事で勢力を拡大していくという暴力的な行動を繰り返していた。それが協力するという事など、彼らには信じられない。
「それも自らの意思でやっているんじゃない。何者かに洗脳され、自分以外の意思で動いているみたいなのよ」
「これをやっている奴が、悪い事をやめさせるためにやっているんなら、あたしだって手は出さない。だけど、そうじゃないみたいなんだ。だから、あたしは早く何とかしなくちゃけないと思う」
「姐さん、そういう事だったら、俺達も!」
「いや、お前達は来るな」
声を上げる者に対して、リズは強い調子で言った。
「何でですか!俺らだって戦えますよ!」
彼らは納得いかないといった声で言い返す。彼らの問いに答えたのは拳慈だった。
「馬鹿だなぁ、お前ら。敵は洗脳してくるんだぞ。大勢でいったら、敵の数が無茶苦茶増えるかもしれないじゃないか。足手まといは置いて、少数精鋭で行くんだよ」
そして、その後に照れたような表情で
「べ、別にあんた達の事が心配だから言ってるんじゃないんだからねっ!勘違いしないでよね!」
と、付け加えた。
「最上アオイ。お前が協力してくれるとは思わなかった。天龍寺リズよりもお前の方が説得が難しいと考えていたからな」
盾一はアオイを見た。
「奇妙な動きをしている連中の情報をつかんでいたからよ。うまくすれば、奴らと『新生球舞』を共倒れさせる事だってできるわ。逆に利益じゃなく、感情で動くこの子の方が説得が難しいかもしれないわね」
そう言ってアオイはリズを横目で見た。彼女は、自分を心配する元『スタンプ』のメンバーを説得している。
「そんなに心配すんなって。あたしは絶対大丈夫だから!」
「リズ姐さん、無事に戻って来て下さいよ!」
それを見ても、納得できない盾一は
「そんなものか」
と、静かな声で言った。

その日、一ノ瀬博成は編集部の応接室にいた。彼の横には大福の親玉のような姿の編集長がいる。二人とも、石のように緊張した顔で眼前にいる人物を見ていた。
「楽になさって下さい」
目の前の人物は話を始める前にそう言ったが、無理な話だった。彼はA国の国会議員の一人、ネロ・アズールだ。
A国はアジアと西洋の中間にある新興国だ。その為、彼の容姿は少し日本人離れした日本人と言っても通じるような部分がある。政治家と言っても、非常に若く、二十代後半。異例のスピード出世をしている。
「一ノ瀬博成さん、お会いできて光栄です」
「あ、どうもありがとうございます」
「昨年のエキシビジョンマッチ、観ていましたよ。世界の強豪相手に勝るとも劣らない実力じゃないですか」
「恐縮です」
いくつかの世間話をした後、ネロ・アズールは本題を切り出す。彼は来年行われる予定のデュエリンピックについての話をしに来たのだ。
「デュエリンピックは世界初、そして世界最大のイベントです。そのイベントを成功させる為には、最高の人材が必要です。一ノ瀬さん、あなたに解説という形で運営に参加して頂きたいのです」
その話を聞いた瞬間、博成は言われている事が理解できなかった。
「すごいじゃないか!一ノ瀬君!」
編集長に言われて、ようやく自分が任された役割に気付いた。喜びの感情が大波のようになって内側から押し寄せる。それに流されるまま、返事をしようとして博成はネロの顔を見た。
(待てよ)
喜びの感情の中でひとつだけ違う感情があった。自分の中にあるもうひとつの自分のようなものだ。博成の中にいる多くの博成はこの状況を喜び、騒いでいる。その中の一人が喜ぶ事も騒ぐ事もなく、周りを見ている。
(待てよ!)
彼は、不機嫌そうな顔で外側の博成を見て言う。
(リズさんや『新生球舞』の事を放ったままでいいのか?)
それを聞いた内側の博成達は騒ぐのをやめる。
(だって、僕じゃ何もできないよ)
(保持者の真似事だし)
(手を出すなって言われたし)
(だから、できる事をやるんだ)
内側の博成達は不機嫌な博成に対して口々に反論する。『保持者の真似事』や『手を出すな』は七門美鞘から言われた言葉だ。その言葉は今も博成自身に残っている。
(これで納得できるのか?)
