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デュエル・マスターズについて語る非公式ファンサイトです。
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デュエル・マスターズ初心者向けを意識した記事を書いています。
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『TOKYO決闘記』

私、一ノ瀬博成(いちのせひろなり)は立法学園高校新聞委員会のメンバーで高校二年生だ。
十一月も終わりに近づき、クリスマスムードに染まる東京で、『怪盗アルケー』と呼ばれる存在が話題となっていた。そんな中、ヴェルデと対峙する金城豪人(かねしろごうと)。怪盗アルケーを待つ赤城勇騎(あかぎゆうき)。そして、勇騎を狙う新たな保持者墨川一夜(すみかわかずや)。保持者達の運命が交錯している。
20XX年 一ノ瀬博成

第八話 過去


池袋はいつも人で溢れている。その中にいたら、時計ばかりが目立つ青年やその隣を歩いている長髪で長身の男も目立たない。
「三ツ沢(みつざわ)は?」
首から下げた懐中時計を見た後、両腕の時計で時間を確認しながらスーツを着たその青年は言う。
彼は一本杉四神(いっぽんすぎしじん)。勇騎達の敵で、その中でも幹部クラスの実力を持つ男だ。時間にうるさく、待ち合わせで誰かが遅刻してくると怒る。
「すでに、到着していると連絡があった」
一本杉の問いに答える長身の男。年齢は一本杉よりも上で三十路前後に見える。細身で、髪は黒く長い。どこか幽霊のようなイメージを抱かせる男だった。
その男の名は二階堂十三階(にかいどうじゅうさんかい)。彼もまた、一本杉と同じく幹部クラスの存在だ。
「お前が俺の問いにきちんと答えるなんて、おかしいな。……まさか、やらかしたのか?」
「ご名答だ」
二階堂は口元だけで微笑む。目は笑っていないが、これは彼の非常に機嫌がいい時の証拠だ。それを見た一本杉は頭を抱える。
「マジかよ……。八卦(はっけ)と六儀(りくぎ)にも、勝手な事はするなって言われただろ?」
「保持者の実力を知るための、私なりの策略だ。それにこれくらいの我侭を許さない八卦でもあるまい」
「八卦はそうだけどよ……。七夕(たなばた)がうるさいんだよ。あの女が!ああ、ちくしょー。何で俺、こんな奴とコンビ組まなくちゃいけないんだよ」
一本杉のうるさい言葉にも、雑踏を歩く人々は気にしない。他人の話などは都会独特のBGMのようなものだ。聞く必要はないし、聞いてもいない。
「それは、八卦に対する文句か?」
「お前だ、二階堂!お前に対して文句を言ってるんだよ!」
一本杉は二階堂の胸元を指でつつきながら大声で言った。だが、二階堂はそれに対して反応せずに「着いたぞ」とだけ言って一本杉に背を向けた。その行動に呆れた一本杉だが、何を言っても無駄だと理解しているのでそのまま二階堂について行った。
二人が入ったのは、ハンバーガーショップだ。何も注文をせずに二階に上がると窓際の席で目的の人物は待っていた。
「どもどもー。一本杉さん、二階堂さん、久しぶりっすね。元気でしたか?」
二人に対して気さくな態度で話しかける一人の少年。身長は低めで、百五十センチほどだ。
黒い帽子に、黒いジャケット、穿いているズボンも黒い。そして、着ているボタンダウンのシャツも黒く、そこに締めている細身のネクタイも黒く、白い蜘蛛のようなものが描かれている。
少年の名は、三ツ沢二古(みつざわふたご)。三ツ沢は口のはしに煙草のようなものをくわえたまま、二人の来訪者と話し始めた。
「六道さんに聞きましたけど、保持者相手にガチでやり合うってホントすか?」
「煙草をやめろ。ここは禁煙だ」
一本杉が怖い顔で注意するが、それに対して笑顔の三ツ沢は手に煙草のようなものを持って言う。
