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デュエル・マスターズについて語る非公式ファンサイトです。
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ネギ博士
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デュエル・マスターズ初心者向けを意識した記事を書いています。
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TOKYO決闘記・真


私、一ノ瀬博成(いちのせひろなり)はカードゲーム専門の雑誌で記者をしている。
『スタンプ』最強のチーム『新生球舞(ネオきゅうぶ)』は一井斧馬の敗北を知り、対策を考える。彼らにとって最大の敵は天龍寺(てんりゅうじ)リズと亀井幸平(かめいこうへい)だ。
『新生球舞』のリーダー、九鬼拳慈は撃墜王の亀井に挑む。拳慈の攻撃的な戦法に対し、亀井はシールド・トリガーを仕込む事で逆転を試みる。しかし、それは失敗に終わり、亀井は敗北するのだった。

20XX年 一ノ瀬博成

第六話 最上アオイは甘くない

天龍寺リズは上機嫌だった。悩んでいたたこ焼きの味付けの改良型が出来たのだ。今度こそ、最上(もがみ)アオイを満足させられる自信がある。
右手に提げたたこ焼きの試作品のパックが入った袋を持って、リズは夜道を歩いていた。街灯に照らされた彼女の金髪が揺れる。
『リズ』
突然、彼女の左手から声がする。龍の装飾が施された銀色の指輪ボル太だ。
『用心しろ。敵だ』
前から一人の男が歩いてくる。細く背の高い男だ。まだ成人していないように見える為、少年と行ってもいいかもしれない。
服装が異様だった。黒いTシャツに黒いジーンズで、靴も黒い。そして、黒いマスクをつけている。一度見たらすぐには忘れられないような外見をしている。
「怪しい奴だな。お前『新生球舞』の奴か?」
「いかにも。俺は、『新生球舞』の三浦槍汰ネ」
「三浦……ソウタネか」
「ネ、はいらないネ。あと、これは挨拶代わりネ」
槍汰が言った時、リズ目掛けて黒い棒状のものが飛んでくる。リズは慌てて身をひねって避ける。持っていたたこ焼きがどこかに飛んでいったが、気にしている暇はない。棒状のものはリズの背後の地面に突き刺さった。
「なんだよ、これ……」
「俺の能力を見せてやっただけだネ」
そう言って振り向いた直後、地面に突き刺さっていた棒状のものは消えた。地面には傷一つ残っていない。
「心配しなくていいネ。俺が能力『スティンガー』で作った槍は人も物も傷つけないネ。実に優しい槍だネ」
『胡散臭い奴だ。リズ、気をつけろ』
「判ってるぜ。何も傷つけない槍なんて信用できないからな」
ボル太の声を聞きながら、リズはいつでも次の攻撃を避けられるように腰を低くした体制で槍汰を睨んだ。
「おお、怖い怖い。それじゃ、デュエルと行こうかネ。でも、その前に」
槍汰が右手の指を鳴らす。すると、彼の周囲に何本もの槍が現れた。
「何でそんなに槍が出せるんだよ!ずるいぞ!」
「能力で出せる槍が一本だけとは言ってないネ。俺の槍がどれだけすごいか説明しておこうかネ」
槍汰は近くにあった槍を指先で軽く叩く。そして、顎に手を当てた。
「俺達、保持者同士のデュエルで負けた方がどうなるか、当然知ってるネ」
「ああ、デュエルに関する記憶が消えて、デュエル・マスターズカードに恐怖するようになるんだろ?知ってるぜ」
「俺の槍が刺さった奴はそんな風になってしまうネ」
それを聞いたリズは槍をじっと見つめた。
今は動いていない。しかし、槍汰の気持ちひとつでいつ動き出すか判らない。
リズの様子がおかしかったのか、槍汰は笑った。
「面白い奴だネ。残念だけど、保持者には通じないネ。保持者にはネ」
「どういう意味だよ」
保持者には通じない。それを強調する槍汰の言葉にリズは疑問を持つ。通用しない武器を何故、見せびらかすような真似をするのか。これでは、威嚇にもならない。