不機嫌な博成は周囲に言う。それを聞いて外側の博成は決めた。
「アズールさん、嬉しい話なんですが、少し考えさせて下さい」
「ええっ!?悩んじゃうの?」
編集長は大げさに驚いていた。彼ほどではないが、ネロも少し意外そうな顔をする。
「少しだけ……、三日ほど待ってもらえませんか?自分の中で決めなくちゃいけない事があるんです」
「待ちますよ。ええ、いい返事を期待しています。王女様の為にも、絶対に成功させなければなりませんからね」
「王女様?」
博成は聞き返してから思い出した。デュエリンピックは日本にも留学経験があるA国の王女が発案し、計画したものだった。しかし、彼女は一年ほど前から行方不明になっている。
「そうです。王女様の計画を実行に移す為に、最高の人材を集めなければなりません。あなたが首を縦に振ってもらえるようにがんばりますよ」
ネロは笑顔で去って行った。
『最高の人材』という評価は博成にとってありがたいものだった。普段の彼なら素直に喜んでいただろう。だが、心に荒波が立つ今の彼にはプレッシャーとなる言葉だ。
「大丈夫かい?夏バテしてるのかな?」
編集長が心配そうな顔で博成を見つめる。今の博成はそれすら鬱陶しく感じていた。

交渉から一時間もせずに、リズ達は行動を開始した。
リズとアオイに告げられた作戦は単純なものだった。群れを作っている『スタンプ』のメンバー、そして、『新生球舞』の裏切り者を一掃するというものだ。作戦と呼べるものでもない。
「いるいる。すっごい量だな!」
リズは隣にいる二宮砲助(にのみやほうすけ)に言う。リズの目は、色々なところにいる『スタンプ』のメンバーを捕えていた。道で、店で、駅の改札で、様々な場所で、彼らの特徴である黒い円形の模様を隠す事なく居座っている。道を行く人々の中には彼らの異様さに気付かない者もいたが、異様さに気付く者は彼らから目を反らして関わり合いにならないように歩いていた。
リズと砲助は歩道橋の上からその様子を見ている。
「……」
デュエルカフェ・レッドの近くで合流した砲助は、リズ達に出会った時から浮かない顔をしていた。そんな砲助の頭をリズが撫でる。
「何をするんですか?」
反抗的な声を出す砲助だったが、リズの手を払いのける事はしなかった。
「そんな顔すんなよ。お前の事は必ず守ってやるから!」
砲助はその声には答えない。最初は敵として出会ったはずの相手にこういう扱いを受けるのは不思議な気分だった。
「変な人ですね。斧馬と僕を逃がした時から変だと思っていました。でも、味方だと安心できます」
「けなしてるんだか、褒めてるんだか判らないな。でも、いいや」
リズは鋭い目で『スタンプ』の群れを見た。そして、砲助に言う。
「お前の能力『レンズ』って言ったっけ?それを使えば、あいつらの強さが判るんだろ?調べてくれるか?」
保持者はそれぞれ、特殊能力を持っている。『新生球舞』のメンバーも例外ではない。砲助は自分の能力『レンズ』のビジョンを出す。彼の能力は眼前に半透明な丸い物体を生み出し、それを通して対照の強さを計測するというものだ。
「ほとんどがCランクです。わずかにBランクが混じっています」
彼のランク分けの基準はこうだ。Cは『スタンプ』の中でも下位のメンバー。Bは『スタンプ』の小さなチームの長となれる程度の実力。そして、Aランクは保持者や『新生球舞』と同等の実力とされる。
「Aランクは?」
「その質問にはこう答えます。ノーと」
「そっかー」
それを聞いた時、明らかにリズは不満そうな顔をした。砲助はそれに驚く。
「相手が弱いんですよ!?突破するチャンスです!」
「あたし、強い奴と戦いたいんだよ。すごい奴とすごい勝負がしたいんだ!」
そう言ったリズを見て、砲助は改めてこの少女を変だと感じた。目の前にいる少女は自分の考えでは推し量れない部分がある、と。故に、彼は一つの賭けを申し出た。
「突然ですが、ひとつお願いがあります。敵だったあなたにこんな事を頼むのは心苦しいんですが……」
