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デュエル・マスターズについて語る非公式ファンサイトです。
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デュエル・マスターズ初心者向けを意識した記事を書いています。
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『TOKYO決闘記』

私、一ノ瀬博成(いちのせひろなり)は立法学園高校新聞委員会のメンバーで高校二年生だ。
赤城勇騎(あかぎゆうき)は、怪盗アルケーが保持者だと考えていた。そして、彼は怪盗アルケーを捕まえるための策を練っている。
次々と現れていく保持者。そして、『グランドクロス』の保持者、ヴェルデの前に一本杉四神(いっぽんすぎしじん)達を倒すという男が現れる。敵ではない、と宣言する彼の狙いは一体何なのか?
20XX年 一ノ瀬博成

第十話 月夜


池袋東口にあるマンガ喫茶で、三ツ沢二古(みつざわふたご)はマンガを読んでいた。彼にとって、マンガ喫茶で好きな飲み物を飲みながら読みたいマンガを読むのは幸せな時間である。古本屋などで人にまぎれて立ち読みをするのは優雅さに欠ける、という彼なりの美学があるのだ。
『とおるるるるるる。とおるるるるるる』
「んにゃ?何ざんしょ?」
録音された三ツ沢の声が彼の体内のどこかから聞こえる。ジャケットのポケットに手を入れた三ツ沢は、『とおるるるるる』と持ち主と同じ声を出している携帯電話を取り出した。どうやら、同じような幹部からかかってきたらしい。
「はい、もしもし」
『三ツ沢!?今、どこにいるの!』
一度、自分に当てられた部屋を出た三ツ沢が電話に出ると、高くうるさい女性の声が彼の耳を貫いた。
「うおぅっ……。そのうるさい声は七夕(たなばた)さんっすね?この前、一本杉さんがうぜー、って言ってましたよ」
『一本杉……次に顔をあわせたら殺す』
「うっひゃぁ!怖い怖い……」
『そして、今、その話をしたお前も殺す』
「そりゃひどいっすよ!」
『問答無用!それより、あんた待ち合わせの時間と場所、忘れてないでしょうね?』
「待ち合わせっすか……?女性との待ち合わせは忘れないのが、おれっちの108の長所の一つなんすけど……あっれぇ?七夕さんは、女性にカウントしてなかったかな?」
『サンシャインシティの中の『喫茶いつもの』!!あと五分以内に来なかったら殺す!』
うるさい声でそう言うと、七夕からの電話は一方的に切れてしまった。
「おぅおぅ……うるさいっすよ……」
三ツ沢が電話を切って耳をふさいでいると、三ツ沢の声が迷惑だったのか、隣の部屋から出てきていた男が彼を睨んでいた。
三ツ沢はすかさず、右手で顔を覆うようにして左手でその男を指差すと
「斎藤!きさま!見ているなッ!」
と言った。
「何言ってんだ?俺は斎藤じゃないし……。お前うるさいんだよ!すこしは、静かに……くっ……!」
三ツ沢を注意した男は首に手を当てて口をパクパクさせる。それは、まるで金魚のような動きだった。
「お前の声の方がうるせぇアンドうぜぇ。おれっちの『破滅の息(ディープ・ブレス)』で黙りやがれ」
三ツ沢は部屋に戻って、読んでいたマンガと空のグラス、そして、伝票を持ってその場を去った。マンガを本棚に戻し、グラスを所定の位置に片付けて会計を済ませた三ツ沢は、マンガ喫茶を出ると煙草チョコをくわえ
「やっべぇっすね。五分以内に着くのは無理っすから、言い訳を考える方がベターっす」
と、言って人ごみの中をゆっくり歩き出した。