無言の疑問が通じたのか、槍汰は両手を広げて言う。
「これ、好きな方向に飛ばせるんだよネ。今、歩いている奴ら目掛けて飛ばして突き刺してやる事なんかたやすいネ。そうだ。デュエルカフェ・レッドの中で乱射してやろうかネ」
「やめろ!」
その言葉を聞いた時、リズは自分の頭で何かが爆発するのを感じた。槍汰はそれを見て笑う。口元はマスクに隠れているが、判る。目が笑っている。歪んだいびつな笑顔だ。
『リズ、冷静になれ』
「みんなに手出しはさせないぜ。デッキを出せ!」
『頭を冷やせ!』
いつも淡々とした口調で話すボル太もこの時は怒鳴った。だが、それでもリズの怒りは止まらない。
「いいネ。やろうかネ。早くお前をやっつけて、『スティンガー』の槍を打ち込みに行きたいからネ」
「絶対させないぜ!」
空から隕石のように鎖に包まれたデッキが降ってくる。リズは右手を上げてそれをキャッチした。それを見ながら、槍汰も半笑いで自分の黒いデッキを取り出す。
周囲は白い色と黒い線だけで構成された白黒の世界『無の領域』へと変わっていく。
「負けた斧馬(おのま)を逃がすような甘ちゃんには負けないネ」
「あたしだって絶対負けない!行くぜ!」
リズはデッキを握る右手に力を込めて槍汰を睨みつける。
「おいし~!」
その時、場違いなほど柔らかく軽い声が聞こえた。リズはこの声を知っている。
毒気を抜かれた彼女は周りを見て声の主を探した。
『リズ、後ろだ』
ボル太の声を聞いて振り返ると、やはり彼女はそこにいた。丸みのあるシルエットの髪型をした小柄な少女、最上アオイだ。殺気立ったこの空間で彼女は幸せな表情をしている。見ると、手元には発泡スチロールのパックに入ったたこ焼きがあった。リズが作ったたこ焼きだ。
「おい、俺を無視しないでほしいネ」
今、槍汰の声はリズには届いていない。リズは、アオイとたこ焼きを見ていた。
ようじでたこ焼きを刺したアオイは、それを口に運んだ。そして、幸せそうに言う。
「おいし~!」
それを聞いたリズは彼女の元に近寄る。そして、両肩をつかんで言った。
「おいしい、って言ったな!?言ってくれたよな!?」
アオイは驚いた顔でリズを見ていた。そして、首を縦に振って答える。
「やった!成功だ!目標達成だ!どうやってたこ焼きを改良したか、知りたいか!?実はな、生地に工夫があるんだ。今回の生地は……」
「俺を、無視するんじゃないネ!」
話に置いて行かれた槍汰が苛立った声で叫んだ。それを聞いてリズは彼に向き直る。
「そうだったな。たこ焼きの解説よりも、まずこいつだ。さっさと片付けてやるぜ」
だが、アオイが後ろからその肩をつかんだ。リズは首だけを動かして振り向く。
「やめておきなさい。今のあなたでは無理」
それはアオイの口から出た言葉だ。今まで聞いた語尾を伸ばした甘えた言い方ではない。落ち着いた口調だった。彼女はリズの横を歩いて、槍汰と対峙する。彼女が右手を伸ばすと、手元に青い光が集まる。光が消えた時、彼女の右手には青いデッキケースが握られていた。
「認証」
彼女の人差し指がデッキケース上部のくぼみに触れる。すると、電子音と共にデッキケースが開いた。
『保持者だ』
「見りゃ判る」
ボル太の声に反応するリズ。しかし、今まで彼女が保持者であるなどと感じた事はなかった。
アオイと槍汰の前にそれぞれ五枚のシールドが現れる。二人は準備を終えていた。
「待てよ!これはあたしのデュエルだぜ!」
「あなたでは勝つのは無理よ。相性が悪い。相手の能力を知りなさい」
「相手の能力はよく判ってるぜ。あたしには通じない槍だろ!あいつはあれを使ってあたしの仲間を傷つけるつもりだ!」
「そう考えているから勝ち目がない。その指輪君の方が冷静に戦況を分析できるみたいね」
アオイはボル太を見た。彼に首があったら、静かに頷いていただろう。
『リズ、この女の言う通りだ。今のお前は冷静じゃない』
「ああ、冷静じゃなくて怒りに燃えているぜ!」
『違うな。お前の感情は怒りじゃない』
「それはきっと恐怖よ」