「気にすんなよ!今は敵じゃないぜ!」
真っ直ぐな笑顔だった。それを見て、砲助は自分の判断が間違えていないと感じた。
「この戦いの手助けをしてくれるかもしれない人を知っています。僕は彼に援護をお願いしてきます。援護が来るまでの間、彼らの相手をお願いできますか!」
「そうか!援護か!任せとけよ!」
「任せます。僕の大事な仲間なんです。裏切ったなんて、本当に信じられない……」
「裏切ったって言うけれど、何かの間違いだって!いざという時はあたしが止めてやるから任せろって!」
リズの元気な返事を聞いて、砲助は「それじゃ」と去って行った。その直後、リズの左手から声がする。
『あいつを信じていいのか?』
それはリズの左手にある喋る指輪『ボル太』の声だ。
「いいんだよ」
『本当に援護を呼ぶとは限らない』
「そうだな」
『援護を呼びに行ったのも、あの子供の独断だろう。『新生球舞』全体の判断ではない』
「それでもいい」
『策があるのか?』
「ないな。あると思った?」
『お前らしい』
最後の言葉は呆れているようだった。
『どうせ、Aランクの強敵が出た時に、取られないようにするなどと馬鹿な事を考えていたんだろう』
「あ、バレてた?」
核心を突かれたリズは舌を出す。
『お前の考えそうな事は判っている。今更、何を言っても始まらん。突破するぞ』
「おう!」
元気な声と共に、リズは歩道橋の階段を駆け下りる。その大きな音を見て『スタンプ』のメンバーは彼女を見る。彼女が立ち止った時、空から鎖が巻かれたデッキケースが降ってくる。リズはそれを受け取って敵を見る。
「あたしは保持者の天龍寺リズ!自信がある奴からかかってこい!」
その声と共に彼女はデッキケースを掲げる。周りを覆っていた鎖が外れ、リズが『ブレイザー』と呼ぶデッキケースの赤い姿が晒された。
そこからはリズの独壇場だった。三十分程度の時間で十人もの敵が倒されていく。
「次は誰だ!」
額に汗をかいたリズがそう叫んだ時、自ら出ていく者はいなかった。周囲の様子を伺いながら「お前が行けよ」と周囲に目で訴える。
「じゃ、俺が行こうか」
夏の暑さを切り裂くような冷たい声だった。その声と共に、『スタンプ』のメンバーは左右に避ける。自分の為に開けられた道を歩く一人の男。黒い袴に後ろで縛った黒い髪。そして、和風の顔立ちをしていた。
「姓は六車(むぐるま)、名は雅刀(まさと)。処刑人の役割を任されている」
そう言って雅刀は自分のデッキケースを掲げた。同時に周囲の光景が色を失った世界に変わる。白に黒い線で描かれた世界『無の領域』だ。この世界で、彼らは本当の力を発揮して戦う事ができる。
「処刑人か!強そうな奴だな!どんな能力を使うんだ!?」
強敵の登場に、抑えきれない心臓の鼓動を感じながらリズは彼を見る。もちろん、自らの能力を話すような者はいないだろう。しかし、雅刀はその会話に乗った。
「俺の能力は『スラッシュ』。敗者が持つデッキを物理的に両断して使用不能にする能力だ。保持者でなくても、この能力の前に敗れた者は再起不能になる」
雅刀が言う通りだった。
保持者同士の戦いは、敗北した者はデュエルに関する記憶を失い、デュエル・マスターズカードの恐怖症になるというものだ。しかし、保持者とそうでない者の戦いの場合はそうではない。
だが、雅刀に敗れた場合は違う。大切にしているカードを失う事の衝撃は計り知れない。立ち直れる者は皆無に等しい。
「でも、それはあたしには効かないな!だって、あたしデッキ持ってないから」
リズは特殊だった。デュエル・マスターズに対する恐怖心があるせいか、カードを使ったデュエルができない。それ故、デッキも持っていない。唯一、『ボル太』を指に装着した時だけ、保持者としてのデュエルが可能になる。
「その点は心配いらない。俺は新しく授かった特殊能力がある」
雅刀は親に買ってもらった新しいおもちゃを見せびらかす子供のように言った。
「その名は『インフェクション』。負けた奴は俺達の仲間になる」