サンシャインシティの中にある『喫茶いつもの』は、上品な内装の喫茶店だ。食事など、安物のファーストフードかマンガ喫茶で済ませてしまう三ツ沢には全く縁がない場所である。
店内に入って中を見ると、窓側にある四人がけのテーブルに三人の男女がいた。三ツ沢に背を向けて二人の男。そして、向かいの席にいる少女は、三ツ沢を見て立ち上がる。
「ひぃ……ふぅ……三ツ沢二古、ただいま到着っす。はぁ……ひぃ……すんませんっす。横断歩道で渡れなくて困っているおばあちゃんを助けるためにチベットまで修行に行ってたら、帰りの飛行機が混んでて遅れちまったっす!はぁ……はぁ……空港からここまで走ってくるのは大変だったっす」
「店に入ってから、息が荒くなったわね?」
三ツ沢が空いていた席に着くと、隣に座っていた少女が睨みつける。
三ツ沢よりも年上で年齢は十代後半だと思われる。少女と女性の中間とも言える艶やかさを内包した魅力があった。
髪は長く黒く、それを白い布で一本に束ねていた。目はきつく、三ツ沢が遅れてきたせいもあるが、見る者を威嚇するような印象を与える。
彼女の容姿で一番奇抜なのは服装だろう。上は白、下は紅色と上品な色合いの巫女装束を着ていた。しかし、彼ら幹部達にとって奇抜な服装はおかしくないため、誰も疑問に思わない。
彼女は七夕初七日(たなばたしょなのか)。幹部の中でも重要な役割を担っている三人の一人である。
「三ツ沢、お前の嘘は判りやすいな。もっとましな嘘を考えろ。それくらいの時間はあっただろう?」
初七日の向かいにいるのは、修行僧のような服装の男だ。年齢は二十代前半で、背は高く、体格はしっかりしている。
髪は七夕と同じように黒く長い。修行僧として見ても、異様な人物だと言える。
彼の名は、八百万八卦(やおよろずはっけ)。初七日、そして、もう一人の男と同じように、幹部の中で重要な役を担っている。
「…………」
三ツ沢の前にいる男は、神父のような服を着た男だった。百九十以上もある長身の男で、体格もいい。大柄な八卦よりも一回り大きく見えるほどだ。
黒い帽子とサングラスのために、顔が見えづらい。だが、彼の表情が変わる事はあまりないので見ても意味がない。
神父のような服の男は、六道六儀(りくどうりくぎ)。初七日、八卦と同じように幹部の中でも強い力を持っている。
「う……うぅ……急いで来たのに……」
「待ち合わせの時間を忘れるあんたが悪い!」
正論を言われてしょぼんとなる三ツ沢。だが、一分もせずに彼はいつもの三ツ沢に戻るのだ。
店員が来て、全員の注文を聞く。昼時を過ぎているので、客もまばらだ。
それぞれが好きな物を注文していく中、今までずっと黙っていた六儀が静かに口を開いた。
「アップルティー、ジャンボパフェ」
それだけを言うと、彼は再び口を閉じた。大柄な男に似合わないメニューに女性の店員はしばらく行動ができなかった。
「こいつはこういう奴なんだよ、気にしないで下さい」
八卦は店員にそう言うと、自分はホットコーヒーを注文した。
やがて、注文していたメニューが来る。三ツ沢のホットケーキセット。初七日のチーズケーキと紅茶のセット。八卦のホットコーヒー。
そして、テーブルの三分の一を埋め尽くすようなジャンボパフェと、いい香りのするアップルティーがやってきた。それだけで三千円を越えるそのジャンボパフェは本来、一人で食べるためのものではない。その巨大さに三ツ沢は「すごく……大きいです……」と言ったが、それを聞いているのか聞いていないのか六儀は、表情を変えずに黙々と白い山を解体していった。
「で、今日は何ですかね?会議?」
「それに近いな。俺達九人全員が集まって『球舞(きゅうぶ)』として活動する時が来たという事だ」
コーヒーのカップを右手で持った八卦がそれに答える。