「大丈夫ですよ。おれっちがくわえてるのは、煙草チョコすから。おれっちが煙草チョコのヘビースモーカーだって事くらい知ってるでしょ?」
「もっと悪ガキになって、本物に手を出したのかと思ったんだ」
一本杉は三ツ沢の向かいの席に座る。席が見つからなかった二階堂は立ったままだ。
「六儀から話を聞いているのなら、説明する手間が省けていい。保持者相手の全面戦争が始まる」
「うーん、いよいよっすか。正直言って、待ちくたびれたっすよ」
「そう言うな。八卦には最近まで連絡がつかなかったんだから」
弁解する一本杉に対して「判ってますよ」と答える三ツ沢。彼はにこにこと愉快そうに微笑んだまま、隣のテーブルを見る。
一本杉も釣られてそちらを見ると、そこでは三ツ沢と歳があまり変わらないような子供が二人、デュエルをしていた。
「ジュース一杯で席を取ってデュエルか。このハンバーガー屋は、いつからデュエルスペースになったんだ?」
「いいじゃないですか。おれっちも若い頃はあんな感じだったなぁ……」
「おっさんくさい事を言うな、お前」
「一本杉さんや二階堂さんみたいなマジでおっさんな人には言われたくないっすよ」
「俺は二十代だ!おっさんじゃねぇ!」
三ツ沢の冗談に本気で怒る一本杉。だが、三ツ沢はそれを見る事もなく、対戦している二人の子供を見ている。
「『マリエル』を召喚!俺の場には、『コーライル』がいる。次のターンで切り札の『スターマン』を召喚してやるぜ!」
片方の子供は『スターマン』をメインにしたデッキを使っていた。『マリエル』を使って大型獣の攻撃を禁止しながら、切り札につなぐ作戦のようだ。
「いいっすね。ボルテックスは面倒だけど、夢がある」
三ツ沢が解説する。その様子を見ながら、一本杉は両腕の腕時計を見る。余計な時間を使うな、と言っているのだ。二階堂は何も言わず、まだ立ったままである。
「くっ、だけど、俺にも切り札がある!」
対戦相手の少年が山札からカードを引き、その表情が輝く。それを見た三ツ沢は「おっ、やったな」と言った。
「行くぜ!『無双竜騎ドルザーク』!しかも、『トット・ピピッチ』の効果でスピードアタッカーだ!俺のクリーチャーはこの二体だけだけど、切り札の『ドルザーク』がいれば、勝てる!『ドルザーク』で攻撃!さらに、『マリエル』をマナに!」
その様子を見ていた一本杉は「ま、初心者にはよくある事だ」と言ったが、三ツ沢は笑うのをぴたりとやめた。
「『ドルザーク』が攻撃だと……!?『ドルザーク』が……攻撃ィィーっ!?」
三ツ沢は奥歯をギリギリ噛み締め、鬼気迫る表情を作ると『ドルザーク』を使っていた少年の髪を右手でつかんだ。
「三ツ沢!」
注意する一本杉の声も聞こえていない。二階堂は、周囲の人間がざわめき始めた事に気がついた。
「いてぇ……なんだ、お前!」
「このクソガキが!おれっちをなめてんのか!『トット・ピピッチ』の効果でドラゴンがスピードアタッカーになるのはルールにあるから、よく判る。だが、『マリエル』がいるのに『ドルザーク』が攻撃できるわきゃねーだろ!大体、『ドルザーク』の効果が使えるのは、他のドラゴンが攻撃した時だ!カードのテキストぐらいきちんと読んどけ、この……」
目を見開いた三ツ沢は右手に力を込めて、少年の頭をテーブルに叩きつけながら叫んだ。
「ド低能がァーッ!」
周囲のざわめきが大きくなる。「警察を呼んだ方が……」という声も聞こえた。
「三ツ沢、お前のせいで騒ぎが大きくなったぞ。どうしてくれるんだ?」
「うるせぇっすよ。おれっちはイライラしてるんです」
少年から手を離した三ツ沢は口にくわえていた煙草チョコを握りつぶすと、ポケットから新しい煙草チョコを取り出してくわえ直した。さらに、『ブランク』のカードを上着の内ポケットから二枚取り出す。
「こいつら、持って帰ってもいいすか?保持者に兵隊やられて足りないんっすから、補充してもいいっすよね?」
「勝手にしろ」
諦めたように一本杉が言うと、三ツ沢はそこでようやく笑顔になる。