ボル太とアオイがそれぞれ別の口でリズを諭すように言う。それを聞いたリズは困惑した。
『判らないという顔をして自分の感情から目を背けるな』
「あなたと『新生球舞』の会話は聞いていたわ。大事な人がターゲットにされると思ったあなたは、怒り、相手を威嚇した。それは相手にとって実に都合のいい状態なのよ。平常でない感情の人間は実に倒しやすい。別の感情を見せたら、カフェの人達を人質にして脅したかもしれないわね。『負けないと知り合いが餌食になる』とか」
アオイは冷めた目で槍汰を見た。彼は不機嫌そうな目をしている。
「うるさい奴だネ」
「安い反論ね。天龍寺リズって言ったかしら。あなたの師匠、赤城勇騎(あかぎゆうき)ならこの程度の事はすぐに気付いていたわ」
「師匠の事を知ってるのか!?」
赤城勇騎の名前を出されてリズが反応する。しかし、アオイはそれには答えない。いつものような丸みを帯びたものではない、鋭い目で槍汰を見つめる。
「揺さぶりをかけるなんて、くだらない戦法ね。私にはそんなものは通じないわ。覚悟なさい」
「怯えさせてやるネ。お前みたいな生意気な顔をした奴の顔を目茶苦茶にしてやるのは楽しくてしょうがないネ!」
言葉を投げ合う戦いは終わった。二人は手を動かす。
「《特攻人形ジェニー》を自壊!手札を捨ててやるネ!」
「こっちは《コアクアンのおつかい》で光文明のカード二枚を手札に加えるわ」
「おっと、引いたカードも捨ててもらうネ。《ブレイン・タッチ》で手札を捨てつつ、こっちは一枚ドローするネ」
「《スパーク・チャージャー》よ。一枚手札を増やしてチャージャー呪文をマナに」
二人のデュエルは手札破壊とドローの応酬だった。しかし、妨害と準備の戦いはすぐに次のステップに移る。
「《ドラゴンズ・サイン》。コスト7以下の光のドラゴンを場に出すわ」
光と共に空から一体の龍が降ってくる。天使を思わせる白い翼と魔法使いを思わせる青い帽子に巨大なステッキ。《導師の精霊龍 マホズン》だ。
「《導師の精霊龍 マホズン》は攻撃時とブロック時に一枚ドローして手札からコスト7以下の呪文を唱えられるドラゴンよ。《ドラゴンズ・サイン》を連打して一気に制圧してあげるわ」
アオイは腕を組んで槍汰を見る。挑発的な視線を受けて槍汰は舌打ちする。
「これで勝ったつもりかネ。呪文で強力なクリーチャーを呼び出すのはお前だけの特権じゃないネ」
そう言った槍汰は自分の手札から一枚のカードを引き抜く。それは怪しげな黒い光を発していた。

二宮砲助(にのみやほうすけ)は怯えながら逃げていた。
一井(いちい)斧馬は保持者と戦って敗れたのだ。そして、その人物は近くに砲助がいる事を知っている。だから、『次はお前だ』というメッセージを残したのだ。それを察した時、砲助の体は勝手に動いていた。
もうどれくらい逃げていたか判らない。体力に自信がない砲助は走って逃げる事はしなかった。周囲の状況を伺いながら、人ごみに紛れて逃げ続けた。
常に周りの様子を見ながら歩く少年は通行人の目には滑稽に映っただろう。しかし、数秒後にはみんな忘れている。そういうものだ。
景色が夜になったのを見て、砲助は空腹を感じ始めた。どこかで何か食べようかと思った時、いきなり視界が真っ暗になる。
「だーれだ?」
「うわあああ!」
砲助は自分の顔に触れ、視界を隠していた人物を振り払った。見ると、驚いた様子で女性が砲助を見ていた。視界の端に自分達を怪訝そうに見る人達が映るがそんな事はどうでもいい。彼らの存在などすぐ忘れてしまうし、彼らも自分達の事など忘れてしまうからだ。
「砲ちゃん、そんなに驚いてどうしたの?それに、そんな怯えた目で見つめられて、お姉さん悲しい」
「あ、美鞘(みさや)さん……」
彼女は七門(ななかど)美鞘。落ち着いた服装とストレートロングの髪型が似合う女性だ。『新生球舞』の中では最年長の十九歳。その為、砲助のように歳が離れたメンバーを可愛がっている。
「お姉さん、傷ついちゃった」