「感染、か。病気みたいだな」
二人にこれ以上の会話は不要だった。カードを引き、デュエルが始まる。
「《ゴーゴー・ジゴッチ》を召喚!」
リズの場で飛行機を背負ったような鳥のクリーチャーが羽ばたく。その風圧によって彼女の山札の上のカードがめくれた。リズはその中からドラゴンのカードをつかむ。
「来いよ、処刑人」
リズがそれを言い終わった時、《ゴーゴー・ジゴッチ》の体が爆発する。リズはそれが雅刀のクリーチャーの攻撃によるものだと気づいた。彼の場には赤い武者のような鎧を纏った人型のクリーチャーがいた。そのクリーチャーの刀の先から煙が上る。
「《爆炎シューター マッカラン》だ。弱き者には退場してもらった」
「弱いもの、ねえ……。じゃ、これはどうだ!?」
リズの行動と共に《マッカラン》の前に巨大な拳が現れる。《マッカラン》の体以上の拳によって《マッカラン》は殴られ、その場に倒れる。
リズの場に現れた《双勇 ボスカツ闘&カツえもん武》の力だ。
「やられたからやり返したぜ」
「面白い女だ」
雅刀は口元に笑みを浮かべる。そして、山札からカードを引いた。

砲助は目当ての人物を探して走っていた。電話などで呼び出してもつながらない。だが、この時間なら行きそうな場所は知っていた。
「須磨(すま)さん!」
チキンを扱っているファーストフード店の入り口に黒スーツにサングラスの男、須磨はいた。こちらに気付いたようで彼も砲助を見る。
「おや、砲助君。そんなに慌ててどうしたんです?」
「実は……」
砲助は『新生球舞』のメンバー二人が何者かの力によって操られ、裏切った事を伝えた。
「僕達だけでは不安です。須磨さん、力を貸して下さい!」
砲助は必死に懇願して頭を下げる。周囲の視線が自分達に集まっているのを感じながら須磨はこう言った。
「お断りします」
「えっ……」
「この程度の問題を解決できないのなら、君達は必要ありません。才能のない者に用はないのです」
須磨は自分に対して非難の視線が集まっているのを見て不機嫌そうに言う。そして、砲助を置いてその場から離れた。
「そんな、そんな……!」
砲助は泣きそうな顔で歩き、来た道を戻る。怯えていた自分を慰めてくれた美鞘(みさや)の顔を思い浮かべた。今、彼女は砲助のそばにいない。
「美鞘さん、美鞘さんっ……!」
彼女の名を呼びながら、彼女が無事戻って来てくれる事を願って彼は進む。

「《メガ・スピア・ドラゴン》で攻撃!」
リズの攻撃が通り、雅刀のシールドが砕ける。彼は小さく「よし」と呟き、破られたカードに手を伸ばす。
「シールド・トリガー、《イフリート・ハンド》だ。《ボスカツ闘&カツえもん武》を破壊する!」
一進一退の攻防だった。リズは汗をかきながら溌剌とした笑顔で雅刀を見る。雅刀も同じ事を感じ取ったのか、口元に笑みを浮かべた。
「いい戦いだな。あたし、こういうのを待ってたんだぜ」
リズのクリーチャーは《メガ・スピア・ドラゴン》のみ。シールドは四枚だ。
対して、雅刀の場には《トップギア》一体、《ニトロフラグ》一体、シールドは三枚。
どちらが有利とも言えない状況だった。
「俺も一方的な処刑よりこういう戦いの方が好みだ。ギリギリの戦いは鍛錬になる」
「そこまで言える奴が何で『新生球舞』を裏切るんだよ?理由でもあるのか?」
リズは洗脳を解くチャンスかもしれないと考え、問う。それを聞いた瞬間、雅刀の目に困惑の色が浮かぶ。
「裏切り?どういう事だ?」
「お前、拳慈とか盾一とか砲助を裏切ってこんな事してるじゃないか」
「待て」
そう言った瞬間、雅刀の瞳が濁った紫色の光を放つ。その後、何事もないような顔でリズを見た。
「『新生球舞』など忘れた。今の俺は新たな主に仕える処刑人。主の計画を邪魔する奴は切り捨てるだけだ」
「そうかよ!」
雅刀の行動を見て、リズは敵の洗脳の力を垣間見た気がした。これを解く方法を彼女は思いつかない。
(じゃあ、やるしかないのか……!あたしを恨むなよ!)