「そうすよね!それじゃ……」
三ツ沢がカードを少年の頭上にかざすと、彼らの肉体がその中に入っていく。その様子を見て、悲鳴をあげる者、携帯で写真や動画を撮る者など、行動は皆違っていた。
そんな中、一階に駆け下りようとする者を見つけた一本杉は、右手の指を鳴らす。
「俺の能力『時の奴隷(タイム・キーパー)』を使った。貴様らの時間は既に終わった」
一本杉が言い終わるのと同時に、そこにいた客は全て崩れるようにして倒れた。
全員、左腕に真っ黒な腕時計のような物をつけて……いや、つけられている。そして、どの客も同じように顔が真っ青になっていた。
「二階堂、防犯カメラは?」
「入って来た時に破壊した。これくらいは予想済みだ」
「……ったく。面倒な事させやがって」
一本杉が三ツ沢を睨む。二階堂も避難するような目で三ツ沢を見ていた。
「ま、いいじゃないすか!兵隊も増えたし、結果オーライって事で……!」
「お前が言うな!……ったく、行くぞ」
一本杉を先頭にして、二階堂と三ツ沢は歩き出した。

勇騎は怒りを込めた目で一夜を見ていた。冷静な勇騎からは想像もできないような、熱い怒りの炎。
それを見ていた一夜は、にやにやと笑う。
「もうお前には何も言わん。死ね」
勇騎は一夜に対してデュエルを挑もうとして、動きを止める。
「敵か!」
一瞬にして冷静さを取り戻した勇騎は、周囲に気を配る。
物陰や草木の影から、たくさんの人間達が出てくる。美術展帰りの人間でない事は確かだ。全員、灰色のデッキケースを持っている。
「く……!注意を怠った」
一夜への怒りに燃えているせいで、勇騎は周りに潜んでいた敵の気配に気付かなかったのだ。
勇騎だけでなく、一夜も突然の来訪者に不機嫌な顔をしていた。
「何だ、テメェら……。俺を殺る気か……!」
先ほどまでの特徴的な話し方とは違い、静かに殺気を放っている。
「保持者を倒せ。それが俺達の主、二階堂十三階様の命だ」
その中の一人の男が一夜に近づきながら言う。
「倒せ……倒せ……倒せ……?くっくっく……倒すって、誰を倒すんだよォォォ!」
ついに、一夜が吠える。そして、胸元の包帯をむしるようにかき始めた。
「かゆい、かゆいぜェェェ!テメェら、俺と兄弟のデュエルを邪魔した事を後悔させてやるぜェ!うぜぇぇぇ!消えやがれェェェッ!!」
一夜は胴体に巻いていた包帯を全て引きちぎる。その胴体には、横に切られたような痛々しい傷跡がある。否、それはただの傷跡ではない。一夜の叫びに呼応するかのように、その傷跡は開いていく。
完全に開いた傷跡は、まるで口のようだった。その口が息を吸い込み始めると、一夜を中心に台風のように強風が吹き始め、周りにいる者が近づいていく。
「くそっ……やめろ!」
危険を感じた勇騎が注意した瞬間、彼は一瞬気が遠くなるように感じた。
勇騎は理解する。いや、思い出す。一夜はこの能力で、魂を吸い出す事ができるのだ。
周りにいた敵達から黒いもやが出てきて、一夜の胴体にある口に吸い込まれていく。本来は、『ブランク』の中に封印するはずのクリーチャーを一夜は食ってしまったのだ。
周りにいる人間達が全員倒れたところで、一夜はその行為をやめた。そして、勇騎を見て大声で笑う。邪魔者はいなくなった、と言いたいらしい。
「いや、まだだ」
勇騎と一夜がそれぞれ同じ方向を見る。二人の男が彼らに向かって歩いてきた。
片方は、学生服にスキンヘッドの男だ。一夜に負けないくらい凶暴そうな顔をしている。
もう片方は、気弱そうな男だ。茶色いコートに身を包み、スキンヘッドの後ろに隠れるようにして歩いている。
「テメェら……。あれを喰らって生きてやがったのか……」
一夜が睨むと、コートの男はひっ、と言って一歩後ろに下がる。
「三木(みき)。僕は、あんな凶暴な男と戦うのは嫌だ。『プロミネンス』の保持者と戦うからね!」
「了解です、ぼっちゃん」
三木と呼ばれたスキンヘッドは、一夜の眼前まで移動すると灰色のデッキケースを取り出す。コートの男は小動物のようにちょこまかと動きながら、勇騎の前まで来た。