振り払った後、何も言えずにいる砲助を見て、美鞘は悲しそうな顔でそう言った。砲助のリアクションを待っているようだった。我に帰った彼は慌てて言う。
「違うんです!これには訳があるんです!」
「本当?」
「本当です!」
「お姉さんの事、怖くない?」
「こう答えます。イエスと」
「いつものいい子の砲ちゃんでいてくれる?」
「イエスと」
「お姉さんの事好き?」
「イエ……、何言わせるんですかっ!からかわないで下さい!」
突然の質問に砲助は顔を真っ赤にして答えた。
「いえ……、って事は砲ちゃん、お姉さんの事嫌いなんだー。ふーん、そうなんだー」
「き、嫌いなんて思っていません。僕が美鞘さんの事を嫌いかという質問にはこう答えます!ノーと!」
「えへへ、ありがと」
美鞘はいたずらっぽく微笑んだ。そして、砲助の手を取る。
「おなか空いちゃったからどこか行こうか。お姉さんがおごってあげる」
「ありがとうございます」
美鞘に手を握られたのが効いたのか、砲助は少しだけ落ち着いた。それでも、美鞘に手を引かれて歩いている間、周囲の警戒は怠らない。
彼女に連れて行かれたのは普通のイタリア料理専門のファミレスだった。
「今日はドリアの気分だったのよねー」
と、言って美鞘が食べ始めるのを見て砲助も注文したカルボナーラを食べ始める。料理に口をつけた時点で砲助はほとんど安心していた。
「少し、落ち着いた?」
美鞘に聞かれて砲助は頷く。一人で逃げ続けている時は気付かなかった。誰かと一緒にいるだけでこんなにも安心できるという事に。
「ええ、僕はもう大丈夫です」
「ねえ、何かあったの?」
心配した口調で美鞘は聞いて来た。ここでふと、砲助の脳裏に彼女を守りたいという気持ちが浮かんだ。彼女と一緒にいる事で安心できた。その恩返しをしたい。
覚悟を決めた砲助は真正面から美鞘を見る。
「それにはこう答えます。ノーと。僕は大丈夫です」
「そう……。それじゃ、よかった!あ、デザートも頼んじゃおうかな!砲ちゃんは何がいい?」
その時の砲助は気付かなかった。「ノー」と答えた時、一瞬美鞘が寂しそうな顔をした事に。

アオイと槍汰のデュエルが始まって数分が経過した。
《マホズン》を呼び出した時点ではアオイが有利のように思えたが、甘くはなかった。
「《ディアスZ》で攻撃!殲滅してやるネ!」
龍の羽根と尾を持つ巨大な悪鬼、《時空の封殺ディアスZ》が持っていた槍を地面に突き刺す。それと同時に地割れが起こってアオイのクリーチャーが飲みこまれていく。これが何度も繰り返されていた。
「さすがだネ。《ディアスZ》は。クリーチャーを出しても、こいつの能力で消してやるネ。手札を増やしたら、それを捨ててやるネ」
槍汰の切り札《ディアスZ》は殲滅返霊という特殊能力を持つ。自分か相手の墓地のカードを四枚山札の下へ送る事で使える能力。それを使用する事で相手の手札一枚か、クリーチャーを一体山札の下に送る事が出来る。手札破壊の連打も全ては相手の墓地を増やすのと同時に、『手札を捨ててクリーチャーを守る』という選択肢を潰す為の行動だったのだ。
これにより、アオイは何も出来ずにいた。
「さらにW・ブレイクだネ!」
《ディアスZ》の攻撃でアオイのシールドが二枚砕かれる。残りは一枚になってしまった。
対して槍汰のシールドは三枚。クリーチャーは一体だが、その一体が驚異的だった。
「楽しいネ」
槍汰はぞっとするほど邪悪な笑顔を見せる。マスクで顔の下半分を隠しているが、リズはそう感じた。
「調子に乗っている奴、強い奴、勝てると思っている奴。そういう奴の戦略を潰していたぶって捩じ伏せて……。負けるとか、破滅するとか、そう考えて怯えたり、悲しんだりするのを見るの楽しいネ」
「お前……!」
黙っていられなくなってリズが叫んだ。槍汰はそのリアクションが気に入ったのか、彼女に顔を向ける。
「こうやって知り合いが負けて怒る奴も好きだネ。お前みたいに感情をむき出しにする奴は楽しいネ。次はお前も同じようにしてやるネ」
「上等だ!あたしはお前みたいな奴になんか絶対負けない!」
『リズ』
ボル太がリズを制するように言った。