「とうとうっすか……。球舞……」
言葉に出来ないうれしい感情が三ツ沢を支配していた。
幹部だけが所属する最強の集団『球舞』。九人の幹部で構成されるそれは、他のデュエリストとは一線を画す存在だ。保持者が相手でも負ける事はない、と三ツ沢は思っている。
「一本杉と二階堂(にかいどう)が五箇条(ごかじょう)と四天王寺(してんのうじ)を探してるよ。それと……その途中で反逆者を見つけたようだ」
反逆者。幹部に逆らう連中がいるという事だ。
「そんな奴ら、二階堂がさっさと倒すでしょ。アタシ達が出る必要はないわ」
それを聞いた三ツ沢は、残っていたホットケーキを口に含むと立ち上がった。
「ごっそさんっす!おれっちも、反逆者をぼこぼこにしてやるっすよ!」
三人が止める間もなく、三ツ沢は店を飛び出した。
「三ツ沢は元気があっていいな」
「あれは、『元気がある』じゃなくて『うるさい』っていうのよ」
三ツ沢が出て行った場所を呆れた顔で見ながら初七日はそう言い、次に、八卦の顔を真剣な表情で見つめた。
「九十九(つくも)様は……?」
「九十九はまだ来る事ができない。時期が来れば俺が呼び出す」
「そう……」
初七日は、八卦の言葉を聞いて窓の外を見る。彼女の目には、人ごみの中にいる何組かのカップルの姿が映っていた。

「そういうわけで、ちょっと今、美術館の近くに来てるんだよ」
勇騎と共に美術館に向かった博成は、その入り口付近で電話をかけていた。
『へぇ、一ノ瀬ちゃんでも美術館に行く事があるんだぁ。てっきり休日は家でゲームくらいしかやる事がない子だと思ってたわ!』
電話の相手は、新聞委員会の委員長、青海(おうみ)ゆかりだ。怪盗アルケーの調査について、一度報告しようと思ったのだ。
「ひどいな。それじゃ、僕がまるで無趣味みたいじゃないか。僕だって美術館に来る事くらいあるよ」
『ふ~ん、もしかして……美術館によく来てる絵を描くのが好きな一ノ瀬ちゃん好みの外見の女の子でも見つけた?つまり、ナンパって奴をしようとしてるな~?』
「そ、そんなんじゃないって!委員長は怪盗アルケー、知ってるよね?」
『朝野ちゃんが言ってたあの怪盗?一ノ瀬ちゃんも『古き良き』とか言い出すタイプ?』
「そうじゃないんだ。もしかしたら、スクープになるかもしれないかもって思って……」
馬鹿げた話だと笑われるかもしれない。しかし、本当に怪盗アルケーが現れたら記事にできるかもしれないのだ。
『偉い!』
てっきり笑うと思っていたゆかりは、大声で博成を褒めた。
『休日もスクープ探してがんばるなんて、一ノ瀬ちゃんはさすがだわ!まだ決まってない副委員長の椅子はあなたのために空けておくからね!』
「そっ、そんな事いいよ!じゃ、美術館の中を下見するから切るよ!」
そう言って、博成は半ば強引に電話を切った。
「俺は、お前の記事のために来たんじゃない」
横で勇騎が言う。
「判ってるよ。取材はするけれど、記事にできるかどうかは判らないし……それに僕は勇騎君の邪魔は絶対にしない」
「それは判っている。俺はお前を信用している」
そう言うと、勇騎は美術館の中へ入っていったので、博成もそれに続いた。
今回、展示されているのは、絵画だ。『水』をテーマにした絵をよく描く画家ドナルド・マックイーンの作品がメインになっている。
博成は展示されている絵を見ながら、小学生の時の校外学習で行った美術展を思い出していた。あの頃は、絵を見るという事が退屈で仕方がなかったので、世界的に有名な絵画を視界にとらえる事もなく素通りして時間を潰していた記憶がある。今、思えば勿体無い事をしたが、よほど絵が好きでもない限り、子供というものはそういうものだろうと思った。落ち着いて絵が見られるような、感性の育った人間になるのは、何歳くらいなのだろう、とも思ったが、目の前にある美しい絵画を見て行く内に、そんな疑問は忘れ去られていた。