「生きていたか、と聞いたな、保持者。あれくらいで消えるような者と、我々を一緒にしないで欲しい。格が違うのだ」
「そうだぞ!保持者!お前達は、この梶本紋一郎(かじもともんいちろう)と三木が倒してやる!」
梶本と名乗ったコートの男がデッキケースを持って叫ぶと、世界が変わって行く。命を取り合うデュエルのための世界だ。
「邪魔しやがってェ……。テメェら……ただじゃおかねェからなァァァッ!!」
一夜がシールドを並べ、準備をする。獰猛な獣のように吠えると、対戦相手の三木を睨んだ。
「獣のようだ。知能も獣と同程度か?」
三木は静かな口調で一夜を挑発する。
「さあ、行くぞ。保持者!」
そして、梶本は勇騎を睨みながらカードに手をつけた。
「丁度いい。奴を倒す前のウォーミングアップだ」
こちらも、デュエルを邪魔されて不機嫌になっている勇騎。今は、目の前の敵を倒す事にのみ集中している。
「『エマージェンシー・タイフーン』だ!」
梶本の先攻で始まったデュエル。梶本は2ターン目に行動を開始した。
「ぼっちゃんと同じく、私も『エマージェンシー・タイフーン』を使う」
隣の対戦でも同じ事が起きていた。三木も2ターン目に『エマージェンシー・タイフーン』を使ったのだ。
「息の合ったコンビだな。だが、そんなものは今のデュエルでは意味がない!」
勇騎は『フェアリー・ライフ』を使ってマナを増やす。今はまだ、準備を整える事しかできない。
「『飛行男』、召喚!」
四人の中で最初にクリーチャーを召喚したのは一夜だった。そして、彼は召喚直後に三木を指す。
「テメェは邪魔だァッ!さっさとテメェをぶっ殺して、ゼロ号を殺す!」
「やってみるがいい。君にできるのなら」
三木はあくまでも冷静だ。
「僕は『エナジー・ライト』でドローだ」
梶本はさらに手札を増やしてくる。勇騎のデッキでは手札破壊がないので、彼の豊富な手札を食い止める手段は一つしかない。
「素早く倒す。それだけだ!」
そう言った彼は相手を見据えると、『エクスプレス・ドラグーン』を召喚した。

豪人は、ヴェルデが食べたステーキランチの皿を見ながら、二杯目のコーヒーを飲んでいる。ファミリーレストランの安物では満足できない豪人だが、この時は、話しすぎて喉が渇いていたのだ。
ヴェルデとの話はもう終わり、彼は豪人に食事の礼を述べて立ち去った。
「さてと……隠れてないで、そろそろ出てきたらどうだい?新聞委員さん」
豪人が独り言のように言うと、後ろの席から博成がやってきた。彼は豪人に対して、目を合わせようとしなかったが、豪人が自分の前の席に座るように促すとそれに従って顔を見た。
「バレていたんですか?」
「僕がトイレに行くために席を立った時、君は新聞で顔を隠しただろう?その時の新聞が、なんと立法学園の校内新聞だったんだ。バレバレだよ」
「う……何でそんなにしっかり見てるんですか」
「そんな事はどうでもいいんだよ、一ノ瀬君。気になる事があるんだろう?」
豪人は博成を見て微笑んだ後、そばを通りかかったウエイトレスに博成の注文を自分の伝票に移すように指示し、彼のためにコーヒーを注文した。もちろん、ウエイトレスに色目を使うのも忘れない。
「惜しいな。時間があれば、落とせたのに……」
ウエイトレスが去ってから、豪人は独り言のように呟く。博成は、豪人という人間に混乱しながら、彼を見据える。
「さて……勇騎君と、『エクスプロード』の保持者が兄弟だって事は聞いていたね?」
ヴェルデと豪人が話していたのは、そこだ。それを聞いた後、ヴェルデは完全に沈黙してしまった。その後は、食事が終わるまで一言も話さなかったのだ。
「メモをしておかなくていいのかい?僕が心配する事じゃないけどね。この場合、兄弟と言っても血の繋がった兄弟じゃない。義兄弟のようなものかな」
勇騎の義兄弟。そして、その男は勇騎を狙っている。しかし、何のために?