心の中で念じてリズは雅刀を見る。彼はカードを引いて攻撃の準備をしているようだった。
「何を考えている?戦いに集中しろ」
リズに忠告した後、雅刀はカードを見る。そして、リズに笑いかけた。いい笑みではない。哀れみや嘲笑と言ったものだ。
「取り消そう。今更、集中しても無駄だ」
雅刀は今引いたカードを使い、クリーチャーを召喚する。彼の場に武者鎧を纏った少年のクリーチャーが現れた。
「《龍覇 グレンモルト》だ。これだけではパワー4000のクリーチャーだが……!」
《グレンモルト》が右手を上げると、空中から剣が降ってくる。《グレンモルト》はその剣をつかみ、切っ先をリズのシールドに向ける。
「登場時にドラグハートを装備できる。そして、今装備した《銀河大剣 ガイハート》は装備したクリーチャーをスピードアタッカーにする!《トップギア》、《グレンモルト》で攻撃!」
雅刀が操る二体のクリーチャーによってリズのシールドは破られていく。その中にシールド・トリガーはない。
「特攻のつもりか?」
「違うな。俺はこのターンで勝つ。《グレンモルト》!」
主の声を聞き、《グレンモルト》は空に向けて《ガイハート》を投げる。すると、《ガイハート》は光を発して姿を変える。その姿は、二本足で立つ星の龍。宇宙を思わせる色の体をした龍《熱血星龍 ガイギンガ》だ。
「《ガイギンガ》は龍解した時に相手のパワー7000以下のクリーチャーを破壊する。やれ!」
《ガイギンガ》の右手から青い光線が放たれ、《メガ・スピア・ドラゴン》の体を焼き尽くす。それを見た後、《ガイギンガ》はリズのシールドに向かって飛ぶ。
「《ガイギンガ》はスピードアタッカーのW・ブレイカー。貴様のシールドは二枚。終わったな!」
《ガイギンガ》が左腕の剣でリズのシールド二枚を薙ぎ払う。全てのシールドが砕け散った。
『リズ、シールド・トリガーは?』
「ないぜ」
最大のピンチとは思えないそっけない言葉だった。それを聞いた雅刀が動かないはずがない。
「これでいいんだ、天龍寺リズ。俺達と共にあの方の下で働ける事を光栄に思え!《ニトロフラグ》で攻撃!」
両腕にフラッグを持って《ニトロフラグ》が突進する。障害物はない。目標に向かって一直線だ。
「勧誘はうれしいけど、判らない奴の下で働くのはごめんだぜ!これで逆転だ!」
リズが握りしめた拳を突き出す。すると、金色に輝く拳が空から降ってきて《ニトロフラグ》を潰した。爆音と共に、土煙が舞う。
「何が起こった!?」
勝利を確信していた雅刀は最後の抵抗に驚く。土煙が晴れた時、そこには二本の脚で立つ赤い龍がいた。倒れた《ニトロフラグ》を踏みつぶしたまま、視線を雅刀に向ける。
「革命0トリガー、《ボルシャック・ドギラゴン》だ!シールド0のピンチの時だけ使える切り札だぜ!」
《ボルシャック・ドギラゴン》の登場で雅刀の攻撃可能なクリーチャーはいなくなった。反撃の始まりだ。
「何も問題はない。俺のシールドは三枚ある。クリーチャー一体でどうにかできるものではない」
「だったら、もう一体クリーチャーを呼べばいい!《メガ・スピア・ドラゴン》召喚!」
リズの場に新たな《メガ・スピア・ドラゴン》が現れる。
『《ボルシャック・ドギラゴン》はT・ブレイカー。《メガ・スピア・ドラゴン》はスピードアタッカー。そして、相手シールドは三枚』