「美しい物を作れる者がいる。そしてそれが人々を魅了し、長い時間、多くの者に愛される」
勇騎が独り言のように、隣で何かを言っていた。彼が、デュエル以外の事を語るのは珍しいので博成は聞き入ってしまう。
「使われ方は違っても、これはこれで大きな力だ。『プロミネンス』や保持者の力のように」
「うん……」
勇騎はまた口を閉じて、絵画を見始めた。彼の目に、異世界の文化がどう映っているのか、博成には気になった。

新宿崇島デパートの九階レストランフロア。
金城豪人(かねしろごうと)と佐倉美和(さくらみわ)は、美しい夜景が見える窓際の席で夕食を楽しんでいた。イタリア料理のコースになっていて、豪人はレバーペーストを塗ったトーストをつまみながら、カクテルを飲んでいる。
美和もまた、着物の袖を汚さないようにして器用に、アペタイザーを食していた。
メインの料理が運ばれてこようという時、テーブルの脇に四人の男がやってきた。ヴェルデと他に三人の男がいる。
「前回に続き、今日も食事を奢って欲しい……というわけではなさそうだね。とりあえず、座りなよ。美和も、いいかな?」
「はい、豪人様。このお方達、何か訳ありのように見えます」
「僕もそう思った」
豪人が店員を呼び、彼らは空いていた六人がけの席に移動する事になった。そして、美和の提案により、後から来た四人の食事も追加された。
「やれやれ……。美和と二人っきりの夜を邪魔して、食事までありついて、つまらない用事だったら僕は容赦しないよ?」
「豪人様、すみません。ですが、このお方達はとてもお腹が空いていらしたように見えましたので……」
「かまわないさ。僕は美和のする事には何一つ怒らないよ。さ、ヴェルデ君、事情を説明してもらおうか!」
メインの鶏肉料理に手を伸ばしかけていたヴェルデに、豪人が問う。ヴェルデはそれに答えず、長髪の青年が答えた。
「お食事のところをお邪魔して申し訳ない。僕達はこういうものです」
長髪の青年、そして、彼と共に現れた三人の男は、同時に灰色のデッキを取り出して、テーブルの上に置いた。
「おいおい……食事を邪魔しただけじゃなく、デュエルで僕を倒そうっていうのかい?この食事が君達の最後の晩餐になるよ」
彼らに反応して、『ネオウエーブ』を取り出す豪人だったが、それに対してヴェルデは「待て」と口を開いた。
「この三人に敵意はない。あったら、俺がお前のところに連れてくる事もない」
「君が負けるか何かして、洗脳されたのかと思ったのさ。でも、彼らを見ている限り、それはなさそうだね」
三人は、デッキを置いたまま触れようともしない。完全に戦闘を放棄しているのだ。
「君達三人が、人を殺せるデュエルができる人間だというのは、判った。だが、妙だね?君達は僕を攻撃しようとはしていない」
「それは、僕達三人が組織を裏切ったからです」
「組織?」
「そうです。東京連続失踪事件を指揮していた組織『球舞』。多くのデュエリストを誘拐し、デッキを操る力を与え、東京都に放っていた悪の集団です。一本杉四神や二階堂十三階など九人の幹部がそれを取り締まっています」
「一本杉四神……。ああ、あのJDCに所属してそうな名前の奴だね。君達が組織を裏切ったというけれど、一体何のためだい?」
長髪の青年、そして、二人の男が豪人の顔をじっと見て答えた。
「『球舞』を倒し、僕達が好きなデュエルを、そして、デュエルが好きな人々を救い出すためです」
豪人はそれを聞いてすぐには答えなかった。そして、カクテルを少し口に含んだ後、こう言った。