「ある異世界で、巨大な研究所があった」
突然、豪人が何の関係もない話を始める。だが、博成はそれが大切な話であると気付いた。
「研究所にはいくつもの実験施設があった。そこで研究をしている者達に深い理由はない。彼らは「研究したい」から研究をしていたのだ。その研究所では、別の世界でも自分達の力が自由に使えるようにという理由で、巨大なエネルギーの塊を作った」
博成のコーヒーが来て、話は中断する。ウエイトレスが去った後、再び話は始まった。
「その巨大なエネルギーは世界を壊す事など容易かった。それだけじゃない。世界を壊して新しい世界を創る事さえできる。巨大過ぎる、人の手に負えない代物さ」
その時の様子を知っているのか、豪人の手は震えていた。
保持者でさえ脅えるほどの力。それは博成の想像を遥かに超えていた。
「研究者達はそれを五つに分け、形を与えた。それが僕達のデッキだ」
豪人は、『ネオウエーブ』から一枚のカードを取り出す。それは『ブランク』に封印されたブレインジャッカーだ。
「研究者達は他にも色々なものを作った。例えば、敵に寄生して操る事ができる生物兵器。そして、敵を封印できるカード。最後に……五つのデッキを操る事ができる者達、保持者」
今だから、博成には理解できる。保持者も、彼らが使うデッキも全てクリーチャーの世界のどこかで作られたものだったのだ。
「これが、保持者と五つの選ばれたデッキの裏話って奴かな?」
話し終えた豪人は、博成に笑いかける。
博成は、保持者達の壮絶な過去を知ってしまった。彼らは作られた存在。決して興味本位でないとはいえ、多くの事を知りすぎてしまった。
「美和(みわ)さんは、この事を知っているんですか……?」
「美和は、君に話した以上の事を知っている。僕の過去も、もっと詳しく知っているよ」
博成は、まだ熱いコーヒーを飲み干すと立ち上がった。
「教えてくれて、ありがとうございました」
「いえいえ、どういたしまして。それよりも、勇騎君の事を気をつけてあげなよ。そろそろ、『エクスプロード』の保持者と激突しているかもしれないからね。奴は危険さ」
博成だって勇騎の力にはなりたい。だが、豪人が言うように危険な保持者が相手だったら、博成では何の役にも立てないかもしれない。
それでも、何かできる事があるかもしれない、と考えながら博成は豪人にもう一度頭を下げて立ち去る。
「律儀だねぇ……。悪くないな」
ウエイトレスに言って、博成のコーヒーカップを下げてもらった後、彼の前に一人の少女がやってくる。美和だ。
「豪人様、お待たせいたしました。今晩はどこに行かれるのですか?」
「そうだねぇ、天麩羅のおいしいところがあるみたいだから、そこにしようか」
「はい、豪人様!」
豪人は、今のままでいいと思っている。過去の事より、今と未来の方が大切なのだ。

「『閃光の求道者ラ・ベイル』でW・ブレイク!」
梶本が使っているクリーチャーは、大型ブロッカーだ。『エマージェンシー・タイフーン』で墓地に送っていたものを、『インフェルノ・ゲート』で呼び出した。
「甘いな……。シールドトリガーで、『エクスプレス・ドラグーン』を召喚する!」
突然登場したシールドトリガークリーチャーに、一瞬驚いた梶本だったが、自分のクリーチャーを見てすぐに危険でないと気付く。
「そんなザコクリーチャーが来たって怖くないぞ!僕の『ラ・ベイル』はターンの終わりにアンタップできる!しかも、パワーは8500だ。パワー3000の『エクスプレス・ドラグーン』じゃ倒せるわけがないよ!」
「ならば、俺は『エクスプレス・ドラグーン』で『ラ・ベイル』を倒してみせる」