「雅刀!これなら、お前に届くぜ!」
「いや、まだだ!俺のデッキにはまだ《イフリート・ハンド》がある!攻撃してみろ!これでお前のクリーチャーを蹴散らしてやる!」
「だったら、こうだ!」
《メガ・スピア・ドラゴン》が雅刀のシールドに突撃し、炎の輪に飲み込まれる。炎の輪から出て来たのは日の光を受けて輝く蒼い鎧に、赤いマントをなびかせ、金色の剣をくわえた龍《蒼き団長 ドギラゴン剣》だ。
「《メガ・スピア・ドラゴン》を革命チェンジで《ドギラゴン剣》に入れ替えた。そして、ファイナル革命を使って手札に戻したばかりの《メガ・スピア・ドラゴン》をバトルゾーンに!」
再び、《メガ・スピア・ドラゴン》が場に並ぶ。三体の龍が雅刀に向かって一斉に襲い掛かる。
「まずは《ドギラゴン剣》でT・ブレイク!」
《ドギラゴン剣》が口にくわえた剣を振るう時、金色の光が残像として残る。三枚のシールドは真っ二つに切り裂かれた後、砕け散った。その内の一枚が炎を出しながら光る。
「《イフリート・ハンド》っ!だが……!」
雅刀が突き出したカードから燃える魔神の腕が飛び出す。だが、リズのドラゴンは二体いる。《イフリート・ハンド》は《メガ・スピア・ドラゴン》を掴むが、その横を《ボルシャック・ドギラゴン》が突き進む。勝敗は決した。
「ああ、そうだ。《イフリート・ハンド》じゃ、一体しか止められない。あたしの勝ちだな!《ボルシャック・ドギラゴン》でとどめだ!」
《ボルシャック・ドギラゴン》の右の拳が雅刀の腹に突き刺さる。それを受けた瞬間、雅刀は苦しそうな顔で笑った。彼の体から紫色に光の粒が飛び出していく。
「解放してくれて……、ありがとう」
その言葉と共に雅刀は吹っ飛ばされた。紫色の光は空中に散らばっていく。
「やっぱり、本心じゃなかったんだな。こんなやり方じゃないとお前らを止められないあたしを許してくれ」
戦いが終わり『無の領域』が消える。倒れた雅刀を見て、彼の敗北を知った周囲の男達は怯えた目でリズを見ていた。誰も、他の者に戦いを促す者はいない。絶対に勝てない相手を見て、諦めている様子だった。
「次は誰だ!」
リズの声を聞いて周囲の者はビクッと震える。
「そこまでだ」
落ち着いた声が響いた。敵達は、その声の主に道を開ける。二人組の男子高校生が歩いてきた。リズもよく知っているこの近くの進学校の制服だった。シャツに青い糸で縫い付けられた校章が目印だ。
「そこまで、ってどういう事だよ」
「いたずらに兵を失う訳にはいかない。主がお前を連れてこいと言っている」
「天龍寺リズ、我々についてきてもらおう」
油断をさせて、取り囲むつもりかもしれない。そう感じたリズは周囲を見た。
周囲には力なくうなだれる者がいるだけだ。何かできるようには見えない。
『リズ、こいつらはもう無力だ。行こう』
「ああ!」
『ボル太』にも促されてリズは進む。事件の首謀者への怒りと、強敵への好奇心を胸に秘めて。

次回につづく

次回予告
リズと別れたアオイは、拳慈、盾一と共に行動していた。だが、二人とはぐれた彼女を美鞘の能力が襲う。挑発的な彼女が見せるのはアオイにとって忘れられないものだった。
次回『第九話 過去という劇場』
その舞台、主役は自分、観客は誰か?

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