「なんだよ。あたしじゃ勝てないとでも言いたいのか!?」
『そうする必要がないと言っておこう。あの女はまだ負けていない。もう負けた前提で話を進めるのは無礼だ』
ゆっくりと静かに叱りつけるような口調でボル太は言った。それを聞いて、リズは何も言わない。真っ直ぐな目でアオイを見た。
「その指輪君の言う通りよ。時間はかかったけれど、準備はできたわ。本当はもっとスマートにやりたかったけどね」
そう言ってアオイは一体のクリーチャーを呼び出す。虎のような模様の鎧を纏った人型のクリーチャーだ。
「《聖鐘の翼 ティグヌス》よ。このクリーチャーがいる限り、私の手札は捨てられない。そして……」
パイプオルガンのような音と共に一体の龍が姿を見せる。
「《音感の精霊龍 エメラルーダ》よ。これでシールドと手札を入れ替えたわ」
これで、アオイのターンは終わる。それを見た槍汰は顎に手を当てて考えていた。そして、こう言った。
「無駄な抵抗だネ」
黒い光と共に悪鬼が現れる。下半身が巨大な悪魔の頭部。そこから伸びる上半身。何本もある腕でたくさんの剣を握っている。
「《魔刻の斬将オルゼキア》だネ。さあ、自爆だネ!」
《オルゼキア》は自分の腹に剣を突き刺す。すると、どこからともなく現れた剣に《ティグヌス》の体が貫かれた。驚いてその様子を見ていた《エメラルーダ》の体にも同じように剣が突き刺さる。
「《オルゼキア》は登場と同時に自分のクリーチャー一体を破壊するネ。それと同時に相手のクリーチャーも二体道連れにするネ!これで邪魔なクリーチャーはなしネ!」
《ティグヌス》と《エメラルーダ》の残骸を踏みつけながら《ディアスZ》がシールドに向かって進む。
「おっと、忘れちゃいけない。殲滅返霊を使うネ。手札も捨ててもらうネ!」
これでアオイの手札は一枚になってしまった。それを見て槍汰が笑う。
「楽しいネ!死にかけた蝶の羽根を一枚ずつむしり取っているような気分だネ!もがけばもがくほど楽しいネ!」
「最低ね」
悦に入る槍汰の顔を見ながらアオイが呟く。彼女の侮蔑の表情を見ても槍汰は笑顔を崩さない。
「精一杯の強がりかネ。無駄だネ!」
《ディアスZ》の槍が最後のシールドを貫く。すると、シールドから光とシンバルを叩くような音が響いた。あまりの音にそこにいた者達は耳を塞ぐ。
「うるさい!何が起こったネ!?」
「シールド・トリガーよ」
音が止むのと共に白い龍が姿を現す。二体の白い龍が融合したような姿のそのクリーチャーは《音階の精霊龍 コルティオール》だ。
「《コルティオール》は登場と同時に、自分のドラゴンの数だけ相手クリーチャーをタップできるシールド・トリガーのドラゴンよ」
「でも、俺のクリーチャーは《ディアスZ》だけだネ。無駄だネ」
「そうでもないわよ」
そう言うと、アオイは一枚のカードを裏向きのまま槍汰に見せた。《ディアスZ》の攻撃から守っていたカードだ。
「もう少しスマートにやりたかったけれど、思ったより時間がかかったわね。まあ、いいわ」
アオイはそのカードを《コルティオール》の体に向かって投げつけた。すると、《コルティオール》は金色の光を発しながら姿を変えていく。
「何が起こったネ!」
まばゆい光に目を細めながら槍汰が言う。その光がまぶしくないとでも言うように落ち着いた態度でアオイは言い放った。
「進化させたのよ。さあ、ドラゴンの王様のおでましよ」
「ドラゴンの王様だって!?」
そのフレーズを聞いてリズは目を輝かせる。リズの期待の視線と、槍汰の怯えるような視線を受けながら、その龍王は姿を現す。白く巨大な翼と金色の鎧。人型に近い完璧なバランスのボディ、そして鋭い視線。
「《聖霊龍王 アルカディアスD》。これで終わりよ」
《アルカディアスD》 の右手から青い色の光線が放たれる。それに触れた瞬間、《ディアスZ》の肉体は黒い光となって消えてしまった。
「恐ろしいパワーだネ。でも、《ディアス》はまた呼び出せるネ!《超次元ミカド・ホール》!」
槍汰はすかさず呪文を使って《ディアスZ》の再召喚を試みる。だが、いくら掲げても呪文カードは力を発揮しない。