勇騎は『ストリーミング・チューター』で手札を補充する。運良く、五枚のカードが手札に来た。
「そして、バトルゾーンにある『青銅の鎧』に『母なる大地』を使う。マナゾーンにある『衝撃のロウバンレイ』をバトルゾーンへ!」
「しまった!まさか……!」
『ロウバンレイ』は、ティラノ・ドレイクとブレイブ・スピリットの攻撃時にブロッカーを破壊する能力を与える。貧弱な『エクスプレス・ドラグーン』でも、巨大な『ラ・ベイル』を倒す事が可能だ。
「『エクスプレス・ドラグーン』でシールドを攻撃!アタックトリガーで『ラ・ベイル』を破壊!」
爆発と共に、『ラ・ベイル』の肉体が粉々に砕け散る。そして、シールドが砕けた。
「『ラ・ベイル』の仇だ!シールドトリガー、『デーモン・ハンド』!『ロウバンレイ』を墓地へ!」
攻撃を続けようとした勇騎の『ロウバンレイ』が破壊される。相手のシールドを二枚残したところで、勇騎の攻撃は中断し、ターンを終了した。
バトルゾーンにいるクリーチャーは、勇騎の『エクスプレス・ドラグーン』一体のみ。勇騎のシールドは三枚残っているが、それは現時点での話だ。
梶本のデッキは、後半で勝負に出る遅いデッキ。これからの状況によっては、逆転もありうる。
一方、一夜と三木のデュエルも同じように後半戦に突入していた。
「シールドトリガー、『アクア・サーファー』を召喚!厄介な『黒神龍ギランド』を手札へ戻す」
「テメェ!」
「吠えるな、保持者。ここまでやるとは正直驚いている。だが、ここまでだ」
三木は『アクアン』を使い、手札を一気に増やした。その中には、光のブロッカーを二体召喚する『ヘブンズ・ゲート』や『ラ・ベイル』のような大型ブロッカーが入っている。
「爆発的なドローで、戦略を立て直す。さすが、ぼっちゃんのデッキだ」
「何ィ……?」
そこまで言われて、一夜は気付いた。梶本と三木は全く同じデッキを使っているのだ。
「ぼっちゃんと私は深い絆で繋がっている。一人一人好き勝手に行動している保持者とは違うのだ!」
「絆だァ……!?けけけっ、そんなもん、何にもなりゃしねェェェ!勝つのは、より強い奴だ!!」
一夜は改めて自分と三木の場を確認する。
三木のデッキも始動が遅いため、シールドはすでに三枚ブレイクできた。残り二枚だ。
だが、手札には『ヘブンズ・ゲート』がある。一夜のクリーチャーは現在、『ノクターン・ドラグーン』一体のみ。ブロッカー破壊のないこのデッキで、何も考えずに突っ込んだら、負けてしまう。
「三木に続いて、こっちも行くぞ。『アクア・リバイバー』召喚!」
勇騎に対して梶本が出したのは、何度でも手札に戻る小型軽量ブロッカーだ。効果はシンプルだが、非常に厄介である。
「さあ、ターン終了だよ!」
「保持者の力、見せてもらおう」
勝ち誇ったように言う梶本と三木。だが、二人の保持者はそんな事を意に介していない。
「俺達の力を甘く見ていたな」
「ザコが!テメェとのデュエルなんぞ、時間の無駄だ!」
彼らは、ゆっくりと一枚のカードを場に出し
「進化!」
と、声を重ねる。
「『超竜騎神ボルガウルジャック』!!」
「『九龍騎神ドラン・ギレオス』!!」
勇騎の『エクスプレス・ドラグーン』が『ボルガウルジャック』に進化し、『アクア・リバイバー』を破壊する。
そして、一夜の『ノクターン・ドラグーン』が『ドラン・ギレオス』に進化し、三木の『ヘブンズ・ゲート』を墓地へ叩き込んだ。
「W・ブレイク!」
二人の声が再び、重なる。いがみ合っていたはずの二人なのに、その息は恐ろしいくらいに合っている。
「三木……!どうしよう、僕……怖い!」