「この世には二つの人間がいる。君達の言う『球舞』の行動を見て、デュエルを侮辱されたと怒る者。それとは逆に、興味がないように冷静に振る舞う者。君達は前者みたいだけど、残念ながら僕は後者なんだ」
それを聞いた三人は、少し悲しそうな顔をした。
「金城……!」
ヴェルデが攻めるような口調で名を呼び、豪人の顔を見る。だが、豪人は平然とした顔でメインの鶏肉料理を食べていた。
「大丈夫です」
空気が殺伐としてくる中、美和が穏やかな声で言った。
「豪人様は、こういう時に感情をすぐに出す方ではございません。ですが、きっとあなた方の力になってくださいます。そうですよね?」
美和に見られた豪人は「やれやれ」と呟くと、三人を見た。
「確かに僕は「デュエルを侮辱された」と怒る事はしない。だけど、奴らは僕の美和に手を出したからね。僕の所有物に手を出したらどうなるか、その身に味わわせてやるよ」
「所有物」という単語に、長髪の青年は一瞬ぎくりとしたが、すぐに表情を戻した。
「では、僕達に力を貸してくれると考えてもいいんですね?」
「そう考えてくれていい」
「ありがとう……ございます」
青年はそう言って頭を下げる。語尾の部分は微かに震えているように聞こえた。

時刻はすでに夜の九時五分前になった。美術館近くのビルの屋上に隠れた勇騎と博成は、怪盗アルケーが来るのを待った。
「警察が警備しているはずだよ?アルケーは来ると思う?」
「警察の包囲網には致命的な欠陥があった。その欠陥を利用したアルケーはこのビルを逃走経路に利用する」
「そうなんだ……。って、警察の包囲網なんかいつ調べたの!」
「昼間だ。お前も見ていただろう?」
博成は、勇騎が昼間パソコンで調べ物をしていたのを思い出した。あれは、アルケーの情報を調べるのと同時に警察の動きも調べていたのだ。
「アルケーは予告状を出さない怪盗。故に、何が盗まれるかは判らない。だから、都内のあちこちの美術館や博物館に警官や警備員を置く必要がある。その分、警備も手薄になるから弱い部分も出来てくる」
「なるほど。じゃあ、アルケーが予告状を出さないのはそこまで考えてなのかな?」
「単純にリスクを減らすためだ、と俺は考えた。わざわざ予告状を出して警察を集めるのは、集める事によって何らかのリターンが得られるのでない限り、意味がない」
「そうだね」
勇騎の意見に頷きつつも、予告状を出さない怪盗が怪盗と呼べるのか、博成は少し疑問に思った。
だが、朝野も『古き良き』と断言しているのだから、別にそれでもいいのだろう。
アルセーヌ・ルパンが存在していた時代に比べて、今は科学も発達し、警察の捜査も進化している。昔ながらの怪盗が存在できない時代なのだ。
朝野が『古き良き』と言ったのは、自分が盗んだという事を世間に知らしめた点を言ったのかもしれない。もし、予告状を出していたのならば、もっと喜んでいただろう。
「来るぞ……!」
声を潜めて勇騎が言うと、美術館から喧しい警報が聞こえてきた。どうやら、アルケーが仕事を始めたようだ。
一分もしないうちに、ビルの上を跳躍して一人の人物が近づいてくる。そして、その人物は勇騎と博成を見ると立ち止まった。
本物の怪盗アルケー。博成が想像していたよりも小柄な人物だった。服は上下共に黒く、動きやすそうな服装をしている。そして、顔は紺色の仮面に覆われていた。
「ビルとビルの間隔が狭いとはいえ、その上を飛び越えてくるとはなかなかやるな」
「保持者、か……」
博成は、アルケーの声を聞いてようやく気付いた。アルケーは女性だ。博成達に比べて小柄に見えるのもおかしくはない。博成は、アルケーは男性だと思いこんでいたのだ。
「女の人だ……」