「どうしたんだネ!?」
「無駄よ。《アルカディアスD》がいる限り、光文明以外の呪文は使えないわ」
再び、《アルカディアスD》が動く。二回目の攻撃で槍汰のシールドは全て破られた。
「くそっ!シールド・トリガー、《デーモン・ハンド》!これも駄目だネ!」
使えないシールド・トリガーを睨んだ槍汰はそれを地面に叩きつける。
「引くネ!引けば何とかなるネ!呪文じゃなくてクリーチャーの能力で破壊してやるネ!」
槍汰はカードを引いた。だが、彼のその顔を見ればそのカードが状況を逆転できるカードでない事は一目で判る。
「今まで何人の人をそうやって傷つけてきたのか、それは聞かないわ。胸糞悪いもの。でも、聞かなくても判るわ。あなたはそうやって自分より弱い者や弱く見える者だけを狙ってきた。違うかしら?」
槍汰は何も言わない。夏だというのに、歯をガタガタ振るわせながらアオイを見ていた。
「見逃して欲しいネ」
「悪党を見逃すと思って?」
アオイは右手を場にかざして命じる。その目と指先が敵を指していた。
「《アルカディアスD》でとどめよ!」
《アルカディアスD》の青い光線が槍汰を貫いた。それと共に彼の体からガラス細工のようなキラキラした光が少しずつ溢れる。その光はアオイの体に吸い込まれていった。全ての光が消えた時、『無の領域』も消え、普通の夜の景色が戻った。槍汰は気を失ったように倒れている。
「終わったわね」
そう言って、アオイはリズを見る。
「お前、強いじゃんか!」
リズは笑顔で彼女に近づいた。だが、ボル太の『やめろ!』という声を聞いて足を止める。
「何でだよ。あたし達と同じ、保持者だぜ?仲間じゃないかよ」
「その甘い考えは捨てた方がいいわ。保持者というものは全員が敵同士なのよ」
そう言って、アオイは自分のデッキケースを突き付ける。その目を見て、リズの笑顔が消えた。
「今、この場で倒してあげてもいいわよ」
『リズ、ここは退くぞ。保持者同士の戦いは双方の合意がなければ回避できたはずだ』
ボル太の忠告を聞いてもリズは答える事はない。アオイの目をじっと見ていた。
「何で保持者が敵同士なのか、あたしには判らない。だけど、あんなすごい戦いを見せられて黙ってはいられないぜ」
『リズ!』
ボル太が再び忠告する。それを見てアオイは溜息を吐いてデッキを持った手を下す。
「やめておくわ。あなたみたいなのを倒すのはいつでもできそうだし、それに、たこ焼きのお礼もあるからね」
そう言うと、アオイはビニール袋を渡す。中のたこ焼きは残っていなかった。
「全部食べてくれたのか!」
「ええ、おいしかったわよ。ごちそうさま。まだ利用できる機会がありそうだから、今はまだあなたとは戦わないでいてあげる」
そう言うと、アオイは去って行った。リズは彼女の後ろ姿が見えなくなるまでずっと見ていた。
『信用するつもりか?』
淡々とした声でボル太が聞く。リズにはその声が少し心配しているように聞こえた。
「ああ。今回だって助けてくれたからな。それに、とうとうあたしのたこ焼きを完食してくれた。信じる理由はそれだけで充分だ」
『やれやれ』
ボル太は呆れたように言う。人間だったら溜息を吐いていた事だろう。
『俺は信じない。だが、お前の判断は信じる』
「それ、信じたって事になると思うぜ。ボル太、お前、変な奴だな」
『お前には変と言われたくないな』
「何だと!」
その後もリズはボル太と他愛のない会話をしながら帰路を進む。
彼女はまだ知らない。『新生球舞』との戦いはまだ始まったばかりでこの後も苛烈を極めた戦いが彼女を待っている事に。

次回につづく

次回予告
私、一ノ瀬博成が知らないところで保持者と『新生球舞』の戦いがいくつも起こっていた。メンバー二人が欠けた事を受けて『新生球舞』は新たな作戦を開始する。姉妹のような二人を相手にリズとアオイが挑む。
次回『第七話 叫び』
吠えろ、叫べ、怒りと魂を乗せて。

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