梶本に頼られる三木だったが、彼も恐怖していた。二人は、保持者の力をなめていたのだ。二人の保持者を相手に戦うという事の意味を判っていなかった。
「大丈夫です、ぼっちゃん。これは、ぼっちゃんが作ったデッキ。まだまだ逆転の策はあります」
「そ、そうか……!そうだよね!」
三木も梶本も「勝てる」と信じなければ、この恐怖から逃れる事はできなかった。こうなったら、最後まで足掻くしかない。
「『ヘブンズ・ゲート』!『悪魔聖霊バルホルス』と『妖蟲幻風ギュネール』召喚!これで、『ボルガウルジャック』は終わりだ!」
梶本が自分のターンで出してきたのは、攻撃を強制する大型ブロッカー、『バルホルス』。そして、スレイヤーブロッカーの『ギュネール』だった。
「なるほど。『バルホルス』で攻撃を強制させておいて、『ギュネール』でブロックして『ボルガウルジャック』を倒すという事か」
同じように、三木も最後の反撃に出る。
「『インフェルノ・ゲート』!『閃光の求道者ラ・ベイル』を召喚する」
三木が出したのは、『ラ・ベイル』だ。このパワーの前では、『ドラン・ギレオス』でも押しつぶされてしまう。
「何かと思ったら、『ラ・ベイル』かよ……」
だが、一夜も余裕だ。勇騎と同じように自分の勝利を確信している。
二人の保持者は、カードを引く。そして、それを切り札の上に重ねた。
「進化!『ボルガウルジャック』!!」
「『ドラン・ギレオス』を『ドラン・ギレオス』に進化ァ!!消えろ!ザコがァァァ!」
「そんな馬鹿な!同じ進化クリーチャーを重ねるなんて!」
『ボルガウルジャック』の上に『ボルガウルジャック』が重ねられた事で、ティラノ・ドレイクから進化した時の効果が発動。それによって、『ギュネール』は破壊された。
「『ボルガウルジャック』で、プレイヤーを直接攻撃!」
さらに、ドラゴンから進化した時の能力によって、攻撃時に自分よりもパワーに低いクリーチャーを破壊可能。梶本の最後の砦、『バルホルス』もあえなく破壊される。
「嘘だーっ!何で、僕がこんな奴に!」
『ボルガウルジャック』の剣が、梶本に振り下ろされて決着がついた。
「さあ、次はテメェの番だァ!」
梶本の敗北を見ていた三木は、一夜に言われて自分の敗北を悟った。『ドラン・ギレオス』を二枚重ねる事で、『ドラン・ギレオス』はドラゴンから進化した時の能力を使用可能になる。それは、攻撃時にアンタップ状態のクリーチャーを破壊できる能力。
「『ドラン・ギレオス』!邪魔な『ラ・ベイル』を破壊ィィ!そして、とどめだァァァーッ!!」
いくつもある『ドラン・ギレオス』の頭部から、どす黒い光線が放たれ、三木の体はそれに包まれていった。
二人の保持者は全く同じようなやり方で挑戦者に勝利したのだ。
「準備は終わった。次は……」
『ブランク』にブレインジャッカーを封印した勇騎は、一度デッキを片付けると一夜を見た。闇の保持者も、準備は出来ているらしい。
「もう誰も俺達の邪魔はできねぇ……。一緒に、地獄を見ようぜェェェッ!!」
二人の保持者はシールドを並べ、互いを睨む。後戻りはできない。絆よりも深い因縁で結ばれた二人の、殺し合いが始まった。

第八話 終

第九話予告
保持者同士の壮絶な戦いが過ぎ、街に朝が来た。自宅で休んでいた勇騎を心配した博成が見舞いに来ると、勇騎は『怪盗アルケー』を追い詰める策を練っていた。そして、ヴェルデの前に一本杉達を倒そうとする一人の男が現れる。
「俺の勘が正しければ、『怪盗アルケー』は保持者だ」
最後の保持者との遭遇。『怪盗アルケー』はどんな人物なのか?
第九話 怪盗

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