「女が怪盗をやってはいけないというルールはないな、少年?それとも、女ならば女怪盗と名乗れとでも言うのか?」
「警察から逃げてきているのにおしゃべりとは随分余裕だな」
博成が隣を見ると、勇騎はすでに『プロミネンス』を出している。赤い輝きが暗い闇を照らす。
「私の邪魔をするのか。まあいい……。警察よりはおもしろそうだ。いずれ、そのデッキも私のものにするつもりだったのだから、丁度いい」
アルケーは服のポケットからデッキを取り出す。暗闇の中でそのデッキは青く輝いた。
「一つ聞こう。お前、美術館から出てきたのに、絵画を持っていないな。盗み損ねたのか、それとも……」
アルケーは勇騎の問いに答えない。だが、彼女の持っていたデッキ『ツナミ』から一枚のカードを取り出した。
「『ブランク』の中に絵が入っている!」
『ブランク』の中には、満月との下に広がる青い海。そして、海面に映る月を描いた美しい絵画が入っていた。
「美しい絵だろう?『月夜』というシンプルなタイトルが気に入った。今宵の月も、この絵に負けていないな」
「怪盗は、随分とおしゃべりな人種のようだな」
勇騎が念じるのと同時に世界が変わる。戦う者、そしてその戦いを見る価値のある者だけが入れる現実と瓜二つの世界。人の息吹が感じられないその世界で、二人の保持者の激突が始まった。
「『封魔ウェバリス』を召喚!ふふ……、私が何故、盗みを働くかお前達に判るか?」
勇騎は答えない。だが、アルケーは話し続ける。
「美しい物は、その価値が判る者の物だ。大金を積んで芸術を買い取る連中や、金額や名声でしか美術品の価値が判らない俗物がそれを見ても価値も、その裏にある魂も判りはしない。だが、このアルケーならば、その価値を理解する事ができる!私は、全ての美しい物をこの手にする権利があるのだ!」
アルケーの言葉が終わる寸前に、召喚されていた『ウェバリス』が爆発した。
「『火炎流星弾』を使った。余計なおしゃべりは醜いな。芸術の価値云々(うんぬん)は理解できるが、それと盗みは別の問題だ」
「私の言葉が間違っているというのか。だが、デュエルが終わる頃にはその考えも変わる。『プロミネンス』もよりふさわしい主人の下で力を発揮するべきだな」
アルケーは『鬼面王機ボーンキラー』を召喚した。破壊された時、相手の手札を破壊するか、一枚ドローするか任意で選択できるクリーチャーに勇騎は眉をひそめた。
「厄介なクリーチャーを入れている……。だが、俺のデッキにも暴れたくて弾けそうなカードは入っている。『弾け山のラルビン』を召喚する!」
パワー1000の『ラルビン』は、バトルゾーンに出た途端、マナにある自然のカードに呼応してパワーが3000に跳ね上がった。
「互いに速度を重視しているようだな。だが、速さだけで私を魅了できると思うな!『アクア・ハルカス』を召喚し、『ボーンキラー』でシールドをブレイク!」
勇騎のシールドはシールドトリガーではなかった。速度を重視したデッキでは、シールドトリガーは少なくなる事が多い。今回の勇騎のデッキも同じように、防御は手薄だった。
「勇騎君のデッキは、火と自然だから、パワーのある速攻が可能だ。それに、自然ならばマナを増やして戦う事ができる。アルケーのデッキは、水が入っているから速攻の弱点である手札切れが起きにくい。テンポよく戦うんだったら、マナよりも手札の方が重要だ……」
博成は、少し離れた位置で勇騎の表情を見る。保持者が相手でも、勇騎の表情は全く変わらない。冷静に、勝つための情報を見抜いて自分の戦い方を思考している。
「少しはやれるようだ。保持者同士の戦いならば、これくらいは当然か」
勇騎とアルケーの視線が交じり合った瞬間、博成は身震いをした。外でアルケーを見張るため、寒くならないように厚着をしてきたが、そんな事は関係ない。二人が発する優れたデュエリストとしての気迫に身震いしたのだから。
その後は、博成がついていけないほどの素早い攻防が続いた。それぞれのプレイヤーが頭と腕を高速で動かし、クリーチャーやシールドが次々と盤面から消え、墓地に置かれていく。
最初は、二人の動きに対して声を出して反応していた博成だったが、途中から目で追って頭の中で情報を整理するので精一杯だった。そして、声を出すのも忘れて二人の戦いに魅了されていった。
二人の動きが止まったのは、中盤戦だ。勇騎のシールドは三枚。クリーチャーは一体だが、これは『秘精甲蟲メタルバグ』だ。勇騎が火文明のクリーチャーを召喚する時は、コストを1下げてくれる。
これから行動しようとしているアルケーのシールドは二枚。『ウェバリス』が二体、『メルニア』が一体、そして、『バルゾー』が一体いる。
ブロッカーを出して勇騎の小型クリーチャーを足止めし、途中から現れた『ピーカプのドライバー』を召喚酔いしている内に『バルゾー』で手札に戻す事で防御を固めたのだ。だが、その分攻撃力は鈍っていた。
「一ノ瀬、ダンスはそろそろ終わりだ。来るぞ……」
勇騎は汗をかいている。十一月の終わりの夜に、外で汗をかくなど尋常ではない。アルケーがそれだけ強いという事なのだ。
「見抜いていたようだな。予想していた私の美しい切り札で散るがいい!」
三体のグランド・デビルが青い光に包まれて一つの姿になっていく。光の中から現れたのは巨大なフェニックス、『超新星マーキュリー・ギガブリザード』だった。
「そんな!勇騎君のシールドは三枚。もし、シールドトリガーが出なかったら、『マーキュリー』でシールドが全てブレイクされて、『メルニア』でとどめがさされてしまうじゃないか!」
今回、勇騎のシールドからはまだ一枚もシールドトリガーが出ていない。残りの三枚からも出ないかもしれない。
「情けない声を出すな」
勇騎の声は落ち着いている。それだけではない。この危険な状況で余裕すら感じているように聞こえる。
「まだ三枚ある。その内、一枚でも奴を倒せるカードがあれば俺は勝てる」
真っ直ぐな目をした勇騎を真正面から見て、アルケーはひるんだ。
「やめろ……そんな目で私を見るな。もう一人の私が……くそっ!」
アルケーは『マーキュリー・ギガブリザード』に手をかざす。静寂が破られようとしている。
「『マーキュリー・ギガブリザード』でシールドをT・ブレイク!!」
一枚目のシールドが割られた瞬間、勇騎が行動を起こす。手札に戻ってきたカードを場の中央に投げた。
「『地獄スクラッパー』!これで、お前の『メルニア』を……!」
だが、シールドから出た『地獄スクラッパー』が『メルニア』を押しつぶすよりも早く『スクラッパー』が消え去った。
「一体、何が起きたの!?」
「メテオバーンだ」
一瞬の出来事に混乱する博成に、勇騎が答える。その単語を聞いて、博成は『マーキュリー・ギガブリザード』のメテオバーンで勇騎の呪文がかき消された事に気付いた。
「だが、俺のシールドはまだ二枚。この二枚が手札に来れば逆転できる!」
「いや、無駄だ!消えろっ!」
勇騎の残り二枚のシールドが消えた瞬間、『メルニア』が突然発火した。予想外の出来事に、アルケーも驚いて一瞬言葉を失った。
「何をやった!『地獄スクラッパー』ならば、メテオバーンで消せるはずだ!」
「奇跡が起きた……。それだけだ」
勇騎の最後のシールドは『ムラマサのコンセント』だったのだ。これによって、パワー1000の『メルニア』は攻撃する前に破壊された。
このターンで勇騎が倒される事はなくなった。だが、二体のクリーチャーで攻撃しても、アルケーのシールドがなくなるだけである。直接攻撃はできない。
「勝ったな」
勇騎は口元に笑みを浮かべてそう言った。アルケーも博成もその言葉を疑った。
「勇騎君!どうやって、勝つつもりなの!このターンにクリーチャーを出しても召喚酔いだし、相手のシールドにはシールドトリガーが入っているかもしれないんだよ!?」
「二つの問題があるようだが、一つ目の心配は無駄だ。『暴神兵ジェットライオス』召喚!」
『ジェットライオス』はスピードアタッカーだ。これで、クリーチャーは三体。順調に行けばアルケーのシールド二枚をブレイクし、直接攻撃ができる。
「そして、シールドトリガーが出る危険性。闇と水で出来たアルケーのデッキは、この場で俺のクリーチャーを二体以上除去できるシールドトリガーはないはずだ。一体で二枚のシールドをブレイクする。つまり……」
勇騎がマナにある二枚のカードをタップする。すると、『ジェットライオス』はうるさいくらいのエンジン音を立て始めた。
「『ジェットライオス』のO・ドライブを使えばいい。これで『ジェットライオス』はパワー6000のW・ブレイクを持つスピードアタッカーになった!ジェットライオスでW・ブレイク!」
急加速した『ジェットライオス』が二枚のシールドを叩き割る。そして、最初の一枚が青く光る。
「残念だったな!『アクア・サーファー』だ!」
アルケーの『アクア・サーファー』が勇騎の『メタルバグ』を手札に戻す。そして、二枚目のシールドも青く光った。
「二枚目もシールドトリガーなんて……もう駄目だ!」
博成が悲痛な声で叫ぶ。そして、舌打ちが聞こえた。
驚いた事にその舌打ちをしたのはアルケーだった。出てきたシールドトリガーは『サイバー・ブレイン』だったのだ。
「なかなか……美しいデュエルだった。名前を覚えておこう。お前は何者だ」
「あの世に行っても忘れるな。お前を倒したのは、この赤城勇騎だ!」
『ムラマサのコンセント』がアルケーに飛びつく。その瞬間、アルケーが爆発した。それと同時に、世界が元に戻っていった。
「勇騎君!保持者が保持者を倒すと爆発するの?」
「いや、そんな事はない……。そんな馬鹿な事は……」
勇騎も目の前の光景が信じられず、爆発した後の煙を見ていた。煙が消えてくると、そこにアルケーと同じくらいの大きさの人影が見える。
煙が完全に晴れると、正体が判った。それは、風船のように膨らませた人形だった。アルケーはこれを身代わりにして逃げていったのだ。
「忍者みたいな逃げ方だね。あれ……」
博成が鼻をひくひくと動かす。勇騎もそこまで過剰な反応ではないが、その香りに気付いていた。
「これか。アルケーが犯行現場にばら撒く香水は……」
勇騎はその香りの美しさに魅了され、しばらくそこに立ち尽くしていた。

それから約一時間後、とあるマンションの窓からアルケーは帰宅した。
ここまで全力で逃げてきたので、息が苦しい。そして、初めて死の危険を感じた。
「あれが……『プロミネンス』の保持者、赤城勇騎。あの研究施設のゼロ号……。恐ろしいあの男の兄弟か」
自室に入ったアルケーはベッドに体を投げ出し、ゆっくりと仮面を取る。
仮面から現れ、優しい月光にさらされるその顔。それは、博成もよく知っている青海ゆかりの顔だった。

第十話 終

第十一話予告
ヴェルデ、豪人を仲間に迎えたデュエリストを守る為の組織『ウイングス』。その戦力を増強させるため、勇騎も声をかけられる。その一方で、『球舞』達は東京へと集まっていく。
「裏切り者が、余計な時間を取らせるな」
『球舞』の集合。そして、彼らによる裏切り者への制裁が始まる。
第十一話 球舞

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